2008/07/31

A hope for music.

ESPERANZA SPALDING "Esperanza" (Heads Up) ★ Link(s): Amazon.co.jp

大きなアフロ・ヘアで、大きなダブル・ベースを弾きながらジャズを歌う姿が独特のインパクトを放つ彼女の名前、'esperanza' とはスペイン語で「希望」を意味する単語。ミルトン・ナシメントの名曲の素晴らしいカヴァー "Ponta De Areia" で幕を開ける、自らの名を冠した若干 23 歳の彼女のセカンド・アルバムに当たるこのアルバムからは、彼女の瑞々しい魅力が迸ってる。

バークレー出身っていうことで、当然、アカデミックな意味でもレベルは高いんだけど、そういう、バークレー系にありがちな頭でっかちな感じを感じさせない、ナチュラルで、楽しげな感じすら伝わってくるのが彼女の魅力。アートワークの写真ももちろんカワイイんだけど、レーベルが YouTube で公開している EPKフッテージを観ると、演奏してる / 歌ってる姿もとてもチャーミングで、アリシア・キーズほどの派手さはないけど、決して引けを取らない才色兼備っぷり(個人的にも、メチャメチャ好みなルックスです)。ラテン〜ブラジルのテイストも上手く表現してて、アルバム全体を通じて、いい意味で疲れない、気持ちよくリラックスしたような雰囲気を醸し出してる。

このアルバムをリリースした時点でまだ 23 歳。名は体を表すという言葉の通り、音楽にとっての大きな「希望」だし、これからのキャリアがとても楽しみなアーティストだ。

2008/07/29

The future is right here.

iPhone 3G

(Apple Inc.) 


遂に日本でも発売され、地上波 TV のニュースやワイドショーでまで紹介されてしまったアップルの iPhone 3G。巷の報道では、その実体についてほとんど伝わってないことも発売後の混乱に拍車をかけた気がするけど、たしかにちょっとわかりにくい部分があるのも事実。だからみんな「携帯電話」とか「PDA」とか「スマートフォン」とか、一件似ているように見えるモノで、自分のヴォキャブラリーの中にあるモノと比較してなんとか理解しようとしてる(理解してるふりをしてる)けど、本当にキチンと理解していると思われる紹介や記事やほぼ皆無っていうのが残念ながら現状かな、と。

iPhone については、アメリカで発売された初代 iPhone をジェイルブレイクして使ってた印象を関心空間の日記に書いてある(「未来まであと 1 ヶ月」と「未来まであと半月」)ので、それを参照してもらえればという感じなんだけど、実際に発売された iPhone 3G は、やっぱり「とても優れた携帯通信デバイス」でした。特に、マックをメイン・パーソナル・コンピュータ(本当の意味で「パーソナルな」コンピュータとして、という意味で)として使ってて、.mac 改め MobileMe を使ってる人にとっては。xxxxxxx@mac.com(または xxxxxx@me.com)宛のメールはケータイメールのようにプッシュされるので、わざわざふたつのアドレスを使い分ける煩わしさはないし。あと、iPhone の大きな特徴であり、最大の魅力は何と言っても「優れたビューワ」であることで、ウェブサイトであれ画像=写真であれ動画であれ文字であれ、美しい表示で見ることができるというのが、他の追随を許さない部分だし、日本のケータイ業界でもっとも軽視されてる部分でもある。

タッチパネルの操作性とか、ソフトウェア的な部分は、やっぱりアップルなのでもちろん素晴らしく、マック・ユーザーなら何の違和感もなく使える。「マック・ユーザーなら」って時点でかなり範囲を狭めてるって感じる人もいるかもしれないけど、iPhone はあくまでも「(通信・通話機能付き)マック子機」と捉えるのが正しいと思うので、iPod もそうであるように、一件類似・競合するように見える他社機種と比較して考えようとすること自体が間違い。まったく新しいモノとしてキチンと考えて、自分のライフスタイルを鑑みつつ考えないと、上手く活かせない。とりあえずオモチャとして買うには、決して安いモノではないしね(発売直後に飛びついた人の多くは何も考えずに買っちゃってるっぽいけど。セカンド・マシンとして使うって声も多いし。みんな、どれだけケータイ業界に金使うのが好きなんだ?)。

機能的にはいくつか満足できない点もあるけど(コピー & ペーストができない点等)、その多くはソフトウェアのアップデートで対応できる(使いながらブラッシュ・アップしていったほうが精度は上がるので)ので、現状で星 5 つではないものの、まぁ、現段階での完成度としては概ね満足。ユーザーが任意で(有料・無料の)ソフトウェアをインストールできるとか、明らかにケータイらしからぬ魅力も備えているし。

ともあれ、長らく世界とは隔絶された鎖国状態の中で独自に進化してきた奇形のケータイ業界に訪れた黒船だし、「優れた携帯通信デバイス」だし、PDA 萌芽期に夢見た「未来のケータイ像」(というか、総合的なモバイル通信ツール)にとても近い、未来が目の前にやってきたようなデバイスであることは間違いない。

2008/07/21

Rhythm of America. Vibe of America.

JACKSON CONTI "Sujinho" (Kindered Spirits)  Link(s): Amazon.co.jp

ブラック・アイド・ピーズのウィル・アイ・アムのプロデュースしたセルジオ・メンデスの "Timeless" と "Encanto" で相性の良さを世界的に大きくアピールしたヒップホップとブラジル音楽の融合だけど、ウィル・アイ・アム+セルジオ・メンデスがあくまでもポップ・ミュージックとしての完成度を追求してるのに対して、このマッドリブとイヴァン・コンチのコラボレーションはより渋く、味わい深く、シンプルだけどジワジワと染みるグルーヴを聴かせてくれる。

まぁ、マッドリブといえば、ヒップホップ世代が生み出したプロデューサーの中でももっともソウルフルで、もっともクオリティの高いサウンド・プロダクションで高く評価されているプロデューサーのひとりなわけで、一方のイヴァン・コンチは言わずと知れたアジムスのドラマー、言ってみればブラジル音楽 / ジャズ / フュージョンのリヴィング・レジェンドなわけで、"Keepintime" や "Brasilintime" でお馴染みのこの組み合わせと言われるだけで期待はもう、パンパンに膨らんじゃうわけだけど、その期待に違わぬ素晴らしい出来映え。全編インストゥルメンタルで多くのブラジリアン・クラシックのカバーを含みながらも、プロダクション自体はわりと地味というか、とてもシンプルで、聴きやすいので、一聴するとスルッと抜けちゃうようなところもなくはないけど、実はよく聴くとスゴイ凝ったリズムが刻まれてたり、マッドリブらしいこだわりも垣間見えて(聴けて)、聴き応え十分。洗練されたサウンドの裏に隠されてるちょっと実験的な部分も含めて、本来的な意味ですごくジャズっぽいし、同時に、アメリカ(合衆国という意味ではなく、アメリカ大陸)のリズムとグルーヴを探求した 1 枚とも言えるのかもしれない。

2008/07/20

A guide to Brazil.

ブラジリアン・サウンド

. :クリス・マッガワン / ヒカルド ペサーニャ 著
. :武者小路 実昭 / 雨海 弘美 訳 (シンコーミュージック) ★★

1991 年にアメリカのテンプル・ユニヴァーシティ・プレスから出版された "The Brazilian Sound: Samba, Bossa Nova and the Popular Music of Brazil" の 1998 年の改訂版の翻訳書で、
「サンバ、ボサノヴァ、MPB ー ブラジル音楽のすべて」というサブ・タイトルの付いた日本語版の発行は 2000 年。ブラジルの歴史から始まって、サンバ、ボサ・ノヴァ、MPB、トロピカリズモ、ロック、ジャズ等、イギリスとアメリカ合衆国の音楽を除くと、おそらくもっとも世界中で愛され、世界のポップ・ミュージックの歴史にもっとも大きな影響を与えてきたであろうブラジルの音楽について、その成り立ちや特徴を一通り網羅してます。

ブラジルと言えば「素晴らしい音楽と素晴らしいフットボーラーと素晴らしい格闘家を輩出し続けてきた国」なわけだけど、サッカー同様、音楽と生活との密着度はおそらく世界でも屈指の濃密さ(これはブラジルに行った時に実感しました)。アメリカ合衆国の黒人に一番似てると思うんだけど、好きとか嫌いとかそういうレベルではなく、水や空気のようなレベル、衣食住のようなレベルで生活の中に音楽が存在してる感じ(特にサンバはその典型)。同時に、様々な形態の音楽が、あるときは自然に、あるときは試行錯誤の末に、民族音楽からポップ・ミュージックまで、さまざまなレベルで生み出されて、世界中で愛されてるという現象は、アメリカのブラック・ミュージック、レゲエと並ぶアフロ・アメリカン・ミュージックのひとつとしてもとても重要だし、世界のポップ・ミュージックの大きな潮流のひとつと言えるはず。

それぞれのスタイルにそれほど詳しく言及しているわけではないし、全てに興味があるってわけでもないし、読み物として特別面白いっていう類いのものでもないけど、全体を俯瞰するためのものとしてはとてもバランスよくまとまっているし、日本語版には追記も付いているので、ブラジル音楽の歴史の大きな流れをつかむにはとても参考になる一冊です。

2008/07/19

Mountain people.

『岳 7 巻 石塚 真一 著(小学館 / ビッグコミックス) ★★★☆
 Link(s): Amazon.co.jp / Rakuten Books

マンガ大賞 2008 の大賞を受賞した『岳』の最新刊。主人公の山岳救助ボランティアで山バカイストの島崎三歩は「身長:187 cm / 体重:80 kg / 最大積載量(好天時):大人 2 人・子供 3 人 / 最大出力:3 人力 / 最高スピード:1 日で富士山 3 往復くらい / 主燃料:食料全般(特にバナナとコーヒー) / 出身地:長野県小諸市 / 現住所:北アルプス / 電話:なし / E メール:なし / 特技:指懸垂」ってプロフィールらしい(帯より)。

『岳』の最大の特徴は読後感が抜群にいいこと。大きなハナシからちっちゃなハナシまで、ハッピーなハナシから悲しいハナシまで、いろいろな人々のいろんなエピソードがあるんだけど、どれも読み終わったあとに心に残るモノが共通してて、あったかい気分になる。
『6 巻』のレビューでも書いたけど、やっぱり、こう書いちゃう。山に登らない人にも、登ってみたいかもって思ってる人にも、もちろん登る人にも。


*既発巻:

2008/07/18

Brazilian job.

"Encanto"

. SERGIO MENDES(Universal)

ちょっと前のリリースだけど、大ヒットした前作 "Timeless" で聴かせたブラック・アイド・ピーズのウィル・アイ・アムとの相性のいい共同作業で制作されたセルジオ・メンデスの新譜。基本的な方向性も "Timeless"と大きな違いはない。ブラジル音楽とヒップホップを洗練されたサウンドでポップに仕上げる手腕はさすがの出来映え。ブラック・アイド・ピーズのファーギーが歌うバカラック作のセルジオ・メンデス・クラシック "The Look of Love" をはじめ、"Agua de Beber"(おいしい水)や "Águas de Março (Waters of March)"(三月の水)など、お馴染みのクラシックを "Timeless" 以降のディレクションでポップにまとめてる。

とはいいつつも、いつもイマイチシックリこないのセルジオ・メンデスだったりして。ブラジルのクインシー・ジョーンズとか言われがちだけど、あながち間違いじゃない。同じ理由でクインシー・ジョーンズもイマイチシックリこない。もちろん、聴けばキライじゃないし、好きなレコードもいっぱいある。でも、たぶん、完成度が高すぎるというか、スキがないというか、非の打ち所のない見事なプロダクションとアレンジが、ちょっとトゥー・マッチというか、うまくまとまり過ぎてる感じがして、なんか馴染めなかったりする。見事な出来映えだからミュージシャンやプロデューサーに人気があるのはわかるけど、ポップ・ミュージックってちょっとスキがあるくらいなほうが良かったりもするので。キレイすぎる女の子に似てるかも。ちょっとだけ不細工なところもあるくらいのほうが愛嬌がある、っていうか。まぁ、これは個人的な嗜好だし、完成度は間違いなく高いので、それこそ、街中とかで普通にかかってたりする分には最高の BGM ではある。

2008/07/17

Walk this way.

『遊歩大全コリン・フレッチャー 著. :芦沢 一洋 訳
森林書房 Link(s): Amazon.co.jp

原著 "The New Complete Walker" が刊行されたのは 1974 年(初版である "The Complete Walker" は 1968 年)で上下巻として日本語訳されたのが 1978 年。それを 700 ページを超えるカタチで 1 冊にまとめて 1987 年に刊行されたのが本書ということで、クラシック中のクラシックと呼べるバックパッカーのバイブル的な 1 冊です。当然、書店等でお目にかかることはなかなかなく、新宿区の図書館でかなり年季の入ったコンディションの 1 冊を借りることができました。翻訳を手掛けているのは『バックパッキング入門』の芦沢一洋氏。

内容としては、'complete walker' って言葉の通り、バックパッカー(本人は「バックパッキング」ではなく、タイトル通り「ウォーキング」って言葉を使ってるけど)に必要な知識やノウハウ、装備から心構えまで、必要なモノは商品名や値段、重さといった具体的な詳細情報まで網羅するカタチで触れられていて、インターネットのある現代ならともかく、情報に限りがあった当時なら相当重宝したであろうことは容易に想像ができる。

2008/07/05

Diver's delight.

アースダイバー

. :中沢 新一 著(講談社)

前から気にはなっていたんだけど、なかなか機会がなくて読めてなかった一冊。期待通り、っつうか、期待以上の内容でした。

東京の街を古代の地形を基に見直すと、まったく違う風景が見えてきたり、いろいろな意味合いが見えてきたりする、という内容で、タイトルは「今は地中に消えている過去の水平線に、地中に潜るイメージで想いを馳せる」といったような意味。でも、同時にディガーでもあるな、と。やっぱり、掘るヤツは面白いね。

まぁ、頭の良い人なのでいろんな知識をいっぱい持ってるんだろうし、逞しい想像力(妄想力?)も持っているみたいで、オイオイ、そこまで飛躍するか!?、みたいなところもないことはないけど、そこも含めて、なんか微笑ましい。決して変わったところに行っているわけではないけど、ある種の秘境を訪れた冒険家の知的な冒険を綴ったものと言えるかも。人間は昔から先っぽが好きだったってハナシは、理屈じゃないレベルでわかる気がするし、今住んでる場所、いつも行ってる場所がだいぶ違って見えてくる。

また、ここで直接語られていることだけではなくて、いつも見て、なんとなくもやっと感じてることが、あるキッカケでつながって、まるで霧が晴れたかのように見えてくる感じとか、いつも見ているモノを、違う角度や深さから見てみることで世界が広がる感じとか、いろいろと参考になる、応用できそうなことも含まれてる。

Soldiers' dignity.

ヴィンランド・サガ 6 巻幸村 誠 著(講談社) ★☆

読み切りとして『モーニング』に発表されたデビュー作『プラネテス』の第 1 回に偶然出会って以来、一気にファンになってしまった幸村誠の第 2 作目の 6 巻。『プラネテス』も実はキチンとした連載ではなく、不定期連載的に掲載されていたし、筆は決して速くなさそうな印象だったのに、今作は当初、週刊誌、しかも少年誌の『少年マガジン』で連載が開始され、余計なお世話ながら「大丈夫か?」と心配してたら、案の定(?)月刊『アフターヌーン』に移籍したという経緯を持つ作品でもある。

ストーリーは、ヴァイキングの時代のヨーロッパを舞台に、主人公の男の子を軸に、戦争に明け暮れた時代の戦士像、ひいては人間像のようなモノを描いていて、こういう古代〜中世ヨーロッパモノって個人的にはあまり得意じゃないんだけど、全然問題なく読めてて、その辺は作者の人間の描き方の妙と言えるかな、と。