2008/11/30

Think universal.

果てしない宇宙のなかで思う未来のこと 
 毛利 衛・林 公代 著(数研出版) ★★★☆

前のエントリーでも書いた通り、訳あって(というか、それにかこつけて、おそらくは必要以上に)、最近、やたらと宇宙に思いを馳せてて、『プラネテス』や『MOONLIGHT MILE』や『宇宙兄弟』なんかをまとめて読み直したりしてるんだけど、その流れの中で読んだ一冊で、宇宙飛行士として知られ、日本科学未来館(MeSci)の館長を務めている毛利衛氏と、毛利さんが団長を務める日本宇宙少年団の情報誌『L5』の編集長を務めていたという林公代氏による著作。

MeSci のオープン前後の時期の毛利さん(及び MeSci)に林氏が密着してまとめられたもので、宇宙のことだけでも、科学のことだけでも、MeSci のことだけでもない内容になっている。毛利さん自身のロング・インタビューはもちろん、ミュージシャンの坂本龍一・美雨親子(それぞれ別々に)、七大陸最高峰を登頂し、スター・ナビゲーションの習得や古代壁画の研究をしている作家・写真家の石川直樹、『パラサイト・イヴ』で知られる小説家の瀬名秀明とのとても面白い対談も載っていたりして、なかなか読み応えがある(でも読みやすい)。

Life in space.

『(コミック)プラネテス 1 巻 / 2 巻 / 3 巻 / 4 巻
 幸村 誠 著(講談社) ★★
『(アニメ)プラネテス Vol. 1 / Vol. 2 / Vol. 3 / Vol. 4 / Vol. 5 / Vol. 6 / Vol. 7 /
 Vol. 8 / Vol. 9谷口 悟朗 監督(バンダイビジュアル) ★★ 

最近、訳あって(というか、それにかこつけて、おそらくは必要以上に)、宇宙に思いを馳せてるんだけど、そんな中で、ここでもレビューしてる『MOONLIGHT MILE』や『宇宙兄弟』なんかをまとめて読み直したりしてるんだけど、これまで何度も触れながら、過去の作品なのでレビューしてなかった『プラネテス』も読み直した(観直した)ので、あらためてレビューしてみようかな、と(写真はコミックの第 1 巻)。

『プラネテス』は、現在、月刊『アフターヌーン』で『ヴィンランド・サガ』を連載中の幸村誠のデビュー作で、コミックは全 4 巻(完結してないようにも読めなくもないけど)。サンライズ+ NHK BS という信頼できる組み合わせでアニメ化もされてて(監督は谷口悟朗)、現在は DVD 化されてる(全 9 巻)。コミックは 2002 年度の星雲賞コミック部門を、アニメ版も 2005 年度の同メディア部門を受賞。同賞のコミック・アニメのダブル受賞は『風の谷のナウシカ』以来で、連載中の作品が受賞したのは本作が初めてなんだとか。さらに、常盤陽による『家なき鳥、星をこえる - プラネテス』という外伝的な小説も発表されている。

2008/11/28

Coffee & cigarettes

『岳 8 巻 石塚 真一 著(小学館 / ビッグコミックス) ★★★☆
 Link(s): Amazon.co.jp / Rakuten Books

マンガ大賞 2008 の大賞を受賞した『岳』の最新刊。6 巻7 巻に続いて、今年 3 冊目という、かなりハイペースでの発売は嬉しい限り。

最初の頃に比べて、キャラクターが増えてきてる(それぞれのキャラクターが「立って」きてる)ので、ストーリーの幅が広がりつつも、いつも通り、「名もなき人と山」のエピソードが心地いい読後感を味合わせてくれる。電車の中とかで読んじゃうと、不覚にもグッときちゃって、ちょっと恥ずかしい思いをしかねないので要注意。


More can be done.

"DO MORE WITH LESS 40 Years of the North Face" 
(スパイラル・ガーデン   

『THE EARTH BOOK』のレビューでも触れたアウトドア・ブランド、ザ・ノース・フェイスの 40 周年を記念して 11 月 28 日〜 12 月 3 日までスパイラル・ガーデン開催されている展覧会。入場無料だからこんなもんかな、と思えなくもないけど、過剰に期待しすぎてたのか、イマイチ期待には応えてくれない感じだった。

個人的には、アウトドアや自然環境(問題)と1960 年代のカウンター・カルチャーの関係って、もっと知りたいと思っているんだけど、イマイチなかなかキチンと語られてることが少ない気がしてて(『Spectator』くらいかな)、ザ・ノース・フェイスはカウンター・カルチャーから生まれたブランドだけに、その辺を期待してたんだけど、あんまり期待には応えてくれなかった。音楽とか映画とかアートとか文学とか、そういうモノの流れってコンテクストで捉えるような見せ方ができたんじゃないかな、と。ザ・ノース・フェイスなら。

2008/11/27

Simply words and photos of nature.

THE EARTH BOOK(ザ・ノース・フェイス ★ 

アウトドア・ブランドの雄、ザ・ノース・フェイスの 40 周年を記念して 2008 年 11 月 28 日〜 12 月 3 日までスパイラル・ガーデンで開催される展覧会、「DO MORE WITH LESS 40 Years of the North Face」のために制作されたフォト&エッセイ集で、制作・発行はスイッチ・パブリッシング。展覧会の会場のみで販売されるプログラム的なモノなのかと思っていたら、一般の書店でも販売されていて、内容も展覧会自体と直接関連しているものではない。

メインになっているのは、以前、
ザ・ノース・フェイスが発行していた "EARTH" のいうフリーペーパーの中から、自然への提言をセレクトして石川直樹の写真を加えて 'EARTH' というカタチでまとめたモノで、 'EARTH' をまとめた本だから『THE EARTH BOOK』だ、と。

2008/11/24

Realized as you surf.

『サーフリアライゼーション』
 ジェリー・ロペス 著 岡崎 友子・中富 浩 訳 (美術出版社
 Link(s): Amazon.co.jp / Rakuten Books

伝説のサーファーとして知られる「ミスター・パイプライン」ことジェリー・ロペスが「サーファーとしてのライフスタイル」を綴った著作で、パタゴニアから今年出版された "Surf Is Where You Find It"(ボックス入りの豪華版もあり)の訳書。原題は「サーフ(≒いい波)なんて、自分次第でどこにでもあるんだよ」みたいな意味だと思うけど、日本語のタイトルにしにくかったからか、訳書はタイトルを変更してる。

訳書のタイトルとなった「サーフ・リアライゼーション(surf realization)」ってのは、「サーフィンから学んだこと(そして、サーフィンでなく、人生の中でも役立つこと)」という意味で本文中に何度も登場する言葉。日本語として伝わりやすい言葉ではない(タイトルを見て意味がすぐに伝わりにくい)とは思うけど、とても象徴的な意味合いで使われてる言葉なので、それをタイトルに使ったのはすごくいい判断だと思う。ただ、それを補完したかったんだろうけど、「サーフィンの神様、ジェリー・ロペスが綴るライフスタイルストーリー」ってサブ・タイトルはどうなんだろ? 超違和感を感じる。日本人は無闇且つ安直に「神様」って言葉を濫用(乱用)するけど、そんなに簡単に使っていい単語じゃないと思うし。これを知ったら、本人はどう思うんだろう? これだけはガッカリ。

An aloha lifestyle.

Coyote No.12 特集 ジェリー・ロペスの静かな暮らし 
(スイッチ・パブリッシング ★

2006 年発行で、発売当時に読んだ号だけど、今年出版されたジェリー・ロペスの著書『サーフリアライゼーション』を読むに際して、読み直したのであらためてレビューを。

取材が行われたのは、現在、彼が住むオレゴン州のベンドという街。オレゴン州は太平洋に接しているけど、ベンドはカスケード山脈を越えた東側にある。つまり、ハワイアンであり、伝説的なサーファーであるジェリーが海のないセントラル・オレゴンに住んでるってこと。それだけでも十分興味深い。もともとは奥さんが気に入った土地らしいけど、今ではスノーボードを楽しみつつ、時にはカスケード山脈を越えて海に出たり、川でリバー・サーフィンをしたりしてるらしい(ジャック・ジョンソンのミュージック・ビデオにも使われてる場所なんだとか)。


 メインとなるのは、ベンドの街でジェリーとともに過ごしながら行われた長いインタビュー記事。両親のことや家族のこと、ハワイのこと、ベンドのこと等、いろいろなことを語っているそのインタビューの中で、「サーフィンの魅力は何ですか?」というストレートな質問に対してジェリーは「待つことにある」と答えてるのがとても印象的だった。曰く、「サーフィンの本質は 99%、待つことにある。そして自分と対峙することかもしれない」「待つことは禅に似ている。人は荒立っていたら待ってはいられない。内なる平安がないと待ってはいられない」と。

2008/11/21

A warm basement.

Patagonia Performance Base Layer / Men's Wool 2 Crew (Patagonia) ★★★★☆
Link(s): Rakuten

前にレビューしたパタゴニアのダウン・セーターと同じ時期に使い始めて、個人的にはすっかり寒い時期の定番アイテムになった(しかも、ダウン・セーターより活躍頻度が高い)、パタゴニア(Patagonia)のメリノ・ウール製のベースメント・レイヤー(肌着)用のアンダーウェア。

最大の魅力は、何と言っても暖かいこと。これを着ることで、アウターのボリュームを 1 ランク下げても大丈夫な印象。自然の中でのアウトドアではもちろん、寒い時期のサッカー観戦とか「都市のアウトドア」でも活躍するし、日常生活でも、特に都市部で生活しているとがさばるアウターは敬遠したいことが多いので、そういう意味でもとても重宝する。製品的な特徴として、ソフトな肌触り、天然の吸湿発散性と速乾性、天然の防臭作用、非塩素処理等を備えていて、着心地もいい。

2008/11/19

A natural born revolutionist.

少年フィデル

. :フィデル・カストロ 著
. :柳原 孝敦 監訳(トランスワールドジャパン

編集者のデボラ・シュヌーカルとキューバ国家評議会出版局長のペドロ・アルバレス・タビオによって編集された書籍で、原題は "FIDEL my early years"。タイトルが英語なのはオーストラリアのオーシャン・プレス社から出版されたものだからで、少年フィデルって訳書のタイトルはなかなかの名訳。装丁のデザインもいい。

著者がフィデル・カストロとなっているけど、前のエントリーで紹介した『チェ・ゲバラの記憶』と同様に、新たに書き下ろされたものではなく、これまでに行われたインタビューと演説、そして本人が獄中で綴った手紙から該当する部分を抽出し、幼年期からモンカダ兵営襲撃失敗と投獄までの期間の様子を時系列で、本人の言葉で語るカタチでまとめた「コンピレーション」的な一冊。本書の監訳者でもある柳原孝敦氏がチェ・ゲバラの記憶』のあとがきで述べていたように、この 2 冊は編集手法から出版社まで対になっているような作品で、順番的にはチェ・ゲバラの記憶』が本書の続編というような関係になっている。

「素顔のフィデル」と題された序文は作家のガブリエル・ガルシア=マルケスによるもので、これ自体もなかなか読み応えがある。本文は、幼少期から高校時代までの時期(第 1 章)とモンカダ襲撃前の部分(第 4 章)がブラジル人司祭のフレイ・ベトによるインタビュー、大学時代の部分(第 2 章)は 1995 年に母校・ハバナ大学で行った演説、国際学生組織の活動で遭遇したコロンビアでのボゴタ騒動の部分(第 3 章)はコロンビア人ジャーナリストのアルトゥーロ・アラペのインタビュー、モンカダ兵営襲撃失敗後に投獄されていた時期の部分(第 5 章)は自身の手紙が使われている。

幼少時から、メキシコ亡命〜キューバ革命の直前のモンカダ兵営襲撃失敗と投獄までの期間を対象にしているので、当然、中心はフィデルの人格形成について。つまり、いかにして革命家が作られたのか、アイゼンハワーからブッシュまで 10 人のアメリカ大統領と言葉と信念と態度で渡り合ってきた屈強な精神がどのように育まれたのか、ということ。ひとつ、興味深いのは、彼が幼少期を過ごしたは 1940 年代だったという時代背景だ。スペイン内戦と第二次世界大戦の影響がとても大きかった時代で、当時のキューバの「大人」にはスペイン内戦を経験した「スペイン人」も多く、半ばアメリカの植民地的な支配下にあった影響も含めて、いろいろな意味で教育が偏っていた特殊な時代だったことは想像に難くない。そんな中で、本人の口から語られるエピソードは、どれもこれも、すごく「らしい」ものばかりで微笑ましい。知的で、勉強熱心で、意志が固く、周りに流されず、正義感が強く、リーダーシップに溢れ、弁舌に優れ、実践(実戦)派という彼の特徴が幼少時から大学時代まで一貫して見られる。編者の解説に弟・ラウルの 「フィデルのもっとも重要な正確は絶対に負けを認めないことだ」って言葉が紹介されてるけど、すごく言い得て妙だな、と。

個人的には、フィデルが山登り好きだったってエピソードがちょっと好き。やっぱクライマーだったのか、と。

2008/11/15

30 hours with Fidel.

コマンダンテ COMANDANTE

. :オリバー・ストーン 監督(TC エンタテインメント

プラトーン』や『7 月 4 日に生まれて』、『JFK』などの作品で、「社会派映画監督」として知られるオリバー・ストーンがキューバを訪れて、フィデル・カストロと 3 日間過ごして行った 30 時間に及ぶインタビューを編集した 2003 年公開のドキュメンタリー映画。自らがインタビュアーとして出演もしている。

ポスターや
DVD のパッケージには「アメリカが上映を拒絶した問題作」というキャッチ・コピーがあるけど、このコピーは間違いではないものの正確ではない。プレミア上映はアメリカのサンダンス映画祭だったので、まったく上映されなかったというわけではないんだけど、アメリカ在住のキューバ系ロビーの強い圧力で劇場公開はされなかった、ということ。まぁ、アメリカって国はそういう国だってこと。ちなみに、ヨーロッパ各国や日本では問題なく公開された。

カストロの映像というと、やっぱ
ゲリラ戦争当時の勇ましい姿とか、演説の壇上で熱く捲し立ててる姿の印象が強いので、ここで見られるちょっとリラックスした姿はけっこう新鮮(まぁ、このインタビューが撮影された 2002 年の時点で 70 歳を超えてるわけで、さすがに多少は丸くなってるっぽいけど)。もちろん、革命、ケネディや歴代大統領、キューバ危機、ソ連、ベトナム、チェ・ゲバラ、さらにはゴルバチョフについてや好きな映画・女優にまで及ぶ話の中で、演説さながらに熱くなったり、上手くはぐらかしたりするシーンはあるけど、全体から感じられるのはフィデル・カストロの人間としての魅力。キューバ国民の中のカストロ像って、一般的に報道されがちな「独裁者」ってイメージよりももっとカジュアルな、もっと身近な存在で、たぶん「親方」とかみたいなイメージのほうが近いってハナシを聞くけど、そういう理由がちょっと垣間見える気がする。ストイックでカリスマティックな部分と、ちょっと愛嬌がある部分と。そういう姿が見れるだけでもこの映画の価値はあるかな、と。どうしても情報が限られてるだけに。

個別のハナシに関しては、その政治的・歴史的背景を知らないと理解しにくいところもあるし、オリバー・ストーン自身もちょっと浅はかというか、いかにも(所詮は?)アメリカ人な質問をしたりもしてて、そういう意味では、せっかくの機会を活かしきれてない気もする(それにも理路整然と、真摯に余裕を持って対応してるカストロのほうが格が上だってことを際立たせてはいるけど)。個人的には、
プラトーン』はわりと好きだったけど、オリバー・ストーンって監督自体は特に好きってわけじゃなく、熱心に追いかけてるわけでも全部観てるわけでもないし、特に『ドアーズ』はちょっとガッカリしたりもしたんで、あまりいい印象があるわけじゃない。なんか、ビミョーにダサイっていうか、センスが悪いし(特に音楽の使い方とか)。この『コマンダンテ』に関しても、そういう部分がないことはないけど、まぁ、その部分を差し引いても十分楽しめるんじゃないかな、と。

ちなみに、観てない(まだ日本では公開されてない?)けど、ブッシュを描いたという最新作『W.』の予告編は、トーキング・ヘッズの "Once in a Lifetime" を使ってたりして、ちょっと面白い。

2008/11/14

Still alive.

『チェ・ゲバラの記憶』 フィデル・カストロ 著 柳原 孝敦 監訳
(トランスワールドジャパン  Link(s): Amazon.co.jp
 
原書は "Che: A Memoir by Fidel Castro" 及び "Che en la memoria de Fidel Castro"。前者はオーストラリアのオーシャン・プレス社が 2006 年に英語で出版したもので、タイトルに 'memoir'(メモアール)とあるように、フィデル・カストロがチェ・ゲバラについて触れた演説やインタビュー等をデイヴィッド・ドイチュマンが編纂したもの。後者は、前者をベースにキューバのオーシャン・スールが該当部分のスペイン語の原テキストを集めたもの。初版の発表は 1994 年、ここで採り上げられた原書は第 2 版で、1994 年以降のものも収められている。つまり、表記的には「フィデル・カストロ著」となってるけど、厳密には、新たに記したわけではなく、これまでにも発表されていたものを集めた「コンピレーション」のような作品だということです。 

2008/11/09

Life on moon.

MOONLIGHT MILE 17 巻

. :太田垣 康男 著 (小学館)

前にレビューした 16 巻で新しいフェーズに突入した
MOONLIGHT MILE』の最新刊は、ちょっと意外性のある表紙にビックリ。

時代は 2030 年。テロリズムを発端として勃発したインドとパキスタンの全面核戦争というスケールの大きな事件さえもイントロダクションに使いつつ、思春期にさしかかったムーンチャイルドを中心にこのフェーズは展開していく。アメリアと中国の対立、ムーンチャイルドと地球で生まれ育った子供の関係、ロストマン亡き後の月の状勢等、さまざまなストーリーが絡み合いながら物語は進展していて、現実社会の事件をサンプリングしてそのエッセンスを反映させながら、どんどんスケールの大きな大河ドラマになってきている。

最近の宇宙・近未来モノの SF コミックはどれもけっこう好きなんだけどこの手のハナシって、プラネテス』や『度胸星』なんかがそうだったし宇宙兄弟』にもその可能性をちょっぴり感じたりするんだけど、ちょっと気を許すとついつい「宇宙とは?」「人間とは?」みたいな哲学的な袋小路に迷い込んじゃって、ハナシが内省的になりがち(それはそれでキライじゃないけど)。まぁ、『ガンダム』もそう言えるかもしれないし。それはそれで、ある種の宿命というか、仕方ない部分はあるんだけど、当然生半可に結論が出せるもんじゃないし、単純化した答えが出てスッキリなんてあり得ないから、マンガという「エンターテインメント」ではなかなか扱いがムズカシイ問題だったりする。

その点、MOONLIGHT MILE』はリアリティとダイナミズムを前面に押し出すことによって、哲学的・内省的になる部分は要所で押さえつつも主題にすることはせず、あくまでもハードボイルドなエンターテインメントとして成立させてるところが特徴。16 巻のレビューでも書いたけど、マンガという表現の特質に自覚的で、それを上手く活かせるプロフェッショナルな作品だと言える。毎回そうなんだけど、やっぱり今回も続きが気になって仕方がない。

あと、印象的だったのは、奇しくも「演説」。ちょうど、
バラク・オバマの演説を前のエントリー紹介したばかりだったんで。インドとパキスタンの全面核戦争のエピソードの中でマーティン・ルーザー・キング Jr. の演説 "I have a dream." が効果的に引用されてるんだけど、ちょうど、前のエントリーを書くときに見直してたので、余計にグッときちゃった。演説の持つ力を再認識したというか、言葉の持つ力を思い知らされたというか。

*既発巻:
MOONLIGHT MILE 1 巻
MOONLIGHT MILE 2 巻
MOONLIGHT MILE 3 巻
MOONLIGHT MILE 4 巻
MOONLIGHT MILE 5 巻
MOONLIGHT MILE 6 巻
MOONLIGHT MILE 7 巻
MOONLIGHT MILE 8 巻
MOONLIGHT MILE 9 巻
MOONLIGHT MILE 10 巻
MOONLIGHT MILE 11 巻
MOONLIGHT MILE 12 巻
MOONLIGHT MILE 13 巻
MOONLIGHT MILE 14 巻
MOONLIGHT MILE 15 巻
MOONLIGHT MILE 16 巻

2008/11/08

21st century soul.

Q-TIP "The Renaissance" (Universal Motown)  
Link(s): iTunes Store / Amazon.co.jp

ソロになってからはなかなかコンスタントにリリースがなかったものの、ブートレグが出回ったためにお蔵入りになった 2002 年の(文字通り)隠れた名盤 "Kamaal the Abstract" や、本作の前哨戦とも言われたインディ盤 "Abstract Innovations"、さらには多くの客演などで、ア・トライブ・コールド・クエスト(ATCQ)時代から変わらぬ存在感をシーンに放っている Q ティップが満を持してリリースしたニュー・アルバム。リリース日は大統領選挙が行われた 11 月 4 日だし、タイトルも含めてちょっと意味深な感じ。

2008/11/07

The speech.

President-Elect Barack Obama: Speech in Chicago on November 4th, 2008 
(US Presidential Election 2008)  

第 44 代アメリカ大統領を決める大統領選挙で勝利したバラク・オバマが 2008 年 11 月 4 日にシカゴで行った約 17 分の感動的な演説。オフィシャル・サイトに動画とテキストが公開されている(ポッドキャストもあり)。

予想を上回る圧勝を収めた直後の「勝利演説」でありながら、必要以上に興奮した様子もなく、いつものように落ちついたトーンで、ジックリと、そして熱く語りかける。106 歳の黒人女性を例に挙げつつ、その時代を思い起こさせる言葉を交えながら振り返り、アメリカの建国以来の歴史を「点」ではなく「線」としてイメージさせ、その 1 本の線の中の一番近い位置にある現在、そしてその先に続く未来へのヴィジョンを描いて聞かせる。青臭いとか実行可能性がないとか味気ないことをいうヤツがいるのは想像できるけど、そういう細かい(つまんない)理屈抜きで聞く者の心にストレートに、ダイレクトに訴えかけてきて、つい感動しちゃう。"Yes We Can" のベースになったニュー・ハンプシャーでの演説もクラシックだと思うけど、今回の演説は 21 世紀を代表する歴史的な演説になる予感すらする。

2008/11/04

Mellow feeling from the Motor City.

DWELE "Sketches of a Man" (KOCH Records) 
Link(s): iTunes Store / Amazon.co.jp

スイート・グルーヴ・フロム・デトロイトことドゥウェレのサード・アルバム。今年の夏前頃にリリースされてたんだけど、アートワークがビミョーだったからか、なんとなくスルーしちゃってた 1 枚。でも、もともと声質とかサウンド・プロダクションとかグルーヴ感とかはすごく好みだし、既発作の "Subject"・"Some Kinda..." もけっこう好きだったので、あらためて聴いてみたらやっぱり期待を裏切らない出来映えだった。

シンガー・ソングライターであり、自らプロデューサーでもあるドゥウェレだけあって、ほとんどがセルフ・プロデュースで全 20 曲。しかも、目立ったゲストも同郷のスラム・ヴィレッジくらいっていう、地味って言えば地味な、渋いアルバムって言えなくもないけど、それは別にクオリティを損なう要素ではなく、むしろ魅力を際立たせてる感じ。サウンドもヴォーカルも控え目で、イヤらしい過剰さがないメロウでオーガニックなサウンドが堪能できる(だからこそ、イギリス / ヨーロッパや日本のクラブ・ジャズ系でも人気があり、アメリカの R&B 世界ではイマイチメインストリームにはなり切れないんだろうけど)。

2008/11/03

The strong family.

『すべては敬愛するエリオのために ― グレイシー一族の真実』
 近藤 隆夫 著(毎日コミュニケーションズ
 Link(s): Amazon.co.jp
 
前のエントリーの『ブラジリアン バーリトゥード』に続いて、ブラジル格闘技モノを。ブラジリアン バーリトゥード』が、ルタ・リーブリを中心としつつ、主にブラジリアン柔術(Brazilian jiu-jitsu / BJJ)以外の部分をメインにしていたのに対し、本書は元『ゴング格闘技』編集長の著者が BJJ の総本山とも言うべきグレイシー一族に密着して綴った一冊で、サブタイトル通り、「グレイシー一族の真実」といった内容になってる。

そもそも BJJ(またはグレイシー柔術)とは何なのか? 「柔術」って言うくらいだから、そのルーツは日本古来の武術にあることは間違いではないんだけど、その「日本古来の柔術」と BJJ はどういう関係性にあるのか、柔道や合気道との関連性はどのような感じなのか等々、考えてみると、なんとなく知ってるようで、実はよくわかってない部分だったりする。もちろん、柔道と柔術は同じではないし、柔術と BJJ、BJJ とグレイシー柔術も同義語ではない。本書はその辺に言及することを目的としているわけではないけど、グレイシー一族の真実」を紐解く上で避けられない部分でもあるわけで、物語は当然、グレイシー一族が柔術と出会うところから始まる。

2008/11/01

Hybrid beauty.

『ブラジリアン バーリトゥード』 伊賀 孝 訳
(情報センター出版局  Link(s): Amazon.co.jp

表紙の写真があまりにも素晴らしいかったので、中身をよく確認せずに買ってみた一冊。それもそのはず、著者はカメラマンで、中で使われてる写真も素晴らしいし、とても見応え / 読み応えのある「格闘技をめぐるブラジル紀行」です。

内容は、自らも格闘技経験者(というか、現在もやっているらしい)というカメラマンの著者が、リオ・デ・ジャネイロを訪れ、ルタ・リーブリのトップ・ファイターのひとりである "ペケーニョ"・ノゲイラと 2 ヶ月間、寝食を共にしながら見たものを写真に収め、聞いたこと・感じたことを文字で綴った一冊。
いくつかのルタ・リーブリの道場を中心に、ブラジリアン・トップ・チームやシュート・ボクセといったメジャーどころまで、道場に足を運び、体感し、それを切り取ってる。実際に "ペケーニョ" の家に住み込んでたらしく、文字通り「寝食」を共にして、「懐に飛び込んだ」からこそ撮れた写真と書けた文章からは、息づかいまで伝わってくるような感じがする。文章に関しては、決して技巧的に優れているわけではないと思うけど、格闘技の描写はさすがに経験者のものだし、ベネズエラのエピソードとかも含めて、ライトで面白いので、どんどん読ませてくれる。あと、やっぱり写真がとにかく素晴らしい。臨場感があって、美しい。