2008/12/30

Sound of freshness.

ESPERANZA SPALDING "Junjo" (Ayva) 
Link(s): iTunes Store / Amazon.co.jp

前にレビューしたセカンド・アルバム、"Esperanza" が 2008 年の愛聴盤の 1 枚になってる才色兼備の女性ジャズ・ベーシスト / シンガー、エスペランサ・スポルディングが 2006 年にバルセロナのレーベルからリリースしていたデビュー・アルバムを、遅ればせながらようやくチェックしてみた。

最新作の "Esperanza" がよりラテン・フュージョン色が濃くてハイブリッドなヴォーカル・アルバムな印象なのに比べると、このアルバムはだいぶストレートでオーソドックスなジャズの印象で、ヴォーカルもスキャット主体であまり歌ってない。どっかのサイトで本人が「ソロというよりトリオの作品」みたいなことを言ってたのを読んだけど、まさにそんな感じ(ドラムとピアノは共にキューバ系ミュージシャンとのこと)。これはこれですごくフレッシュだし、彼女の魅力は感じられるんで、ストレートなジャズとして十分に楽しめる。

Escape from the bottom of the gravity-well.

『機動戦士ガンダム UC 7 黒いユニコーン』
 矢立 肇 / 福井 晴敏 / 富野 由悠季 著 角川グループパブリッシング)  
 Link(s): Amazon.co.jp / Rakuten Books

前にレビューした 4 巻5 巻6 巻に続いてテンポよく発売された福井晴敏による小説版ガンダム、「機動戦士ガンダム UC 」の最新刊。タイトルになっている「黒いユニコーン」とは、6 巻の最後で登場した重力下仕様の 2 号機である黒いボディの機体、バンシィのこと。

舞台はブライトが艦長を務めるラー・カイラムで、バナージ、オードリー、リディ、マーサ、アルベルトといった主要メンバーが顔を揃えるという意外な展開を見せる。

約 100 年に渡る宇宙世紀の歴史を要所要所に散りばめながら、今後の展開と、宇宙世紀最大の秘匿事項と言われる「ラプラスの箱」に関わる謎が少しずつ明かされていくスリリングなストーリーでグイグイと引き込んでいくスキルはさすがに福井晴敏といったところ。

2008/12/29

Deep voice of Philadelphia.

"Ruckus Soundsysdom". URSULA RUCKER(Five Six Media) 

フィラデルフィアの女流詩人、アースラ・ラッカーの 4 枚目のフル・アルバムで、同郷のソウルメイト、キング・ブリットの主宰するプロダクション / レーベル、ファイヴ・シックス・メディアからのリリース。

アースラのことを初めて知ったのは、同じく同郷のザ・ルーツのアルバム "Do You Want More?!!!??!" に収録されてた "The Unlocking" だったと思うんだけど、最初に強烈なインパクトを受けたのは 4 ヒーローのアルバム "Two Pages" のオープニング・トラック、"Loveless" を聴いたとき。"Two Pages" 自体も、印象的に使われているストリングスなどのライヴ・インストゥルメントを全面に導入した斬新で音楽性の高いサウンドとソングライティングで、ドラムンベースって枠を軽々と超えて当時のドラムンベース / クラブ・ミュージック・シーンの度肝を抜き、新しい時代の扉を開けたクラシック・アルバムだと思うけど、そのアルバムの革新性と音楽性の高さを象徴していたのが "Loveless" で、アースラのポエトリー・リーディングのメッセージが効果的に、メチャメチャ強烈に心に響いてきた。

Mind-crossings in space.

『機動戦士ガンダム THE ORIGIN 18 巻 ララァ編・後』 
 安彦 良和 著(角川グループパブリッシング) ☆ Link(s): Amazon.co.jp

月刊『ガンダム A』 で 2001 年から連載している安彦良和先生による描き下ろしリライト版のファースト・ガンダム『THE ORIGIN』の最新刊で、「ララァ編」の後編となるこの巻の舞台は、シャアとセイラにとっても、アムロとララァにとっても重要な意味を持つ場所となったテキサス・コロニー。

この巻では、TV 版には重要なキャラクターとして登場していながら、映画版 3 作では割愛されてしまったシャリア・ブルが、TV 版以上に人間臭く描かれているのが印象的で、シャリア・ブルの登場とともに、これまで以上にフォーカスされてくるのがニュータイプについて。大枠のストーリー自体が違うわけではないけど、細かい部分はかなり微調整されてて、とても味わい深い仕上がりになってる。特にセイラとスレッガーの会話とか、シャアとセイラの会話(とそこにいるカイ)とか、それぞれの想いが複雑に交錯する、安彦先生ならではの描き方が堪能できる。

Unfortunate mismatch.

KANYE WEST "808s & Heartbreak" (Roc-A-Fella) 

ここ数年のヒップホップ・シーンの中心的なアーティストとして活躍するカニエ・ウェストだけど、なぜか、これまであまりちゃんと聴いたことがなかった。別に毛嫌いしてたわけでも、聴かず嫌いだったわけでもないし、むしろ、彼がプロデュースしたコモンの "Be" なんかはヒップホップのアルバムの中でもトップ・クラスに好きなアルバムだし、DJ プレミア・プロデュースの "Classic (Ever Than I've Ever Been) [DJ PREMIER Remix]" もカニエ・ウェスト+ラキム+ナズ+KRS- ワン名義だったし、"We Can Make It Better (feat. COMMON, MOS DEF, Q-TIP & TALIB KWELI)" も好きだったし。アートワークのセンスが苦手なのか? なんか、これまでにちゃんと聴く機会がなくて。でも、このニュー・アルバムがリリースされたんで、まぁ、聴かず嫌いもどうかと思って、これを機会にちゃんと聴いてみるか、と。

で、結論から言うと、やっぱ縁がないらしい。全然ピンとこない。同じところに留まっていたくないっていう心意気みたいなモノは買いたい気もするけど、それ以前にアルバムの完成度として、どうなのよ? って。ポップ・ミュージックとしても全然成功してるとは思えないし。ヒップホップばっか聴いてる人には新鮮に聴こえるのかもしれないけど、とか言ってみたりとか、何とか理解を示そうとする気もしないくらい、全くピンとこない。こればっかりは嗜好の問題なので、好きな人もいるみたいだけど、これはもう、不幸な出会いとしかいえないくらい、個人的には全然必要のないアルバムだった。

2008/12/28

Revolutionary natural.

自然農法 わら一本の革命福岡 正信春秋社 ★★ 

前に『<自然>を生きる』をレビューした福岡正信氏の代表作で、"The One Straw Revolution: An Introduction to Natural Farming" として英訳もされていて、海外では日本以上に評価・知名度が高いという一冊(その辺の事情は『Spectator』の「Whole Pacific Northwest Life Catalog vol. 1」号でも触れられてる)。ちなみに、今回読んだのは 2004 年に発行された新刊なんだけど、表紙のデザインは 1983 年の原書のほうがカッコイイので、左の写真は原書のモノを載せてる。

1983 年に出版されたこの本の序文には、以下のような辛辣な言葉が書かれている。福岡氏は不耕起・無肥・無農薬の自然農法と、粘土に 100 種類以上の種を混ぜた粘度団子を蒔くことで緑と色のパラダイスを実現することを唱えて自らの農園を営み、2008 年 8 月 16 日に 95 歳で亡くなった人物で、表紙の写真にもある通り、仙人のような雰囲気のキャラクターと、科学や進化論を真っ正面から否定しちゃうような、ある意味ラディカ ルとも言える独特でユーモラスな自然観・哲学の持ち主。曰く、自然農法とは「自然の意志をくみ、永遠の生命が保証されるエデンの花園の復活を夢みる農法で ある」。それこそが、わら一本から起こすことができる革命である、と。

2008/12/27

Stressed out & find a way.

『宇宙兄弟 4 巻 小山 宙哉 著(講談社)
 Link(s): Amazon.co.jp / Rakuten Books
 
これまでにも 1 巻・2 巻3 巻をレビューした『モーニング』に連載中の宇宙兄弟の最新刊。3 巻の発売が 10 月だからかなりコンスタントなペースで展開してる。

今回の舞台も 3 巻からの続きで閉鎖環境実験のモジュール。時間が経つにつれて、いろいろなストレスやトラブルを抱える中で、徐々に人間の生身の心情が露になってきて…。

そんな部分を時に可笑しく、時にちょっとグッとくるエピソードを重ねながら展開させる辺りは、やっぱり、エンターテインメントととしてなかなかハイレベル。続きがますます楽しみ。ちなみに、表紙はブルース・リーのマネ。

2008/12/26

Deep roots music.

"Influences: Compiled and mixed by DJ MARKY" (bbe) 

良質な作品をコンスタントにリリースし、世界中から絶大な信頼を集めるイギリスのレーベル、bbe(レーベル名はザ・ユニヴァーサル・ロボット・バンドの 1982 年の曲、"Barely Breaking Even" に由来する)から届いたのはブラジリアン・ドラムンベース・シーンの中心人物、DJ マーキー編纂によるコンピレーション(+ミックス)。タイトル通り、彼がこれまでに影響を受けたトラックを集めたモノで、ヴァイナル・ジャンキーとしても知られるマーキーらしく、時代や国やジャンルを超えた幅広いセレクションになっている。CD は 2 枚組でディスク 1 がミックス、ディスク 2 がアンミックスドなんだけど、選曲が選曲なんで、クラブ・ミュージックの「いわゆるミックス CD」のようなミックスではなく、無音状態なく聴けるように繋がってるって感じ。

2008/12/22

Power of design.

OBAMA '08 Campaign Logo (OBAMA FOR AMERICA) 

ずっと気になってたバラク・オバマの大統領選挙キャンペーンのロゴ。シンプルで、でも印象的で、いい意味で大統領選挙っぽくなくて、でも、必要以上に奇をてらってなくて、秀逸だなぁと思ってたんだけど、最近、デザイナーが誰だったのかがわかり、インタビューなんかも発見した(友だちが教えてくれた)んで、備忘を兼ねて。

このロゴをデザインしたのは、ソル・センダー(Sol Sender)を中心とするプロジェクト・チーム。ソル・センダーは、デジタル・ブランド・コンサルタント&デザインを手掛けるセンダー LLC(Sender LLC)の主宰者であり、最近、VSA パートナーズ(VSA Partners)にストラテジストとして加わったという人物。センダー LLC と VSA パートナーズがどういう関係なのか、ソル・センダーがそれぞれとどういうカタチで関わってるのか、その辺の事情はイマイチ見えてこないんだけど、まぁ、とにかく、ソル・センダーと、彼の同僚のアンディ・キーン(Andy Keene)とアマンダ・ジェントリー(Amanda Gentry)の 3 人でデザインしたってことらしい。

Contemporary folk.

"Last Days at the Lodge"

. AMOS LEE(Blue Note)

フィラデルフィア出身のシンガー・ソングライター、エイモス・リーのサード・アルバムで、過去 2 作同様、ブルー・ノートから今年の 6 月にリリースされたもの。レーベルはジャズの名門、ブルー・ノートなんだけど、いわゆるストレートなジャズではなく、ブルース / フォーク系のシンガー・ソングライターで、ちょっと枯れた、渋いサウンドが魅力のアーティストで、デビュー・アルバムの "Amos Lee" なんかは、かなり好きなアルバムだった。

ドン・ウォズをプロデューサーに迎えた今作も、アートワークの写真のイメージの通り、アーシーでブルージーな仕上がり。似ているアーティストとしてよくジェームス・テイラーとかビル・ウィザース、最近のアーティストだとベン・ハーパーあたりの名前が挙げられることが多いけど、別に誰ともソックリってわけじゃなくて、適度に白く、適度に黒く、でも白すぎず、黒すぎず、懐かしく、でも今っぽくて、すごく独特な立ち位置なアーティストで(「白い」「黒い」って表現は、我ながらどうかと思うけど…)、そこがオリジナリティになってる。ちょっとボブ・ディランっぽかったり、テリー・キャリアーっぽかったり、ジャック・ジョンソンっぽかったりもして。あえて難点を挙げるなら、クラシックになるような名曲をまだ書いてないことが、ちょっと弱いところかなとは思うけど、地味だけど安心して聴ける、信頼できるアーティストのひとりではある。晩秋〜初冬のこの時期にもピッタリだし。

2008/12/21

Higher than the sun.

最後の冒険家石川 直樹 著集英社) ★★ 

作家の石川直樹が、熱気球での単独飛行で太平洋の横断を試みて行方不明となった神田道夫と彼のチャレンジ=冒険について綴った著作。第 6 回開高健ノンフィクション賞の受賞作ということもあって、いろいろなところで話題になってる一冊でもある。

また、去年以前に読んだのでこのブログではこれまでに特にレビューしてないけど(時間があれば、あらためて随時レビューする予定)、石川くん(一度会ったことがあって、しかも年下なんで、「石川くん」と呼ばせてもらいます)の『全ての装備を知恵に置き換えること』や『この地球(ほし)を受け継ぐ者へ』、『いま生きているという冒険』などはすごく好きな本だったりするんで早速読んでみたんだけど、受賞は伊達ではないというか、期待を上回る出来映えで、一気に読み切った。

Mind voyage.

『+81 Voyage / Brazil and Argentina issue』
(ディー・ディー・ウェーブ 株式会社 Link(s): Amazon.co.jp 

+81 Voyage』は、「グラフィック・デザインを中心に、ファッション・音楽・映像・写真など、各号特集テーマを設け、様々なクリエイティヴ・シーンを紹介するデザイン・カルチャーマガジン」(メディア向けの資料より)を標榜するバイリンガルの季刊誌『+81』の別冊で、「"写真で旅する旅行記&クリエイター・インタビュー" をテーマに、毎号ひとつの地域をフォーカスし、その土地のグラフィック・イラスト・建築・インテリアなど、あらゆるジャンルのクリエイターを紹介する」メディア向けの資料よりもので、年 2 冊発行されてる。+81+81 Voyage』も、毎号欠かさずチェックしてるわけじゃないけど、わりと引っかかることが多くて、特に+81 Voyage』は創刊号のブラジル特集 2 号目のバルセロナ特集も個人的にはかなりツボだったので、最新号がブラジル+アルゼンチン特集ってことで、早速ゲットした。

今回はリオ・デ・ジャネイロ、ミナス・ジェライス、サン・パウロ、そしてブエノス・アイレスの 4 都市に焦点を当ててて、内容的には 8 割ブラジル・2 割アルゼンチンって感じ。
+81』本誌は、ちょっと凝りすぎなデザインがあまりツボじゃなかったりすることも多いんだけど、それに比べると+81 Voyage』はわりとシンプルで、でもクールなデザインで、個人的には好み。相変わらず全体を通して写真も素晴らしいし、ボサ・ノヴァに関してとか、建築に関してとか、すごく見応え(読み応え)がある。ブエノス・アイレスは未知の世界なんだけど、すごく行ってみたくなったし。

内容や構成自体はすごくシンプルなんだけど、いろいろ小手先のギミックみたいなものが横行してる昨今、小細工抜きにヴィジュアルとテキストで頭の中にイメージをかき立ててくれるって意味ではすごく好きだし、貴重な雑誌のひとつかも。5 冊目にして 2 回目のブラジル特集ってことで、どれだけブラジル好きなんだよ、って思わなくもないけど、その辺もキライじゃないし。フツーにサン・フランシスコとかニュー・ヨークとかの特集も見て(読んで)みたいけど。そういうメジャーな街でも
+81 Voyage』ならちょっと違った内容になりそうだし。まぁ、個人的には変化球としてメキシコ・シティとかもいいな、と思うけど。

2008/12/19

Time for hope.

"TIME (Vol. 172 No. 26 / Dec 29, 2008) Person of the Year 2008
(Time Inc.) ★★

アメリカの "TIME" 誌が毎年行っている 'Person of the Year' 特集号。表紙を見ての通り+大方の予想通り、バラク・オバマが選ばれてる。そのこと自体は何の驚きもないんだけど、内容というか、その取り上げ方や使ってる素材のクオリティがとても素晴らしい。ちなみに、ここで取り上げるのは実際の雑誌ではなく、ウェブ版。純粋にウェブ・コンテンツとしてのクオリティがとても高いと思うので。

まず、カバー・アートワークを手掛けてるのはオベイ(OBEY)でお馴染みのフランク・シェパード・フェアリー。1 月の時点で 'HOPE' をモチーフにしたアートワークを手掛けていることも考えると不思議なことではないんだけど、ストリート系のアーティストが "TIME"の 'Person of the Year' のカバー・アートワークを手掛けるなんて、ちょっと感慨深かったりもする(フランクのビデオ・インタビューがサイトで見れる)。

Still wild.

NIKE Air Wildwood Supreme (Black/Black-Sail-Olive Khaki) (NIKE) 

ナイキのアウトドア・ブランド、ACG(All Conditions Gear)の初期の代表作として知られる名作、ワイルドウッドを上品にリメイクしたシュープリーム。名作のデザインはそのままに、渋いカラーリングと素材感で復活したクールな逸品で、ACG ファンには嬉しい限り。

ACG は 1989 年に設立され、 90 年代に入ってから本格的に始動したナイキのブランドで、斬新でオリジナルなアイデアとデザインに、さまざまなスポーツの研究を通して培ったテクノロジーを導入して、アウトドア・フィールドに適用したシューズとアパレルはとても評価が高く、ファンやコレクターも多い。

Sweet Philly soul.

MUSIQ SOULCHILD "OnMyRadio" (Atlantic)
Link(s): iTunes Store / Amazon.co.jp

個人的には、ちょっと前にレビューしたドゥウェレとイメージがカブりがちなフィラデルフィア出身の R&B シンガー、ミュージック・ソウルチャイルドの 5 枚目のアルバムで、デビューしたデフ・ソウルを離れてアトランティックに移籍してからの 2 枚目のアルバムとなる。

歌い上げ過ぎないヴォーカル・スタイルとか、ケバケバしてないサウンド・プロダクションとか、けっこう好きなタイプのアーティストのひとりなんだけど、今作一聴した印象はちょっと微妙。一言でいうと「甘すぎる」。ミッド・テンポでメロウなヴォーカルが持ち味であることは間違いないし、メアリー・J・ブライジと共演した "Ifuleave" を筆頭に、それが存分には発揮されてるんだけど、プロダクションというか、アレンジが上品すぎな気がするんで。この辺は多分に個人的な好みというか、ツボというか、サジ加減の問題で、個人的にはちょっとラフさというか、スキみたいなモノがあるほうが好みなだけで、別に出来が悪いってハナシではなく(というか、クオリティは一定水準以上であることは間違いない)、あくまでも「個人的に」ってレベルのハナシではあるんだけど。ただ、ファースト・アルバムの "Aijuswanaseing"(Links: iTS / Amzn) のような愛聴盤になるとは思えないのも事実(もっと言うと、個人的には、未だに "Aijuswanaseing" を超える作品を作ってくれないことがちょっと不満だったりする)。とは言いつつも、それはあくまでも個人的な印象なわけで、ちょっとセールスが落ちると容赦なく契約が切られがちな世界にあって、コンスタントに作品をリリースしているって事実は、アーティストとしてのクオリティの高さの表れ以外の何物でもないとは思うけど。

2008/12/15

Natural wisdom. Conscious life.

<自然>を生きる

. :福岡 正信・金光 寿郎 著春秋社 ★★

前にレビューした『Spectator』の「Whole Pacific Northwest Life Catalog vol. 1」号でも紹介されてた『自然農法 わら一本の革命』(英訳 "The One Straw Revolution: An Introduction to Natural Farming" も海外で大人気)で知られる福岡正信氏に、NHK で番組制作を手掛けてきた金光寿郎氏がハナシを聞いたものをまとめた書籍(厳密には、番組で使ったのものをテキスト化したもの)。『自然農法 わら一本の革命』から読もうと思ったんだけど、図書館で先に借りられたのがこれだったので、とりあえず、この<自然>を生きる』から読んでみた(現在は表紙のデザインが違う新装版が出版されてるらしく、新装版のほうが手に入れやすいみたい)。

福岡氏は不耕起・無肥・無農薬の自然農法と、粘土に 100 種類以上の種を混ぜた粘度団子を蒔くことで緑と色のパラダイスを実現することを唱えて自らの農園を営み、2008 年 8 月 16 日に 95 歳で亡くなった人物で、表紙の写真にもある通り、仙人のような雰囲気のキャラクターと、科学や進化論を真っ正面から否定しちゃうような、ある意味ラディカルとも言える独特でユーモラスな自然観・哲学の持ち主。その独特の理論をいろいろと批判する人もいるみたいだけど、いくら一生懸命批判しても、どこかチャーミングな福岡氏の魅力を否定できるほど強力(というか、魅力的)じゃなかったりして、やっぱり、なんか魅かれちゃう不思議な存在だ。この版の帯には宮崎駿監督のコメントが掲載されてて、同じことを感じてるっぽいんだけど、たぶんこの人の魅力はロジックにあるんじゃなくて、そういうのとは別の次元にあって、言ってることもやってることも、その存在感自体、ついつい魅かれずにはいられないツボをついてるだと思う。理屈じゃなく。それを、目くじら立ててつまらない正論を振りかざして批判する(というか、重箱の隅を突いて揚げ足を取る)なんて、無粋というか、心にゆとりがないというか、なんかツマンネェヤツらだなぁ、って感じる。最近、やたらと多いけど。数字を振りかざしてつまんない正論をしたり顔で力説するオトナ。ツマンネェヤツらだ。ブラジルに行った時とかに感じたこととも近いけど、福岡氏が日本より海外で評価されてる理由のひとつがそういう部分なのかも? なんて思ったりもする(それすら批判するんだけどね、ツマンネェヤツらは)。

「何もしないこと」の大切さや悦びだったり、「働く」ことよりも「仕事」(「事」に「仕える」こと)って考えだったり、さらには自然観や神についての考え方だったり、いろいろと示唆に富んだ指摘は多く、けっこうハッとさせられる。個人的に好きだったのは、フィリピンの民話に出てくる怠け者、「ホアンタマ」のハナシ。ホアンタマは毎日寝転がって天を向いて口を開けていると、上からパパイヤやマンゴーが落ちてきて楽園のような暮らしをしてる怠け者のことで、フィリピンではネガティヴなモノらしいんだけど、福岡氏はそれこそ素晴らしいライフスタイルだし、そういう民話があるフィリピンはもともとパラダイスのような土地だったんだ、と。すごくいいハナシだなぁ、と。
人間なんかは最後の、地球に緑がなくなって自然が滅びたときに人間も滅びる、その最後の幕引き役として生まれてきた動物ではないか。
福岡氏のこの言葉は、巷で安易に使われてる「地球にやさしく」的なキャッチ・フレーズではまるで言い表してない、「環境問題」の本質をついてる気がする。

なんか、この人、アレステッド・デヴェロップメントのババ・オジェイとイメージがダブる。いるだけでいいっていうか、いるだけでありがたいっていうか。

2008/12/14

Natural music classics.



"3 Years, 5 Months & 2 Days in the Life Of ..." / "Unplugged" / "Zingalamaduni"

. ARRESTED DEVELOPMENT(Chrysalis)

1992 年にデビューして、そのオリジナルなサウンドとスタンスで一世を風靡したヒップホップ・ユニット、アレステッド・デヴェロップメント。別に今、再評価の気運が高まってるわけでも何でもない(と思う)し、ヒップホップの歴史の中でどう評価されてるのか全然知らない(興味もない)んだけど、個人的にすごくシックリきてるというか、あらためてグッときてたりするんで、あらためてレビューを(ただ、1992 年の衝撃のデビュー・アルバム "3 Years, 5 Months & 2 Days in the Life Of ..." と 1993 年のライヴ盤 "Unplugged"、1994 年のセカンド・アルバム "Zingalamaduni" の 3 枚に関してってことで、スピーチのソロ以降の再結成作品は対象外。キチンと聴いてないので。日本ではやけに大ヒットしたスピーチのソロ作はキライじゃなかったけど)。

ギャングスタ・ラップ全盛で、LA と NYC を中心に回ってた 90 年代初頭のヒップホップ・シーンに、ヒップホップ不毛の地と思われてたアトランタから突然変異的に現れたインパクトも相当なもんだったし、アフロセントリックなルックスとリリックやオーガニックでブルージーなサウンド・プロダクションもフレッシュだったし。特にスライ & ザ・ファミリー・ストーンの "Everyday People" を大胆にリメイクした "People Everyday" や衝撃的だったデビュー・シングル "Tennessee" 等は時代を代表するトラックだと思うし、この 2 曲が収録された
"3 Years, 5 Months & 2 Days in the Life Of ..." でグラミー賞のベスト・ニュー・アーティストも穫ったりしてた。"Unplugged" もヒップホップ・ユニットととしては異例の出演だったし、"Zingalamaduni"からはスパイク・リー監督の映画マルコム X』のサウンドトラックに "Revolution" を提供したりと大活躍だった。

ただ、今、個人的にすごくシックリきてるのは、別にノスタルジーでもなんでもなくて、オーガニックな(でも、ヒップホップな)サウンドだったり、コンシャスなメッセージだったり、メンバーに「スピリチュアル・アドバイザー」としてババ・オジェイって老人がいたりするユニットとしての在り方だったり、そういうモノを全部ひっくるめて、今、すごく、シックリくるってこと。しかも "Zingalamaduni" に収録されてる "In the Sunshine" とか "Praisin' U" とか、どっちかっていうと地味な曲が。特に "Praisin' U" がすごくグッとくる。それは、上手くイメージが伝わるかわかんないけど、ヒップホップとしてっていうより、ベン・ハーパーやジャック・ジョンソンとかに近い感じで。ゆるくてナチュラルでオーガニックでアーシーな気持ちいいグルーヴというか、なんか、そういうサウンドとしてすごくシックリくるし、今聴いてもすごくフレッシュに感じる。

キッカケは、例えばジェリー・ロペスの『サーフリアライゼーション』みたいな本を読むときにどんな音楽を聴こうかなって思ったことだったり、こないだレビューしたコーネル・ウェストの『人種の問題』の原書が発売された時期について考えたことだったり、一件無関係ないろんなことが、偶然か必然か、似たような時期に気になりだしたからなんだけど、もっと言うと、都市型なライフスタイルから脱却したいと思うようになるにつれて、そこで鳴っているべき音楽も変わってきてるってことなんだろうな、と。

あと、自分がリアルタイムで聴いてきたモノの中で、しばらく聴いてなかったモノが、あらためて新鮮に聴こえてくるって、なんか不思議な感覚だったりもする。

2008/12/13

Universal mic control.

COMMON "Universal Mind Control" (Geffen) 
Link(s): iTunes Store / Amazon.co.jp

「1972 年生まれのソウル好き」という共通点から勝手に親近感を抱きつつ、常にパーソナル・フェイヴァリット MC のトップ 3 に入っている 'シー・オー・ダブル・エム・オー・トゥ・ザ・エヌ' ことコモンの 8 枚目のアルバム。当初は "Invincible Summer" というタイトルで夏前にリリースされる予定だったのが、延びに延びて結局リリースされたのは 12 月に入ってから。タイトル・トラックを最初に聴いてからは、もうけっこうな時間が過ぎた段階でやっとリリースされた。

ネプチューンズ・プロデュースのタイトル・トラック "Universal Mind Control" のビデオ(監督はハイプ・ウィリアムズ)を観て(聴いて)ある程度予想できた通り、全体の方向性は「いわゆるヒップホップ」の枠からは逸脱したような、エレクトリックでデジタルでハイテックなサウンド・プロダクションで、「変化球を連投」したような印象の、ちょっと不思議な感じのアルバム。ポップであるとも言えるし、ダンサンブルでもある。サウンドとは相反して(?) メッセージは直球。この辺は好みのよってかなり賛否が分かれるところだと思われる。個人的にも、"One Day It'll All Make Sense"(Link: Amzn)とか "Be"(Links: iTS / Amzn)のようなオーガニックなトラックとの相性抜群なフロウが好きだったりするんで、ちょっと複雑な心境だし。

2008/12/12

Doing the right things.

"TRACE #83 Black Girls Rule! Issue" (TRACE) ★★

'transcultural styles + ideas' を標榜して 1996 年にイギリスで発行され、1998 年からはヘッドクォーターを NYC に移して出版されているカルチャー / ライフスタイル誌、 "TRACE" の最新号。

1998 年から毎年 1 度取り上げている "Black Girls Rules!" 特集号で、ゲスト・エディターは映画監督のスパイク・リー。こう聞いただけで、十分期待できるんだけど、期待を裏切らない内容。しかも、オフィシャル・サイトから PDF がダウンロードできる。

個人的にツボだったのは、表紙にもある通り、スパイク&トーニャ・ルイス・リー夫妻による次期ファースト・レディ、ミシェル・オバマのエクスクルーシヴ・インタビュー。日本にいるとなかなか実感しづらいけど、アメリカではファースト・レディ(及び大統領の家族)ってメチャメチャ影響力がある存在だし、彼女自身の魅力と人望(≒人気)もバラク・オバマの勝利に大きく寄与しているみたい(特にペイリンが副大統領候補に指名されてからは)。


2008/12/09

Written blues.

『人種の問題コーネル・ウェスト 著 山下 慶親 訳
新教出版社 ★★ Link(s): Amazon.co.jp

前にアルバム "Never Forget: A Journey of Revelations" をレビューしたプリンストン大学宗教学部教授、ドクター・コーネル・ウェストが LA での暴動の翌年の 1993 年に発表し、これまでに 50 万部以上のセールスを記録してベストセラーとなった著作で、原書の出版から 15 年の時を経てやっと邦訳・出版された。原書のタイトルは "Race Matters" で、単に「人種にまつわる問題」という意味と「人種こそが重要な問題だ」という意味のダブル・ミーニングになっている。

学術書でありながら数十万部を売り上げている書籍が 15 年間、邦訳・出版されていなかったのは、ひとえに、表層的にはその影響を享受したり、盲信したりしていながら、本質的には人種の問題に対して無関心であること以外の何物でもないと思うけど(これがウサン臭いビジネス本だったら絶対すぐに出版されたはず)、今回、出版が実現したのは、ちょっと考えれば簡単に想像できる通り、アメリカ大統領選挙におけるバラク・オバマの躍進という「タイムリーなトピック」があったからだとか(訳者のあとがきにそう記されてる。ちなみに、その段階ではまだ選挙結果は出ていなかった)。邦訳・出版が実現したことを喜んでいいのか、こういうことでもないと 15 年間、放置されてるっていう状況を嘆けばいいのか、相反する考えが入り交じったとても複雑な心境。個人的には、15 年前と言えば、大学のゼミで「アフロ・アメリカンの政治文化」を学んでて、論文を書いてた時期だっただけに、出版されてればすごくタイムリーだったのに、なんて 15 年の時を経て思いつつ、まぁ、ともあれ、出版されたこと自体は素直に喜びつつ、早速読んでみた。

2008/12/07

Seeds of ideas. Seeds of ideal.

わが夫、チェ・ゲバラ

. :アレイダ・マルチ
. :後藤 政子 訳(朝日新聞出版 ★★★☆

キュー バ革命の戦士のひとりであり、チェ・ゲバラの妻であり、チェ・ゲバラ研究センターの所長でもあるアレイダ・マルチが、元司令官であり亡き夫でもあるチェ・ ゲバラについて語った書籍。原著は 2007 年にイタリアで先行出版された "Evocación" で、原題は「回想」という意味。チェの死後、世界中のジャーナリストからの再三の取材要請を断り続け、半世紀に渡って沈黙を守ってきたアレイダ自身が書いてるってことで、日本を含めて世界的に大きな話題になり、発売時には来日もしてた。

他の誰も知らないチェの素顔が垣間見えるって点はもちろん、フィデルとチェがメキシコで出会った頃のキュー バ国内の反政府勢力(彼女もその一員だった)の動きが描かれている部分もなかなか面白い。キューバ革命に関するものは、どうしてもフィデルの動向を追うカタチで描かれがちだけど、当然、フィデルたちはグランマ号で乗り込んだメンバーだけで革命を実現したわけではなく、キューバ国内には多くの協力者=反政府 勢力がいたわけで、その辺りについてのエピソードが意外に面白いな、と。

サブ・タイトルに「愛と革命の追憶」とあるように、「愛」と「革命」というミスマッチ感溢れるふたつの単語がナチュラルに並ぶことがこのカップルの最大の 特徴。ただ、必要以上にチェを誉め讃えたり、甘いロマンスの部分をドラマチックに書き立てることをせず、むしろ、あえて、過剰なくらいに抑制することに努 めてるように感じられる。それでも、そこかしこから垣間見えるのは、とても人間臭い、ひとりの男としてのチェ、子供の父親としてのチェ、そして同時に、ひとりの革命家・ゲ リラ戦士としてのチェの姿。それが微妙な、危ういバランスで成り立ってて、しかも新婚と革命政権樹立〜運営が時期的にカブってたのがこのカップルだったん だなぁ、 とあらためて感じた。

序文的に掲載されている「私たちのアレイダ」という文章の冒頭にこんなことが記されてる。
決 して遠くに去っていたわけではないのに、何十年もの間、 沈黙に身を潜めていたアレイダ・マルチ。その彼女が苦しみの中から、自らの解放の力を引き出し、チェがこれからもずっと人々の心の中に生き続けるように と、記憶の種を蒔くことを決意し、力の限りを尽くした。こうして、今、私たちはそれを手にすることができた。これこそ真なるものだ。なんと深く、なんと複雑で、なんと限りなき豊かさを持っていることか。チェの輝かしい思想が、さまざまな方向から、そして何よりも彼の最大の特性である、不屈で完璧なモラルと いう視点から照らし出され、多面的でありながら、統一されている。

"忘却" の中にありながら、もっとも輝かしく記憶の種を蒔こうとする人々 ー 忘却はさまざまな形で身を潜めている。贖(あがな)いとしてのチェや顔を持たない理想家という神話は、忘却だ。典礼のコイン、儀式に利用されるチェは
、忘却だ。何もしない夢想家やグラスに書かれた、あの写真家のコルダ(彼はまさしく詩人だ)が写した、未来を見つめるチェは、忘却だ。腹の出た、闘わない左翼は、左翼ではなく、忘却だ(こんな左翼は「XXX」だ。この「XXX」には、好きな文字を入れて欲しい)。

こ こでは記憶はそんな蒔き方はされていない。彼女の文章は決して死に絶えることがない。それは、チェの決して死に絶えることのない模範によって支えられてい るものだからだ。そうした文章によって、記憶の種は蒔かれてる。そこから明らかになるのは、チェの行為は、そのひとつひとつが、彼の思想の具体的な表現 であったことだ。だからこそ、彼の思想は、若者の中に日々再生する。すなわち、あの明晰さと勇気をもって、休まず、倦むことなく闘うことを知っており、あるいは知るであろう若者の中に。そして、闘うことができ、また闘わなければならない若者の中に。これこそチェの真の姿なのであり、それは現実に力を与え、 力を与えられた現実はその真実を確認する。
この文章を書いたのはチェとアレイダの友人で、キューバ映画 芸術産業協会の会長のアルフレード・ゲバラ氏。ちょっと長い引用になったけど、すごく適切な説明だし、最高のイントロダクションだと思うので。つまり、そういうことなんだろう、と。アルフレード・ゲバラの言う「記憶の種を蒔く」という行為こそ、この本の最大の功績だし、その種を発芽させ、育て、実らせてこ そ意味があるってこと。だからこそ、(アイコンとしての役割自体は前面否定はしないし、必ずしも嫌いなわけじゃないけど)キチンと知り、考え、自分の中に 取り込んでいくことが大切だな、と。

あと、個人的にとても好きだったのか、フィデルに関するエピソード。ゲバラとアレイダにすごく気を遣ってて、いいヤツで。ちょっとした、でもなかなか心温まる部分だったりする。

2008/12/03

Blues music for blues people.

CORNEL WEST & BMWMB "Never Forget: A Journey of Revelations"
(
Hidden Beach) ★☆ Link(s): iTunes Store / Amazon.co.jp

ドクター・コーネル・ウェストがコーネル・ウェスト & BMWMB 名義で Hidden Beach からリリースしたアルバムで、タリブ・クウェリやジル・スコット、KRS-ONE、プリンス、アンドレ 3000(アウトキャスト)等が参加している。

端的に言うと、これが基本的な情報で、音楽的には最低限のイメージはできそうだけど、これだけでは全然不十分なところがこのアルバムの特徴。それだけじゃ、全然このアルバムの魅力は伝わらない。

ドクター・コーネル・ウェストは、オクラホマ州出身のエチオピア系アフロ・アメリカン哲学者 / 政治思想家 / 神学者 / 社会活動家 / アーティストで、プリンストン大学宗教学部兼アフロ・アメリカン研究センター教授。LA での暴動の翌年の 1993 年に発表し、これまでに 50 万部以上のセールスを記録してベストセラーとなった "Race Matters"(単に「人種にまつわる問題」という意味と「人種こそが重要な問題だ」という意味のダブル・ミーニング)が 2008 年 10 月、『人種の問題 ー アメリカ民主主義の危機と再生』として原書の出版から 15 年(!)の時を経て初めて邦訳・発売され(店頭で知らずに見かけたら絶対スルーしちゃう自信満々な感じのスゴイ装丁デザインにビックリだけど…)、それに先駆けて 5 月にはマーティン・ルーサー・キングの没後 40 周年記念企画のために初来日を果たし、東京での姜尚中氏との対談や講演をはじめ、大阪・広島・沖縄を訪れたりしている。

2008/12/02

A touch of universe.

ユニバソロジの世界観』
 ー『未来創発Vol. 14Vol. 15Vol. 16Vol. 17 より

. :毛利 衛 著(
野村総合研究所★★

前のエントリーで取り上げた
果てしない宇宙のなかで思う未来のことのレビューでも触れた野村総合研究所の広報誌『未来創発』の Vol. 14Vol. 15Vol. 16Vol. 17 に掲載された毛利衛さんの全 4 回のエッセイ(それぞれリンク先に PDF で公開されてる)。『果てしない宇宙のなかで思う未来のこと』の中で毛利さんが触れてた「ユニバソロジ」の世界観に沿って書かれてて、「つながり」「携帯電話」「挑戦」「自然への気づき」をテーマにしてる。

「ユニバソロジ(universe + -logy = universology)」というのは、『果てしない宇宙のなかで思う未来のこと』の中では毛利さんが自分で考えた造語って言ってるんだけど、英英辞典や英語版のウィキペディアなんかをちょっと調べてみたところ、言葉自体は以前からあったみたいで、完全に毛利さんのオリジナルって言えるかどうかは確証はないけど、少なくとも毛利さんは英英辞典に載ってる 'The science of the universe, and the relations which it involves.' って意味よりもだいぶ拡大したイメージで捉えてるっぽい。

果てしない宇宙のなかで思う未来のこと』の中で毛利さんと対談した作家の瀬名秀明が見事に「ユニバソロジ」のイメージを要約してた(そして毛利さん自身、「使わせて欲しいほどいい表現」と言ってたほど的を得てるらしい)言葉によると、「自然現象の時間とか空間とかいろいろスケールの違 うものを、自分の心の中で比較したり組み合わせたり融合させたりすることによって、地球上で暮しているだけ では見えてこなかった違った観点を ー 無意識のうちに感じてるのかもしれないけれど気が付かないようなものを ー 気付かせるような発想」。キーになるのは時間と空間の感覚で、それはこのエッセイの根底にも流れてる。個人的には「顕微鏡の中に見える細胞と、ふと見上げた丸い窓から見えた地球がすごく似てた」というエピソードがすごくツボだった。

このエッセイは、野村総合研究所の広報誌って媒体の特質、及び見開き 2 ページ x 4 回ってスペースの都合上、それほど深いハナシにはなってなくて、わりとマジメで具体的な例を挙げながら、「触り」の部分を紹介してるって感じだけど、入り口としてはなかなか面白いし、もっといろいろ知りたくなってくる。

あと、直接関係ないけど、この『未来創発』って、最近は川崎和男先生のコラムが載ってたりして、なかなか面白い。さっき、「野村総合研究所の広報誌って媒体の特質」って書いたわりに、実はどんな媒体なのかよくわかってないんだけど。実物を見たことないし、どんな人が読んでるんだかイメージしにくい。まぁ、堅い感じは伝わってくるけど。でも、内容はけっこう興味深かったりするし、バックナンバーも含めて記事がウェブ上にアーカイブされてるのもありがたいし。更新情報を RSS 配信してくれてるともっとありがたいんだけど。