2009/01/31

The godfather.

Hélio Gracie (1913 - 2009) - Rest in peace.

レビューではないけど、前にレビューした『すべては敬愛するエリオのために』の主役、グレイシー柔術の創始者であるエリオ・グレイシーの訃報が届いた。


息子のホイスが Tatame.com に以下のようなオープン・レターを送り、その心境を明かしている。


2009/01/27

Brother to brother.

ILLA J "Yancey Boys" (Delicious Vinyl)
Link(s): Amazon.co.jp 

本作の主役はイラ・J(ILLA J)ことジョン・ヤンシー。このファミリー・ネームでピンとくる人も多いはず。

そう、約 3 年前に惜しまれながら亡くなったジェームズ・ヤンシー a. k. a. ジェイ・ディー / J・ディラ(JAY DEE aka J DILLA)の弟。そう聞いただけで、もう十分、チェックするに値するんだけど、実はトラックは亡き兄、ジェイ・ディーによるモノだって言われたら、もう、チェックせずにはいられないはず。

つまり、の主役はイラ・J なんだけど、もうひとりの、裏の主役はジェイ・ディーだってこと。リリースは 2008 年。

2009/01/26

Being hungry. Being foolish. Being creative.

スティーブ・ジョブズ 偉大なるクリエイティブ・ディレクターの軌跡
 林 信行 著 アスキー)  

これまでにも『iPhone ショック』や『アップルとグーグル』を取り上げたことのある、マック系のライターの林氏が『MACPOWER』誌で連載していたモノをまとめた著作。B4 型(になるのかな? 長辺が 27cm で、A4 よりもちょっと小さい)っていう大型の版型で、写真を大きく扱ってるヴィジュアル・ブック的な装丁が特徴になってる。
これは、われわれがリベラル・アートとテクノロジーの接点に立つ企業で、それらふたつを、他の誰もマネできないくらいうまく融合できることを示している。


2009/01/23

Good morning music.

"NIKE Sport Music iMix: In the Morning Sunlight" (iTunes Store) 
Link(s): iTunes Store

たまにはちょっと趣向を変えて、手前味噌なモノを。我ながら、わりといい出来なんじゃないかと思うので。だって、まず何より、自分でよく聴いてるから。これは NIKE+ 用の日本独自コンテンツのひとつとして選曲した iMix で、朝用のセットとして選んだモノ。ある意味、セルフ・レビューってことになるのかな。

今さら説明する必要もないかもしれないけど、NIKE+ ってのは、ナイキの専用スニーカーにセンサーを、iPod にレシーバーを装着することで、自分のランニングのデータ(距離や速度、消費カロリー等)を計測して、そのデータをウェブ上の専用ページで管理できる、っていう製品+サービス。ナイキとアップルという、世界でも屈指のハイ・プロファイルなブランドふたつのコラボレーションって意味でも、いろいろな意味で象徴的な企画だと思うけど、ナイキが単なるスポーツ・グッズの生産・販売企業って枠を超えて、ソフトウェアであったり、サービスであったり、ライフスタイルをひっくるめて、「ナイキとして売る」ってモデルを始めたって意味でも、すごく興味深かったりする。

2009/01/21

The dawn of the new era.

44th US President BARACK H. OBAMA: Inaugural Address on January 20th, 2009 (US Presidential Inauguration 2009) 



第 44 代アメリカ大統領、バラク・フセイン・オバマが 2009 年 1 月 20 日(現地時間)の大統領就任式で行った就任演説。もちろん、初のアフロ・アメリカンの大統領でもあるし、これまでに 11 月 4 日の勝利演説 "Yes We Can" のベースになったニュー・ハンプシャーでの演説など、名演説の多いオバマなだけに過去にないほどの注目を集め、日本でも地上波 TV で生放送してたり(しかも、NHK だけじゃなかった)してたけど、ウェブで生放送してたのが今回の大統領就任を象徴してるような気がしたので、あえて Joost で観てみた(回線の混雑が心配だったけど、思ったより普通に観れた)。

2009/01/20

Ginga style.

DJ NUTS "Embalo Jovem" (Mochilla)  Link(s): Mochilla website

"Keepintime" や "Brasilintime" にも参加してるブラジル人ヒップホップ DJ / ターンテーブリスト、DJ ナッツがモチーラ(Mochilla)から 2008 年にリリースしたミックス CD。さすがにモチーラだけあって、アートワークのカバー写真も超クール。

ナッツには、2004 年のミックス CD "Cultura Copia" でスッカリ心をわしづかみにされてたんでついつい期待も高まるんだけど、そんな期待を裏切らない出来映え。古いブラジルのソウル〜ファンク〜ジャズ〜サンバ〜ボサノヴァ等、ブラジリアン・レア・グルーヴとも呼ぶべきお宝音源を片っ端からミックス & スクラッチするスタイルで楽しませてくれる。個別のトラックについてはよくわからないけど、そういう小難しい理屈抜きに楽しむのが正解。それにしても、アメリカとも、イギリス / ヨーロッパとも、日本とか違うこの独特のグルーヴ感っていったい何なんだろう。やっぱり、ジンガなのか? なかなか奥が深い。ヒップホップってカルチャーは、世界中に拡散し、つながり、刺激し合いながら、それぞれの地で独自のカタチを生み出してるけど、これはそのブラジルの例。独自の、そして極上のモノにしちゃうのはサッカーだけじゃなかったらしい。

ちなみに、2005-2006 年に "Disco é cultura" ってミックスも 3 枚出してて、これもなかなか味わい深い。

2009/01/19

How to direct a dream team.

スティーブ・ジョブズの流儀』 リーアンダー・ケイニー 著 三木 俊哉 訳  
白夜書房)  Link(s): Amazon.co.jp / Rakuten Books

ウォズ(スティーヴ・ウォズニアック)の『アップルを創った怪物』のレビューの中で、「特に最近はピクサー〜 iPod / iPhone の成功もあって、時代の寵児として派手に表舞台で紹介されることの多いジョブズ」って書いたけど、まさにそんな内容の一冊で、原書は 2008 年に出版された "Inside Steve's Brain"。最近はスティーヴ・ジョブズ / アップル絡みの本はハズレも多いんだけど、本書の著者は "The Cult of Mac" などでも知られる wired.com のエディターで、10 年以上アップルを取材してきてるだけあって、さすがにそういったものとは一線を画してて、なかなか読み応えがあった。

自らの個性を事業哲学にまで高めた男がここにいる。

序章にこんな言葉がある。これが著者の抱くジョブズ像であり、本文でそれを具体的に説明していく。取り上げてる項目は、フォーカス・独裁・完全主義・エリー ト主義・情熱・発明欲・ケーススタディ・トータルコントロール。良くも悪くもジョブズにピッタリな、一般的な「ジョブズ像」みたいなモノとして挙げられがちなイメージだ。そのそれぞれについて、具体的な事象やジョブズ本人及び周辺の人物(スタッフや元スタッフ、ジャーナリスト等)の発言を用いながら説明し、一般に語られる「ジョブズ像」と一致する部分と間違ってる部分を指摘しつつ、ジョブズの仕事の仕方(日本語タイトルを使えば「流儀」ってことになるのか?)を描いてる。

2009/01/18

Music is playing inside my head over and over again.

ヒットこそすべて ー オール・アバウト・ミュージック・ビジネス

. :朝妻 一郎 著 白夜書房)

古い(なんて失礼かな? 熱心な、と言ったほうが適切かな)音楽ファンには、キャロル・キングの名盤『つづれおり』等、数多くのアルバムのライナーノーツを執筆してる音楽評論家 / ライターとして知られ、音楽ビジネスの世界では数多くのヒット曲を生み出した(それこそ『帰って来たヨッパライ』から『千の風になって』まで)仕掛人として知られる朝妻一郎氏が、そのキャリアを振り返りつつ、自身の手掛けてきた音楽出版という仕事を中心に、音楽ビジネス自体についても広く、そして詳しく記した一冊。音楽業界のみならず、音楽ファンの間でも広く知られている朝妻氏なので、これまでにこういった著作がなかったことが不思議なくらいだけど、多忙で、現役感の強い人なので、こういうタイプの「これまでを振り返る」的なモノには抵抗があったのかな、なんて気もするし、そういう意味では待望の一冊と言える。内容は、これまでの経歴やエピソードを書き下ろしただけでなく、過去に手掛けたライナーノーツや雑誌での連載、さらに大滝詠一や秋元康との対談など、数多く収録されてて、資料性も高いし、読んでてメリハリもあるし、予想通りというか、文句なくすごく面白いし、500 ページ近くある(しかも、段組み構成のページがかなりあるので、実質的な文量はもっと多い)にも関わらず、すごく読みやすいし、読み応えがある(ただ、書き下ろしの部分の文量がちょっと少ないかな、って印象はあるけど)。

「ヒット曲の仕掛人」って書いたけど、朝妻氏は現在、フジパシフィック音楽出版というフジサンケイ・グループの音楽出版社の会長で、当初は音楽ライターとして、後に音楽出版というビジネスを通じてヒット曲を量産し、日本の 音楽業界に大きな功績を残してきた人物。音楽出版っていうビジネスについては、音楽業界で働いてる人でもキチンと理解してない人が案外多いし、『部長 島耕作』の中でチラッと触れられてたことがあったけど、それもイマイチ明確じゃなかったんで、たぶん、音楽ファンでも多くの人はよくわかってないと思うんだけど、 基本的には「楽曲の著作者(作詞・作曲者)の著作権を、著作者の代理として管理・運用する」のが仕事。つまり、簡単に言うと、
著作者のために楽曲が生み出すさまざまなカタチの利益(作詞・作曲の印税)を少しでも多く発生させるように努力し、同時に、その契約・経理等の手続きをキチンと行い、その仕事に対して(手数料として)一定の「取り分」を得る、ということ。

その「
さまざまなカタチの利益」 というのが、具体的にはその曲が収録された CD の売上げや音楽配信だったり、テレビ・ラジオ・映画・CM 等での使用だったり、カラオケであったりする。そういう風に、いろいろなカタチで楽曲が使用されて、作詞・作曲印税が多く発生している状態というのが、いわゆる「ヒット」ってことになるわけで、ヒット曲を生み出し、そのヒット曲をスタンダード(時代を超えて、いろいろなカタチで愛され続ける曲)にしていくことが音楽出版の最大のミッションで、それこそが朝妻氏がフジパシフィック音楽出版(前身のパシフィック音楽出版を含む)でやってきたこと。なので、朝妻氏のやってきたことを紐解いていくと、必然的に、音楽出版というビジネス、そして、音楽ビジネスがどのように成り立ってるのかがよくわかる。

ちなみに、「音楽出版(music publishing)」と呼ばれてるのは、もともと
楽譜(譜面)の印刷・頒布というカタチで初めて音楽の著作権使用が始まったから。もちろん、まだ放送もレコードもない時代で、人気のある曲の楽譜はよく売れて、その売上げの一部を、作詞・作曲者に印税というカタチで支払っていた、と。つまり、楽譜が印刷されるようになって初めて音楽の複製・頒布が可能になったわけで、そういう意味では、音楽ビジネスそのもの始まりが音楽出版だったとも言える。その後、昔ながらの出版に加えて(楽譜だけでなく歌詞の掲載なども含む)、レコードや CD といったパッケージ、放送、カラオケ、CM、映画、さらにはネット配信等、音楽著作権がさまざまな形態で使用されるようになるにつれて、音楽出版社のカバーする範囲も広がった、と。間違えられやすいけど、決して音楽関係の雑誌・書籍を出版してる会社ではない。

あと、もうひとつ、混乱しやすい部分として、レコード会社(レーベル)やアーティスト・マネージメント(事務所)との違いがあると思うんだけど、簡単に言っ ちゃうと、音楽出版社が扱うのは「楽曲」で、レーベルが扱うのは「音源」で、事務所が扱うのは「タレント(アーティスト)」って整理できる。例えば、山崎まさよしの『セロリ』っ て曲について整理すると、この曲の作詞・作曲は山崎まさよし本人、レコードのリリースは所属レーベルであるポリドールで所属事務所はオフィスオーガスタなんだけど、『セロリ』は SMAP のカバーも大ヒットしてる(他のアーティストのカバーもある)。この時に、ポリドールにとっての「商品」は、あくまでも山崎まさよしがレコーディングした 「音源」で、その「音源」が収録された CD という「商品」を売ることで収益を上げる。SMAP のレーベルはビクターなので、ビクターは SMAP のヴァージョン(音源)を収録した CD という「商品」から収益を上げる。つまり、レーベルはあくまでも「音源」が収録された「商品」を製造・販売するのが仕事ということ。オフィスオーガスタは山崎まさよしというアーティスト自身が、ある種の「商品」なので、CD 以外でも、ライヴとか CM 出演とか、いろいろな活動すべてにおけるアーティストの活動から収益を上げる。ジャニーズと SMAP の関係も同様。つまり、ポリドールの立場から見ると、SMAP の CD がいくら売れても、いくらカラオケで歌われても直接的には一銭の利益も生まないということ(もちろん、プロモーション面での相乗効果はあるけど)。

それに対して、『セロリ』って楽曲の著作権を(著作者である山崎まさよしに代わって)管理する音楽出版社は山崎まさよしの CD が売れようが、SMAP の CD が売れようが、他のアーティストのカバーが売れようが、カラオケとかオルゴールとかで使われようが、『セロリ』という楽曲には違いがないので、等しく利益を得ることができる。ここがけっこうキモの部分で、もちろん、全部売れればみんなハッピーだし、そのために協力して相乗効果を生み出そうとするんだけど、 純粋な目的はそれぞれ似て非なるというか、微妙に違ってるってこと。逆に言うと、それぞれ違う立場の人間がそれぞれの目的達成のために努力することが副産物的な効果も生み出すし、1+1 が 3 にも 4 にもなるってことだし、これが音楽ビジネスのダイナミズムの根源にもなってる、と。実際には、レーベルと事務所と音楽出版社がキレイに分かれてないことも多いし、いろんなケースがあるんで、何でもこう単純に整理できるわけではないけど、原則としてはこういうことになる。

ちなみに、もうひとつ、理解しにくいモノとして JASRAC(日本音楽著作権協会)があるけど、これはレコード会社や放送局、カラオケ・メーカー等、著作権使用者から使用料を徴収する団体で、楽曲の使用状況に応じて音楽出版社に使用料を分配する。いわば、著作権使用者と音楽出版社の間にある存在(現在は JASRAC 以外にも同様の業務行う企業があり、著作者が選択できる)、レーベル・事務所・音楽出版社と競合するものではない。

すっかり、前書きが長くなっちゃったけど、こういう前提がわかっていたほうが、朝妻氏の功績がわかりやすいし、本書を楽しめる(もちろん、本書の中でも丁寧に説明されてるけど)。
僕はひたすら「ともかく胸キュンの曲、悲しい曲を書いてよね」って言ってた。(中略)どうして「胸キュン」にこだわったかと言うと、やっぱりヒットする曲の 要素って 2 つしかないという思いが僕にはあった。聴いてハッピーになるか、聴いて胸がキュンとなるか、そのどちらか。もちろんそれ以外だってあるんだと思うけど、常にヒットの王道はその 2 つ。
これは朝妻氏が、大滝詠一の名盤 "A LONG VACATION" の原盤制作に携わっていたときに、大滝氏に対して出したリクエスト。
"A LONG VACATION" と一連のナイアガラ関連の作品は朝妻氏の携わった仕事の中でもマスターピースのひとつであるだけじゃなく、日本のポップ・ミュージック史の中でも燦然と輝く金字塔だと思うし、この辺りが個人的にはこの本のクライマックスだったりするんだけど、このセリフが朝妻氏の音楽の嗜好と音楽出版社の人間としてのスタンスが如実に表れている気がする。

もともと海外の音楽、特に
アメリカン・ポップスが好きで、ポール・アンカ・ファンクラブの会長を務めてた流れでライナーノーツの執筆を依頼されるようになり、徐々に音楽ビジネスの世界に入ったという朝妻氏は、当時の、いわゆるアメリカン・ポップスの黄金時代を体験してる。アメリカン・ポップスの黄金時代というのは、実は音楽出版ビジネスの黄金時代でもあったわけで、今とは比べ物にならないほど情報が少なかった当時、雑誌やレコードに必ず明記されてる音楽出版社の情報が貴重な情報ソースだったそうで、そうした中から音楽出版ビジネスに興味を持ったというのも頷ける。どういうことかというと、「アメリカン・ポップスの黄金時代」っ ていうのは、職業作家(作詞家・作曲家)が曲を書き、その曲をピッタリな歌手に歌わせる、というカタチでレコードが作られてた時代。数多くのソングライ ティング・チームがたくさんの曲を書き、契約している音楽出版社がいろいろなレコード会社や歌手にそれを売り込み、レコード化する。そんな中で、ヒットを 連発する優れたソングライティング・チームと音楽出版社が出てきて、そうして生まれたヒット曲がシーン(=ヒット・チャート)を支えてた。

その代表格が、ソングライターならバート・バカラックとハル・デヴィッドのコンビだし、音楽出版社なら、朝妻氏が本書の中で繰り返し名前を挙げてる(相当好 きらしい)、キャロル・キングとゲリー・ゴフィンやニール・セダカとハワード・グリーンフィールドといったソングライティング・チームを抱えてた音楽出版 社、アルドン・ミュージック。そういう音楽に傾倒していった朝妻氏が、そういった優れた音楽を日本に紹介しつつ、同じようなことを日本でやっていこうと 思ったのが、後の功績につながるわけで、その辺の経緯が、自身の携わった仕事だけでなく、アメリカの音楽(とビジネス)についても広く記されてるのが本書 だ、と。

実際には、ザ・フォーク・クルセーダーズの帰って来たヨッパライ』からジャックスの『ジャックスの世界』、シュガー・ベイブの『ソングス』、元ザ・フォーク・クルセーダーズの北山修・加藤和彦の『あの素晴しい愛をもう一度』、 オフコース、ダウン・タウン・ブギウギ・バンド、ナイアガラ等々、さらにはおニャン子クラブやウィンクまで、時代を変えたり、時代を超える金字塔的な作品から、ちょっと芸能界・業界チックなモノまで、挙げればキリがないほどのヒットを手掛けてるんだけど、やっぱりその根底にあるのは、(ガールズ・ポップやバブ ルガム・ポップみたいなポップとかいい意味で笑えるコミック・バンド的なモノも含めて)ポップ・ミュージック(=広く愛されるポピュラー・ミュージック) がすごく好きだってこと。あと、同時に、一件ウサン臭そうに見える業界チックなモノも含めて、やっぱり、まず音楽として考える「音楽の人(ミュージック・マ ン)」なんだな、ってことがすごく伝わってくる。個人的には、おニャン子クラブで大ヒットを連発した作詞家の秋元康氏との対談で、朝妻氏が「卒業とか、人が成長していく時期を描いた曲としては、ほんとにいい詞だし、いいメロディーだし、明るいし、大好きだね」っておニャン子クラブの『じゃあね』を評してるのがすごく印象的だった。そう言われてみれば確かにそうだし、やっぱり、こういう風に音楽を聴いてるんだな、って(そう、サウンドは古くなるけど、名曲は決して古くならない。だから、スタンダードって呼ばれるんだし)。

自身の経歴の部分以上にページを費やして、ティン・パン・アレイ(もちろん、細野晴臣が組んでたバンド名ではなく、その由来となったアメリカの音楽業界で音楽出版社が全盛だった時代・場所を指す言葉として)の詳しい解説、マイケル・ジャクソンのビートルズの著作権買収について、海外の音楽ビジネス事情、さらには音楽著作権の資産価値に至るまで、音楽ビジネスのさまざまな側面について語られてるんで、とても勉強になる(例えば、アメリカの音楽業界が昔からいかに商魂逞し かったか、とか)。

実は、個人的にもすごくお世話になった人で、社会人としての最初の 2 年間、朝妻氏の下で働かせて(というか、学ばせて、かな)もらったりしてるんで、そういう意味でもすごく面白く、同時に勉強になったりしたんだけど、 まぁ、面識もあるしキャラクターも知ってるんで、イマイチ客観的に読めないところもあるんだけど、そういう個人的な部分を抜きにしても、日本のポップ・ ミュージックの歴史とか、音楽ビジネスについてとか、音楽ファンだったらいろいろな意味ですごく楽しめる一冊になってる。

あと、この手の(って言ったら失礼かな?)にしてはタイトルもいいし、装丁デザインも素晴らしい。タイトルは、まぁ、語感にはただならぬセンスを持ってる人だから、当然って言えば当然だけど、想定は誰がやったんだろう? と思ったら、アート・ディレクションはピチカート・ファイヴの小西康陽氏。そういえば、小西氏は生粋のバカラック好きで、それこそティン・パン・アレイに代表されるような職業作曲家に憧れてたと公言してる人物で(そうなれなかったからバンドを組んだらしい)、もちろん朝妻氏とも(世代は違うけど)知己の仲なので、まさにうってつけのキャスティングで、さすがの出来映え。

2009/01/16

The master at work.

"Renaissance The Masters Series"

. SATOSHI TOMIIE(Renaissance)

「海外組」日本人プロデューサー / DJ の先駆者として活躍し続け、2001 年に立ち上げたレーベル、SAW も好調な富家哲が、ルネッサンスの人気ミックス CD シリーズ、ザ・マスターズ・シリーズの最新作を担当。リリースは 2008 年。富家氏は、これまでにもルネッサンスで 2006 年に "Renaissance Presents 3D: Mixed by SATOSHI TOMIIE"(名盤!)、2007 年に "Renaissance The Master Series Part 9" を手掛けてて、コンスタントに毎年リリースしてるあたりからは、ルネッサンスとのいい関係が継続してることがうかがえる(クリエイティヴの面でも、セールスの面でも)。ただ、去年出したのが "Renaissance The Master Series Part 9" なのに、今作には「パート何番」って付いてないのが何故なのかはナゾ。区別しにくくて、わかりにくいことこの上ないし。

ただ、そのわかりにくさは抜きにすれば、内容は申し分ない仕上がりで、適度にアップリフティングでありながら、サウンドはとてもディープで、心地いい音響がジワジワとくる感じは、いい意味ですごくイヤらしい。凝り性な富家氏らしく、単にミックスするだけじゃなくてアディショナル・プロダクションまでしてるらしいし(キーボードとかエフェクトとかループとか)。最近、このシーンを熱心に追いかけてるわけじゃないから、最近の傾向とか個別のトラックに関しては詳しく知らないけど、全体をひとつの作品として楽しむという意味ではそれほど重要じゃないし、細かいウンチク抜きにして楽しめる。

無機質でテッキーでミニマルでダークでありながら、前よりハードさ(+バカっぽさ)が抑えめで、ディープでアトモスフェリックで音楽的な方向性が強くなってる(ような気がする)感じは個人的に好みだし(プログレッシヴ・ハウスって呼び方はどうかと思うけど)、東京の街で深夜に歩きながら(またはランニングしながら)iPod で聴いいてるとすごくシックリきて、あらためて、クラブ・ミュージック、特にハウス・ミュージックって、都市の深夜の音楽だな、って実感した。

Dark and minimal.

"RenaissanceThe Masters Series Part 9"

. SATOSHI TOMIIE(Renaissance)

前のエントリーと同様、"Renaissance The Master Series" をレビューするのを機会に、富家哲がルネッサンスからリリースした他の作品も聴き直してみたので、合わせてレビューを。

この "Renaissance The Master Series Part 9" は 2007 年にルネッサンスからリリースされた 2 枚組ミックス CD。一聴した印象はダークでミニマル。派手な仕掛けとかわかりやすいヴォーカル・トラックとかはほとんどなく、地味に、でもジワジワとくる感じは嫌いじゃない。ちょっとトランシーな感じもするかな。そもそも、反復するビートとサウンドが徐々に盛り上げるクラブ・ミュージックのグルーヴ感ってのは、長い時間、ある種のトランス状態でこそ、その機能を効果的に発揮するわけで、派手なトラックとか仕掛けはメリハリにはなるけど、多すぎると逆に耳障りだったりしかねない面もあって、そういう意味では、いい意味ですごくトランシーなミックスと言えるかも。その証拠に(?)、深夜の仕事中やウォーキング / ランニング等の BGM にピッタリで、NIKE+ 用に使ってる iPod nano のプレイリストには欠かせない 1 枚になってるし。

ルネッサンスって、わりとメジャーでコマーシャルなレーベルからのリリースながら、変にコマーシャルにするんじゃなく、いい意味でのアンダーグラウンドっぽさを残しながら、最近の富家氏らしいサウンドを貫いてる印象で、その辺のサジ加減も富家氏らしいって言えばらしいと言えるのかも。

Solid sound of past, present and future.

SATOSHI TOMIIE "Renaissance Presents 3D: Mixed by SATOSHI TOMIIE"
(Renaissance) 

"Renaissance The Master Series" をレビューするのを機会に、富家哲がルネッサンスからリリースした他の作品も聴き直してみたので、合わせてレビューを(次のエントリーも同様)。

富家氏は NYC 在住のプロデューサー / DJ で、海外のクラブ・ミュージック・シーンで活躍する日本人の先駆者として、かれこれ 20 年くらい活躍してるアーティスト。デビュー曲の "Tears" は今でもハウス・クラシックとして語り(聴き)継がれてるし、数々のメジャー・アーティストのリミックスを手掛けてたりしながら、今もなお、世界のクラブ / ハウス・シーンの最先端で活躍してて、さらに、自身の主宰するレーベル、SAW も好調だったりと、まさに、第一人者に相応しい活躍を続けてる。

2009/01/15

Riper they come.

"Of All The Things" JAZZANOVA (Verve) 
Link(s): iTunes Store / Amazon.co.jp

オリジナル・アルバムとしては 2002 年の "In Between" 以来と、キャリアや知名度のわりに実はアルバムが少ない(コンピレーションやリミックス等は異常に多い)ジャザノヴァのセカンド・アルバムで、ジャズの名門・ヴァーヴからの 2008 年・秋のリリース。

ジャザノヴァはベルリンの 6 人組プロデューサー / DJ コレクティヴ。キャリアは長くて、90 年代半ば頃から(今となっては懐かしい)アシッド・ジャズ界隈で名前を見るようになって(名前自体がメチャメチャキャッチーだし!)、コンポスト / JCR での活動を通じて人気を博し、その後も自身のレーベル、ソナー・コレクティヴを拠点に、自身の作品だけでなく、リミックスやミックス CD、新しいアーティストの発掘・紹介など、コンスタントに活躍してきたアーティストで、個人的にも、90 年代半ばのデビューの頃からフォローしてきたアーティストなんで思い入れも強かったりする。

2009/01/13

Soulful tones of Bay Area.

"Dreamtalk"

. THE TONES(Plug)

Okayplayer.com で知って、ちょっと興味があったので早速チェックしてみたベイエリア出身のヒップ・ホップ・デュオ、ザ・トーンズのデビュー・アルバム。リリースは 2008 年 12 月、同じくベイエリアを拠点に活動し、日本ではやけに人気のヒップ・ホップ DJ / MC / プロデューサー、ケロ・ワンが主宰するプラグ・レーベル(Plug Label)から。

ケロ・ワン絡みってことである程度予想できた通り、ジャズ / ソウル感溢れるヒップホップで、コテコテのラップって感じではなく、わりと歌心があるヴォーカル・スタイルが特徴なのかな、って印象。こういう、いわゆる「ジャズ・ヒップ・ホップ」的な呼び方をされるヤツって、よく言えばどれもそこそこ気持ちいいんだけど、反面、どれもこれも似たり寄ったりというか、イマイチクリエイティヴさに欠けるっていうか、過去の名作をフォト・コピーしてる(つまり、コピー機を使ったコピー。コピーすればするほど質が下がる感じ)だけみたいな、イマイチパンチに欠けるっつうか、小粒な作品ばかりな印象もあって、必ずしも好きじゃなかったりするんで。そういう意味で、ちょっと警戒感を持って聴いたんだけど、このアルバムに関しては、ジャズ / ソウル感はいい感じでありつつも、わりとオリジナルなサウンドでけっこう楽しめた。ちょっと警戒のしすぎだったかな。

もともと MySpace でケロ・ワンに見出されたらしいんだけど、プラグのサイトを見ると MySpaceFacebookiTunes StoreYouTube 等へのリンクがベタベタと貼られてて(レーベル自身も各アーティストも)、レーベルのオフィシャル・ブログBlogger ってのが、今時っぽいというか、正しい現在のインディ・レーベルの在り方だなぁ、なんて思ったり。

2009/01/12

Fly over the horizon.

サッカー移民』 加部 究 著 双葉社)
 Link(s): Amazon.co.jp
 
サッカー・ライターの加部究氏が、南米から日本へサッカーを伝えた人たちについてまとめた、ありそうであまりなかった興味深い書籍。

サブ・タイトルは「王国から来た伝道師たち」で、ベースになったのは『サッカー批評』誌での連載。2003 年の発売で、発売当時に読んだんだけど、最近読み直したらやっぱり面白かったし、単にサッカーの本としてだけでなく、文化論とか社会論としても面白くて、もっと読まれたほうがいいと思ったので、あらためてレビューを。

内容は大きく 3 章に分かれてて、1 章では「助っ人」として祖先の母国の地を踏んだ、ネルソン吉村やセルジオ越後といった日系ブラジル人プレーヤーたちを、2 章では日本でプロ・サッカーが始まる時期に日本を訪れ、本物のプロ・サッカーを伝えたオスカーやジーニョ、サンパイオといったプロフェッショナルたち、3 章ではサッカーのためにやってきて、日本に永住することを決めたジョージ与那城や石川康(ブラジルじゃなくてボリビア出身)、トゥーリオといったプレーヤーを紹介している。

2009/01/11

Sound travel in Brasil.

MADLIB "Speto Da Rua - Dirty Brasilian Crates Volume 1
(Mochilla) ★☆

2007 年に 3 週間、ブラジルのレシフェを旅して掘りまくってきたマッドリブによるミックス・シリーズの第 1 弾(相当掘りまくってきたらしく、全 6 枚になるんだとか)が年末に到着。リリースは "Keepintime" や "Brasilintime" でお馴染みの B+ とエリック・コールマン主宰のモチーラ(Mochilla)ってことで、アートワークも問題なくメチャメチャクール。マッドリブ+モチーラ+ブラジルって情報だけで期待は高まるし、クオリティは想像できちゃうと思うけど、その期待を裏切らない、想像通りの出来映え。

レシフェはブラジル北東部ではバイーアのサルヴァドールに次ぐ大都市で、もともとサルヴァドールなどと並ぶ奴隷貿易の拠点となった港なんで、当然、ブラジルの中でも「黒い」街のひとつで、カーニヴァルも有名。音楽的にも「黒くて」「濃い」街、ってこと。まぁ、そんな街にマッドリブがモチーラ・クルーが旅をしただけあって、音も写真・映像もスゴイことになってそうでメチャメチャ楽しみなんだけど、とりあえず、音のほうはバッチリ。ボサ・ノヴァやフォークロアっぽいサウンドからジャズ、ファンクまで、期待を裏切らないドープ・ミックス。シリーズの残り 5 枚にも期待しつつ、今、真夏のブラジルに思いを馳せながら過ごす至福の 60 分を。

2009/01/09

1 decade to come. 29 more to go.

プラネット・グーグルランダル・ストロス 著 吉田 晋治 訳 
日本放送出版協会)
 
ニュー・ヨーク・タイムズ紙のコラム等で知られるランダル・ストロスが、飛ぶ鳥を落とす勢いで成長してきた、でも、最近はちょっとスロー・ダウンしてる感もあるグーグルの最初の 10 年についてまとめた著作で、珍しく(そして、ありがたいことに)日米同時発売(原著は "Planet Google")。

飛ぶ鳥を落とす勢いで成長してきた時期のグーグルを取り上げた本は多かったけど(例えば、読んだことがあるモノだけでも『グーグル誕生 — ガレージで生まれたサーチ・モンスター』とか『ザ・サーチ グーグルが世界を変えた』とか『NHK スペシャル グーグル革命の衝撃』とか『アップルとグーグル』とか)、そういった本が書かれた時期と比べると、グーグルを取り巻く状況はけっこう変わってて、必ずしも順風満帆ではなくなってきてたりするので(少なくとも以前に比べて)、その辺をカバーしてる本って意味でなかなか面白い。

On transition.

Macworld 2009 / Keynote Address (Apple Inc. / IDG World Expo)  

2009 年 1 月 6 日にサン・フランシスコで開催されたマックワールド & エクスポ 2009 で行われたアップルによるキーノート・アドレス。

今回もアメリカのアップルのサイトにストリーミング用の映像がアップされている(後にポッドキャスト配信もされるかも)。12 月にプレス・リリースで発表されていたように、今回のキーノート・アドレスを担当するのはスティーブ・ジョブズではなく、シニア・バイス・プレジデントのフィル・シラーで、今年が最後のマックワールド参加となる。

2009/01/08

The untold Bushonomic story.

偽りのホワイトハウス ー 元ブッシュ大統領報道官の証言

. :スコット・マクレラン著
. :水野 孝昭 監訳 朝日新聞出版)

前にレビューしたアップルを創った怪物 ー もうひとりの創業者、ウォズニアック自伝で、アップルの創設者のひとりとして知られるスティーヴ・ウォズニアックが若き日に直面したベトナム戦争に関して、「気になったのは、戦争賛成派からは理にかなった説明がなく、ただ我々は正しいことをしているという言葉が繰り返されるだけだった点だ。ベトナムは民主主義を守る戦いだとしか言わなかった。(中略)大統領は真実とは逆のことを述べ、国民をだまして、戦争を支持すべきだと思わせていたんだ」と語ってた。

アメリカ史上最悪の泥沼と言われるベトナム戦争。アメリカの歴史の中の最大の汚点のひとつであり、今もなお、決して拭うことのできない負の遺産として、その影響はさまざまな面に現れている。そして、まったく同じストーリーは現在も繰り返されている。ここで語られているのもそのひとつ。ただ、ここで語られているストーリーが大きく異なってるのは、語っているのが政府の内部で常に大統領の近くにいた人物で、しかも、当該大統領の在任中に語ったという点だ。

著者のスコット・マクレランは、2000 年の大統領選挙キャンペーンでジョージ・W・ブッシュの遊説担当報道官を務めたのは皮切りに、ブッシュの大統領就任後は副報道官、さらに 2003 年以降は報道官としてブッシュに仕え、2006 年に辞職した人物。もともとブッシュと同郷のテキサス出身で、ブッシュとはテキサス時代からのつきあい。その流れで大統領の報道官という大役を務めることになったという。日本ではあまり馴染みがないけど、大統領報道官は、大統領に代わってホワイトハウスのスポークスマンとしてメディアに対応する役職。大統領・政府の考えの何をどう伝えるか(伝えないのか)を司る重要な役職で、一般国民の目に触れることの多く、特にメディア対応の重要度が高まる一方の近年は、政権を支える役職の中でも要職のひとつになっている。

内容自体は、まぁ、日本語タイトルの通りなんだけど(ちなみに、原題は "What Happened: Inside the Bush White House and Washington's Culture of Deception")、本書で大きな問題になったのはイラク戦争を巡るブッシュ政権内部の情報管理の問題。イラク戦争の根拠となった情報の信憑性に疑いがあることを政権内部の一部の人物(しかも、相当な重要人物)が認識していながらそれを隠していたこと、それが露見することを防ぐために意図的に別の国家機密を特定のメディアにリークしていたこと、そして、一部の当事者を除く政権のスタッフにもその情報を伝えず、結果として、マクレランは報道官として「国民に対してウソをつく」役割を強いられたこと(それは、もちろん、政権が国民にウソをついていたということ)を、当事者じゃなければ決して書くことができないカタチで赤裸々に語られている。しかも、ある程度の時間が経った後で「歴史として」回顧するのではなく、(すっかりレイムダックとはいえ)まだブッシュ政権が存続している中で出版されたことで、ある種の「暴露本」的な意味合いも含めて、大きな話題になった。
結局のところ、私が報道官の職を引き受けたのは、ブッシュが個人的に好きだったからであり、公共に仕えたいという強い気持ちがあったからであり、これは一生に一度の大チャンスだと考えたからだ。
前任者の辞任を受けて副報道官から報道官に就任するときの心境をこう語っているように、マクレラン自身はブッシュに心酔していた。それは、テキサス州知事としてのブッシュに、そして、テキサス時代からよく知るひとりの人間としてのブッシュのキャラクター(人柄)に、だった。だから、難しい時期に、この上なくハードな職であることを知っていながら、報道官の職を引き受けた。ただ、大統領としてのブッシュは、決して彼が知っていたブッシュ、彼が心酔していたブッシュではなく、だからこそ、耐え切れなくなったんだし、職を辞し、まだ政権存続中にあえてこの本を発表した、ということだ。

ブッチャけた言い方をすると、実際、ブッシュはたぶんそれほど悪いヤツじゃないような気がする。田舎の気のいいオッサンというか、素朴で単純な田舎のアメリカ人のいい面を持ってるというか、まぁ、たぶんそれほどイヤなヤツじゃないような、そんな印象。それに、ブッシュだって決して無能なわけじゃない。ときに「組織化された混沌」と称されるらしいけど、マクレランの言葉を借りれば「赤ん坊を抱いた状態で綱渡りをしているようなもので、1 分 1 秒たりとも気が抜けない日々が続く」のが大統領選挙キャンペーンで、あの長く激しいキャンペーンを勝ち抜いたヤツは、イヤでも鍛えられるし、無能なヤツを大統領にしちゃうほどアメリカの大統領選挙はヤワじゃない(その方式の賛否はともかくとして)。ただ、それを勝ち抜いたブッシュであっても、実際に世界最大の権力を持つアメリカの大統領としてどうなんだ? というと、それはまた別のハナシだ、というだけで。

マクレラン自身、そばで見ていた「大統領としての」ブッシュの印象を以下のように語っている。
ブッシュ大統領のそばで働くようになってから、彼は自分に都合の良いように物事を解釈しているのではないかと思い始めた。

ブッシュ大統領は、一貫して知的なリーダーというよりも直感的なリーダーだった。政策のあらゆる選択肢を徹底的に吟味してから決断を下すというタイプではない。むしろ本能と信念に基づいて決断する。イラクの場合もそうだった。

ブッシュを戦争へと駆り立てた最大の動機は、自由を広めることで中東を変革するという、ポスト 9.11 的な遠大な理想主義だった。この理想主義の基盤にあるのは、強制的な民主主義という考え方だ。


大統領ならだれでも、何か偉大なことを達成したいと願うものだ。しかし、実際に達成できる人はほとんどいない。戦時の大統領だけが偉大なことを達成できる。ブッシュがそう言うのを、私は聞いたことがある。

私は大統領を個人的によく知っているので、こう断言できる。もし大統領が、あの時点で戦争のコストを正確に予言する水晶玉を持っていたら、4000 人以上のアメリカ兵が戦死し、30000 人が負傷し、数えきれないほどのイラク国民が犠牲になるとわかっていたら、侵攻の決断を絶対に下さなかっただろう。
要するに、リーダーとして、特にアメリカ大統領としては思い込みが激しすぎたし短絡的すぎたってことなのかな。だからこそ、そこに付け入る隙があったし、実際に付け入ったヤツらがいた、と。まぁ、具体的にはチェイニー副大統領であり、ラムズフェルド国防長官であり、ウォルフォウィッツ国防副長官であり、カール・ローヴ政策担当次席補佐官であり、ってことなんだけど。また、「自分の手を汚さない」「自分の評判を守り抜こうとする手際がいい」というライス国務長官を重用したり、逆に孤立も厭わず自分の意見を直言したパウエル国務長官を外したり、そういう部分も含めて、ブッシュ政権がどんな政権だったのかがよくわかる。

その根底にあるのは「パーマネント・キャンペーン」と呼ばれる、ワシントンに深く巣食っている悪しき習慣。「パーマネント・キャンペーン」とは、現代のアメリカ政治を象徴する用語のひとつで、「選挙キャンペーン後も、キャンペーン中のように明けても暮れても国民の支持の源(ソース)を操作しようとする絶え間ないプロセス」のこと(カーター政権の頃から使われている言葉ということ)で、ブッシュ政権もまさにこの手法を全面的に採用してたということらしい。
ブッシュ政権には本当の意味での説明責任が欠けていたが、その主な理由は、ブッシュ自身が率直さを嫌い、政権を白日の下に晒すことを好まなかったことだ。論争が高まり混乱が起こると、秘密主義と情報の細分化を好むブッシュの性向は強まった。

チェイニー副大統領とブッシュ大統領の関係は、一貫してどこか謎に包まれていた。しかし、かなり親密な関係であったことは確かだ。二人だけのミーティングで膨大な時間を過ごし、そこで話された内容はだいたい二人だけの秘密だった。
まぁ、もちろん究極的には、一番の責任者はブッシュってことにはなるんだけど、まぁ、そんな風に問題を単純化しちゃうと、いろいろと見えてこない(隠れちゃう)問題が多いのも確かってことなんだろう。

考えてみれば、ブッシュの時代は 9.11 〜イラク戦争やハリケーン・カトリーナという未曾有の大事件が続いた時期であり、大統領としては対応がとても難しく、その成果がわかりやすく出やすい、良くも悪くも極端な結果しか出得ない時代だったとも言える。ブッシュ(及びその政権)がやったことが良かったかって言われれば、もちろん答えはノーだけど、その時代背景はやっぱりキチンと把握しとかないと、キチンと評価はできないな、と。
歴史的には、ほとんどのアメリカ人が、イラク侵攻の決断は最悪の戦略的失敗だったという判断をしたことになっているようだ。数十年後、この戦争がどのように評価されているかは、私を含めて誰にもわからない。ただはっきりしているのは、戦 争は必然性があるときに遂行されるべきであり、そしてイラク戦争に必然性はなかったという事実だけである。
マクレランはこんなことも語っている。マクレラン自身、決して悪いヤツではないんだろうし、ある程度の正義感を持ってるからこそこんな本をこんな時期に書いたんだとは思う。でも、「必然性がある戦争」なんて、基準がありそうで、実はかなり危ういモノを無条件で肯定してる感じとか、すごくアメリカ人っぽくて好きじゃなかったりもする。ただ、こういう本が政権存続中に出版されちゃう辺りは、さすがにアメリカのジャーナリズムも捨てたもんじゃないというか、やってることはいろいろ問題だらけなんだけど、それでも日本のことを考えたら恥ずかしくなってくるし、それに比べるとまだマシなのかな、とも思えたりもする。かなり低次元の争いだけど。

もともとこの本を知った(興味を持った)キッカケは朝日ニュースターの『ニュースの真相 Evolution』の 11/25 OA の回
に監訳者の水野孝昭氏がゲストとして出演していたのを観たからで、そこで概要をある程度聞いちゃってはいたし、巻末の監訳者の解説を読むと一部省かれてる部分があるらしい(日本の読者の関心が薄いと思われる、著者の生い立ちと政治改革の提案部分)んだけど、それを差し引いてもかなり読み応えがある一冊で、5 月の原書出版から数ヶ月で邦訳出版にこぎつけたことはありがたい限り。だって、「最大の(唯一の?)功績はオバマ政権を生んだこと」と言われるブッシュ政権が終わり、オバマの時代が始まる前に読んでおいたほうがいい一冊だと思うから。

2009/01/06

Live tropical.

ネオ・トロピカリア:ブラジルの創造力
 エスクァイア マガジン ジャパン) 

前にレビューした美術展、「ネオ・トロピカリア:ブラジルの創造力」の公式カタログ。

編集・出版は『エスクァイア』誌なだけあってなかなか充実した出来映えで、会場に行かなくても普通に書店で販売されている(そういえば前にレビューしたザ・ノース・フェイスの 40 周年記念の展覧会、DO MORE WITH LESS 40 Years of the North Face」に合わせて出版された『THE EARTH BOOK』もスイッチ・パブリッシングの制作・出版で書店流通だった。最近の傾向なのか?)。


2009/01/05

Superwoman.

"As I Am (The Super Edition)"

. ALICIA KEYS(J Records)

2001 年の衝撃のデビュー・アルバム "Song In A Minor" でシーンにセンセーションを巻き起こして以来、その溢れる才能を余すところなく発揮して、21 世紀のポップ・ミュージックを代表する存在になった才色兼備のシンガー・ソングライター、アリシア・キーズが 2007 年にリリースした大ヒット・サード・アルバムの豪華盤。タイトルといい、アートワークの写真といい、いろんな意味で満ち溢れる自信が強く伝わってくる。この豪華盤は、ボーナス・トラック+ボーナス DVD(ロンドンでのライヴ 5 曲)付きなんだけど、プロダクトとして正規盤のリリースの翌年にこういうカタチで豪華盤をリリースするのってどうなんだ? って思う。去年、正規盤を買っちゃったユーザーのことを考えてるとは思えない商品企画には疑問を持たざるを得ない。

そうは言いつつも、作品自体はさすがのクオリティで、ボーナス部分もなかなかの内容だったりするので、ある意味、余計にタチが悪かったりするくらい見事な出来映え。一応、ジャンルとしては R&B ってことになるんだと思うけど、個人的にはデビュー当時からそれほど「黒さ」は感じてなくて。聴くときのテンションとして「ブラック・ミュージックを聴く」ってテンションじゃないっていうか。「黒い」んじゃなくて「(適度に)黒っぽい」、でも、カワイイルックスとミスマッチな、決して薄っぺじゃない骨太な感じもあって、その絶妙なバランスが他にいそうでいない、マネできそうでできない彼女のワン & オンリーなオリジナリティになってるのかな、と。歌もサウンド・プロダクションも。普通にポップ・ミュージックとして成立してる。個人的にはもうちょっとあっさり歌ったほうが好みというか、ちょっと歌い上げすぎな感もあったりするけど、それを差し引いても素晴らしいクオリティ。ソングライティングも素晴らしいし。

総合的に見て、これだけクオリティの高い音楽が(特定のジャンルや一部のマニアの間でだけでなく)普通にポップ・ミュージックとして受け入れられていることは素晴らしいことだし、ある意味、奇跡的な存在と言えるかもしれない。

2009/01/04

Don't think twice, it's all right.

『アップルを創った怪物 ― もうひとりの創業者、ウォズニアック自伝』
 
スティーブ・ウォズニアック 著 井口 耕二 訳
ダイヤモンド社)  Link(s): Amazon.co.jp
  
実は手元には、すぐに読もうと思ってる(というか、途中まで読んでる)本として『プラネット・グーグル』と『偽りのホワイトハウス ー 元ブッシュ大統領報道官の証言』 の 2 冊があるんだけど、せっかく(?)年末年始なんだし、もうちょっとゴキゲンな本を読みたいと思って、年末に読み出したのが本書。ご存知、スティーヴ・ジョブズとともにアップルを創業した「もうひとりのスティーヴ」として知られるエンジニアリング・アーティスト、スティーヴ・ウォズニアック(=ウォズ)の自伝的な作品(ジーナ・スミスがウォズから話を聞き、それをウォズに代わってまとめたもの)で、原書は 2006 年に出版された "iWoz"(サブ・タイトルは 'Computer Geek to Cult Icon: How I Invented the Personal Computer, Co-founded Apple, and Had Fun Doing It')。原書の出版当初から読みたいと思ってた本なんで、待望の訳書なんだけど、この邦題といい、わざわざ撮影したっぽい表紙写真を含む装丁デザインといい、なんでこんな風にしちゃうんだか。日本の出版社(特にビジネス系書籍の多い出版社)がやりがちな感じではあるけど、誰にとってもハッピーな結果になってなくて残念な限り。ただ、訳文はとてもいい。適度にくだけてて、ちょっとユーモラスで、でも読みやすく、ウォズの口調やキャラクターをイメージさせる文体で。