2009/04/28

Saudade 2 Saudade.

サンパウロへのサウダージ』クロード・レヴィ=ストロース 著 今福 龍太 訳
(みすず書房)  Link(s): Amazon.co.jp / Rakuten Books
 
野生の思考』や『構造人類学』などの著書で知られるフランスの社会人類学者・思想家、レヴィ=ストロースの 1996 年の著作 "Saudade de São Paulo" に、訳者の今福龍太がブラジル滞在時にその足跡を辿り、撮った写真をもとに綴った論考を追加したちょっと変わった一冊で、発売は 2008 年。
 
レヴィ=ストロースといえば、去年、生誕 100 年(というか、100 歳の誕生日)を迎えたフランスの社会人類学者・思想家で、レヴィ=ストロースとブラジルといえば思い出されるのは 1955 年の名著『悲しき熱帯 I / (同) II』なんだけど、その基になったのが 1935 〜 1937 年のブラジル滞在で、その時にサン・パウロの風景を撮影した写真をまとめたものが 1996 年に発表された "Saudade de São Paulo" ということで、つまり、これは写真集ということになる(一部、サン・パウロ以外の写真も含まれてるけど)。


2009/04/27

A change is gonna come.

ディス・デイ「希望の一日」クーリエ・ジャポン編集部 編 
(講談社) 

COURRiER Japon 2009 年 3 月号』のレビューでも触れた、この号の特集 'THIS DAY OF CHANGE' の写真集。雑誌の発売と同時に特設サイトが開設されて、そこに随時写真が追加されてたんだけど、ついにそれをまとめた写真集が発売された。

この 'THIS DAY OF CHANGE' は、2009 年 1 月 20日、つまり、バラク・オバマの大統領就任という「希望の日」の世界の様子を、世界中の 100 名を超えるフォトグラファーが 'HOPE' をテーマに撮影するという企画で、最終的に 1000 枚を超える写真が集まったという(テキストも寄せられている)。'CHANGE' の舞台となったワシントン DC やアメリカ国内各都市はもちろん、中東、アフリカ、アジア、南米、ヨーロッパまで、世代も性別も社会背景も思想も異なるフォトグラファーたちが、ある特別な 1 日の象徴的なシーンを写真に収め、それをまとめることでいろいろなことを示唆する極上のコンテンツに仕上がってる。あえて写真っていうシンプルなフォーマットなところも潔いし。あらためて写真の持つパワーをすごく感じさせてくれるし、見応え(読み応え)十分で、装丁デザインもすごくクール。

2009/04/26

The statement for the post nuclear age.

Barack Obama's disarmament speech in Prague on April 5th, 2009 
(THE WHITE HOUSE) 
 
ちょっと前のモノだけど、かなり重要なものだと思うので、忘れないようにレビューを。4 月 5 日にチェコのプラハでバラク・オバマが行った約 25 分の演説。これまでにもオバマについて、特に演説については何度か取り上げてるけど、今回のこの演説も 2008 年 1 月のニュー・ハンプシャー("Yes We Can" のベースになった演説)、11 月の勝利演説、2009 年 1 月の大統領就任演説に並ぶクラシックじゃないかな、と。リンク先の映像は YouTube のホワイト・ハウスのオフィシャル映像。YouTube にホワイト・ハウスのオフィシャル・チャンネルがあるって、なかなかスゴイことだな、ってあらためて思ったりもするし。テキストは『TIME』誌のサイト等で公開されてる。

2009/04/25

A smaller choice.

ESBIT Foldable Cooker (Small) (ESBIT)
Link(s): Amazon.co.jp / Rakuten

ドイツ軍が採用していることで知られるドイツのエスビット(ESBIT: Erich Schumm's Fuel in Tablets)の固形燃料を使った折り畳みバーナー、ポケット・ストーヴ(エスビットのサイトでは 'Foldable Cooker' って名前なんだけど、国内では「ポケット・ストーヴ」と呼ばれてるらしい)。その起源は 1936 年まで遡るらしく、まぁ、アウトドアの世界ではクラシックのひとつ。前にレビューしたシェルパ斉藤のワンバーナー簡単クッキング』 にはなぜか紹介されてなかったけど。これまではガス・カートリッジのバーナーを使ってたんだけど、ちょっと思うところがあって使ってみようかな、と。ちょうど奥多摩の御岳山に行く機会があったので。結論としては、わりと使えるな、と。

エスビットのポケット・ストーヴとは、鉄の箱を写真のようにパカッと開いて、白い固形燃料(Link: Amzn)を置いて燃やして、上にコッヘル等を置いて使うモノで、このスモール・サイズは 9.9 x 7.6 x 2.2 cm という大きさ。固形燃料は 20 個が一箱に入ってて、その箱がちょうどストーヴの中に収まるようになってるので、燃料込みで 9.9 x 7.6 x 2.2 cm サイズに収まる。質実剛健な感じが良くも悪くもすごくドイツっぽい。

2009/04/21

More authorized confusions.

傷だらけの百名山
続・傷だらけの百名山
新・傷だらけの百名山

. :加藤 久晴 著(新風舎)

前にレビューしたジャーナリストの本多勝一氏の『「日本百名山」と日本人』で触れた、深田久弥氏が日本百名山 』で選出した 100 座の憂うべき現状を綴った加藤久晴氏の著作。タイトルを見てわかる通り、一連のシリーズとなっている。続編が 2 冊も出版されたってことは、当然、一定以上の支持を得たってことなんだろうけど、読んでみればそれも合点がいくというか、なかなか笑えない内容。それぞれ 1994・1996・2000 年の出版なので、情報はちょっと古いところもあるけど、問題の本質は基本的に変わってないし、むしろ悪化してるのかも。

著者の加藤久晴氏はもともとテレビ局の番組制作者ということで、それほどハードコアな山男ということではないらしい。しかも、サラリーマン(一般的な企業とはちょっと違うと思うけど)。だから、わりと普通にいる山好きの人みたいな印象で、だからこそ、そういう、わりと「普通の山好き」と同じようなスタンスで書かれているので、親近感が持ちやすかったり、実感しやすかったりする。


「百の頂きに百の喜びあり」と深田久弥氏が書いてから幾星霜、傷だらけの百名山』は百名山がどんなことになっちゃってるかを記したものだってことはタイトルから容易に想像できるけど、問題点を抉り出して責任者を糾弾するような、いわゆる社会派な、ちょっと「重い」感じのイメージがあったんだけど、実際にはそうでもなくて、問題点についてはもちろん指摘してるんだけど、同時に山の良さとかそこにたずさわる人の想いとかもキチンと触れられてて、思ったよりもいい感じに「重過ぎない」、でも「軽過ぎない」印象。わりとスルッと楽しみながら読めちゃう。

そうは言っても、もちろん、決してただ楽しい内容ではなくて、特に冒頭から白馬岳と八ヶ岳っていう行ったことのある山が紹介されてたりするんで、全然笑えないというか、かなりリアリティを持って実感できちゃったりしたんだけど。もちろん、
日本百名山 』の 100 座すべてを取り上げてるわけではなく、傷だらけの百名山』で取り上げられてるのは白馬岳・八ヶ岳・白山・富士山・槍ヶ岳。著者が首都圏在住・勤務だからなんだろうけど、いきなり 5 つのうち 3 つも行ったことがある山が取り上げられてて、なんとなくモヤモヤと感じてたことだったりもしたんで、りと実感を持って読めちゃった。

個人的には、長野オリンピック招致にまつわるリフトとジャンプ台建設のヒドイ話と、1972 年の札幌オリンピックのときにオリンピック招致をしていて、本命と目されていたカナダのバンフの開催予定地がバンフ国立公園内にあり、 自然破壊の恐れがあることを WWF 会長が IOC 委員に手紙を送り、結果的にバンフ開催が見送られた(結果的に開催地になった札幌にも同じ問題があった)ってハナシが引っかかった。前者に関しては、ゴルフ場と並んで、スキー場の存在に関してすごく疑問を感じてて(決して、ゴルフとスキーという競技自体を全面的に否定してるわけじゃない)、でも、同じようなことを感じてる人が思いの外、少ない感じがするから。わりと、誰も言わないし、共感してもらえないんだけど、なんでなのか、メチャメチャナゾで。後者に関しては、今、まさに旬の話題というか、ちょうど IOC が東京に来てたらしいし。「環境に優しいオリンピック」とか、それ自体が自己矛盾を孕んでるとしか思えないんだけど。もちろん、反対してる人もいるし、視察先でデモをしてたらしいんで、ちょっとホッとしたけど、少なくともマスメディアは、箝口令(言論統制?)でも出てるのか、わかりやすく口を揃えて招致に賛成してるし。まぁ、前回の東京オリンピックにそれなりの意義があったらしいことは理解できなくもないけど、今さら東京でオリンピックとか意味不明の何物でもないし。まぁ、もっと言うとオリンピック自体、どうかとも思うし。ちなみに、文庫版の解説はアルピニストの野口健氏。


2 作目の
続・傷だらけの百名山は、「まえがき」にも描かれてるけど傷だらけの百名山』よりも、より周辺情報というか、問題提起というか、山自体だけでなく、開発による環境破壊やそれに対する反対運動などにもフォーカスを当ててる。取り上げてるのは谷川岳・丹沢・奥日光・旭岳・利尻山・苗場。「遭難死者数世界一の山」こと谷川岳は去年行って、まさにここに書かれてる通り、ウンザリした(そのときのことはここに日記が書いてある)ので、のっけからガツンとヤラれた感じ。苗場も某野外フェスティヴァルに仕事で行ったときに唖然とした記憶があるのでリアルにイメージできるし。ここでは、その開発を行った K という会社(たぶん、何年か前になくなったここのことかな?)の地元に対する仕打ちとかも克明に描かれてて、よりルポタージュっぽい内容になってる。

そういえば、ちょっとハナシがズレるけど、ちょうどこのスキー場絡みで、前からすごくナゾなことがあって、たくさん開催されてる野外フェスティヴァルをアウトドアとかエコロジーとかと無理矢理結びつける風潮にもすごく違和感を感じるんだけど、なんで誰もそれに疑問を呈しないんだろう? アウトドア・ブランドやショップもひとつのビジネス・チャンスとして利用してる感があるけど(夏前くらいになると必ず「野外フェス向けキャンペーン」みたいのが大々的に展開されてる)、すごく疑問を感じる。「傷だらけの百名山」のハナシとはちょっとズレるけど、本質的には同じ問題の気もするんで。本多勝一氏が言うところの「メダカ社会」というか。たぶん、百名山病はちょっと年配の世代の人に顕著な病だとすると、野外フェス病はより自分に近い世代の病のような気がしてるんで、これはこれで、より自分にとってはリアルな問題っぽい気がしてる。

ともあれ、この
続・傷だらけの百名山よりルポタージュっぽい内容ではありつつも、いい部分(上手く環境が保全されてる例とか、そのために活動してる人たちとか)についても触れる姿勢も貫きつつ、さらには、問題を提起したりするべき報道、特に TV にまつわるいろいろな問題(直接関係ないけど、ドラマに自動販売機が写らない理由とかも面白かったし。自動販売機については、個人的にもいろいろ思うところがあるんで。良くも悪くも)とか、車の排気ガスとか皇族山行の問題なんかにもふれながら、前作同様、読みやすい感じにまとめられてる。文庫版の解説は、『「日本百名山」と日本人』のレビューでも触れた通りジャーナリストの本多勝一氏。


3 作目の新・傷だらけの百名山』はシリーズ完結編ということで、羅臼岳・斜里岳、大朝日岳、平ヶ岳、尾瀬・至仏山、赤城山、大菩薩嶺、天城山、大山、久住山、宮之浦岳、さらに(百名山じゃないけど)武甲山等の惨状に触れてる。前作 2 冊とはちょっと趣向が違ってて、『週刊金曜日』等に掲載したモノに幾つか加えたものが第 1 部で、ブナ林の素晴らしさと現状の問題点を訴える「ニッポン・ブナ山紀行」という、必ずしも百名山に限らない問題も第 2 部として紹介されてる。ここで取り上げられてるのは巻ノ沢岳(山形)、博士山(福島)、三頭山(東京)、西丹沢・大室山(神奈川)、大台ケ原(奈良)、安蔵寺山(島根)。『週刊金曜日』等に掲載したモノなんで 1 本の原稿が短めで、結果としてたくさんの山がちょっとずつ取り上げられてる。

まぁ、山は違えど言わんとしてることは基本的に前作 2 冊と共通してて、スタンス的にも続・傷だらけの百名山』に近い。自分で行って、見て、聞いて部分プラス調査・取材って感じ。個人的に行ったことがあるのは大菩薩嶺だけ宮之浦は近くまで行ってるけどルートが違う)なんで、前作 2 冊よりは実感は薄いけど、まぁ、どこもなかなかヒドイ感じ。ヒネクレ者のモノ好きだからか、どれだけヒドイのか、自分の目で見てみたい気もしちゃうくらい。まぁ、他に行きたいところを見つけたほうが健全だと思うけど。あと、直接関係ないけど、ちょっと面白かったのが、「日本では自動販売機だけで原発一基分の電力を消費していると言われている」ってハナシ。ソースが書いてないから詳しくはわかんないけど、ちょっと興味があるハナシではある。文庫版の解説は去年、『脱百名山登山学』という本を出してるらしい石井光造氏。石井氏については何の予備知識もないんだけど、出版社のサイトに書かれてる本人の言葉を読む限り、ちょっと興味深い感じがしてるんで、機会があれば読んでみようかな、と。
人間が単に足を踏み入れるだけでも、多かれ少なかれ生態系への何らかのインパクトを与えている ー 登山者のモラルを考えるさいに、つねに立脚点としなければならないのはこの点ではないだろうか。(中略)究極的な考え方をすると山行そのものの否定につな がりかねないのであるが、そうならないためにも、われわれは山行にさいして最大限の注意と配慮をしなければならないだろう。
続・傷だらけの百名山』で加藤氏もこう述べてるんだけど、やっぱりこの問題は避けて通れない。行けば行くほど考えちゃうし、考えれば考えるほどそう思っちゃう。「共生」って言葉が一般化したのは 1992 年にリオ・デ・ジャネイロで開催された地球サミット(環境と開発に関する国際会議)だったらしいんだけど、それから 15 年以上経ってるのになかなかリアリティが感じられない。これは山行に限らず、人間の文明活動全般にも言えることなんだけど。ある種の自己矛盾みたいなモノ。それこそ、「環境に優しいオリンピック」とか野外フェスティヴァルと同質の自己矛盾。まぁ、これは、もう、程度の問題であるとは思うけど、同時に、少なくともその自己矛盾に自覚的であることはすごく大事だし、最低限必要なことだとは思うけど。


まぁ、3 冊で加藤氏が述べてる考え方に 100% 諸手を挙げて賛成したいわけじゃないし、細かいところではイマイチピンとこない部分もないことはない。例えば、異常に嫌煙家であるわりに嫌酒家(こんな言葉があるのかナゾだけど)への配慮はあまりないこととか、やたらと山で缶ビールを飲みたがることとか。そんなに目くじら立てて大人気なく非難する気はないけど、ちょっと疑問ではある。あと、論調も主観をわりと乱暴で断定的な書き方をしがちな感じもあるんで、抵抗を感じる人もいそうだし(個人的にはそうでもないけど)。でも、まぁ、そういう細かいところはあるにしても、大意としては十分理解・共感できるし、いろいろ考えさせられる部分は多いな、と。原書の出版はリベルタ出版というあまり耳馴染みのない出版社で、文庫版は自費出版にまつわる問題を起こした新風舎なんで、正直、ちょっとどうなんだろう? って感じもあったんだけど、そういう問題と本自体はもちろん関係ないんで。

2009/04/20

Mood 2 mood.

ARTHUR VEROCAI "Arthur Verocai" 
(Continental Records / Luv N' Haight)  Link(s): Amazon.co.jp

相変わらずブラジルモノをいろいろ掘ってる中で、気が付くと何度も聴いてるアーティストのひとりがこのアルチュール・ヴェロカイ。ちょっと前にレビューしたエチオピアのジャズ・レジェンド、ムラトゥ・アスタトゥケに続いてモチーラの主宰するタイムレスに出演してたりして、世の中的にも一部では再評価の波が高まってるような気がしたりもするんで。

これは 1972 年リリースのソロ・アルバムで、2003 年に再発では定評の高い LA のレーベル、ラヴ・ン・ヘイトから再発されたモノ。アートワークの写真は落ち葉舞う秋っぽい感じで、まるで季節感がないんだけど、ブラジルは今の時期が秋なんで、実は季節感的にはピッタリなのかも? なんてこじつけてみたり。まぁ、単にいいアルバムで、最近よく聴いてるだけなんだけど。

2009/04/18

Moby Dick in Universal Century.

『機動戦士ガンダム MS IGLOO 2 - 重力戦線 - 2 陸の王者、前へ!』 
 今西 隆志 監督(バンダイビジュアル
 Link(s): Amazon (DVD / Blu-ray) / Rakuten (DVD / Blu-ray)


前に第 1 話「あの死神を撃て!」をレビューした、フル 3DCG ガンダムの 1 年戦争のサイド・ストーリー、MS IGLOO シリーズの「重力戦線」の第 2 話。ちょっと前に観てたんだけどレビューし忘れてたので、遅ればせながら、あらためて。

この「重力戦線」は、前の「1 年戦争秘話」と「黙示録 0079」シリーズと違って連邦軍目線で描かれてるのが最大の特徴。第 1 話「あの死神を撃て!」では、ゲームの『オペレーション・トロイ』さながらに兵士目線でザクに挑んでたけど、今回も舞台はヨーロッパ戦線で主役はなんと 61 式戦車。開戦から約半年ってことなので、まだ連邦にモビルスーツはなく、ジオンの快進撃が続いてるんだけど、それにしても 61 式戦車を主役にストーリーが作れちゃうなんて、ガンダム以外ではなかなか考えにくい。オープニングの「鷲は舞い降りる」ってキシリア閣下の言葉を聞くだけで、ついつい熱くなっちゃうから不思議。

2009/04/15

Deep inspirations.

"Inspiration Information, Vol. 3"

.
THE HELIOCENTRICS & MULATU ASTATKE(Strut)

前にもアンプ・フィドラーとスライ & ロビー盤アシュレイ・ビードルとホレス・アンディ盤をレビューしたイギリスのストラット・レーベルのコラボレーション・アルバム・シリーズの第 3 弾で、前にストーンズ・スロウからリリースしたアルバム "Out There" をレビューしたイギリスの 9 人組のジャズ・ファンク系バンドのザ・ヒーリオセントリックスとエチオピア人のジャズ・レジェンド、ムラトゥ・アスタトゥケのコラボレーション。スライ & ロビーホレス・アンディと来たんでレゲエをベースにしたシリーズなのかと思いきや、別にそういうわけではないらしい。ただ、時代と国境を越えて、ルーツと現代のコラボレーションを実現するってことらしく、やっぱり、すごくいいプロジェクトだし、ただ企画がいいだけじゃなく、出来映えも抜群で、期待を裏切らないディープな仕上がり。

ムラトゥ・アスタトゥケといえば、'Ethiopiques' シリーズで有名な、言わずと知れたアフリカン・ジャズのリヴィング・レジェンドなわけで、2005 年にはジム・ジャームッシュ監督の映画『ブロークン・フラワーズ』のサウンドトラックでも知られるミュージシャン。一方のザ・ヒーリオセントリックスは、サン・ラを彷彿とさせるような壮大なスピリチュアル・ジャズを聴かせる9 人組のバンド。もともとアフロセントリックな要素も持ってるんで、ムラトゥとの相性が悪いわけもない。

もともとは、2008 年にイギリスでムラトゥがライヴを行ったときにザ・ヒーリオセントリックスがバックを務めたのがきっかけだったらしい。リハーサル 1 日で臨んだというそのライヴの出来映えも素晴らしかったらしく、その流れでこのレコーディングになったってことなんだけど、そういう流れで実現したレコーディングで出来が悪い作品ができるわけがない(ストラットの作ったプロモーション用のインタヴュー・ビデオを観ると雨漏りするスタジオで録ってるんだけど)。アンプ・フィドラーとスライ & ロビー盤アシュレイ・ビードルとホレス・アンディ盤と比べると、異種格闘技戦色が薄いというか、わりとジャンルが近いのと、ライヴ同様、ムラトゥをザ・ヒーリオセントリックスをバックアップしてる感じが強いからか、本来、ザ・ヒーリオセントリックスにはもうちょっと雑食性があるけどそれが抑えめで、異ジャンルのコラボレーションから生まれる意外性みたいなモノというよりは、よりオーソドックスな、いい意味でコラボレーションっぽくないというか、違和感のない仕上がりって印象ではある。でも、保守的だったり緩かったりするわけじゃなくて、実験的なフュージョンではあったりするから不思議なんだけど。

そういえば、ムラトゥはモチーラの主宰するタイムレスでストーンズ・スロウ・クルーとも共演してたし、ここにきてにわかに活動が活発化してきてていい感じ。いいカタチで新しいアーティストとフック・アップして、一緒に何かをやりながら、お互いの持ち味を出して、大事なモノを継承しながら作り上げていく感じは、音楽に限らず、いろんなジャンルですごく大事なことだと思ってる(特に高齢化が進む日本では)んで、そういう意味でもすごく参考になるというか、インスピレーションになる。


THE HELIOCENTRICS & MULATU ASTATKE "Cha Cha"
(From "Inspiration Information, Vol. 3")










2009/04/14

Too reasonable.

ランド 世界を支配した研究所 
 アレックス・アベラ 著 牧野 洋 訳 (文藝春秋) 
 

かつて、ソビエト共産党の機関誌『プラウダ』に「科学と死のアカデミー」なんて呼ばれ、第二次世界大戦後のアメリカ、そして世界に多大な影響を及ぼしてきたアメリカのシンクタンク、ランド(RAND)にスポットを当てた 2008 年の著作で、著者は『LA タイムズ』紙等に寄稿しているというキューバ出身のジャーナリスト・作家(とは言っても、10 歳のときにアメリカに移住しているので、「キューバ出身」に特別な意味はないけど)。ランドって、ちょこちょこといろんなところで目にはしてて、気になってはいたんだけど、なかなか全貌が掴めなかっただけに、いろんな陰謀説にも登場する悪の権化とかマッド・サイエンティスト集団っぽいイメージもあって、よけい興味が出てきちゃったところもある。あと、シンクタンクってもの自体にも興味があるし。そういう意味では、ある種、待望の一冊というか、けっこう読むのを楽しみにしてた一冊だった。

原書のタイトルは "Soldiers of Reason: The Rand Corporation and the Rise of the American Empire" なんだけど、まぁ、内容はサブ・タイトルの 'the Rise of American Empire' って言葉通り、
第二次世界大戦後のアメリカの政策だけじゃなくて、世界をアメリカ化することにも大きな影響を与えたランドについて、設立のプロローグになった東京大空襲の立案から始まって、2001 年の同時多発テロ〜イラク戦争後の現在に至るまでカバーするカタチで書かれてるんだけど、著者はジャーナリストであると同時に小説家でもあるらしく、もっとつまんない感じにまとまっててもおかしくなさそうなところを、さすがに小説家だけあって、なかなか面白く読ませてくれる。

2009/04/11

In a folky mood.

JAIME & NAIR "Jaime & Nair" (CID)  
Link(s): iTunes Store / Amazon.co.jp

個人的なムードとしては、ちょっと前にレビューしたイルドンの "Na Rua, Na Chuva, Na Fazenda" と、何日か前にレビューしたドナヴォン・フランケンレイターの "Donavon Frankenreiter" に近いというか、ふたつを足して 2 で割ったような印象の 1 枚。あくまでも、音楽性の類似性ってハナシよりも印象とかムードのレベルでだけど。

ラヴリィなイラストレーションのアートワークとタイトルからもわかる通り、ジャイミとナイールの男女 2 人組デュオの 1974 年のデビュー・アルバム。オープニング・トラックの "Sob O Mar" が "Gilles Peterson in Brazil" に収録されてたのは知ってたんだけど、アルバムは最近までチェックしてなくて、でも、なぜか日本で CD 化されてて。こういうところはさすが日本というか、こういうマメさは日本人ならでは。

2009/04/10

Eats regional.

東京ひとりめし

. :
ミーツ・リージョナル 編(京阪神エルマガジン社)

いつも独特の切り口の特集で、情報誌が軒並みつまらない時代に孤軍奮闘してる(?)感すらある関西の情報誌
Meets Regionalの別冊ムックで、タイトル通り、「東京で、ひとりで」ってテーマのメシ屋の特集。大人数でワイワイ食べるのもそれほど得意じゃないし、酒も飲まない(飲みの場が苦手な)人間にとっては、こういう内容はちょっとありがたい。別に「酒なし」って括りなわけじゃないけど、どうしても「ひとりでは入りにくい」「酒を頼まないと怪訝そうな顔をされがち」な店が世の中的にはまだまだけっこう多くて、そうではない選択肢は貴重なんで。

まぁ、そういう生活を東京で 15 年くらいしてきてるわけで、それなりに知ってる店も多いんだけど、日頃あまり行かないエリアもカバーされてるし、昔よく行ってた店の健在ぶりが確認できたり、知らなかった新しい店を発見できたりと、なかなか嬉しい内容。ジャンルも多岐に渡ってるし、深夜でも OK の店とか、フツーにありがたいし。新しくデータベースに加えたい店も多い。コンテンツは雑誌でいいので、地図だけでも Google Maps と連動しててくれたらスゲェありがたいんだけど。

Meets Regional』っていうと、昔は大阪や京都に行くと必ずチェックしてて、「こういうのって東京にはないよなぁ」って羨ましく思ってたローカル誌のひとつ。いつ頃からか、東京の書店でも見かけるようになったけど。特に一連の京都の特集の号にすごくお世話になった。やっぱり、単に情報をたくさん詰め込んでるんじゃなくて、切り口の面白さと、その切り口に沿った(ある種、思い切った)取捨選択が抜群で、正しく「編集」で勝負できてて、とてもいいな、と。見かけると、ついつい手に取っちゃう雑誌のひとつ。

2009/04/09

Vida brasileira.

ブラジルのかわいいデザインたち』植嶋 秀文・井岡 美保 著
(ピエ・ブックス)  Link(s): Amazon.co.jp / Rakuten Books

個人的な嗜好と照らし合わせるとちょっと可愛らしすぎるんだけど、まぁ、ブラジルのデザインにヤラれちゃってる身としてはやっぱり無視できないな、と。ちょっと訳あって、デザインのインスピレーションというか、アイデアを探してたんで。発売は 2008 年。

これはピエ・ブックス
(たぶん)人気の高いシリーズモノのブラジル版で、人気が高そうなのは北欧版(Links: Amzn / Rktn)とか南欧版(スペイン・ポルトガル)(Links: Amzn / Rktnとかとかハワイ版(Links: Amzn / Rktnとかなのかな。個人的にはメキシコ版(Links: Amzn / Rktnにはちょっと興味があるけど。でも、まぁ、全体にラヴリィ過ぎな感は否めないけど。日本人が好きそうなツボをシッカリ抑えてる感じ。

2009/04/08

3 decades of futuristic vision.

機動戦士ガンダム DVD-BOX 1』『機動戦士ガンダム DVD-BOX 2 
 富野 由悠季 監督 (バンダイビジュアル) 

1979 年 4 月 7 日、『機動戦士ガンダム』の第 1 話「ガンダム大地に立つ!」が放映された。つまり、昨日でちょうど 30 周年を迎えたということ。

サンライズには 30 周年記念サイトがあったり、夏にはお台場に等身大のガンダムが降臨予定だったり、いろいろなイベントが予定されてるわけだけど、やっぱり、30 周年っていうのはひとつの節目だし、いろいろ感慨深かったりもするんで、あらためてレビューをするなんておこがましいけど、まぁ、触れないわけにもいかないだろう、と。映画版もいいけど、「ガンダム大地に立つ!」から 30 年ってことなんで、当然、対象アイテムは TV シリーズで。

2009/04/07

Like a daydream.

"Donavon Frankenreiter"

.
DONAVON FRANKENREITER(Brushfire Records)

最近は陽気もすっかり春めいてきてるわけだけど、「春眠暁を覚えず」とは昔の人は上手いこと言ったもんで、慢性的に患ってるネムイネムイ病が悪化してて、起きててもボヤーッと寝起きみたいなテンションだったり、そろそろ山に行きたい今日この頃なんだけど、そんな時はやっぱレイジーなサウンドがシックリくるわけで、ドナヴォン・フランケンレイターのファースト・アルバムなんて引っ張り出して聴いてたりして。

ドナヴォン・フランケンレイターってなんか悪役レスラーみたいな響きの名前+ルックスなんだけど、まぁ、全然怖いわけじゃない。セカンド以降の "Move by Yourself" と "Pass It Around" は個人的に敬愛するヴァン・モリソンでお馴染みのロスト・ハイウェイからリリースされてて、どっちもなかなかの出来なんだけど、個人的には 2004 年にジャック・ジョンソン主宰のブラッシュファイア・レコーズからリリースされたこのセルフ・タイトルのファースト・アルバムがお気に入り。この情報だけで、ある程度、サウンドはイメージできそうなもんだけど、まぁ、想像通りのサウンドで、キライなわけがない。サーファーだし、コイツ。ジャック・ジョンソンと G ラヴも参加してるし。アートワークのデザインもなかなかナイス。

まぁ、ワン・パターンっちゃあワン・パターンだし、これと言ってわかりやすいキャッチーさもないし、際立った名曲があるわけでもないんだけど、逆にそこが潔いというか、無骨なまでにシンプルにフォーキーで、ブルージーで、なかなかいい感じ。こういうアルバムって、実はけっこう何度も聴いたりする、愛聴盤になったりしがち。セカンド以降もいいんだけど、やっぱ、ファースト・アルバムって、ドナヴォン・フランケンレイターに限らず、ピュアさとか不器用さとかそれまでの蓄積とか、何かいろいろ詰まってるような特別なモノがあって好きだったりする。予備知識なしで聴いた分、ファースト・インプレッションも強かったりするし。

やっぱ最適なのは、昼間にノンビリと、ボケッと、って感じなんだろうな。ホントはビール飲んじゃったりとか、他のモノとかで、リラックス+チルな感じがピッタリなんだろうけど、まぁ、どっちも嗜まないんで。代わりにアイスでも喰いながら、平日の昼間っから、ボヤッとレイジーな感じがいいかな、と。


DONAVON FRANKENREITER "Free (Featuring JACK JOHNSON)"
(From "Donavon Frankenreiter")










2009/04/06

Chega de Saudade.

遠きにありてつくるもの ― 日系ブラジル人の思い・ことば・芸能』
 細川 周平 著(みすず書房)  Link(s): Amazon.co.jp / Rakuten Books 

781 人の日本人を乗せて神戸港を出港した笠戸丸が 2 ヶ月かけてサントス港に到着した 1908 年から 100 年というタイミングで出版された国際日本文化研究センター教授の細川周平氏の著作。サブ・タイトルに「日系ブラジル人の思い・ことば・芸能」とあるように、日本人移民〜日系ブラジル人の抱えていた想いを、俳句・短歌・川柳、現地新聞、浪曲、カーニヴァルなど、膨大な資料をもとにまとめられた 460 ページにも及ぶ大作で、第 60 回読売文学賞受賞を受賞している。

故郷を甘美に思う者はまだ嘴(くちばし)の黄色い未熟者である。あらゆる場所を故郷と感じられる者は、すでにかなりの力をたくわえた者である。だが、全世界を異郷と思う者こそ、完璧な人間である。

本書の中にエドワード・サイードが引用して有名になった 12 世紀のスコラ哲学者、聖ヴィクトルのフーゴーのこんな言葉が引用されている。タイトルはもちろん「ふるさとは遠きにありて思うもの」って言葉から採られてるんだけど、それは同時に「つくる」ものであって、実際にそういった風景を何とかして自分たちの生活の中で「つくる」(ブラジルの中でミニチュアの日本を再現する)ことで自分たちの足場を固めて、それが結果的に自分たちの文化になった感じからは、フーゴーの言葉とはちょっと別の次元の根源的な何かを感じる。村上春樹が『やがて哀しき外国語』で述べてた「自分にとって自明性を持たない言語に何の因果か自分がこうして取り囲まれている」状況が持つ「哀しみ」も引用されてるんだけど、そういう感覚って、その言語がいくら理解できてても完全に消えるモノじゃないし、理解度が低ければ低いほど大きくなるモノだと思うんで。

2009/04/03

Leftism.

夢の中まで左足』名波 浩・増島 みどり 著
(ベースボール・マガジン社)  Link(s): Amazon.co.jp

惜しまれながら昨シーズンで引退した日本サッカー史に残る「左足のアーティスト」、名波浩の著作で、『サッカー・マガジン』誌の連載をベースにしつつ、スポーツ・ライターとして著名な増島みどりさんの編・著で対談やインタビューを加えたモノ。こういうサッカー選手の本ってめったに読まないんだけど(特に日本人プレーヤーのモノは)、わけあって、最近、サッカー関連の資料をいろいろ見てる中で見つけて、ちょっと気になったので。

なんで気になったかというと、それは、やっぱり名波浩というプレーヤーが好きで、すごく興味があったから。別にジュビロのサポーターでもないし、代表に入れ込んで観てるわけでもないけど、そういう次元ではないところで、やっぱり名波はすごくスペシャルなプレーヤーだった。すごくアーティスティックで、サッカーの奥深さとかディティールまで楽しませてくれる繊細で職人的な数少ない存在。すごくサッカー・インテリジェンスも高くて、そこいらの評論家や解説者よりもよっぽど面白いことを考えてる。あと、同い年だし。間違いなく、1972 年生まれの日本人プレーヤーでは最高傑作なので、親近感もあったし、やっぱり気になる存在ではあった。

2009/04/02

Marvin is 70.

"Inner City Blues: The Music of Marvin Gaye" (Motown) ★☆ 
"Marvin Is 60: The Tribute Album" (Motown) ★☆


昨日のエントリーで「10 年前には "Marvin Is 60" なんてトリビュート・アルバムも出てた」って書いたけど、そういえば、もう 1 枚、マーヴィン・トリビュートがあったよな、と思って聴き直してみたので、マーヴィンの 70 歳の誕生日に合わせて。

2009/04/01

What's going on, brother?

"What's Going On [Deluxe Edition]" MARVIN GAYE(Motown)
 Link(s): iTunes Store / Amazon.co.jp

1984 年 4 月 1 日に牧師である父親に射殺されるというショッキングなカタチでこの世を去った不世出のソウル・シンガー、マーヴィン・ゲイ。別に命日だってことを意識してたわけじゃなかったんだけど、なぜか、今日、このアルバムを聴いてた。で、さっき、タワー・レコードで見かけた『bounce』の表紙がマーヴィンで、中を見たら 25 周忌だってことを思い出して。なんか、不思議なモンだなぁ、と。

この "What's Going On" はもちろん、言わずと知れた不朽の名盤なわけで、今さらあーだこーだ言うまでもない作品なんだけど、個人的にもすごく思い入れのある 1 枚で、「好きなアルバムを x 枚選べ」と言われれば、それが何枚でも必ず入るアルバムだったりする。1 枚って言われても選ぶんだから、一番好きなアルバムって言えるのかも。