2011/02/26

Deep future running music.

"Nike+ Basic Run [SPEED] Mixed by DJ AKi" (Nike Sport Music)  
 Link(s): iTunes Store

これまでにも、レイハラカミさんの "River: Nike+ Original Run"デ・ラ・ソウルの "Are You In?: Nike+ Original Run" (と iMix の "In the Morning Sunlight")をレヴューした Nike+ 用のワークアウト・ミックス、Nike Sport Music の最新作で、プロデュースしたのは日本のドラムンベース・シーンを代表する DJ として国内外で活躍する DJ AKi くん。

使用されてる音源は、ちょっと前にレヴューした "Fabriclive 50 DBRIDGE & INSTRA:MENTAL Present Autonomic" とか "Exit Records Presents Mosaic Vol. 1" に収録されてる 'オートノミック (Autonomic)' の最新音源で、'スピード' を上手くカタチにした、とてもコンセプチュアル且つファンクショナルなランニング・ミックスに仕上がってる。

別に隠しとくことでもないんで先にカミングアウトしておくと、このプロジェクトに関しては、スタッフの 1 人として関わってて(「何をやったの?」って言われると一言で答えるのは難しいんだけど)、そういう意味では手前味噌になっちゃうんだけど、手前味噌ながらなかなかいい出来に仕上がったんじゃないかと思ってるんで。そんなわけなので、純粋な 'レヴュー' かって言われるとちょっとビミョーだったりもするけど、当事者だからこそ知ってることも多いんで、いい機会だから書いとくかな、と(ついでに言うと、前にも書いたけど DJ AKi くんはアニキの高校時代からの友達で、かれこれ 15 年以上の付き合いになる旧知の仲なので 'DJ AKi くん' と呼んでる。ちなみに、アニキはアート・ディレクションをしてるんだけど)。

まず、サウンドについて。前に「'オートノミック' ってのは D・ブリッジ(dBridge)が中心となって提唱している新しいサウンド・デザインのスタイルで、ドラムンベース的な音色とか構造とか制作手法を応用しつつ、テンポを落として音数を減らして、より '隙間' のあるサウンド空間を構築してるようなモノ。ダビーで無機質でアブストラクトなんだけど、同時に、わりと洗練されてて、ちょっとチルアウト〜アンビエントなんかにも通じるようなメロウな音の世界観」って書いたんだけど、今月頭に、来日してたオートノミックの提唱者の D・ブリッジに「オートノミックって何なんだ? 定義してくれ」って問い詰めたところ、本人のイメージとしてはサウンドのスタイルやジャンルではなく 'ブランド' だ、とのこと。コレは初耳だったのでちょっとビックリ。でも、他の部分に関しては概ね間違ってはなかったかな。'autonomic' ってのは「自律神経」って意味で、辞書には「意志とは無関係に作用する神経で、消化器・血管系・内分泌腺・生殖器などの不随意器官の機能を促進または抑制し調節する」なんて書いてあるんだけど、要するに、ドラムンベースを基本にしつつも、いろいろな音楽の要素がシナプス状のネットワークでつながってて、互いが互いを制御しながら絶妙なバランスを保ってるようなイメージというか。音の鳴りとしては、一聴すると音数が少なくてシンプルでメロウなんだけど、よく聴くとかなりドープで研ぎ澄まされたというか、無駄を極限まで削ぎ落として、ひとつひとつ入念に選んだ音を丹念に磨き上げて考え抜かれた絶妙な場所に配置してる印象。ちょっと、'禅' とかのイメージとも重なるような。すごくディープで洗練されたサウンドで、耳馴染みがいいけど、過剰な装飾は排除されてて、聴き込めば聴き込むほどハマるタイプのサウンドかな。イメージとしては、派手ではないけどすごくシンプルでプリミティヴな(そして、それ故にディープな)ランニングってスポーツともすごくイメージが合ってる。

今回の ""Nike+ Basic Run [SPEED]" で使われてるのは、DJ AKi & TAKEO のオリジナル・トラック 2 曲を除くとすべてがオートノミックの総本山ともいうべき 2 つのレーベル、D・ブリッジが主宰するエクジット・レコーズ(Exit Records)と、D・ブリッジとインストラ・メンタルが 2 人で主宰するオートノミック(Autonomic)・レーベルの音源で、これからリリースされる最新音源まで使われてて、なかなかレアなモノに仕上がってる。

Nike Sport Music ってのは、Nike+ を使って走るランナーのランニングをサポートする機能を持ったランニング・ミックスなんだけど、今回のベースになるコンセプトは「スピード・アップを目指すランナーのためのミックス」(だからタイトルもズバリ 'SPEED')。DJ AKi くんはこれまでにも Nike Sport Music を手掛けてて、例えば、前作の "Nike+ Basic Run [LSD]" は 2007 年のリリースでテーマは 'LSD (long slow distance)'。ゆっくりと、より長時間走れるように' なりたいランナーのためのもので、これは当時、徐々に増えつつあったビギナー・ランナーを主にイメージしてたんだけど(もちろん、そうじゃないランナーでも使えるけど)、今回は、それから約 4 年が経ってるんで、当然、4 年間ランニングを続けてたランナーはレベル・アップしてるだろうから、もうひとつ上のレベルを目指すランナーのためのモノにしよう、と。そういう、日本のランニング事情みたいなモノを考慮に入れつつ作られてる。

実際のサウンド / ミックス的には、ゆったりとしたストイックなトラックとドラムンベースならではの疾走感を活かして緩急をつけて、スピード・アップとスピード・ダウンを繰り返して負荷を加えることで基礎能力を向上させるトレーニング内容に上手く呼応させてる感じ。「XX:XX / XX km のペースで」みたいな感じでキッチリとメニューが決まってるわけじゃない(ペース自体はあくまでもランナー自身に決定を委ねてる。逆にいうと、いろんなレベルのランナーに対応できるってこと)けど、サウンドで上手くペース・アップとペース・ダウンを表現しつつ、全体としてはすごくスムースに聴けるような、そんないい感じのミックスに仕上がってる。

ミックスのグルーヴでもスピードの緩急は表現されてるんだけど、そこに声でのナヴィゲーションも加えられてて、その声を担当したのは映画『攻殻機動隊 / Ghost in the Shell』シリーズで主人公の '少佐' こと草薙素子役を務めてることで知られる声優の田中敦子さん。決して指示とか命令とかではないんだけど、けっして優しくおだててくれるわけでもなくて、あくまでもクールな印象。でも、この声で「スピード・アップ!」とか言われたら、ついついスピード・アップしちゃうから不思議。声だけで世界観を作り出せるのはさすがの一言だな、と。

なぜ、わざわざ田中敦子さんにお願いしたかというと、コレがそもそものコンセプトのハナシになるんだけど、それは「近未来アニメーションの主人公になって走っている」ようなイメージ。そこで真っ先に思いついたのが草薙素子役の田中敦子さんの声だった、と。ちなみに、このアイデア自体は前の Nike Sport Music の時からあったもので、4 年越しで実現したって意味でもなかなか感慨深い部分だったりもする。まぁ、そういう思い入れを抜きにしてもバッチリの出来映えだし。

今回は世界的に VJ として活躍してる Numan がコンセプト映像も作ってるんだけど、この映像がその世界観をバッチリと表現しててとてもクール。まさにフューチャー・ランニング・エクスペリエンスって感じで。



この辺のハナシが 'コンセプチュアル' な部分に相当するんだけど、もう一方で忘れちゃいけないのが 'ファンクショナルな部分'。つまり、ランニング・ミックスとしての機能性なんだけど、コレは実際にナイキランニングのアドバイザーを務めてるプロのランニングコーチのアドバイスをベースに構成したんだけど、真剣に走るとかなりキツイ。実際に、初めて真剣にこのミックスで走ったら 10 km のベスト・タイムを更新してたし。なかなかハードで、ファンクショナルな内容になってるかな。上手く走るコツとしては、ミックスのグルーヴを感じながら走ること。具体的には 16 小節とか 32 小節とか 64 小節とか、そういう曲の構成とかミックスの流れみたいなモノを感じながらそれに合わせて走ると気持ちよく走れるようになってるかな(コレは実際に走ってみて気付いたんだけど)。

あと、もうひとつ、忘れちゃいけないのが、ミックスとしての出来映え。オートノミックとドラムンベースいいバランスで混ぜながら緩急を付けつつ、それでいてすごくスムースに仕上がってて、'走るため' だけでなく純粋に '聴く(踊る)ため' のミックスとしてもすごくいい仕上がり。iTunes Store でアルバムを買うと田中敦子さんの声入りのミックスのファイルとは別に、トラックごとに分かれた声無しの音源もダウンロードできるだけど、コレはコレで、普通に日常生活で聴くミックスとしてもすごくいい感じなので、走らないからってスルーしちゃうのはもったいない。

実はこれまでにも何度か Nike Sport Music の制作は手伝ったことがあるんでわりといろいろなミックスを聴いてるし、レーベルの A&R として音源制作にもたくさん関わってきたけど、いろんな意味でコンセプトとか意図がキチンとひとつの作品としてカタチになってるって意味で、これまでに関わった中でもかなりいい出来なんじゃないかな、と。そういう意味では、ランナーにも音楽好きにもそれ以外の人にも、ぜひ聴いてもらいたいかな。

ミックスなのでサンプルをここに貼るのは難しいんだけど、上に貼ったコンセプト映像を観るか、iTunes Store で DJ AKi & TAKEO のオリジナル・テーマ曲 "Tokyo Mix" が先着で限定無料ダウンロードできるんで、興味のある人は下記リンクをチェックしてもらえれば(数量限定・先着なのでお早めに)。


* "Nike+Basic Run[SPEED] Tokyo Mix / DJ AKi & Takeo" Exclusive FREE Download Link: iTunes Store

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