Naomi Klein "China's All-Seeing Eye" (from "Rolling Stone" Issue 1053)
(Rolling Stone) ★★★★☆
ナオミ・クラインが出演した『デモクラシー・ナウ』でのインタビューで知ったアメリカ版『Rolling Stone』誌 1053 号(今年の 5 月発売の号)に掲載された彼女の記事(同誌は日本版も出てるけど、この記事が掲載されたのかは未確認)。中国の公共セキュリティ対策とアメリカ企業の関係についてのなかなか読み応えのある興味深い記事で、サイトに記事の全文と補足的な Q&A・写真も紹介されている。
内容としては、オリンピック開催を契機として中国政府がセキュリティ強化の必要性を理由に街中に膨大な数の監視カメラを設置、そのカメラを市民の監視に使っていて、その機器はアメリカの大企業から購入している、というハナシ。アメリカ(欧米)人がやたらと例に挙げるのが好きなジョージ・オーウェルの『1984 年』のビッグ・ブラザーと旧ソ連に象徴される社会主義体制下の監視国家のイメージを重ね合わせつつ、その「道具」となっているハード・ソフトをアメリカの電気・軍事関係企業が提供しているという点を指摘してる。
その先行例のひとつとしてフィーチャーされてるのが経済発展著しい深圳(しんせん)。香港の新界に接している経済特区のエリアで、香港・マカオに次いで中国第 3 位の高所得を誇るという深圳は、漁村しかなかった場所に「作られた」地域で、世界中に流通しているいわゆる「メイド・イン・チャイナ」の多くを製造してる場所だとか。その都市を建設・整備する中で、これまでに 20 万台、そして今後 3 年の間に 200 万台の監視カメラを設置し(ちなみに、世界屈指の監視カメラ・シティと言われるロンドンでも 50 万台だとか)、警察と直結したネットワークで管理、さらに北京もオリンピックでの要人警護等の目的で同様な施策が採られているし、チベットの動乱でも、万里の長城(英語で 'the Great Wall')に引っ掛けて 'Great Firewall' と呼ばれている国家による情報管制(今でも中国のグーグルでは天安門事件関連の情報が検索できないのはとても有名なハナシ)が徹底されていて、しかも、そのための機器はアメリカの大手企業製だという。
この記事は北京オリンピック開催前のものなので、いわゆる現在の金融危機以前に書かれているんだけど、近年のアメリカ経済にとって中国は数少ない「輸出先」になり得る巨大なマーケットなわけで、儲かるなら(理念や思想は置いておいて)なりふり構わず食い物にすることで成り立ってきたアメリカと、「マーケット・スターリニズム」とも呼ばれる歪な政治・経済体制でギリギリの綱渡りを続ける現代の中国が結びつくことが孕んでいる大きな危険性を見事に象徴しているし、アメリカ経済が破綻している今、この傾向にますます拍車がかかりそうな気すらする。
著者のナオミ・クラインは "The Shock Doctrine: The Rise of Disaster Capitalism" という書籍で、「社会に大きなショックを与えるような事件(を起こすこと)を通じて、大きな(強引な)改革を推し進める政治手法」を「ショック・ドクトリン」と呼んで警告を発し、大きな注目を集めたカナダ人ジャーナリスト(出版時に行われた『デモクラシー・ナウ』でのインタビューもサイトで視聴できる)。9/11 の同時多発テロや天安門事件、イラク戦争、ソ連崩壊、ハリケーン・カトリーナ等、大きな事件のショックで国民が正常な判断能力を失っている隙に、政治家は都合のいい法案を通し、大企業は大儲けをしているという彼女の主張は、それこそとてもショッキングで、でも、言われてみれば確かに一理あるとても危険な傾向と言えるし、何もアメリカに限ったハナシではない。
今回の記事も、ある意味ではその一例とも言えるし、すごく興味深い。これを読んで中国やアメリカを非難したり蔑むのは簡単だけど、同じような目で日本のことをみることもとても大事なこと。決して人のこと言えるほどのもんじゃない(日本のほうがレベルが低くて、スケールが小さい気がするけど。良くも悪くも)。
あと、善悪とは全然別レベルの素朴な感想として、「スゲェことになってるなぁ」みたいな感慨があるのも事実。『1984 年』は SF 作家の優れた想像力によって生み出されたものだけど、ふと周りを見渡すと、少なくとも技術的にはそれほど難易度が高くない現実的なレベルで、十分実現可能だと思えちゃうから。良いも悪いも超えた次元で。そういう時代だってことなんだな、って。
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