"For Pete's Sake"
. MR. CHOP (Traffic) ★★★☆☆
シンプルながらちょっとステキなアートワークのこのアルバムはイギリス人プロデューサー、Mr. チョップによるピート・ロックの曲のカヴァー・アルバム。前にレヴューしたカルロス・ニーノとミゲル・アットウッド・ファーガソンの "Suite For Ma Dukes" とかロバート・グラスパーの "In My Element" に入ってた "J Dillalude" とか "Gilles Peterson presents Havana Cultura" に入ってた "Think Twice" とか、ジェイ・ディー a.k.a. J・ディラの曲のカヴァーは最近多くて、どれも秀逸な出来映えだったけど、このピート・ロックのカヴァーってのも、なかなか目の付け所がいいし、内容的にも面白い仕上がり。
Mr. チョップはストーンズ・スロウ傘下のレア・グルーヴ・レーベル、ナウ・アゲインやイギリスのジャズマンといったレーベルの作品を手掛けてるイギリス人プロデューサー / エンジニア / マルチ・インストゥルメンタリストで、それほど派手な存在じゃないけど、実力派のアーティストとして評価は高い。そんなMr. チョップが 'ソウル・ブラザー #1' ことヒップ・ホップ界屈指のビート・メーカー、ピート・ロックのトラックをピックアップするって聞いただけで、まぁ、ある程度以上のクオリティは期待できるんだけど、その期待を裏切らないなかなか面白い仕上がりで。
サウンド・ディレクションとしては生楽器をフィーチャーしたバンド・サウンドで、サイケデリック・ジャズ・ファンク的なアプローチでピート・ロックのビート / トラックを再構築してるんだけど、なかなかドープでファンキーで。派手さこそないものの、なかなか通好みな渋い仕上がり。
ヒップ・ホップのカヴァーっていうと、上に書いたジェイ・ディー a.k.a. J・ディラ絡み以外にも、4 ヒーローのマーク・マックがヴィジョニアーズ名義でリリースした "Dirty Old Hip Hop" とか DJ カム・カルテットの "Rebirth of Cool" なんかもなかなかいい出来だったけど、個々の作品の出来の良さはもちろんだけど、同時に、こういう風にカヴァーされて再解釈されるくらい、ヒップ・ホップが音楽として成熟し、いろいろなアーティストに影響を与えてきたってことでもあるわけで、ちょっと感慨深かったりもする。
MR. CHOP "Mecca and the Soul Brother" (From "For Pete's Sake")
Nov 24, 2009
Rock the soul.
Nov 23, 2009
Business as usual.
『IT 帝国の興亡 スティーブ・ジョブズ革命』
. :村山 恵一 著(日本経済新聞出版社) ★★★☆☆
さすがに最近はアップル / スティーブ・ジョブズ関連の本だからって片っ端から読んだりはしてないけど(数が多過ぎるし、胡散臭いモノも多いんで)、久しぶりに読んでみたジョブズ関連の本。日本経済新聞社のシリコン・ヴァレー支局長である著者が現地で取材を基にまとめたモノで、今年の 7 月に出版されたモノなので、記憶に新しいハナシが多い。
アップル / スティーブ・ジョブズ関連の本は、主に iPod・iPhone 以降にフォーカスしてるモノと、必ずしもそうではないモノがあって、最近は、当然のように前者のモノが圧倒的に多いんだけど、まぁ、本書も前者のひとつと言っていいのかな。ただ、そう言っちゃうとちょっと誤解があるというか、「(多分に胡散臭いことが多い)最近のアップル / スティーブ・ジョブズ関連本」のひとつに思えちゃうかもしれないけど、本書はちょっと印象が違ってる。というのは、タイトルに「IT 帝国の興亡」ってある通り、アップルだけじゃなく、わりと広く IT / コンピュータ業界の動向をカヴァーしてるから。
具体的には、例えば、マイクロソフトがヤフーを買収しようとしたときの攻防とか、デルの衰退とか、グーグルとかフェイスブックとかについても、わりと詳しく触れられてて、あくまでも「iPod・iPhone 以降のアップル / スティーブ・ジョブズ」を中心にしつつも、それだけではない感じになってはいる。それを良しとするかどうかは、ビミョーなところというか、本書に何を求めてるか、読み手次第なところな気がする。アップル / スティーブ・ジョブズと直接関係ないハナシがけっこう多かったりするんで。個人的には、ヤフー買収とかデルとか、ブッチャけたところ、それほど真剣にフォローしてなかったから、そういう意味ではナシではないと思いつつも、「アップル / スティーブ・ジョブズ関連本」としては中途半端な感は否めないなぁ、と思ったり。
まぁ、内容はすごく簡潔にまとまってるし、読みにくいわけでもないんだけど、そういう部分で、なんか、ちょっとズレを感じるというか、イマイチピンとこないような、そんな不思議な読後感だったりして。新聞記者だから(仕方がない)かもしれないけど、なんか、対象に対する「愛情」みたいなモノが感じられないような気もするし、単純に文章・文体が好みじゃないからかもしれないけど。ただ、直接取材とか、幅広いソースとか、細かい数字の部分なんかは、いい意味で新聞記者らしい感じもするけど(何でも、アップルは世界第 3 位の携帯電話メーカーなんだとか。売上高で 1 位のノキアの 127 億ドル、2 位のサムスンの 59 億ドルに次いでアップルは 46 億ドルで 3 位らしい)。決して感動したりとかしないし、人生や生き方が変わったり、目から鱗が落ちまくるような類いの本ではないけど、シリコン・ヴァレー / IT 業界の比較的最近の動向をなんとなく俯瞰しとくって意味では、まぁ、ナシではないかな。
Apple
Nov 21, 2009
Africa inspired.
"Inspiration Information, Vol. 4"
. JIMI TENOR & TONY ALLEN (Strut) ★★★☆☆
これまでにもアンプ・フィドラー + スライ & ロビー盤、アシュレイ・ビードル + ホレス・アンディ盤、ザ・ヒーリオセントリックス + ムラトゥ・アスタトゥケ盤をレビューしたイギリスのストラット・レーベルのコラボレーション・アルバム・シリーズ、"Inspiration Information" の第 4 弾で、今回はジミ・テナーとトニー・アレン。これまた、かなり意外で、でも、ちょっと楽しみな、なかなか絶妙な組み合わせで。
ジミ・テナー(アートワーク写真右)はフィンランド出身の変人マルチ・インストゥルメンタリスト。もともとは、今年、めでたく 20 周年を迎えたワープからリリースした作品で注目を集めたからか、わりとテクノ寄りなアーティストなイメージがあったけど、とても「テクノ」の一言では片付けられないというか、一筋縄ではいかない独特のサウンドを聴かせてきたプロデューサー / ミュージシャンで、まぁ、なかなか掴みどころがない、でも、独特の存在感を放ってる不思議なヤツって印象(ルックスも相俟ってかも?)。一方のトニー・アレン(アートワーク写真左)は、言わずと知れたフェラ・クティのドラマーであり、言ってみれば 'ミスター・アフロビート' 的なリヴィング・レジェンド。まぁ、この組み合わせを聞いて、すぐに接点を見出すのはなかなか難しかったりもするけど、ちょっと考えてみると、案外シックリきたりするかも? って思ったりもするから不思議。そういう意味でも、してやられてるっていうか、絶妙な組み合わせって言えるんだと思うけど。
聴く前の想像では、文字通り異種格闘技戦的な意外性が生まれるか、案外ガッチリ噛み合うか、どっちかかなぁ、と思ってたけど、結果には後者だった。全然違和感なく噛み合ってて。ジミ・テナー自身が、昔のエレクトロニカ的なイメージではなく、バンド・サウンドを主体としたディレクションになってるせいか、フツーにファンキーでジャズ的なサウンドに仕上がってる。あまりにもストレートな感じで、ちょっと肩透かしなくらい。まぁ、出来自体は全然悪くないんで、特に問題があるわけじゃないけど、もうちょっとエクスペリメンタルというか、化学反応的なことを期待してたところがあったんだけど、全然ケミカルな感じじゃなく、すごくオーガニックに噛み合う、っていうか、溶け込んでる感じで。まぁ、それはそれで全然いいんだけど。ちなみに、YouTube でプレヴュー・ムーヴィーとインタヴューが観れる。
まぁ、この "Inspiration Information" シリーズに関しては、いつもながら感心させられるっていうか、こういう世代も国籍もジャンルも超えたコラボレーションって、それだけでなんかワクワクしちゃうから不思議。それが音楽の持つエネルギーなんだろうな、なんてあらためて思ったり。
JIMI TENOR & TONY ALLEN "Got My Egusi" (From "Inspiration Information, Vol. 4")
Nov 20, 2009
Divided we unite.
『ドーン』
. :平野 啓一郎 著(講談社) ★★★★☆
今年の夏に「講談社 100 周年記念 書き下ろし 100 冊」の一環として発売された小説で、1999 年の『日蝕』で当時 23 歳で芥川賞を受賞した 1975 年生まれの小説家、平野啓一郎による書き下ろしの新作。まぁ、こんな風に書いてみたものの、このレヴューを書くために今、調べただけのことで、別に著者について何か予備知識があったわけではなくて。「どっかで見たことあるような名前な気がするなぁ」くらいには思ったけど、別にそれが読もうと思った理由じゃないし。読み終わってから調べてみたら、『ウェブ進化論』で知られる梅田望夫氏と著者が対談した『ウェブ人間論』を読んだことはあったんだけど。でも、スッカリ忘れてたというか、名前が一致してなくて(もちろん、『ウェブ人間論』はこの『ドーン』よりも前だし)。だから、著者に関しては、ほぼ予備知識がなかったって言っていい感じだった、と。
読もうと思ったキッカケは、まぁ、話題作らしくて、いろんなところで見かけてたってのもあるけど、まぁ、設定というか、書かれてる舞台。初じめて人類が火星に降り立った2033 年が舞台で、そのクルーのひとりが日本人で、その日本人が、火星に行った宇宙船 'DAWN' の中で起こった事件のせいで、大きな事件に巻き込まれていく…、って感じなんだけど、「火星」「有人ミッション」とか言われると、まぁ、それだけでちょっと魅かれちゃうというか。たまには SF 小説の新しいモノでも読んでみるか、みたいな軽い感覚もありつつ、タイトルとか装丁とかキャッチコピーとかから判断する限り、そんなに悪くなさそうな感じがしたんで。まぁ、この辺は、ただのカンなんだけど。でも、こういう感覚って、結構大切。レコード / CD とか、映画とかもそうだけど、こういう、なかなかロジカルに説明できない部分って、実は結構大事なので。そういう意味では、ネーミングとかデザインとかって大事だよなぁ、なんてあらためて思ったりもして。
まぁ、結論としては、思ったほど「宇宙モノ」じゃなかったって意味ではちょっと期待外れ。往復の航路とか火星でのミッションとかについての言及があまりなくて、ちょっとイメージしてたモノとは違ってたかな。いわゆる「SF」的なディティールを細かく積み上げて宇宙でのシーンにリアリティを持たせていくタイプの SF ではなかったな、と。まぁ、よく知らずに勝手にそういうお門違いなモノを期待しちゃってただけなんだけど。
でも、面しろくなかったかっていうと、全然そんなことはなくて。むしろ、近未来を描いたエンターテインメント小説としては全然楽しめた。500 ページくらいあるけど、全然苦にならなかったし。作中には、街中に公私両方の監視カメラがあって、その映像がネットワーク化・データベース化されてて、しかも公開されてて普通に検索可能だったりとか、そのせいか、整形技術がすごく発達してたりとか、エコ・バブルが弾けてたりとか、マラリアが軍事転用されてたりとか、領土を持たない国家があったりとか、「ウィキノヴェル」なんてモノがあったりとか、今、現実にはないけど、わりとリアルにあることがイメージできちゃうような設定が随所に散りばめられてて。アメリカ大統領選挙をモチーフにしてるところとかもタイムリーだし。どこか妙に冷めたテンションも含めて、すごく同時代的な感じがして、わりとシックリくる。
あと、わりと重要なテーマというか、概念として出てくる「ディヴィジュアリズム(分人主義 dividualism)」って考え方も、ちょっとハッとさせられるし。昔、『四重人格』(映画『さらば青春の光』・アルバム・小説)なんてのがあったけど、そうではなくて、要するに、個人っていうのは社会関係の数だけ「ディヴィジュアル(dividual)=ディヴ(div)」を持ってて、それが集まったのが個人なんだ、って感じの考え方。まぁ、もうちょっとベタな言い方をすると「(無意識に作ってる)キャラ」みたいなものかな。職場でのディヴ、家庭でのディヴ、学校でのディヴ等々。まぁ、言われてみれば、それこそ、このブログも含めて、インターネットなんてその最たるモノで、ブログ用のキャラ、SNS 用のキャラ、2ch 用のキャラみたいのは、意識的(または無意識)に作ってると思う(2ch に書き込みとか、別にしないけど。まぁ、例として)し、そこに、リアルな人間関係でのキャラも加わるわけで。もちろん、全部がそれぞれバラバラなわけじゃないけど、でも、全部が一致してるって言えるかって言えば、そんなことは言えないわけで。まぁ、そんなもんは昔から大なり小なりあったことだろうけど、そういう傾向がすごく顕著に現れてるのが現代(っつうか、本書では近未来)なんだと思うし。別にそれがいいとか悪いとかってハナシとは別の次元の問題として、わからない感覚ではないな、と。
そういう、随所に散りばめられてる要素が、「小説ってフォーマットを使って現代社会の問題を斬る」みたいな、気負った感じのテンションではなく、わりと冷めたテンションであっさりと、ごく自然に取り扱ってる感じもすごく同時代的だと思うし。まぁ、感覚的な部分なんで、個人的な好みにも大きく左右される部分だとは思うけど。最終的に行き着くところに関しても(ネタバレになるんで詳細には触れないけど)、100% 共感するわけではないにしても、まぁ、そこにいっちゃうよな、やっぱ、みたいなところはあるし。
まぁ、実際には同時代ではありつつも、著者はちょっと年下だったりして、「小説家」が年下って時点でちょっと新鮮だったりもするんだけど。これまでは、小説っていうと、かなり上の世代か、ちょっと上の世代か、どっちにしても「上の世代」の人が書いたモノを読むって意識が強かったんで。そういえば、だいぶ年下の綿矢りさの『蹴りたい背中』も読んだけど。でも、彼女の場合は年下過ぎて同時代的な感覚はちょっと薄かったし。全くわからんほどではなくて、客観的には「そうみたいね」ってレベルではわかるけど、少なくともリアリティを持って実感できるレベルではない、って意味で。でも、この『ドーン』は、同時代感覚っていうか、同世代感覚みたいなのが感じられて、フツーに読めて、フツーにシックリくる感じはある。好き・嫌いは抜きにして。そういう感覚って、持てそうで、でも、少なくとも小説ってジャンルではなかなか持てなかったりしてるんで、そういう意味では貴重な一冊(であり作家)って言えるのかな、とも思うし。まぁ、個人的には、別に「メチャメチャ感動した」とか「人生が変わった」とか「目から鱗」みたいなモノではないけど、フツーに読めて、フツーにシックリきて、フツーに楽しめた、そんな、ありそうで、実はあまりない感じの一冊だったかな、と。
まぁ、読み終わってみてから、あらためて『ウェブ人間論』を読み直してみたら、まぁ、この『ドーン』の布石というか、ベースの部分みたいなモノは感じられて。まぁ、ちょっと前の本だから情報が微妙に古いし、『ウェブ進化論』も含めて、別に梅田望夫氏にそれほど共感してるわけじゃないんで(一応、ちょっと前にインターネットについてけっこう真剣に考える機会があって、その時に『ウェブ進化論』と『ウェブ人間論』と、茂木健一郎先生との対談『フューチャリスト宣言』は読んではみたんだけど)、今、読んでみてどうこうってハナシではないけど。でも、世代感覚というか、時代感覚みたいなモノの所在というか、ベースみたいなモノは見えた気がする。「あぁ、こういう感覚なのね、やっぱり」みたいな。好き・嫌いは抜きにして。
まぁ、これが SF なのか純文学なのかみたいな不毛な議論には興味がないけど、今の時代を生きてて、それなりにテクノロジーとかネットワークとかコミュニケーションとかの在り方みたいなモノに自覚的に生活してる人なら、わりとフツーに楽しめる、間口の広いエンターテインメントなんじゃないかな、と。まぁ、活字離れが叫ばれてる昨今なだけに、こういう同時代な感覚で書かれた小説は取っ付きやすいだろうし、コミックとかアニメーションとか映画ではなかなか表現できない、小説ならではの情報量と描写表現も味わえるんじゃないかな、なんてちょっとオッサンみたいなことも言いたくなったりして。
MISSION TO MARS
Nov 19, 2009
So solid. So soulful.
"DJ MARKY & Friends Presents MAKOTO"
. VARIOUS ARTISTS (Innerground) ★★★★★
かなり前にアルバム "Believe in My Soul" をレヴューした MAKOTO が、ブラジリアン・ドラムンベースを代表するアーティスト、DJ マーキーが XBS と主宰するレーベル、インナーグラウンドからリリースしたミックス CD。インナーグラウンドの音源を中心に、自作のトラックも随所に使った選曲で、ソウルフルでスムースでありながら適度にアップリフティングな疾走感もあって、すごく MAKOTO らしいミックスに仕上がってる。
MAKOTO とは付き合いが長くて、10 年以上前から彼のトラックはコンスタントにチェックしてきてるけど、まぁ、当時から早熟というか、ビックリするくらいクオリティの高いトラックを作ってたんで、プロデューサーとしては全幅の信頼を置いてるっていうか、まぁ、安心して聴けるアーティストのひとりで、その印象は今も変わってない。ただ、当時は DJ としての印象はそれほど強くなくて、どっちかっつうと「スタジオの人」なイメージだった。でも、それ以降の活動の中で、世界中をツアーして回る中で DJ としてもかなり鍛えられたというか、最近ではすっかり DJ としてのステイタスも確立してて、プロデューサーとしても DJ としてもすごく充実してることが感じられるんだけど、そんな充実ぶりがこの "DJ MARKY & Friends Presents MAKOTO" からも強く伝わってくる。
DJ マーキーが DJ マーキー & フレンズ名義で 2007 年にリリースしたコンピレーション "The Master Plan" にも DJ マーキーとの共作トラックが収録されてたけど、今回の "DJ MARKY & Friends Presents MAKOTO" でも DJ マーキーとの共作トラックを含めて、自分のトラックを随所に混ぜつつ、すごく MAKOTO らしいスムースでソリッドで音楽的なドラムンベースの世界を展開してる。これだけ自然に自作のトラックを混ぜられるのも MAKOTO ならではだと思うし。ワールドワイドなドラムンベース・シーンで活躍しながら、移り変わりの早いシーンのトレンドみたいなモノはリアルに感じて(必要最低限は)キチンと意識しつつも、「芯」みたいな部分は 10 年以上前から全然変わってない。こういうタイプのサウンドがワールドワイドなドラムンベース・シーンでメインストリームなのかっていうと、決してそんなことはないような感じがするけど、でも、いろんなタイプのサウンドのドラムンベースが作られて、細分化しつつ共存してる中で、その中の主要なスタイルのひとつであり、プロデューサーとしても DJ としても、そのシーンを支えてるアーティストのひとりであることは間違いないと思うし。
まぁ、初めて会った頃の「シャイな若者」な印象が強いんで(その印象が今も基本的には変わってないけど)、ついつい年上風を吹かせて「頑張ってるなぁ」とか言いたくなっちゃうけど、いろいろなことに翻弄されながらも地に足着けて活動し続けてきたことには、ただただリスペクトを感じつつも、そんな個人的な感慨は抜きにしても、純粋に 1 枚の作品として、フツーにいいミックスだなって思ったりもする。それが一番大事なことだし。フツーに、贔屓目抜きにして、最近愛聴してる 1 枚なんで。特に夜中にランニングするときの BGM としては、最近、DJ AKi くんにもらったミックスと並んで、ヘヴィー・ローテーション中。すごくシックリくる。ただ、このアートワークに関しては、正直、ナゾではあるけど。
試聴用のサンプルを貼りたかったんだけどミックス CD は貼りにくいんでナシで。Beatport とかで聴けるんで、興味があったらそっちをチェックしてもらえれば。そういえば、今週末にはリリース・パーティ @ LOOP もあるらしい。行けるかわかんないけど。
HUMAN ELEMENTS
Nov 17, 2009
El espíritu detrás de la máscara.
『ルチャの狂気 覆面の孤独』
. :大川 昇 著(コトブキヤ) ★★★☆☆
一昨日のエントリーの『ラジカセのデザイン!』に続いて、ってわけでもないけど、もう一冊、写真集っぽくない版型の写真集を。自ら「'プロカメラマン' というよりは 'プロレスカメラマン'」という著者が 20 年以上に渡って撮り続けてきたメキシカン・プロレス=ルチャ・リブレの写真をまとめたモノ、って言っちゃえばそれまでなんだけど、なんか、こう、迫りくるような、不思議なパワーを持った写真ばかり(出版元のサイトで何枚か見れる)で、なかなか趣き深い一冊なので。
ちょっと好きな人には広く知られてる通り、「ルチャ・リブレ(lucha libre)」ってのは「自由な戦い」って意味のスペイン語で、メキシコではかなりポピュラーなスポーツ(っていうか、感覚的には大衆娯楽に近いのかな?)。一般的には、覆面レスラーが多くて、派手な空中殺法とかスピーディなボディ・ムーヴが特徴(実際には、別に空中殺法ばかりじゃないらしいけど)。あと、覆面とか髪とかを賭けて戦う試合(日本では「覆面剥ぎデスマッチ」とか「ヘアー・デスマッチ」とか呼んでたかな?)なんかも、ルチャの特徴かな。
別に、特にルチャ・マニアなわけではないんで、詳しくはわかんないんだけど、それでも、写真を見てると、キレイなお姉ちゃんを従えて登場してくる感じとか、花火とか派手な仕掛けとか、アメリカン・プロレス的な仕掛けもありつつも、覆面とコスチュームの独特なデザイン・センスとか、やっぱルチャ以外の何モノでもない世界観はすごく強く感じる(ちょっと、ブラジルのカーニヴァルのヴィジュアル・センスとか空気感に似てるかな?)。っつうか、そもそも、半裸の男がマスクを被って戦ってる時点である種、異様だったりもするわけで。アメリカでもヨーロッパでもないアジアでもないセンスっていうか、そういう空気感みたいのがすごく面白いし、興味深い。あと、やっぱ、空中殺法=トペ・スイシーダの写真のカッコよさは際立ってる。もう、単純に美しいし。ホントに「翔んで」る。特にドス・カラス Jr. とか、もう、ホレボレするくらいフォトジェニックで。
思えば、多くの 30 代後半の日本人男性のご多分に漏れず、覆面レスラー / メキシカン・プロレスとの出会いはミル・マスカラスとドス・カラスのマスカラス・ブラザーズだったわけで(動きが遅くて飛ばないエル・カネックはあまり好きじゃなかった)、小学生の頃はマス・カラスが会場に投げるマスクが超欲しかった(でも、ドス・カラスのほうが、ちょっとスリムで好きだったりもしたんだけど。基本的に「弟派」なんで)し、「ミル・マスカラス(mil máscaras)」ってのが「1000 のマスク」って意味だってこととか、「ルチャ・リブレ」とか「プランチャ(・スイシーダ)」とか「トペ・コン・ヒーロ」って単語を、意味も解らずに覚えようとしてた。たぶん、人生の中でのメキシコって国とのファースト・コンタクトだったし、メキシコに対する基本的なイメージはこの頃に刷り込まれた気がするし。まぁ、出会いとしては、すごくいい出会いだったと思うけど。その後は、覆面レスラーっていっても日本人レスラーの印象のほうが強くて、例えば、初代タイガー・マスク(≒佐山聡)とか(スーパー・)ストロング・マシーン辺りはけっこう好きで、獣神サンダー・ライガーくらいまでは観てたけど、ウルティモ・ドラゴンとか三沢光晴のタイガー・マスク辺りになるとあまり観てないし。個人的な嗜好が UWF 〜 リングス 〜 総合格闘技 〜 MMA って流れに向かうに従って、いわゆる「プロレス」的なモノからは離れるようになっちゃったんで。
でも、最近、にわかに興味が出てきたっていうか、文化としてとか、デザインとしてとか、そういう面ですごく興味が湧いてきてたりもする。たぶん、ラテン・アメリカには、あまりにも強大で、いろんな面でその影響をまともに受けてて、でも、抗わずにはいられない存在としてアメリカって国が常に意識にあると思うんだけど、そのアメリカの一番近くで、長い国境を接しながら、それでもあくまでもラテン・アメリカであり続けるメキシコの歴史とか在り方とかって、すごく興味があるし。そうやってアメリカに抗いながらも、ラフで豪快でゴキゲンで、でも、ノーテンキなだけじゃない感じとか、すごくいいし。
実際、写真を見てると、何と言うか、すごく色彩豊かでカラフルだし、仕掛けも派手だし、ゴキゲンで陽気な感じがするのに、一方で、そこにはモノ悲しさというか、哀愁みたいなモノが漂ってて、だからこその生々しくてリアルに感じられて。なんか、上っ面だけの作りモノじゃない感じというか、ある意味ですごく非現実的な光景なのに、同時に、すごく土着してるようにも見えて。そういう感じが、なんか、すごく味わい深い。トペ・スイシーダの写真とか、ホントに美しくて、でも同時に、この人たちはなんでそこまでするの? 的な思いももたげてきたりして。
あと、やっぱ覆面。スゲェ気になる。まぁ、もともと、アステカ文明の伝統の影響でマスク的なモノが神聖化されてるみたいなハナシは聞いたことがあるけど(ホントかどうかナゾだけど)、それにしても、こんなにも一般的になってると、その深層にどういう意識があるのか、すごく気になるし。それこそ、シャア・アズナブルじゃないけど、マスクで素顔を隠して別のキャラクターになりきるって行為自体にも、根源的な何かがあるだろうし、それを見てあれだけ喜ぶってところにも何かディープなモノがありそうだし。人は覆面に何を感じ、何を求めてるんだろう? って。あと、覆面が剥がされそうになってる写真とか、ホントは覆面が非現実なのに、破れたところから覗いてる顔の一部のほうが逆に非現実的に感じられたりして、なんか、すごく不思議な感じがするし。
まぁ、写真集としては、もっと大きなサイズで見たかったなぁなんて思う部分もありつつ、写真の合間に挟まってる詩のセレクトがビミョーな感じというか、ちょっと違和感を感じたりもするけど(まぁ、著者の好みなんだろうけど)、 でも、写真のパワーは圧倒的。静止画なのにスゲエ動きがあるっていうか、躍動感があって。なかなかヤバイ仕上がりの一冊だな、と。
mil máscaras
Nov 16, 2009
El sonido de la cubanida.
"Gilles Peterson presents Havana Cultura - New Cuba Sound"
. Various Artists (Brownswood) ★★★★☆
元トーキング・ラウド / 現ブラウンズウッド主宰者で、DJ / コンパイラーとして知られ、これまでにもたびたびレヴューしてるジャイルス・ピーターソンが、今回、ピックアップしたのはキューバ。まぁ、'ジャイルス・イン・キューバ' って聞いただけで悪いわけがないというか、間違いない感じなんだけど、正直、期待以上の出来映えだった。リリースは先月だったかな? こないだ、リリース・パーティで来日してたし(ジャイルス本人はよく来てるけど)。どうも、ハヴァナ・クラブ絡みで始まったプロジェクトだったっぽくて、詳細はスペシャル・サイトで観れる・聴けるんだけど、ハナシだけ聞いたときにはてっきり 'キューバン・レア・グルーヴ' 的な、お宝発掘系か、"Gilles Peterson in Brazil" と "Gilles Peterson Back in Brazil" みたいな新旧音源のハイブリッド的なコンピレーションなのかと勝手に思ってたら、それどころか、もっと気合いが入った内容で。
どういうことかっていうと、既発曲のコンピレーションじゃなくて、ジャイルスがプロデューサーとして新たに制作した CD x 2 枚組だ、と。ディスク 1 は、現在のキューバ音楽の首領とも言えるピアニスト、ロベルト・フォンセカとガッチリ組んで現地のミュージシャンたちと作ったジャイルス・ピーターソン & ハヴァナ・カルチュラ・バンド名義のキューバン・ジャズ・アルバム的な内容で、ケニー・ドーハムの "Afrodisia" とかフェラ・クティの "Roforofo Fight" とかのカヴァー等が収録されてるんだけど、ここでもやっぱり目を引くのはジェイ・ディー a.k.a. J・ディラの "Think Twice" が選曲されてること。こないだレヴューしたロバート・グラスパー然り、カルロス・ニーノとミゲル・アットウッド・ファーガソン然り、みんな、どれだけジェイ・ディーのことが好きなんだよ、って。
ディスク 2 は、ハヴァナの街でジャイルスが見つけたアーティストたちのトラックを集めたコンピレーション的な内容なんだけど、R&B 風あり、メロウなヒップ・ホップあり、ちょっとレゲトン風ありと、キューバなフレイヴァーは随所に感じさせつつも、決して懐古主義的な伝統芸能ではなくて、現在進行形のキューバなサウンドでなかなかクール。キューバって、あういう国なんで(だからこそ、って言うこともできるのかもしれないけど)、'最先端' のサウンドってどんなことになってるのか、すごく興味があるし。
まぁ、そんな内容なんで、キューバ / ラテン音楽好きはもちろん、ジャズ / レア・グルーヴ的な視点(っつうか、ジャイルス的な視点)の音楽が好きなら間違いなく楽しめる好企画の好盤。あえて苦言を呈すと、できれば、もうちょっと温かい季節に聴きたかったかな。
GILLES PETERSON & HAVANA CULTURA BAND Feat. DANAY and OBSESION "Think Twice"
(From "Gilles Peterson presents Havana Cultura - New Cuba Sound" Disc 1)
Nov 15, 2009
Boombox blues.
『ラジカセのデザイン! JAPANESE OLD BOOMBOX DESIGN CATALOG』
. :松崎 順一 著(青幻舎) ★★★★☆
これは、もう、タイトル通りっつうか、ヤラれた感抜群っつうか、ヤバくないわけがない一冊。まぁ、いろんなラジカセの写真がたくさん載ってるだけの本なんだけど。でも、それで、十分すぎるほど成立してる。やっぱ、何とも言えない味わいっつうか、いい感じのオールドスクール感っつうか、なんか、妙にワクワクさせられるから不思議。
もちろん、ラジカセってのは「ラジオ+カセット(テープ)」なわけで(言うまでもなく和製英語。英語では 'boombox')、今じゃどっちもすっかり身近じゃなくなってるけど(もちろん、B-BOY 的にはカセットには思い入れがある)、別にノスタルジアとかじゃなくて、全然別の次元で、ラジカセって、なんか魅かれる。何がそんなにツボなのかわかんないけど。デザイン的なことのような気もするし、いい感じのポータブル感(少なくとも、ステレオ・セットとかに比べて、ってこと。でも、決してハンディではない存在感というか)のような気もするし、メカメカしい感じなのような気もするし。まぁ、とにかく、懐かしさだけじゃない、もっと普遍的な(なんて言ったら大袈裟だけど)何かがあるような気がして。
まぁ、いろんなタイプのラジカセがこれでもかって載ってて、見てるだけで全然飽きない。オールドスクール・ヒップ・ホップ・フレイヴァー漂うデカイヤツはもちろん、初期のデザインもカッコイイし、ソニーのスポーツ・シリーズとか、マイ・ファースト・ソニーとかも、今、見ても全然アリな感じだし。この頃はまだ頑張ってたっつうか、ソニーがソニーだったなぁ、なんてちょっと切なくなったりもして。思えば、こんなにメカメカしいメカって、触らなくなって久しいし。ガチャ、って感じの再生ボタンとか。ガンダムを彷彿とさせる V 字型の 2 本アンテナとか、メチャメチャカッコイイし。なんか、使えるんだか使えないんだかわからん機能とのハイブリッドなヤツとかも、バカっぽくて、でも、妙にカッコよくて、ヤバすぎるし。
まぁ、バカバカしいって言っちゃえば相当バカバカしい本ではあるんだけど、でも、なんか、こうやっていろんなデザインを並べられると、最近忘れちゃいがちな、ちょっと大事なことが隠されてる気もしてて。発想が自由で、ラフで、質実剛健で、豪快な感じは、ちょっと見習いたい。
L. L. COOL J "I Can't Live Without My Radio" (From "Radio")
Nov 14, 2009
The bricoleur of thoughts.
Claude Lévi-Strauss (1908 - 2009)
もう何日も経っちゃったけど、前にレビューした『サンパウロへのサウダージ』の著者であり、文化人類学者・社会人類学者・思想家のクロード・レヴィ=ストロース(写真は 1935 年にブラジルで撮影されたモノ)が 10 月 30 日に亡くなった。享年、なんと 100 歳。11 月 28 日に 101 歳になる直前の死だったってことになる。
レヴィ=ストロースっていえば、一般的には「構造主義の祖」として知られてて、「20 世紀の思想家で最後の巨匠」って言われてる人物。まぁ、肩書きが「思想家」って時点で既にメチャメチャカッコイイなぁ、とか思っちゃうんだけど、個人的に一番シックリきたっていうか、グッときちゃったのは「ブリコラージュ」かな、やっぱ(そういえば、アモン・トビンのアルバムとか坂本龍一さんのリミックス・アルバムのタイトルになってる言葉でもある)。まぁ、概要はウィキペディアでも、詳細は 1962 年の名著『野生の思考』なんかを参照って感じだけど、理論や設計図に基づいてモノを作る「エンジニアリング」とは対照的なモノ作りのカタチとしての「ブリコラージュ」に、なんか、すごくプリミティヴな、ちょっとヒップ・ホップ的なフレイヴァーを感じちゃうんで。前に仕事で関わってたプロジェクトのコンセプト作りの大きな参考にもなったりしたし。計算とか打算とかとは違う次元にある、プリミティヴなクリエイティヴィティのカタチみたいなイメージかな。ちょっとラフで、乱暴で、でも、パワフルで、人間的で。そういう、なんか小細工抜きな感じが、すごくヒップ・ホップ的な感じがして、すごくいいな、と。一般的には、レヴィ=ストロースとか「ブリコラージュ」がそういう文脈で語られることはないと思うけど(見たことないし)、でも、個人的には、なんかシックリくる感じがする。
あと、やっぱりブラジルとの親和性も親近感を感じちゃうところではある。名著の誉れ高い『悲しき熱帯 I / (同) II』はもちろん、前にレビューした『サンパウロへのサウダージ』もブラジルもそうだし。なんか、ブラジルと縁があるらしく、しかも、全然ブラジル絡みの文脈で興味を持ったんじゃないのに、ブラジルでつながった感じも、なんかちょっと因縁めいてて気になるな、と。
あらためて、享年 100 歳。死因は報じられてないっぽいけど、まぁ、寿命っつうか、大往生っつうか、人生を全うしたって言って差し支えないのかな。まぁ、まだまだ勉強されてもらいたいこともたくさんあるし、今の自分の周りで起こっていることなんかに応用可能なことはいくらでもありそうだし。肉体は死しても遺した作品は死なないので、これからも、ことあるごとにいろんなところで引っかかりそうな予感はしてる。 ー R. I. P.








