『文明としてのツーリズム』
. :神崎 宣武 編著(人文書館) ★★★☆☆
そこに何かの法則があるのかはわからないけど、その本を探してるわけでもないのに、何度も、しかも違う複数の書店でなぜか出会って、妙に引っかかる本っていうのがある。パラパラっと中身を見てみて別にいいやって思ったり、高いって思ったりして買わなかったのに、その後もやっぱりまた引っかかって手に取ってる。これも何かの縁なのかな、と思って買ってみることもあるし、買わないこともあるけど、この『文明としてのツーリズム』は買ってみた例。タイトルが引っかかったのか、妙に細長い版型とわりといい感じの装丁が引っかかったのか、わかんないけど。別に著者を知ってるわけでもないのに。
まぁ、学問としてツーリズムを研究してるんで、文章自体が読み物として面白いかっていうと微妙だけど、内容自体はなかなか面白い。江戸時代には日本ではもう「寺社詣で」ってカタチの庶民向けのツアーがあって(庶民の旅は禁止されてたんだけど、「寺社詣で」は例外的に認められてて、ほぼ「寺社詣で」をお題目にして豪遊してたらしい)、しかも、それが世界の旅行業の元祖、トーマス・クックより 100 年以上前だったってハナシとか、その時代からあったセックス・ツーリズムのハナシとか、近代の国策としての観光立国化、特にエコ・ツーリズムとかヘリテージ・ツーリズムのハナシとか。コスタ・リカとか、キューバとか、つながってくる。
あと、そのベースになってる部分で、現代が抱えるジレンマとして挙げられた
・原子力や核に代表される「巨大な力」を手に入れたけど、その力が巨大すぎて扱いが難しい。
・生産や輸送など、多様な利便と豊かな生活を手に入れた反面、逆に体力は衰えて、過剰栄養と飢餓という、正反対の恐怖が併存している。
・高度に発達した科学・技術が専門化し、異分野間の対話をほぼ不可能にして、その結果、自然と人間、科学と技術、社会と文化、政治と経済などを総合的にとらえて、望ましい未来を展望することができない。
という 3 点と、情報の持つ機能として挙げられた
・メッセージ性:生産・流通・研究・事務など、人間の身体外の装置と制度に作用して、その機能や効率を上げる。
・マッサージ性:人間の感覚機能に作用して、心身を喜ばせたり、楽しませたり、珍しがらせたり、面白がらせる。
というふたつ。この辺を整理すると、ツーリズムだけじゃなく、いろいろなモノに適用・応用できそう。「メッセージ」っていうよりもうちょっとファンクショナルで無機質な感じの言葉のほうが合うと思うけど、「メッセージ」と「マッサージ」ってのも語感としてはいい。
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