"River: NIKE+ Original Run".REI HARAKAMI
(NIKE+ / iTunes Store) ★★★★★
ちょっと前に砂原良徳の "LOVEBEAT" と小沢健二の "Ecology Of Everyday Life - 毎日の環境学" をレヴューしたけど、別にティピカルに日本っぽいわけではないのに、なぜかすごく日本人っぽさとか日本ならではの美意識を強く感じさせて、なおかつ、日本が世界に誇るべきメイド・イン・ジャパンのエレクトロニカって言えば、やっぱり忘れちゃいけないアーティストととしてレイ・ハラカミさんがいる。
レイ・ハラカミさんっていえば、1998 年の "Unrest" を皮切りに、1999 年の "opa*q"、2001 年の "Red Curb"(と "レッドカーブの思い出 - trace of red curb dedicated from rei harakami")、2005 年の "Lust"、2006 年の "わすれもの"、今年リリースされた "あさげ - selected re-mix & re-arrangement works / 1" と "ゆうげ - selected re-mix & re-arrangement works / 2"、さらにハラカミさんのことを「世界遺産」と称してベタ褒めしてる矢野顕子さんとのユニット、yanokami 名義の "yanokami"(2007 年)と "yanokamick - yanokami English version -"(2008 年)と素晴らしい出来映えの作品が多いアーティスト。どれか 1 枚を選ぶのは難しいんで、ここはあえて、ちょっと毛色の違う、でもやっぱりハラカミさんらしさが見事にでてていい感じの仕上がりの "River: NIKE+ Original Run" を取り上げてみようかな、と。個人的にもすごく気に入ってるし、思い入れもあったりするんで。
前にデ・ラ・ソウルの "Are You In?: NIKE+ Original Run" をレビューしたときにも触れたけど、'NIKE+ Original Run' ってのは NIKE+(ナイキの専用スニーカーにセンサーを、iPod nano にレシーバーを装着して音楽を聴きながらランニング / ワークアウトすることで、タイムや距離、消費カロリー等を計測し、そのデータを iTunes と専用サイトを使って管理できるナイキとアップルのコラボレーション・プロジェクト)を使ったワークアウトのために iTunes Store エクスクルーシヴで提供(販売)されてるオリジナル・ミックスで、これまでにも沖野修也さん、DJ AKi くん、ファンタスティック・プラスティック・マシーン、クリスタル・メソッド等が手掛けてる。
この "River: NIKE+ Original Run" はレイ・ハラカミさんがワークアウトを想定して自分の作品をシークエンス & ミックス & エディットして 2007 年に制作した約 36 分のミックス(収録曲は iTunes Store で確認できる)で、テーマは「River(川)」。京都・鴨川の近くに住んでるというハラカミさんがこの企画のハナシを聞いて最初にイメージしたのは「川」、具体的にはやっぱり自分にとって身近な鴨川だったんだとか。まぁ、ご存知の通り、ハラカミさん自身はランニングとかする感じのキャラクターではないし、サウンド的にも攻撃的にガンガン攻めるみたいな作風ではないんだけど、本人も鴨川沿いを散歩したりすることは多いらしく、そんなイメージも反映させつつ、ウォーミング・アップ / クール・ダウン〜ウォーキング〜ジョギングからランニングまでカヴァーした、歩きたければ歩けばいいし、走りたくなったら走ればいい、そんな自由な感覚で楽しむようなワークアウトをイメージしたミックスに仕上がった、と。まぁ、ハラカミさんはこれまでに映画『天然コケッコー』のサウンドトラックとか日本科学未来館のプラネタリウムとかも手掛けてるわけで、ランニングとかワークアウトとかだけを考えるとイメージが結び付きにくいところもあるけど、「ある特定のシチュエーションで聴くことを想定したサウンドトラック」って考えれば決してないハナシではないどころか、まさにうってつけの人材だったりするわけで。まぁ、実際、その期待を裏切らない出来映えでもあるし。
実はこのミックスの制作にはちょっと噛んでるというか、手伝わせてもらった(インタヴューをさせてもらって、iTunes Store で購入すると付いてくるデジタル・ブックレットとか公式ブログ等に反映させたり、アートワークの写真を撮ったり。写真は京都の賀茂川。もしかしたら高野川側だったかも? 鴨川との違いについてはウィキペディアを参照)んで、ちょっと手前味噌な部分もあったりするんだけど、でも、まぁ、それを抜きにしてもすごくいい出来映えなんで。純粋にひとつのミックスとして聴いても楽しめるけど、やっぱり真価を発揮するのは、ワークアウトの時かな。
ハラカミさんの音楽って、どっちかっつうと静的というか、あまりアクティヴな印象はないかもしれないけど、それがなかなかどうして、ランニングみたいなシンプルでプリミティヴで、ある意味、すごくミニマルな運動にはけっこうマッチする。一部のブログなんかで「ただの既存曲のミックスじゃん! 買う必要なし!」みたいな意見も見かけた気がするけど(まぁ、間違いじゃないし)、そういう人はワークアウトに使ってないんだろうなぁ、なんて思ったり。別にワークアウトに使おうが使うまいがそんなことはその人の勝手なんで別にどーでもいいことなんだけど、単純に、もったいないというか、かわいそうというか、ちょっとそういう気分にはなっちゃう。
それは、ワークアウトで使うとちょっと違った聴こえ方をするっていうか、違う魅力が発見できたりするから。ウォーキングやランニングをしてると、他のことがまったくできないし、余計なことが考えられないからか、思考が単純化されて集中力が増すような感じがするし、五感が研ぎ澄まされる感じもしてくる。あと、フィジカルに単純な反復運動・有酸素運動をしてるから、ちょっとトランシーな感じにもなるし。ウォーキングやランニングに音楽がピッタリって側面ももちろんあるんだけど、逆に、音楽を聴くにはウォーキングやランニングがピッタリっていう側面もあるような気がしてて。音楽を聴くシチュエーションのひとつとしてもアリだな、と。フィジカルな感覚と聴覚がダイレクトに結び付く感覚みたいなモノがあって。そして、そのために作られてるミックスなら、当然、そういう状況でこそ、最大限の効果を発揮する、と。まぁ、当たり前のハナシだけど、これがなかなか、体験してみると新鮮且つ快感で。
ハラカミさんっていうと、どうしても京都、具体的には鴨川をイメージしちゃいがちだし、サウンド的には早朝なんかがベスト・マッチな感じがするんだけど、実際に使ってみると、わりとどこでも、どんな時間帯でもシックリきて、なかなか汎用性が高かったりもする。個人的には、ウォーム・アップからクール・ダウンまで入れて、5km 程度のワークアウトにピッタリなミックスとして愛用しつつ、もちろん、普通にミックスとして聴いて楽しんでたりもするんだけど。
後から考えてみても、「River(川)」ってテーマはあらためてピッタリだなぁ、と思う。ハラカミさん的には「立ち止まることなく走り続けられる場所」ってことから思いついたらしいんだけど、特に過剰な主張をするわけでもなく「ただ、いつも同じように、そしていつまでも流れ続けてる」ってだけで、何とも言えない情緒を感じさせる「川」っていう空間の持つ何とも言えない感覚は、ハラカミさんの音楽にもピッタリ当てはまるなぁ、なんて思ったり。
そういえば、今回、あらためてアートワークの写真を見てて思い出したんだけど、写真に写ってる電線を消さなかったのはハラカミさんの意図。別に消そうと思えばフォトショップとかで簡単に消せるけど、あえて、残してくれ、と。なんか、すごくハラカミさんっぽいエピソードだな、って。
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