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1984 年 4 月 1 日に牧師である父親に射殺されるというショッキングなカタチでこの世を去った不世出のソウル・シンガー、マーヴィン・ゲイ。別に命日だってことを意識してたわけじゃなかったんだけど、なぜか、今日、このアルバムを聴いてた。で、さっき、タワー・レコードで見かけた『bounce』の表紙がマーヴィンで、中を見たら 25 周忌だってことを思い出して。なんか、不思議なモンだなぁ、と。
この "What's Going On" はもちろん、言わずと知れた不朽の名盤なわけで、今さらあーだこーだ言うまでもない作品なんだけど、個人的にもすごく思い入れのある 1 枚で、「好きなアルバムを x 枚選べ」と言われれば、それが何枚でも必ず入るアルバムだったりする。1 枚って言われても選ぶんだから、一番好きなアルバムって言えるのかも。
初めてマーヴィンのことを知ったのはたぶん中学生のとき。佐野元春の『ダウンタウン・ボーイ』って曲の歌詞に「マーヴィン・ゲイの悲しげなソウルにリズム合わせていけば この街でまたひとつ誰かの愛を失いそうさ♪」って一節があって、当時はソウル・ミュージックなんて聴いてなかったと思うんだけど、なんとなく、「マーヴィン・ゲイ=悲しげなソウル(・ミュージック)」って無意識に刷り込まれてて。
60s ロック〜モッズ辺りから掘っていってソウル・ミュージックに興味が出てきたのは高校生になってからだと思うんだけど、いざ、ソウル・ミュージックを聴こうって思った時に、思い出したのがこの一節で、当然、マーヴィン・ゲイを聴こう、と。当時は金もなかったし、値段の安い輸入盤が身近で買える環境じゃなかった(地元・横須賀は言わずもがな、横浜でも輸入盤が買える場所なんて限られてた)から、本とか立ち読みして調べたら、代表作は "What's Going On" だと。じゃあ、ってことで買ってみてビックリ。もちろん、いい意味で。「ホントに悲しげじゃん! しかも、メチャメチャ悲しげじゃん!」って。当時はブラック・ミュージックと言えば、チャラチャラしたブラック・コンテンポラリーの時代で、そういうのはすごくキライで、それと 60s ロック〜モッズのルーツであるソウル・ミュージックって全然結び付かなかったんだけど、"What's Going On" はそのどっちとも印象が違ってて。なんなんだ、これは?! って戸惑ったのをすごくよく覚えてる。
それまでに聴いていたものとはまるで違ってて、すごく洗練されてるんだけどパワフルで、悲しげなんだけどただネガティヴでブルーなわけじゃなくて、目からウロコっていうか、こういう音楽もあるんだなぁ、こういうのがソウル・ミュージックなんだぁ、「ソウル=魂」っつうくらいだから、やっぱこのくらいのモンなんだよなぁ、って思った(まぁ、間違いじゃないにしても、多少誤解はあったと思うけど)し、自分の中のソウル・ミュージックの基準はこの 1 枚になったって言っても過言じゃない。当時は金もなかったせいもあるけど、そういうのを抜きにしても、何回聴いたかわからない。歌詞もわりと聴き取りやすくて、メッセージも明確だから、英語を喋れるようになりかけてた時期だっただけに、すごく勉強にもなったし、ベトナム戦争とか公民権運動〜ブラック・パワーとかのことを勉強したり、そして何より、その後、何十年もブラック・ミュージックの泥沼(?)にズブズブとハマっていくキッカケになった 1 枚でもあったのかも。
内容を今さら、わざわざレビューするのも恐縮というか、無粋な感じもするけど、まぁ、一応、ザックリと言っちゃうと、この世の春を謳歌した 50 年代、ポジティヴで激しかった 60 年代を経て、アメリカ社会の影の部分が露呈してきた 70 年代初頭の閉塞感とか虚脱感みたいなモノを背景にしつつ、個の殻に閉じこもるようなロック / フォークや、よりラディカルで攻撃的になっていくブラック・ミュージックが多かった中で、そうではなく、厳しい現実と向き合いつつももっと大きなヴィジョンを、優しく、力強く、慈愛を持って歌い上げた 1 枚、ってことになるのかな。何か悟ったような表情を見せるアートワーク・カバーの写真のイメージのまんま、「聖なる」印象の 'holy' な 1 枚。でも、実際には悟ってたわけでも何でもなくて、本人の中にはかなり葛藤があって精神的にはかなり揺れてたらしいんだけど(だからこそ、直後に正反対の「俗」な "Let's Get It On" なんてアルバムを作ってるわけで)、それもまた人間っぽくて良かったりして。そういうアンバランスな精神状態が生み出した奇跡的なアルバムってことなんだ、と。まぁ、歴史的な意義としては、60 年代に一世を風靡したモータウンっていうヒット曲量産システムをブッ壊すキッカケになったアルバムでもあったりするし、それは同時に、アーティストが単なるシンガーの枠を超えて、ソングライター / プロデューサーとしてのアイデンティティを発揮するようになる時代を予見させるモノであったとも言える。もちろん、後世のブラック・ミュージック / クラブ・ミュージックに与えた影響の大きさも計り知れない。
「不朽の名盤」とは上手いこと言ったもんで、朽ち果てることのない名作であることは間違いない。っつうか、歌ってることとか、今でもメチャメチャリアルだし。40 年近く経ってるにも関わらず。まさに世界は 'What's going on?!' な状態な昨今なだけに。そういえば、'ecology' って単語を初めて知ったのもこのアルバムだと思う。政治問題・環境問題・戦争等々、今、聴いても、っつうか、今、聴くと、すごくリアルに響いてくる。
オリジナルのリリースは 1971 年なんだけど、リンク先のヤツは後にリリースされたデラックス・エディションで、お宝音源が追加されてる CD 2 枚組・全 34 曲っていうヴォリューム(但し、上の写真はオリジナルのアートワーク)。まぁ、アーティスト本人の死後にこういうカタチで未発表音源を追加しちゃうっていうこと自体に賛否があるのは理解できる。アルバムとしてはオリジナル盤だけで完璧なまでに完成してるし。でも、そういう議論とは別の次元で、個人的にはこのデラックス・エディションすごく衝撃的だったんで、あえてこのデラックス・エディションがいいかな、と。キモは、アルバムとしてリリースされたミックス(LA ミックス)とは別の、デトロイトでミックスされた音源(デトロイト・ミックス)が収録されてること。経緯としては、もともとはデトロイトでマーヴィンが立ち会わずにミックスが行われたんだけど、出来が不満だったマーヴィンが LA でミックスし直した、ってことなんだけど、聴いてみれば明らかに LA ミックスのほうが出来が良くて。
結果としては正しいことをしたんだし、わざわざ出来の悪いデトロイト・ミックスを世に出す必要があったのか? っていうとビミョーなんだけど、このデラックス・エディションがリリースされた当時、レコード会社で A&R として働いてたんで、笑えないというか、いろいろ考えさせられた。マスタリングのリコールならともかく、ミックスのやり直しってすごく大変だし、時間も予算もかかるわけで。無責任に諸手を挙げて絶賛しにくかったりもしつつ、でも、やっぱり、勇気を持ってやり直すべきはやり直したほうがいいというか、これだけ出来に違いが出ちゃうんだなぁ、って。レコード作りの難しさとか怖さとかを実感させられたところもあったりして。そういう意味でも、思い出深い 1 枚だったりして。
ちなみに、命日の翌日の 4 月 2 日は 70 回目の誕生日でもある(そういえば、10 年前には "Marvin Is 60" なんてトリビュート・アルバムも出てた)。
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