2009/05/20

Cycling blues.

『自転車の安全鉄則』疋田 智 著朝日新書)
 Link(s): Amazon.co.jp / Rakuten Books

新書は好きじゃないと言いながらもちょこちょこと新書をレビューする、しかも(良くも悪くも)すごく新書っぽい本をレビューするのは個人的にはどうかと思うけど、まぁ、最近すごく気になってたトピックについてのモノだったんで、ついつい読んじゃった。タイトル通り、「自転車についての基礎知識」についての一冊。自転車好きの目から見ても、最近、いろいろ目に余ることが多いんで、人に文句を言ったりどうあるべきか考える前提として、まずは自分が、あらためてキチンと整理しておこうかな、と。

著者はメディアでも目にすることの多い「自転車ツーキニスト」(この呼び名はどうかと思うけど)で、自転車に関する著書も多い疋田智氏。この人のルックスを見ると、ついついライムスターのMC、宇多丸を思い出しちゃうし(別にいい意味でも悪い意味でもないけど)、TV 局勤務だからか、広い意味でのスタイリング(ネーミングとかアート・ディレクションとかの部分で)というか、センス的な部分がピンとこないからか、ビミョーに胡散臭さを感じちゃう部分もあるんだけど、NPO 法人・自転車活用推進研究会の理事だったりもして、各種メディアで訴えてることは一理あることも多かったりする。

日本にはまだ未発掘の大きな油田がある。しかもその油は、燃やしても京都議定書に引っかかるような地球温暖化ガスを出さない。その油とは、多くの人が腹に抱える皮下脂肪である。

第 1 章の冒頭にはバルセロナ・オリンピックの自転車競技代表の江原政光氏のこんな言葉が引用されてるんだけど、まぁ、言い得て妙というか、すごくナイス・パンチ・ライン。皮下脂肪を燃焼させて「自転車」を交通手段として活かす、つまり、スポーツやリクリエーションとしてだけでなく、あくまでも日常の移動・交通手段、車(特に自家用車)やバイクの代替手段として自転車を活用することができる、と。しかも、渋滞緩和によるビジネス効率の向上、交通死亡事故の現象、健康の維持と医療費の減少、そして化石燃料使用の軽減という 4 つのメリットが得られる。まぁ、言ってみればいいことずくめってこと。

ただ、日本の現状はというと、散々たる有様というか、ヒドイ状態。これは日常的に自転車に乗ってて実感してることだけど、その辺のことがあらためて確認できる。ママチャリにしても、自転車が歩道を走ってるのも、ケータイをいじりながら走ってるヤツとか傘をさしながら走ってるヤツがいるのも、日本だけだし。その結果として、さもありなんって感じだけど、自転車事故発生率は過去 10 年以上に渡って先進国で不動のトップなんだとか。曰く、「世界一事故が多く、世界一交通法規を守らず、世界一平均性能が低く、世界一保護されてなくて、世界一野方図で、世界一邪魔にされてる」のが日本の自転車だ、と。理由は単純ではなく、いろいろな要素が複雑に絡まってると思うけど、それを「インフラ」・「法整備」・「教育・啓蒙」という面からまとめてるのが本書。つまり、自転車の楽しさとか自転車から得られるメリットみたいな部分ではなく、あくまでも問題点の面にスポットを当ててるわけで、まぁ、読んでて面白い本かというとビミョーだったりもするんだけど、知ってて当たり前だけど、実は(恐ろしいことに)ほとんど知られてない(もしくは実践されてない)ことがわかりやすくまとまってる。

具体的には、日本ならではの問題であるママチャリと歩道通行の問題から始まって、(自転車側だけでなくドライバーを含む)一般社会のコンセンサスとしての自転車に関する交通法規の無理解及び交通法規の矛盾、ナゾだらけの自転車政策、さらには、ちょっと前に話題になったママチャリの 3 人乗り(お母さん+こども 2 人)から(彼の本業でもある)マス・メディアの取り上げ方まで、多岐に渡るんだけど、まぁ、根本的な問題としてはやっぱり社会としてのリテラシーの低さ、意識の低さに起因するのかな、と。

例えば、そもそも自転車は「速く遠くまで」移動できる性能を持ってることが不可欠で、そうでなきゃ車の代替にはならない(=エコロジカルではない)し、健康的でもない。でも、実際には日本の自転車のほとんど(その多くはママチャリ)その性能を備えてないし。他にも、車道の左側通行を徹底するだけで、事故の頻度を減らし、事故の被害を小さくなるらしいんだけど、でも、現状は車道の左側通行を大きく妨げてる要素として路上駐車の問題もあったりする(ホントにどうにかして欲しい)。それに、ママチャリが車道を走れる性能がないことも明らかだったりもするし(想像するだけで恐ろしい)。すごく簡単で効果は絶大なのにも関わらず、実践するのが難しい状況だったりもしてるってこと。やっぱり、個々人で取り組めるレベルと同時に、それとは別の次元でもっと大きな取り組みも不可欠だな、と。それには社会全体としてのリテラシーを高めていかないと。

そういう「問題」の部分を一通り検証しつつ、トリアージ(医療現場で優先順位をわかりやすく示す色分け)のカタチでまとめてるのが本書で、わかりやすくまとまってるって意味ではアリなんだけど、こういう「問題」だけまとめても、読んでて面白いわけでもワクワクするわけでも便利なわけでもないし、こういう問題にそれなりに興味を持ってないと手にも取らないわけで、アリではあるけど十分ではない感じがする。最近は自転車関連の本とか取り上げる雑誌も多くて、ちょうどさっきもコンビニで『smart』別冊の『smart バイシクル 2000』を立ち読みしてたんだけど、オシャレなチャリとかグッズはたくさん載ってるけど、最低限のルールとか決まりに関しての記事・記述は必ずしも十分じゃない感じがするし。そういう入り口の部分でキチンと伝えたり理解させていかないと、いつまでたっても限界があるよなぁ、なんて感じたりもした。むしろ、楽しさとかカッコよさとか便利さを伝えるときにこそ、リテラシーを高めるチャンスだと思うので。ルールや決まりだけじゃなく、スキルやコツみたいなことも含めて(例えば、ちょっと手とかで合図するだけで、ドライバーの対応はけっこう違う、とか)。あと、自転車ショップで売るときも大事っぽい気もする(ディスカウント店とかじゃ、期待はできないけど)。

思い返してみれば、こどもの頃のヘンテコなチャリ(なんか、変なライトとかいっぱい付いてたヤツ。アレは何チャリって呼ぶんだろ?)を除いても、高校時代は MTB で通学してたし、東京で働き始めてからももう、かれこれ 10 年近く自転車生活をしてる。何がいいかっていうと、たぶん、本質的にはランニングとかトレッキングとかと一緒で「動力=自分」っていうのが、なんかシンプルですごくいいな、と。自分のエネルギーで、頑張っただけキチンと進みから。それに、自力で動くと距離感とか地形とかもリアルに感じられるし、日頃見落としがちなモノが見えたりもする。実は、都内で乗るようになった当初は、自由な感じ(「アナーキーな感じ」と言ってもいいかも)がすごく気に入ってたんだけど。歩道も車道も走れるし、一方通行も関係ないし。終電も気にしないでいいし、都市部なら所要時間も電車と変わらないし。でも、昨今の自転車の流行の悪影響もあるし、ちょっとはオトナにもなったんで、まぁ、さすがにそんなアナーキーなことを言ってられないのが現状なのかな、とは思う。

だからこそ、実際に自転車に乗ったこともないようなヤツが決めた変なルール(規制)ができちゃう前に、チャリンコ乗りひとりひとりがちょっと意識を高めないヤバイんじゃないかな、ってちょっと危機感を感じてたりする。このままの状況が続くと、いろいろ規制しようとするヤツが出てくるから。そいつらはエラソーに車を乗り回してチャリを邪魔者扱いする(ホントにジャマなヤツらも多いのが大きな問題なんだけど)ヤツらだし。最近は新宿とか渋谷でもヘンテコな駐輪場が増えてる(イコール、フツーに駐輪してると撤去される)し。2008 年 6 月の改正道交法で話題になった「ヘッドフォン・ステレオを聴きながらの運転禁止」に関しても、それ以前から禁止だったんだけど、個人的には、そもそもなんで「禁止」なのかナゾだったりするし。もちろん、周りの音が聞こえないほど大音量で音楽を聴きながら乗ってたら危ないけど、そんなのわざわざ「禁止」するまでもなく当たり前だし。でも、周りの音が聞こえる程度の音量で聴くこともすべて危ないから「禁止」するなら、車やバイクだって禁止されて然るべきだし。密閉型のヘッドフォンかイヤフォンかによってもだいぶ違うし。要するに、ひとりひとりが考えて適切な方法を採れば問題ないことを、法律とかで取り締まろうとすると白か黒か、つまり「禁止」するかどうかってカタチでしか規制できないわけで。しかも、それを決めるヤツに自転車リテラシーも想像力も皆無で、マス・メディアもロクに考えもせずにトンチンカンなことを言いまくるとくれば、もう愚の骨頂というか、お先真っ暗なわけで(なんか喫煙規制に似てるような気がするんで、すごくキケンな気がする)。免許だの車検だの罰金だの、いくらでもつまんないことをやりかねない。ヘンテコなことをされちゃう前に、いろいろ考えなきゃいけないことが、すごく多そう。

さすがに、もう、それほどアナーキーなことは言ってられない感じだけど、それでもやっぱり自転車は「自由」であるべきで、その「自由」ってのは、自分で考える(考えなきゃいけない)ってこと、自分で考えて実践するってことを(さらにいえば自己責任ってことも)含んでるわけで。日本人は「自由」がキライというか、苦手というか、なかなか難しいことも多いし、まぁ、ある意味で、日本の社会としてのリテラシーの問題が自転車にも象徴的に表れてるとも言えるのかもしれないけど。まぁ、状況は、キヨシローさんの曲じゃないけど、まさに「サイクリング・ブルース」って感じで、何とかしないとヤバイっぽい。まぁ、とりあえず、個人的にはヘルメットについてちょっと真剣に考えてみようかな、と思ってるけど。

「サイクリング・ブルース」っていえばアルバム "God"(Link: iTS / Amzn)収録の曲と著作(Links: Amzn / Rktn)のタイトルなんだけど、前に『TV Bros』でキヨシローさんが自転車の連載を持ってて、そこで「坂道を上るときは立ちこぎじゃなくてギアを低めに設定して背筋を伸ばす」って言ってたのを毎日坂道を上るときに思い出す、って知り合いの S さんが言ってたんだけど、それを聞いて以来、坂道を登るたびにこの「サイクリング・ブルース」とともにキヨシローさんのことを思い出してる(あと、自転車クラシックと言えばエレファント・カシマシの『Baby 自転車』も忘れがたいけど)。



0 comment(s)::