ちょっと前に砂原良徳の "LOVEBEAT" をレヴューしたけど、それと並ぶパーソナル・クラシック・アルバムが小沢健二のこの "Ecology Of Everyday Life - 毎日の環境学"。別に関連性があるわけじゃないけど、日本人アーティストの美しいインストゥルメンタル・アルバムで、しかも、なんかサウンドの肌触りというか、感触にも共通点みたいなモノを感じてて、自分の中では同じジャンルに分類されてたりするんで、"LOVEBEAT" をレヴューしたならこれも取り上げない手はないだろ、と。別に新譜でもなんでもないけど。
サウンドの肌触りっていうのは、なんか「エレクトロニカ」を感じるってこと。ただ、ここで言う「エレクトロニカ」ってのは、ジャンルとしての「エレクトロニカ」とか手法としての「エレクトロニカ」ではなく、発想としての「エレクトロニカ」みたいな感じなんだけど。すごく感覚的で、上手く言葉で表現できないんだけど(ライターとしてどうなのさ? って気はしてるけど)。別に、いわゆる典型的な「電子音」でも「打ち込み」でもない(実際の手法はわかんないけど、感触として)だけど、なんか音の選び方とか鳴らし方とか配置とか構成とか間の取り方とかが、なんかすごくエレクトロニカっぽい感じがして。
サウンド自体はエレクトロニカでも何でもないんだけど。実際、参加してるミュージシャンは NYC のジャズ系のミュージシャンたちで、前作 "Eclectic" に続いてソウル / ジャズ的な路線ってことなんだと思うけど、音の「鳴り」の印象は全然違ってて。"Eclectic" はわりとオーソドックスなソウル / ジャズ的なマナーなんだけど、この "Ecology Of Everyday Life" はそういう感触じゃなくて。まぁ、アマゾンのカスタマーレビューとかウィキペディアを見るとジャズとかフュージョンとかって言葉が出てきてるけど、個人的にはそういう感じもあまりしてなくて。ジャズって言うなら 1996 年の『球体の奏でる音楽』(これはこれでメチャ名盤だけど)、フュージョンって言うなら "Eclectic" のほうがフュージョンっぽいし。アンビエントって感じでもないし、環境音楽とかニュー・エイジ(スゴイ呼び名だな)とかとも違うし。音自体は生でオーガニックなんだけど、同時にエレクトロニカ的なアブストラクト感というか、クールな感じもありつつ、楽曲としても変に実験的になったりすることなくキチンと成立してて。しかも、レイ・ハラカミさんとか DJ クラッシュさんとにも通じるような、皮膚感覚で「日本人っぽい」って感じられるような独特のフィーリングというか、グルーヴみたいなモノも感じられるし。やっぱり、オーガニックな生楽器の音を使ってエレクトロニカ的な発想で作った音に聴こえる。まぁ、個人の感覚的な主観のレベルのハナシだけど。ただ、ジャズとかフュージョンとか言われてこれを聞いたらちょっと違和感があるんじゃないかなぁ、なんて思ったりもするんで。
小沢健二っていえばもちろん、コーネリアスとして活躍している小山田圭吾と組んでいたユニット、フリッパース・ギターの元メンバーで、ソロ転向後も、1994 年リリースのセカンド・アルバムの "LIFE" の頃にはシングル・ヒットも多くて(スチャダラパーと共演した『今夜はブギー・バック』とか『ラブリー』とか)、TV CF の曲を手掛けたり自ら出演もしたりして、普通にメインストリームのポップ・アーティストとしても活躍したシンガー・ソングライター。まぁ、ヴォーカリストとしての能力に関してはどうかと思ったりもするし、声とか歌い方とかキャラとかが生理的に苦手って人がいるのもわかる気はするけど、それを差し引いても作詞家・作曲家としての能力の高さはこの時代のアーティストの中でもピカイチだと思うし、サウンド・プロダクションのセンスも優れてて、1993 年のファースト・アルバム『犬は吠えるがキャラバンは進む』(これも名盤。1997 年にリマスタリングされて "dogs" として再発された)に収録されてた『天使たちのシーン』とか『指さえも』とか『春にして君を想う』とか名曲がすごく多い。なんか、やっぱりキャラのせいなのか、ちょっと損してる感じがするけど、普通にもっと高く評価されてていいアーティストのような気がする。
この "Ecology Of Everyday Life" は、2002 年リリースの "Eclectic" から 4 年のブランクを挟んで 2006 年にリリースされた 5 枚目のソロ・アルバム(2003 年リリースのベスト盤『刹那』は除く)で、一応、現時点での最新作ってことになる。父親の小澤俊夫氏が主宰する昔ばなし研究所の発行する季刊誌『子どもと昔話』で 2005 年の 25 号から小説『うさぎ!』を連載してるらしく、アートワークにもうさぎが描かれてることから、そのサウンドトラック的な作品って言えるのかもしれない(まぁ、『うさぎ!』に関しては読んでないんで、詳しくはわかんないけど)。
奇しくも、フリッパース・ギターで相方だったコーネリアスも同じような時期にエレクトロニカ的なアプローチの作品("point" とか "Sensuous"とか)を出してるんだけど、アイデア的にも手法的にもサウンド的にも、コーネリアスが「いわゆるエレクトロニカ」感を強く感じさせるのに対して、この "Ecology Of Everyday Life" は全然違うアプローチだったりして、ちょっと面白いな、なんて思ったりもして(コーネリアスも、さすがというか、すごくコーネリアスらしい感じの仕上がりで、わりと面白いアルバムだったりするんだけど)。
このアルバムを出す数年前から、NYC を拠点に環境問題に関するフィールドワークとかを中心に活動してたりするらしいんで、そういう影響もあるんだろうけど、すごくオーガニックで、でもどこかエレクトリックな感じもして、柔らかくて温かくて、でもクールな、そんなサウンドと旋律がすごく印象的な、それこそオーガニック・エレクトロニカとでも呼びたいような 1 枚。リリース当初から何度も聴いてる(iPod には常に入ってる)けど全然飽きないし、似たようなアルバムも簡単には思いつかないし。
* 小沢健二 "The River あの川" (From "Ecology Of Everyday Life - 毎日の環境学")
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