2009/07/09

Underwater soul music.

"Embrya" MAXWELL(Sony 

マックスウェルのニュー・アルバム、"BLACKsummers'night" のエントリーを書いてて、やっぱり触れずにはいられなかったけど書き出したら長くなりそうだったんで、独立したエントリーとしてあらためてマックスウェルのクラシック・アルバムを。

水中でカメラ目線の本人の写真のアートワークがインパクト抜群なこの "Embrya" は 1998 年リリースのセカンド・アルバム。主なリリース経歴は "BLACKsummers'night" のエントリーを参照って感じだけど、1996 年リリースのデビュー・アルバムの "Maxwell's Urban Hang Suite" と翌年の "MTV Unplugged" でシーンで確固たる地位を築いてたわけで、それに続くアルバムってことでかなりシーンの期待が高かった記憶がある。

そんな中でリリースされた "Embrya" は、ヘヴィーなベースとダビーなサウンドが印象的で、シングル向きっぽい曲がほとんどなくて、アルバム全体が一貫したトーン、まぁ、言っちまえば暗くて重い感じのムードで全体で貫かれた、かなりコンセプチュアルな作品だった。

そのサウンドのキー・マンがプロデューサーのスチュワート・マシューマン。唯一無二のサウンドで世界を魅了し続けてるシャーデーのサウンド・プロダクションを担ってる人物で、シャーデーからシャーデー・アドゥを除いたユニットのスウィートバックのメンバーとしても、アメール・ラリューやバハマディアをフィーチャーして 1996 年にリリースしたアルバム "Sweetback" で素晴らしい手腕を披露してたり、コットンベリー名義でプロデュース・ワークやリミックスも手掛けたりしてしてて、派手に取り上げられることこそほとんどないけど、間違いないスキルとセンスで、特に業界内評価の高いアーティストだったりする。スチュワートが絡んだ作品に共通してる特徴は、何と言ってもクールなサウンド・プロダクション。決して無機質なわけでも機械っぽいわけでもないし、グルーヴ感がないわけでもないのに、クールという以外、何とも言えないような独特の音作りはちょっと他に似ているアーティストが思いつかないくらい。

スチュワートはマックスウェルの作品にはデビュー作から関わってて、近い時期に相次いでデビューして「ネオ・ソウル」って言葉で一緒に一括りにされてたディアンジェロとかエリカ・バドゥとはちょっと違う存在感を持つマックスウェルのキャラクターの確立には大きな影響を及ぼしてたと思うけど、そんなスチュワートのサウンドとマックスウェルの神秘的なヴォーカルが見事に化学反応を起こしたようなこの "Embrya" は、アンビエント・ソウル・ミュージックとでも呼びたくなるような、何とも言えないクールでディープでドープなサウンドに仕上がってる。迸るいろいろなものをあえて抑制しまくってるようなマックスウェルのヴォーカルも、ある意味ではメチャメチャソウルフルなんだけど、同時に、声がひとつの楽器のように鳴ってるようなアトモスフェリックでソフィスティケートされた美しさもあって、そんなクールさとか洗練とか美しさの中にある種の狂気みたいなモノを孕んでるようにすら感じらるて。それこそ、初期のマッシヴ・アタックとかにもちょっと近いようなドープでヘヴィーな狂気と、アトモスフェリックで洗練された美しさとか心地よい浮遊感っていう相反する要素が同じサウンドの中に同居してるような不思議な感覚。これに似てるアルバムなんて他には知らないし、単純に R&B / ソウル・ミュージックともダブともアブストラクトとも呼べないし。すごく独特だし、ある意味で奇跡のような 1 枚だなって思ったりしちゃう。

実際、いわゆる一般的な R&B・ソウル / ブラック・ミュージックのメディアやファンにはあまり評判が良くなかったような記憶もある(「求められてるマックスウェル像」とはだいぶ違ったらしい)し、逆にイギリスのアブストラクトとかダブとかを聴いてる人たちには、「アメリカのメインストリーム R&B」みたいな捉えられ方(わりと聴かず嫌いの偏屈な人が多かった気がする)で普通にスルーされてたような気もする。まぁ、音が音だし、実際、キャッチーさとかポップさとかからは対極にあるようなアルバムなんで、誰にでも勧められるようなアルバムではない気もするけど。でも、時代を反映してるサウンドでもなければ、時代に左右されるサウンドでもないし、サウンド自体はこの上なくドープでクールで美しいんで、これまでに何度聴いたかわかんないし、これからもきっと何度も聴き続けることになる。常に iPod の中の限られたスペースの一部を占有し続けてる希有なアルバムで、まさにタイムレスなクラシックって呼べる数少ない(ホントにそれほどない。悲しいかな) 1 枚だったりする。 

* MAXWELL "Submerge: Til We Become The Sun" (From "Embrya")







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