ちょっと前から右のサイド・バーの 'Soundtracks' の部分に先行シングルの "Pretty Wings" を貼ってあるけど、リリースが報じられてからすごく楽しみだったマックスウェルのニュー・アルバム。ずいぶん久しぶりだなぁと思って確認したら、なんと、前作の "Now" から 8 年ぶりのリリースだとか。久しぶりすぎだから。
マックスウェルといえば、1996 年リリースのデビュー・アルバム "Maxwell's Urban Hang Suite" で一躍一世を風靡して、今となってはちょっと恥ずかしい用語だけど「ネオ・ソウル」を代表するアーティストとして、1995 年に "Brown Sugar" でデビューしたディアンジェロとか 1997 年に "Baduizm" でデビューしたエリカ・バドゥとか共に人気を博したアーティスト。翌年には 8 曲入りの EP、 "MTV Unplugged" でも素晴らしいパフォーマンスを披露して、その評価を不動のものにした、と。
ただ、当時の個人的な印象としては、ディアンジェロとかエリカ・バドゥとはちょっと違ってたというか、同じジャンルのアーティストってイメージでは聴いてなかった。ディアンジェロとかエリカ・バドゥは本当に 70 代っていうか、いい意味で 70 年代のソウルをクラブ・ミュージック以降のサウンドで表現してる、(ネーミングがいいかどうかはともかくとして)まさに「ネオ・ソウル」って感じがしたけど、マックスウェルからはソウル特有の土臭さとか汗臭さみたいなモノを感じなくて。サザン・ソウルはもちろんだけど、クールだって言われるノーザン・ソウル、それこそカーティス・メイフィールドとかだって、やっぱり特有の「熱さ」が感じられるけど、マックスウェルからはそういうのを感じなくて。なんか、もっと異質のクールさというか、何とも言えない感じがあって。別にディアンジェロとかエリカ・バドゥと比べてどっちが優れてるとかどっちが好きって意味ではなくて、純粋にタイプとして「ジャンル=マックスウェル」って印象だった。
その印象を決定付けたのが 1998 年のセカンド・アルバム、"Embrya"。水中でカメラ目線でバスト・アップっていうかなりインパクトの強いアートワーク写真のアルバムで、展開されてるサウンドはメチャメチャクール。"MTV Unplugged" でもストリングスを全面にフィーチャーしてたりとか、ケイト・ブッシュとかナイン・インチ・ネイルズのカヴァーをしてたりとかして、いわゆる「ネオ・ソウル」のアーティストの中では異彩を放ってたけど、まぁ、そうは言ってもライヴ盤なんで、ライヴ特有の熱さみたいなモノは感じられた。でも、この "Embrya" に至っては、もう、抑制しまくりというか、ちょっと狂気を感じさせるほどのクールさで。サウンドも、ベースがヘヴィーで、かなりダビー。個人的には、それこそ、初期のマッシヴ・アタックとかにちょっと近いようなドープさと狂気を感じたりもして。もちろん、音楽的にはマックスウェルのほうが全然洗練されてるけど。まぁ、あんまり書くと "Embrya" のレビューになっちゃうからやめとくけど(書くなら別個にエントリーする方向で)、そんなアルバムなんで、全うな(マトモな?)R&B・ソウル / ブラック・ミュージック・ファンにはえらく評判の悪かったっぽいんだけど、個人的にはこれこそマックスウェルのワン & オンリーなオリジナリティが炸裂してるアルバムかな、と。
その後、2001 年にサード・アルバムの "Now" をリリースして、まぁ、多作ではないもののコンスタントにアルバムをリリースしてたんだけど、その後、ほとんど音沙汰なしで、去年辺りからチラチラと名前を見るようになって、4 枚目の "BLACKsummers'night" ってことになった、と。移り変わり(≒消費)の激しい今のシーンで、8 年間のブランクってほとんど「消えた」ってのと同義語だと思うけど、レーベルを移籍したわけでもなく、何喰わぬ顔してサラッと戻ってきちゃう辺り、やっぱり独特な存在らしい。しかも、この "BLACKsummers'night" は 3 部作の 1 作目で、ゴスペル色の濃い "BlackSUMMERS’night" と、スロウ・ジャムの "Blacksummers’NIGHT" が続くらしい。大文字になってる部分だけ違う、なんともわかりにくくてメディア泣かせな感じのタイトルだけど、まぁ、やる気が漲ってるらしくんで、喜ばしいことかな、と。あと、やっぱり髪型が変わっててビックリ。インパクト強かっただけに、なんか、すごくフツーになってる。
サウンド的には、バンド・サウンドで、ホーンをわりと全面にフィーチャーしてるのが印象的。バンドのメンバーはライヴで一緒に演ってる気心知れたメンバーらしく、レコーディング自体もセッション風に演ったってことで、そういうライヴ感みたいヴァイブのは確かに感じられる。余計なゲストとかはナシで、ストイックに作った、と。前作の "Now" からクレジットに名前があるホッド・デイヴィッドってヤツがバンドのメンバーとして重要な役割を果たしてるらしく、今回のアルバムでは全曲、コンポーザーのクレジットがホッド・デイヴィッドとの共作になってる。
あと、見逃せないポイントとしては、手元にあるクレジットにスチュワート・マシューマンの名前が見つけられないこと。海外メディアのレヴューも何本か読んでみた限り、1 本だけちょこっと言及があったくらいで、手元に完全なクレジットがあるわけじゃないんで完全な情報ではないんだけど。でも、個人的には大事件だったりする。
スチュワート・マシューマンって言えば、何と言ってもシャーデーのキー・マン。シャーデーって、ヴォーカルのシャーデー・アデゥのことだと誤解されてることが多いけど、厳密にはバンド名で、シャーデー・アデゥはそのヴォーカリスト(まぁ、バンド名になってるくらいだからメイン・パーソナリティなことは間違いないけど)。で、そのバンド、特にサウンド・プロダクションの面でのキー・マンがスチュワート・マシューマンで、コットンベリーって名義でプロデュース・ワークとかリミックスも手掛けてたりするイギリス人のアーティストで、シャーデーからシャーデー・アドゥを除いたユニット(って言い方をするとかなり安易な感じがするけど、まぁ、本当なんで仕方ない。日本盤リリース時には、当時の担当 A&R の M 氏は「シャーデーの人たち」って、これまた元も子もないキャッチ・コピーを付けてた。これも間違いじゃないけど)、スウィートバックとしてアメール・ラリューやバハマディアをフィーチャーした 1996 年リリースのアルバム "Sweetback" は(隠れた?)名盤の誉れ高い作品。マックスウェルの作品には、デビュー・アルバムの "Maxwell's Urban Hang Suite" から前作の "Now" までずっと関わってて、マックスウェルのサウンドのアイデンティティを確立する上でかなり重要な役割を担ってた思われる(特に、あの独特のクールさはスチュワートならではの特徴だと思うんで)だけに、今作への不参加が本当なら個人的にはかなり残念だったりする。まぁ、シャーデーが 2000 年の "Lovers Rock" 以来のアルバムを制作中らしいってニュースの出所のひとつが、スチュワートから音をチラッと聴かせてもらったというマックスウェルだったりしてるんで、関係自体がなくなったわけじゃないっぽいけど。
そういう部分をいろいろと鑑みてみると、"BLACKsummers'night" は確かにこれまでのアルバムとはちょっと違ってるのかもしれないけど、同時に、メロウでスムースでセクシーでソウルフルなマックスウェルらしさはキチンと感じられて、もう、何度も繰り返し聴いてるけど、全然飽きない。全体にテンポが遅めで、派手さこそあまりないけど、聴けば聴くほどジワジワくる感じもある。まぁ、曲としてのハイライトは先行シングルの "Pretty Wings" になるのかな。もちろん、他にも気持ちよくオープニングを飾るスムースなグルーヴが気持ちいい "Bad Habits" とか、ちょっとアップテンポな "Love You" とか、アコースティックなサウンドと印象的なトランペットのソロでアルバムを締めくくる "Playing Possum" とか、メリハリはありつつも個々の曲のクオリティは高い。あと、最後にいきなり、前半はデトロイト・マナーでアトモスフェリックなエレクトリック・サウンド、後半はバンド・サウンドっていうナゾのインストゥルメンタル・トラックの "Phoenix Rise" なんて曲も出てきて、ちょっとビックリするんだけど。3 部作の第 2 作目への布石なのか、曲名も含めてちょっと意味深だったりする。まぁ、ともあれ、全 9 曲・37 分強っていうコンパクトなアルバムではあるけど、通して何度も聴いても飽きないなかなか充実した仕上がりではあるし、まぁ、待たされた甲斐もあったかな、と。
ちなみに、トラヴィス・スマイリーの番組でのインタビューによると、リリース後はツアーをガンガンやる気らしく、3 部作の残り 2 作はそれぞれ来年と再来年のリリースなんだとか(関係ないけど、トラヴィス・スマイリーの番組ってサイトで映像もキチンと観れるし、トランスクリプトもキチンと読めるし、すごく助かる。他にも、モータウンの創設者のベリー・ゴーディがマイケルについて語ってるインタビューとかエスペランザ・スポルディングスのライヴとインタビューとかがあったり、見応え十分)。
あと、メジャー・レーベルのアーティストが YouTube にオフィシャル・ページを持ってたり、アルバムやツアーの情報が本人から MySpace とか Twitter を通じて出てくるってのも、すごく今時っぽいなぁ、なんてあらためて思ったり。
それと、クレジット情報を探してて思ったんだけど、こういう情報がどんどん軽視されるような傾向にあるような、イヤな感じがしてる。参加ミュージシャンとか、プロデューサーとか、スタジオとか、エンジニアとか、そういう情報。インターネット時代特有のバラ売り傾向に起因してるのか? そんな気がするけど、それだけが理由じゃない気もする。インターネットがその傾向を促進してる気はするけど、促進要因ではあっても、(少なくとも唯一の)原因ではないような。本来、インターネットって、こういう情報の蓄積に向いてるはずなのに。ウィキペディアみたいに有志に頼るのもナシではないけど、速さと正確性を考えると、レーベルとか、オフィシャル・サイドがキチンと正確な情報を出すべきかな。それこそ、IMDb みたいなページがあればいいのに。allmusic.com がもっと頑張れってハナシかもしれないけど。
MAXWELL "Playing Possum" (From "BLACKsummers'night")
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