一昨日・昨日と連続してマックスウェルのアルバムをレビューしたら、やっぱりスウィートバックの 1996 年リリースのセルフ・タイトルのデビュー・アルバムもピック・アップせずにはいられなくなっちゃったので、ついでってわけではないけど、いい機会なので。こういうアルバムって、もっといろんなところで取り上げられるべきだと思うんで。
既に一昨日・昨日のエントリーのマックスウェルのレビューでも触れてる通り、スウィートバックはシャーデーからヴォーカリストのシャーデー・アドゥを除いた他のメンバーたちによるユニットで、安直且つ失礼な、でもわかりやすい言い方をしちゃえば「シャーデー・アドゥのバックバンド」。実際、このアルバムの日本盤の担当 A&R 氏は帯に何の衒いもなく「シャーデーの人たち」って書きやがったし(後に上司として一緒に働いたりしたんだけど)。
メンバーは、アンドリュー・ヘイル、ポール・S・デンマン、スチュワート・マシューマンの 3 人で、中心人物はシャーデーのサウンドの要であり、マックスウェルの作品でも重要な役割を果たしてるスチュワート・マシューマン。シャーデー・アドゥっていうカリスマティックなヴォーカリストが不在で、ゲスト・ヴォーカリストを要所にフィーチャーしたハーフ・インストゥルメンタルなスウィートバックのアルバムだからこそ、より一層スチュワートのサウンドの個性が際立ってる気がする。
このアルバムでは、シングル・リリースされた "You Will Rise" で元グルーヴ・セオリーのアメール・ラリュー、"Au Natural" でバハマディア、シングル曲ではないけど "Softly Softly" ではマックスウェルをフィーチャーしてて、それぞれの曲ももちろん素晴らしい仕上がりなんだけど、それだけではなく(というか、それがオマケと思えるくらい)アルバムとしての完成度が抜群に高くて、特にゲストが参加してない曲も侮れないクオリティに仕上がってるし、アルバム全体がひとつの作品としてキチンと完成してる。サウンド的には、シャーデーやマックスウェルの作品に比べるとよりジャジーな印象が強くて、でも、浮遊感溢れるメロウでクールなグルーヴ感はさすがにスチュワートって感じの「音の鳴り」。ありきたりの言葉を使えば、感じられる要素はジャズだったりソウルだったりダブだったりアブストラクトだったりアンビエントだったり環境音楽だったり。そういった要素が絶妙なバランスでブレンドされてるんだけど、決してどっち付かずな印象になってるわけでもないし、でも、安易にどれかに当てはめられないような、何とも言えないオリジナルなサウンドに仕上がってて。しかも、決して難解で小難しいわけでもなくて、すごくスムースで聴きやすいんだけど、安っぽい生温さはなくて。ホントにいろんな要素が奇跡のようなバランスでひとつの作品をカタチ作ってるような、そんな 1 枚だな、と。
冒頭に「こういうアルバムって、もっといろんなところで取り上げられるべきだと思う」って書いたのは、これだけのクオリティでありながら、ある特定のジャンルに当てはめにくかったり、派手なキャッチーさみたいなモノがちょっと欠けてるから、リリース当時にあまりキチンと注目されてなかった気がすると思うから。特定のジャンルに簡単に当てはめられて、その文脈とかヴォキャブラリーで語りやすい作品(つまり、ベタでわかりやすくてコテコテだってこと)には注目が集まりやすいけど、逆にハイブリッドでカテゴライズが困難な作品は取り上げられにくい(作品のクオリティとは関係なく)、かなりイヤな慣習があるから。昨日のエントリーのマックスウェルの "Embrya" もそうだと思うし。世界的にどこにでもある傾向ではあるんだけど、日本は特にその傾向が強いし(すぐに「何系?」とかバカヅラして聞きやがる)。
そういう意味では、この "Sweetback" はその典型例と言えるようなアルバムだったりすると思うけど(リリース当時も、アメリカの R&B / ソウル系好きの人にはイギリスっぽすぎで、イギリス / ヨーロッパ系好きな人にはアメリカの R&B っぽすぎみたいな、変な評価をされてた)、ちょっと前に某大手レコード店をうろついてたらこんな本が売られてたりする(パンフレットかと思ったら売り物だった!)世の中に(一部では?)なってるらしいんで(個人的には、どうもイマイチシックリこない感じだけど)、そういう文脈でも全然アリなんじゃね? とか思ったりもするし。"You Will Rise" のシングルに入ってたリミックスはデヴ・ラージの隠れた名曲のネタだったりもするし。
ちなみに、スウィートバックは 2004 年にセカンド・アルバムの "Stage 2" もリリースしてるけど、これは個人的にはイマイチな印象。期待が大きすぎたせいもあったのかもしれないけど、この "Sweetback" を上回る内容じゃなかったな、と。
* SWEETBACK "You Will Rise (Feat. AMEL LARRIEUX)" (From "Sweetback")
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