. :アレイダ・マルチ 著
. :後藤 政子 訳(朝日新聞出版) ★★★★☆
キュー バ革命の戦士のひとりであり、チェ・ゲバラの妻であり、チェ・ゲバラ研究センターの所長でもあるアレイダ・マルチが、元司令官であり亡き夫でもあるチェ・ ゲバラについて語った書籍。原著は 2007 年にイタリアで先行出版された "Evocación" で、原題は「回想」という意味。チェの死後、世界中のジャーナリストからの再三の取材要請を断り続け、半世紀に渡って沈黙を守ってきたアレイダ自身が書いてるってことで、日本を含めて世界的に大きな話題になり、発売時には来日もしてた。
他の誰も知らないチェの素顔が垣間見えるって点はもちろん、フィデルとチェがメキシコで出会った頃のキュー バ国内の反政府勢力(彼女もその一員だった)の動きが描かれている部分もなかなか面白い。キューバ革命に関するものは、どうしてもフィデルの動向を追うカタチで描かれがちだけど、当然、フィデルたちはグランマ号で乗り込んだメンバーだけで革命を実現したわけではなく、キューバ国内には多くの協力者=反政府 勢力がいたわけで、その辺りについてのエピソードが意外に面白いな、と。
サブ・タイトルに「愛と革命の追憶」とあるように、「愛」と「革命」というミスマッチ感溢れるふたつの単語がナチュラルに並ぶことがこのカップルの最大の 特徴。ただ、必要以上にチェを誉め讃えたり、甘いロマンスの部分をドラマチックに書き立てることをせず、むしろ、あえて、過剰なくらいに抑制することに努 めてるように感じられる。それでも、そこかしこから垣間見えるのは、とても人間臭い、ひとりの男としてのチェ、子供の父親としてのチェ、そして同時に、ひとりの革命家・ゲ リラ戦士としてのチェの姿。それが微妙な、危ういバランスで成り立ってて、しかも新婚と革命政権樹立〜運営が時期的にカブってたのがこのカップルだったん だなぁ、 とあらためて感じた。
序文的に掲載されている「私たちのアレイダ」という文章の冒頭にこんなことが記されてる。
決 して遠くに去っていたわけではないのに、何十年もの間、 沈黙に身を潜めていたアレイダ・マルチ。その彼女が苦しみの中から、自らの解放の力を引き出し、チェがこれからもずっと人々の心の中に生き続けるように と、記憶の種を蒔くことを決意し、力の限りを尽くした。こうして、今、私たちはそれを手にすることができた。これこそ真なるものだ。なんと深く、なんと複雑で、なんと限りなき豊かさを持っていることか。チェの輝かしい思想が、さまざまな方向から、そして何よりも彼の最大の特性である、不屈で完璧なモラルと いう視点から照らし出され、多面的でありながら、統一されている。この文章を書いたのはチェとアレイダの友人で、キューバ映画 芸術産業協会の会長のアルフレード・ゲバラ氏。ちょっと長い引用になったけど、すごく適切な説明だし、最高のイントロダクションだと思うので。つまり、そういうことなんだろう、と。アルフレード・ゲバラの言う「記憶の種を蒔く」という行為こそ、この本の最大の功績だし、その種を発芽させ、育て、実らせてこ そ意味があるってこと。だからこそ、(アイコンとしての役割自体は前面否定はしないし、必ずしも嫌いなわけじゃないけど)キチンと知り、考え、自分の中に 取り込んでいくことが大切だな、と。
"忘却" の中にありながら、もっとも輝かしく記憶の種を蒔こうとする人々 ー 忘却はさまざまな形で身を潜めている。贖(あがな)いとしてのチェや顔を持たない理想家という神話は、忘却だ。典礼のコイン、儀式に利用されるチェは、忘却だ。何もしない夢想家やグラスに書かれた、あの写真家のコルダ(彼はまさしく詩人だ)が写した、未来を見つめるチェは、忘却だ。腹の出た、闘わない左翼は、左翼ではなく、忘却だ(こんな左翼は「XXX」だ。この「XXX」には、好きな文字を入れて欲しい)。
こ こでは記憶はそんな蒔き方はされていない。彼女の文章は決して死に絶えることがない。それは、チェの決して死に絶えることのない模範によって支えられてい るものだからだ。そうした文章によって、記憶の種は蒔かれてる。そこから明らかになるのは、チェの行為は、そのひとつひとつが、彼の思想の具体的な表現 であったことだ。だからこそ、彼の思想は、若者の中に日々再生する。すなわち、あの明晰さと勇気をもって、休まず、倦むことなく闘うことを知っており、あるいは知るであろう若者の中に。そして、闘うことができ、また闘わなければならない若者の中に。これこそチェの真の姿なのであり、それは現実に力を与え、 力を与えられた現実はその真実を確認する。
あと、個人的にとても好きだったのか、フィデルに関するエピソード。ゲバラとアレイダにすごく気を遣ってて、いいヤツで。ちょっとした、でもなかなか心温まる部分だったりする。
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