2008/12/03

Blues music for blues people.

CORNEL WEST & BMWMB "Never Forget: A Journey of Revelations"
(
Hidden Beach) ★☆ Link(s): iTunes Store / Amazon.co.jp

ドクター・コーネル・ウェストがコーネル・ウェスト & BMWMB 名義で Hidden Beach からリリースしたアルバムで、タリブ・クウェリやジル・スコット、KRS-ONE、プリンス、アンドレ 3000(アウトキャスト)等が参加している。

端的に言うと、これが基本的な情報で、音楽的には最低限のイメージはできそうだけど、これだけでは全然不十分なところがこのアルバムの特徴。それだけじゃ、全然このアルバムの魅力は伝わらない。

ドクター・コーネル・ウェストは、オクラホマ州出身のエチオピア系アフロ・アメリカン哲学者 / 政治思想家 / 神学者 / 社会活動家 / アーティストで、プリンストン大学宗教学部兼アフロ・アメリカン研究センター教授。LA での暴動の翌年の 1993 年に発表し、これまでに 50 万部以上のセールスを記録してベストセラーとなった "Race Matters"(単に「人種にまつわる問題」という意味と「人種こそが重要な問題だ」という意味のダブル・ミーニング)が 2008 年 10 月、『人種の問題 ー アメリカ民主主義の危機と再生』として原書の出版から 15 年(!)の時を経て初めて邦訳・発売され(店頭で知らずに見かけたら絶対スルーしちゃう自信満々な感じのスゴイ装丁デザインにビックリだけど…)、それに先駆けて 5 月にはマーティン・ルーサー・キングの没後 40 周年記念企画のために初来日を果たし、東京での姜尚中氏との対談や講演をはじめ、大阪・広島・沖縄を訪れたりしている。

これまでに 20 冊もの著作を発表していて、アメリカ社会に今なお根深く残る人種差別の問題を中心に、性、社会の格差、環境問題、信仰など、幅広い問題について、大学や学問の世界だけでなく、TV などでも活躍する(PBS の "Tavis Smiley" に出演したり、HBO のビル・マーの "Real Time" に モス・デフと出演したりしてる)現代アメリカを代表するアフロ・アメリカンのオピニオン・リーダーのひとりとして知られている。

ここまでがドクター・コーネル・ウェストの概要。つまり、現代アメリカのアフロ・アメリカンの知識人の最重要人物のひとりで、そんな人物が、Hidden Beach から、タリブ・クウェリやジル・スコット、KRS-ONE、プリンス、アンドレ 3000(アウトキャスト)らをゲストに迎えてアルバムを作った、ってのがポイントになる。

コーネル・ウェストに関しては、特に詳しく知ってたわけじゃなくて、顔と名前は見たことあったけど「スパイク・リーが歳をとったらこんな風になるのかなぁ」くらいな印象だったんだけど、最近 "Democracy Now!" に出演した(リンク先で動画とテキストが見れる)のを見て、俄然、興味が出てきていろいろ調べてみた、という感じ。ちょうど、新しい著作 "Hope on a Tightrope: Words and Wisdom" が発売されたらしいんだけど、先日のバラク・オバマの大統領選挙での勝利とシカゴでの演説を受けての出演ということで、当然、オバマ政権について語ってて、それがメチャメチャファンキーで(オバマとは親しいらしく、もちろんオバマ支持ではあるんだけど、だからこそ、これからの動き、特にスタッフ選びに関しては注意して見ていく必要がある、プレッシャーもかけていく、知り合いだからって容赦しないぜ、というスタンス。曰く、オバマには「進歩的なリンカーン、フレデリック・ダグラスになって欲しい」と)。

話の内容はもちろん、一番魅かれたのは話し方(ぜひ、映像を観て欲しい。けっこう難しい単語が出てくるし、聞き取りにくかったりするけど、テキストを目で追いながらなら何とかなると思うんで)。リズムといい、言葉遣いといい、表情といい、メチャメチャファンキー。ムヤミにポジティヴなわけじゃなくて、むしろ辛辣だったりもするんだけど、どっかチャーミングで、愛情が感じられて。普通に「スライ・ストーンが言ってた 'everyday people' だよ」なんて言ったりとか、アフロ・アメリカンのこと(及び、類似の状況にある人のこと)を 'blues people' なんて呼んだりして。

アフロ・アメリカンの牧師の演説とか詩人のポエトリー・リーディングとかは、一般的な意味での「演説」や「朗読」にはない独特のリズム感とグルーヴがあり、ヴァーバルな表現・パフォーマンスがとても重要なのは知ってたし、スゴイ好きなんでいろいろチェックはしてるんだけど、そんな中でもこの人のグルーヴはヤバイな、まるで MC / ラッパーじゃん、って思って調べてみたらリリースされてたのがこの "Never Forget: A Journey of Revelations" だった、と。ちなみに、リリースは 2007 年。

1953 年生まれということで、音楽のベースにあるのはソウル・ミュージックやファンク、ブルース、そしてジャズ。そこに、ヒップホップの要素が加わっているというのが基本的なスタイルで、だからこそ、このゲスト陣が活きてくるし、サウンド面はもちろん、リリックやメッセージ、さらにレーベルも含めて、すごく納得できるし、信頼できる。タリブ・クウェリが参加したオープニング・トラック "Bushonomics" や KRS-ONE がが参加した "Mr. President" なんかはメッセージ色の濃い直球で攻撃的なヒップホップ / ラップ・トラックですごくパワフルだし、スムースな R&B やジャズ・マナーのヴォーカル・トラックもなかなかの出来映えで、全体のバランスも良好。コーネル・ウェスト自身はポエトリー・リーディングというか、演説というか、ラップでも歌でもないヴォーカル・スタイルなんだけど、独特のリズム感とグルーヴで聴かせてくれる。個人的なハイライトは、プリンスの独特なグルーヴが冴える "Dear Mr. Man" と、アコースティックでブルージーなテイストでコーネル・ウェストのメッセージを聴かせる "911" (リリックの内容については特に書かないけど、おそらく想像の通り)かな。

人種の問題 ー アメリカ民主主義の危機と再生』も買って読み始めてて、これはこれで面白いんだけど、やっぱ学者の本だからそれほど簡単じゃないし、読みやすくもない。もちろん、学者なんで本を書くのは仕事の一部というか、欠かせない活動なんだけど、いろいろと動画を見たり、このアルバムを聴いたりすると、(マーティン・ルーザー・キングやマルコム X がそうだったように)コーネル・ウェストの魅力が最大限に活かされるというか、メッセージがいちばん効果的に伝わるのは「口頭」だな、と強く感じた。音楽でも、演説でも、講義でも、インタビューでも。本人もそれを自覚してて、なおかつ、いちばん伝えたい相手は本を読むインテリだけじゃないからこそ、音楽、特に若い世代に訴求力の強いヒップホップを積極的に取り入れてるんだろうし。

ただ、誤解のないように言っておくと、「若者に伝えるために若者に人気のヒップホップを利用してる」わけではなく、あくまでも、ヒップホップをアフロ・アメリカン・ポップ・ミュージックの一連の流れの中でキチンと捉えて(というか、自然に消化して)る感じ。「ルーツは一緒じゃん」ってのを、理屈でも体感でも解ってて演ってる。もっと言うと、普通に音楽が好きで、その中にはヒップホップも含まれてるだけ、って感じで。アフロ・アメリカンの音楽に対する感覚って、たぶん、日本人とはだいぶ違ってて、なかなか感覚的に理解するのは難しいんだけど、たぶん、衣食住に近い感覚で存在してるもののような気がする(ブラジル人も似てる)。だから、ジャズやブルース、ソウル・ミュージック等のアフロ・アメリカンのルーツ・ミュージックと共通する流れの中で捉えられるヒップホップは自然に「体感で」受け入れられるし、なおかつ、この人はインテリなんで、理屈で(頭で)もキチンと捉えることができて、それを自覚的に取り入れてるんだなぁ、と。だから、自然に馴染んでるし、クオリティも保たれてる。まさに、「ブルーズ・ピープル」のための「ブルーズ・ミュージック」。

あと、"Yes We Can" なんかでも感じたけど、政治的・社会的なメッセージとクリエイティヴが有機的に結びついてて、こういうカタチで表現される感覚って日本には欠けてるし、すごく羨ましく思いつつ、強くインスピレーションを受けたりする。

You can't lead the people if you don't love the people.
You can't save the people if you don't serve the people.

オフィシャル・サイトのトップ・ページには、こんなメッセージが掲げられてる。つまり、どういうカタチであれ、こういうことがやりたくて、音楽もその一部なんだな、と。

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