『夢の中まで左足』名波 浩・増島 みどり 著
(ベースボール・マガジン社) ★★★☆☆ Link(s): Amazon.co.jp
惜しまれながら昨シーズンで引退した日本サッカー史に残る「左足のアーティスト」、名波浩の著作で、『サッカー・マガジン』誌の連載をベースにしつつ、スポーツ・ライターとして著名な増島みどりさんの編・著で対談やインタビューを加えたモノ。こういうサッカー選手の本ってめったに読まないんだけど(特に日本人プレーヤーのモノは)、わけあって、最近、サッカー関連の資料をいろいろ見てる中で見つけて、ちょっと気になったので。
なんで気になったかというと、それは、やっぱり名波浩というプレーヤーが好きで、すごく興味があったから。別にジュビロのサポーターでもないし、代表に入れ込んで観てるわけでもないけど、そういう次元ではないところで、やっぱり名波はすごくスペシャルなプレーヤーだった。すごくアーティスティックで、サッカーの奥深さとかディティールまで楽しませてくれる繊細で職人的な数少ない存在。すごくサッカー・インテリジェンスも高くて、そこいらの評論家や解説者よりもよっぽど面白いことを考えてる。あと、同い年だし。間違いなく、1972 年生まれの日本人プレーヤーでは最高傑作なので、親近感もあったし、やっぱり気になる存在ではあった。
『サッカー・マガジン』誌の連載自体はキャリアの最後の数年の時期に掲載されてたモノなんで、セレッソ〜ヴェルディ〜ジュビロ復帰辺りは試合出場もそれほどなかったし、その時期のプレーをあまり細かくチェックしてたわけじゃないけど、それでも考えてることはすごく面白くて。ヴェネツィアから帰国後のアジア・カップ優勝後に言った「パスタを食いにイタリアに行ってたわけじゃない」って名言が有名だけど、「ボール半転がり分のコントロール」とか「雨はスキルが試されるテスト」とか、なかなかアーティストらしいパンチ・ラインが多くて。あらためて、技術だけじゃなくて、サッカー・インテリジェンスの高さを随所に見せてる。
取材対象となるプレーヤーと親密な関係を築きながら、日本のサッカー・ジャーナリズムが好きな生産性の低い戦術論・システム論に陥らずに、人間にスポットを当ててキレイに描く増島さんの手法は、個人的にはそれほど好きなタイプってわけではないけど、やっぱり一定以上のクオリティは保ってる。単行本に追加された対談(藤田俊哉 / 山口素弘 / ミスター・チルドレンの桜井和寿)の人選もいいし。特に山口素弘との対談は、どちらもサッカー・インテリジェンスが抜群に高い選手なだけに、すごく読み応えがあった。特に本人の発言から急遽採用したっていうタイトルは秀逸。この手の本としては装丁デザインもすごく考えられてて、読みやすいし。
やっぱり、名波浩がいかにアーティスティックで、いかに希有なプレーヤーだったかをあらためて感じさせられた。「右足はつっかえ棒」と言い放ち、どんなプレーも左足だけで、最高のクオリティーで実践して見せたその姿は、単に上手いというだけはなく、ボールの質やポジショニングにはすべて意味があることを体現したプレーヤーであり、サッカーというアートの味わい深さを表現できる、ホントに数少ないプレーヤーだったなぁ、と。引退は残念だけど、サッカー界にはこれからも必要な存在だし、これからどういうサッカーを実践していくのか、すごく興味がある。ぜひ、ヨハン・クライフみたいな、頑固で、有言実行で、一癖も二癖もある存在になって欲しいもんだな、と。
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