2009/10/10

Organized confusion.

資本主義はなぜ自壊したのか ー 「日本」再生への提言

. :中谷 巌 著集英社インターナショナル

なんで読もうと思ったのか、イマイチ思い出せないんだけど、たぶん、今年 2 月に OA された『ニュースの深層』を観てちょっと興味を引かれたからだったと思うんだけど、どう
も、実は話題作だったらしく、池田信夫氏のブログとかアマゾンのカスタマー・レヴュー酷評されてたり、まぁ、賛否両論というか、良くも悪くも話題の一冊だったらしい(去年の年末発売なんでさすがにもう落ち着いてると思うけど)。まぁ、何となく、言わんとしてることは解る気がするけど(賛)。

個人的には知らなかったんだけど、著者の中谷巌氏ってのは『ワールドビジネスサテライト』なんかに出てたわりと有名な経済学者らしくて(それが賛否を激しくしてる理由だと思われる)、著書の『入門マクロ経済学』はマクロ経済学の教科書として日本の大学で広く使われているんだとか。肩書き的には、三菱 UFJ リサーチ & コンサルティング理事長 / 多摩大学名誉学長・経営情報学部教授・ルネッサンスセンター長 / 一橋大学名誉教授 / ハーヴァード大学経済学博士 / オーストラリア国立大学名誉法学博士。そして、自民・公明連立政権が行った構造改革を積極的に推進したメンバーのひとりでもある(本人曰く、「急先鋒だった」んだとか)にも関わらず、その考えをこの本書で一転させたことから大きな話題(っていうか、ちょっとした「騒動」)になったらしい。まぁ、それなりに有名人だったなら、そうなったことは十分理解はできるけど。

まぁ、こんなこと書いてて、実は、その「騒動」の問題の中身に関してはイマイチよくわかってないんだけど。だって、今年 2 月に OA された『ニュースの深層』への出演ってのはこの本書出版(とそこから起こった話題)を受けてのものだったし、そこでの話を聞いてちょっと興味を持ったんだから。それ以前の主張の中身も存在感がどんな感じだったのか全然知らずに、まぁ、ある意味、何の先入観も持たずに話を聞いて、興味を持って、本書を手に取ったわけなので。

もそも、経済学なんて個人的には最も興味がない学問だし(胡散臭いとすら思ってるんで)、詳細になんか触れられるわけがないけど(それらしいことを書こうとするとボロが出るのが目に見えてる)ザックリと乱暴にまとめちゃうと、話としては、1970 年代にアメリカの大学に留学して、アメリカの新自由主義・市場原理主義的な経済学に「かぶれた」経済学者が、昨今の世界的な状況を鑑みて、「何かがおかしい」と思い、変節した、と。そこに至る経緯と、今、どんな風に考えてるのかってことを、一般書のテンションでわかりやすくまとめたのが本書(本人の言葉を借りれば、「自戒の念を込めて書いた懺悔の書」なんだとか)、ってのが概要になるのかな。

変節後の著者の話を聞いて何故興味を持ったのかは、本書のまえがきを読んですぐにわかった。著者は今、単なるビジネス・スキルを超えた歴史観・世界観・人間観を身につけるための「40 代 CEO 育成講座」ってのを多摩大学で塾頭として主宰してて、そこで、いろいろなジャンルの専門家と、本人の言葉を借りると「知の格闘技」を行ってるらしいだけど、そこに参加してる講師の中に、環境考古学者の安田喜憲氏とか経済学者で現静岡県知事の川勝平太氏とかって名前があったんで。ニュースの深層』での著者の話の中に、明らかに安田氏や川勝氏に重なる(影響を受けたと思われる、っていうか、イジワルな言い方をすると「請け売り」っぽい)話が出てきてたんで。で、安田氏や川勝氏の考えに興味を持ってる身には、親近感を感じる部分があった、と。まぁ、さすがに、元ネタが同じだとは思わなかったけど。

そんな感じなんで、変節前の著者を知ってる人たちが、ちょっとヒステリックとすら思えるような反応をしてるのは、正直、ちょっと引いちゃうところがあるかな。まぁ、気持ちはわからんでもないし、思わず突きたくなる重箱の隅がたくさんありそうなこともなんとなく想像はできるけど。いきなりキューバとかブータンの話とか持ち出されても、唐突過ぎだし、文章自体もそれほど説得力があるとは思えないし(著者がキューバとかブータンに魅かれる気持ちは個人的には共感はできるけど)。かと言って、なんか経済学に詳しい(っぽい)人の批判に合点がいくかって言うと、やっぱり、そんなことはなくて。なんか、経済学村の内輪話っていうか、オタクどもの戯言って感じがしちゃうのも事実(永田町村の政治オタクどもの戯言とかみたいな感じ。霞ヶ関とかもそう。ただ自分たちの「常識」を振り翳してる感覚というか)。こういう話を聞いてると、つい「重力に魂を引かれた者たちのロジッとか言いたくなっちゃう。

個人的には、カール・ポランニーの『大転換 ー 市場社会の形成と崩壊』の話とか、知らなかったんで普通に興味深かった(特に、労働・土地・貨幣は、再生産が不可能であるため、取引の対象にしてはいけないって話とか)し、
ポランニーの「市場経済のもとでは、自由も平和も制度化することはできなかった。というのは、市場経済の目的は利益と繁栄を作り出すことであり、平和と自由を作り出すことではないからである」って言葉も、まぁ、当たり前っていえば当たり前なんだけど、でも、忘れてる人って結構多い気がするし。著者の唱える「そ新自由主義・市場原理主義は英米のエスタブリッシュメントにとって都合のいいシステム(勝者が勝者のためにつくったルール)であり、そのためのツールでしかない」的な見解とか、理性や論理を過度に重んじるアメリカって国の特殊性を語る言説とか、ちょっと陰謀説的な考え方だったりもするけど、そんなに嫌いじゃないし、あながち外れてもないと思うし。特に、理性や論理だけじゃ整理できない、何とも言えない信念というか、価値基準というか、「核」みたいなモノがヨーロッパの国にはアメリカにはない感じとか、個人的にも前から感じてたことだったりして、けっこう共感できたりもするんで。あと、株取引を例に挙げて「形式知」と「暗黙知」の話(インターネットなどで誰でも知ることができる情報がすべてではないし、それをもって「情報の平等」なんて言えない)とか、具体的な施策として挙げてる還付金付き消費税とかも、ちょっと面白いと思うし。

ただ、同時に、胡散臭さみたいな
モノ感じちゃうのも事実だったりはするんだけど。アメリカって国と同様に、「理性や論理」で物事を整理しようとする「経済学」が見落としがち(わざと見ないようにしてる?)部分に目を向けてるのはいいんだけど、胡散臭さというか、請け売り感みたいなモノが感じられて、イマイチ、著者自身の言葉(主張)に聞こえない感じがしちゃう。キューバブータンの部分とか一神教と多神教の部分とか、縄文時代の部分とか。まぁ、この本自体の企画意図として、それほど専門的で難解なモノにはしないことがあるっぽいから、内容的にも字数的にもリミッターをかけてるのかもしれないけど、イマイチ説明不足というか、説得力に欠けるというか、愛を感じないというか、あまり心を動かされない感じはあるな、と。「理性や論理」じゃなくて、「心」を動かす部分について書いてるのに。とは言いつつも、まぁ、「変節」して間もないっぽいから、まだ「変節前」の癖が抜けてないのかも? とか思えるレベルではあったりするんだけど。個人的には。
民主主義が完全で賢明であると見せかけることは誰にもできない。実際のところ、民主主義は最低の政治形態であると言うことができる。これまでに試みられてきた民主主義以外のあらゆる政治形態を除けば、だが。ー ウィンストン・チャーチル
チャーチルってなかなかのパンチライン職人で、個人的にはけっこう嫌いじゃなかったりするんだけど、著者はそんなチャーチルのこんな言葉を引用して、「民主主義」の部分を「マーケット・メカニズム」に、「政治」を「経済」に置き換えても成り立つって主張してて、それはそれで一理あるというか、まぁ、そういうことなんだろうな、とは思えるし、言われてみればその通りなんだけど、それを意識してるか意識してないか(気付いてるか気付いてないか)って、けっこう大事だよな、と。気付いてない人、かなり多そうだし。

まぁ、そういうことに気付いたり、たとえ賛同しなかったとして
も、考えてみるキッカケにはなりそうだし(まぁ、思考停止して拒否するヤツもいそうだけど)、そういう意味では別にそれほど悪い本じゃないと思うし、(賛否両論を含めて)話題になることも悪いことじゃないのかな、と。ただ、個人的には、この内容で、この分量で、このテンションなのであれば、新書でよかった気がするけど。っつうか、新書の方がよかったんじゃね? って思ったりはするけど。
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