『ヤーディ』 ヴィクター・ヘッドリー 著 荏開津 広 訳
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写真には載ってないけど帯に「あぶっては姦って、踊っては、殺す」って何ともナイスで物騒な言葉が踊ってるイギリス人作家、ヴィクター・ヘッドリーのデビュー作で、原著 "Yardie" は 1992 年の出版なんだけど、訳書の出版は今年の春。まぁ、ある種の 'dig'(発掘)ってことになるんだと思うけど、こういう 'dig' はすごくありがたい。
ハナシとしては、安直な言い方をすると、UK ブラック((C) キャロン・ウィラー)のギャングスタ / ハスリングモノって言えちゃうのかな。実は、UK ブラック(ジャマイカ系=アフリカ系イギリス人)ではなくて、'イギリスに来たジャマイカ人' のハナシだったんだけど。前に『ジミ・ヘンドリックスとアメリカの光と影』のレヴューでも触れた通り、ジャマイカからイギリスへの移民のピークは 1950 年代で、移民は当然、ジャマイカ人なわけで、その後、イギリスで生まれ育った世代がいわゆる 'UK ブラック' ってことになるんだけど、別に移民(や人の行き来)は 1950 年代が多かったってだけで、その後も頻繁に行われてるわけで(親戚が住んでたりするんだから、ある意味当然)、この『ヤーディ』の舞台はおそらく 1990 年代初頭辺り(明示してる部分はなかった気がするけど、シャバ・ランクスやニンジャマン、スーパー・キャットなんて名前が出てきてたからたぶんそうなんじゃないかな)で、主人公はジャマイカからブツを運んできた D. という男なんで、厳密に言えば UK ブラックではなく'イギリスに来たジャマイカ人' ってことになる。
個人的に、いわゆる UK ブラックが生み出した音楽は好きだし、1990 年代のロンドンは何度も足を運んだし(1990 年代末頃が多かったけど)、UK ブラックの知り合いも多いんで、'知り合いたちよりちょっと上の世代のハナシ' って感じで、わりとリアリティを感じならが読めちゃったかな。
ちなみに、著者自身も 12 歳のときにジャマイカからイギリスに移住したらしい。タイトルの 'yardie' ってのは、ジャマイカのゲットーを意味する 'ヤード(yard)' に住んでるヤツらを指す言葉で、転じて、イギリスでもジャマイカンやジャマイカ系イギリス人のことを意味する、と。
アメリカのアフロ・アメリカンに関しては、映画だったり小説だったり、いろいろな作品が作られてるから、わりと日本でもいろいろなカタチで触れることができたり、話に出てきたりすることも多いけど、イギリスとなると、なかなかスポットが当たりにくいのか(まぁ、アフロ・アメリカンに比べると作品自体も多くないし、マーケットも大きくないけど)、あまりなくて、でも、個人的にはアメリカのモノ以上にリアリティを感じられたりするんで、こういう本が出ることはすごくありがたいし、思った以上に楽しみながら読めちゃった。
まぁ、読もうとした(っつうか、知った)キッカケは、訳者の荏開津広さんだったんだけど。昔、何度も仕事をさせてもらったし、それこそ、一緒にロンドンに行ったこともあるし、仕事をさせてもらう以前から、純粋に読者のひとりとして 'この手' のモノの情報源っていうか、先生的な存在の人だったんで(まぁ、実際に知り合ったら想像以上に愛すべきキャラクターだったんだけど)。ちょうど、翻訳作業をしてたと思われる時期に、共通の知人から「荏開津さんが今、こんなことやってるらしい」って噂は聞いてたんで、楽しみにしてたんだけど、出てすぐのタイミングは何故か逃しちゃって、遅ればせながらやっと読んだ、と。読み出したら一気に読めちゃった。普通に小説として面白いんで。
小説なのでストーリーについて細かく書くのはやめとくけど、やっぱり、独特のグルーヴ感というか、太いベース・ラインが鳴り響いてるような世界観は、読んでてすごく気持ちいい。具体的にストーリーの中に名前が出てくるのはシャバ・ランクスやニンジャマン、スーパー・キャットといったダンスホール・レゲエだったり、スタジオ 1 なんかのクラシックで、それがカーステレオやらカセット・プレーヤーやら、そして、もちろん、サウンド・システムやらで鳴り響いてる感じ。ラフに、ファットに、スモーキーに、ドープに。それこそ、アフロ・アメリカンの映画や小説にソウル・ミュージックやファンク、ヒップ・ホップが欠かせないのと同じ感覚で。
まぁ、個人的に、読んでる間に頭の中で鳴り続けてたのは、どちらかというと 1980 年代以降の UK ブラック・ミュージック、つまりワイルド・バンチ以降の以降のブリストルのサウンド(っつうか、フレッシュ 4 の "Wishing On A Star"。PV では若き日のクラストの姿も観れる!)だったりしたんだけど。どうしても、個人的な経験と結び付きやすいのはこの辺り以降だったりするんで。まぁ、本書の中で十歳に鳴ってるのはもっとラフでルードな感じのヤツだと思うけど。
でも、まぁ、その手のモノとか、それ以降のイギリスの、その手のモノの影響下にある音楽やカルチャーに興味があるヤツは読んどいたほうがいい一冊な気がする。1980 〜 1990 年代の一連のブリストルのモノは言わずもがな、ドラムンベースだってもちろんそうだし、最近、流行ってるらしいダブ・ステップと呼ばれるモノ(実はイマイチよく解ってないけど)もそうだろうし、それこそ、フジロックでマッシヴ・アタックとかで大騒ぎしてたヤツらとかもそうなんじゃね?
ちなみに、読んでみると解るけど、終わり方がちょっとあっけなくて、「あれ?」って思ったりもしたんだけど、原著では続編があるんだとか(1993 年の "Excess" と 1994 年の "Yush")。これも出してくれるともっと嬉しいんだけど。
* FRESH 4 "Wishing On A Star [12" Mix]"
Bristol rules..
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