2014/08/13

Drop by drop.

イワキ ウォーター・ドリップ・コーヒー・サーバー KT8644-CL ★★★★☆

IWAKI Water Drip Coffee Server KT8644-CL

Links: Amazon / Rakuten / Official website


ちょっと前に行きつけのロースターで教えてもらって(作ったモノの試飲もさせてもらって)購入を決めたアイスコーヒー・サーバー。挽いた豆と水をセットすると約2時間で、すっきりとしていながらコクのある深い味わいのアイスコーヒーが楽しめる。ミニマルなデザインもなかなか秀逸で、2007年にグッドデザイン賞を受賞していることも納得って感じ。

仕組みは至ってシンプルで、写真の一番上のタンクに水、真ん中のドリッパー部分に挽いたコーヒーの粉をセットすると、抽出されたコーヒーが下のタンクに溜まるようになってる。

なぜ約2時間もかかるかというと、タンクから水が一滴ずつポタポタと垂れるようになっていて、その水がドリッパーのコーヒーの粉をジワジワと湿らせて、ドリッパー底部のフィルターを通って一滴ずつ抽出されるという仕組みだから(実際の抽出のスピードはこの動画を参照)。つまり、セットさえしてしまえば、電気もガスも使わずに、ただ待っていればアイスコーヒーができるということ。ちなみに、約2時間というのは、約 450cc の水と 40g のコーヒーをセットして約 400cc のアイスコーヒーを抽出する場合のマニュアルに記載されてる所要時間。この量が一度に作れる最大の量で、サイト等には約4杯分と記載されているけど、まぁ、実際には2〜3杯程度といった印象(もちろん、個人差の範囲だけど)。所要時間に関しても、「約2時間」と記載されてるけど、使ってみた感じでは、タンクが空になるのは2時間程度だけど、コーヒーの粉を湿らせてる分はタンクが空になってからも多少残っているので、実際には2時間強って感じかな。

肝心の味については、上に「すっきりとしていながらコクのある深い味わい」って書いたけど、「すっきり」よりも「コクのある深い味わい」のほうが強い印象。アイスコーヒーの場合、(長時間水に浸して抽出するオーソドックスな)水出しコーヒーは「すっきり」してるけどちょっと「薄い(軽い)」感じに、それなりに「コクのある深い味わい」のモノだと「イヤな感じの苦さ」も強い感じになりがちだけど、このサーバーだと「すっきり」と「コクのある深い味わい」のバランスが良くて、やや後者の特徴が強い感じがする。大量にゴクゴク飲むというよりも、それほど多くない量を味わって飲むのに適してるって印象かな。

コーヒー豆については、深めのロースト(フレンチロースト)と、いつもホットのペーパー・ドリップで使ってるちょっと浅めのロースト(シティロースト)を試してみたけど、やっぱり前者のほうが合っている印象。基本的には、エスプレッソほど細かくはないけどペーパー・ドリップよりは細かい程度に挽いて使うんだけど、豆の種類やローストの深さ、挽く細かさや粉・水の量、飲むときに入れる氷の量等で好みに合わせて微調整できそう。

サイズは径 12cm × 高さ 26.5cm なのでちょっと大きい印象だけど、コーヒーが溜まるタンクには氷を入れる余裕もありつつ、水のタンクとドリッパー部分を外せばそのまま冷蔵庫に入れることもできる(耐熱ガラス製なのでそのまま電子レンジで温めることも可能)し、洗いやすさとか使い勝手を考えると適切なサイズなのかな。

ちなみに、勧めてくれたロースターのアドバイスに従って、以下の2点はマニュアルと違う使い方をしてる。

  • マニュアルでは、最初に「ドリッパーの中のコーヒーの粉に少量の水を入れてかき混ぜてまんべんなく湿らせる」と書いてあるけど、このプロセスは無視。
  • 乾いたままのコーヒーの粉に水を垂らすと徐々に穴を掘ってしまうので、平らにしたコーヒーの粉の上にちょうどいいサイズに切ったペーパー・ドリップ用のフィルターの紙を敷く。

マニュアル通りの方法とどのくらい違ってくるのかはわからないけど、コーヒーの粉はまんべんなく湿っているし、水が垂れる部分も穴ができていないし、個人的にはこのほうが楽でいいかな、と思ってる。

製品の特性上、作り置き用の道具なのですぐに飲みたいときには役立たずだけど、「すっきりとしていながらコクのある深い味わい」のアイスコーヒーを家で気軽に飲めて、しかも小売価格も ¥2000- 程度ってことも考慮すると、個人的には大満足の逸品って言えるかな。実際、暑くなってきてからは1〜2日おきに使ってるし、ほぼ毎日飲んでるし。それに、この味だったら涼しくなってからでも十分飲んじゃいそうな気もしてる。


イワキ ウォーター・ドリップ・コーヒー・サーバー KT8644-CL
IWAKI Water Drip Coffee Server KT8644-CL


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ちなみに、同種の製品では、コーヒー用品のジャイアント、ハリオのウォータードリッパー・クリア WDC-6 なんて商品もある。見た目はかなりカッコイイし、ハリオ・ユーザー(ハリオ・ラヴァー?)として気になるところなんだけど、まぁ、デカイし(高さ 455mm)高い(オフィシャル・サイトで ¥30240。アマゾンや楽天でも ¥20000 前後)し、まぁ、現実的ではないな。店とかにあったらカッコイイと思うけど。ハリオは YouTube を積極的に使ってる点とかも好感が持てるし。




HARIO Water Dripper Clear WDC-6
ハリオ ウォータードリッパー・クリア WDC-6


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ここからは蛇足になるけど、実はこのサーバーを買うまで、具体的には去年の夏からアイスコーヒーに関してちょっと悩んでた。まぁ、ここ数年は基本的に美味しいコーヒーのことばかり考えてるんだけど、特に去年の夏は家で飲むアイスコーヒーについていろいろ考えることが多くて、でも、去年は結論が出る前に(その期間は普通にドリップで淹れたコーヒーを氷で冷やして飲んでた)夏が終わったのでペンディングにして今年に持ち越されたんだけど、今年の夏、このサーバーで一応の結論が出たって感じかな。

では、なんで「去年の夏から」だったのかって改めて考えてみると、やっぱりコンビニのコーヒー、っていうか、具体的にはセブンイレブンのコーヒー(セブンカフェ)の登場が大きかったのかな。日本は世界的にもかなり特殊なコーヒー文化を育んできた国だと思うけど、その歴史の中でもひとつの大きなポイントっつうか、ちょと大袈裟な言い方をしちゃうと、後に「セブン以前 / セブン以後」って言われるんじゃね? って思っちゃうくらいの、ちょっとした '事件' だったと思ってるんで。

ここで考えてるのはあくまでもドリップ・コーヒーに関してなんだけど、ドリップ・コーヒーっていうのは「コーヒー豆を煎る(ロースト)→ 豆を挽く(ミル)→ 淹れる(ドリップ)」ってプロセスを経て飲めるようになるわけで、そのプロセスが短期間に行われれば行われるほど鮮度が保たれてフレッシュなコーヒーになる。コーヒー豆っていう自然の収穫物を使ってる飲食物なんだから、当たり前の話なんだけど。

ただ、今の日本で普通に飲めるコーヒー(特にアイスコーヒー)について考えたとき、このプロセスの時間経過を短くする努力が実際にどれほどされているかというと、実はかなり差があって、でも、一部の好事家以外にはそれほど(ほとんど?)気にされずにいたのが現状だった。

もちろん、「ロースト → ミル → ドリップ」をすべて一括で行っている店もあるし、毎日、その日に使う豆を自分でローストしたり、ローストしたばかりの豆を仕入れてオーダーを受けてから挽いて出す店もけっこうあって、いわゆる「コーヒーが美味い」と言われる喫茶店やカフェ、好事家が好む店は当然こういうタイプの店ってことになる。

ただ、コーヒー専門店でもチェーン系になるとローストされてから一定期間経過している豆を使っていたり、個々の店では挽いてすらいない(ミル済みの粉を仕入れる)ケースも多いし(コーヒー専門店以外の場合もほとんどだと思われる)、サーヴされるコーヒーも一定量まとめて淹れて '作り置き' されてることが多い。たぶん、日本で「普通のコーヒー」って認識されてきたのはこのタイプのことなんじゃないかな。

つまり、ちょっとコストと手間をかければもっとフレッシュで美味しいコーヒーが飲めることはちょっと考えてみればわりと簡単にわかることだけど、多くの人はそこにあまり気を使わずに(そこに意識や金銭の面でコストをかけず)にいて、そこにあまり気を使わないでも飲めるコーヒーを、「普通のコーヒーってこのくらいな感じ」というゆるやかなコンセンサスとしてなんとなく共有してきた、と。でも、そのコンセンサスをあっさりと、胡散臭いプロモーションとか頭でっかちな喧伝なしで、ガツンと一撃で破壊したのが去年のセブンカフェの登場だったんじゃないかと思ってる。

その大きな要因は、もちろん ¥100 というコーヒーとしては最安値の価格帯の商品でありながら、「ミル → ドリップ」をその場で行う「真っ当なコーヒー」だって点。もちろん、ハイエンドなコーヒーではないけど、でも、少なくとも「それまではなんとなく共有されてた普通のコーヒー観」には余裕で達してる(もしくは超えてる)し、実際、この条件をクリアしているコーヒーを飲める店が街中にどれだけあって、実際にそれを飲むのにいくらかかるのかを考えてみれば、その違いはわりと簡単に想像がつくはず。

特にその衝撃が大きかったのがアイスコーヒー。「XXXXX コーヒー」なんて名前の店でもヘタしたら紙パックから注がれることも少なくない(行くとろに行けば「業務用アイスコーヒー」なんてモノも売ってるし)中で、¥100 で「真っ当なアイスコーヒー」を提供しちゃってるんだから。たぶん、アイスコーヒーはホット以上に安易に済まされがちだっただけに、その衝撃はより大きかったはずだし、これがいかに画期的なことかはもっともっと評価されていい。

まぁ、要するに、アイスはもちろん、ホットに関しても十分にある種の価格破壊でもあり、「それまではなんとなく共有されてた普通のコーヒー観」の破壊でもあるし、ハイエンドを変えたわけじゃないけど、値段・質・味のベーシックなライン(= 最低ライン)を大きく引き上げちゃったってこと。もちろん、最終的には「味」の話なんで個人レベルでは好みの問題にはなるんだけど(例えば「ナチュラル・ローソンのほうが好き」とか)、あくまでも一般論としてってレベルでは、店舗数のスケール感も鑑みると、もう、「真っ当なコーヒー」を飲もうと思ったときにセブンカフェ以下を選ぶって選択肢はほぼなくなったって言っても過言じゃない。

もちろん、ここで言及してる「真っ当なコーヒー」ってのはあくまでもドリップ・コーヒーのことなので、それ以外のタイプのコーヒーについてはまた別の議論になるんだけど。上に「日本は世界的にもかなり特殊なコーヒー文化を育んできた国だと思う」って書いたけど、それはまさに「それ以外のタイプのコーヒー」も含んだモノで、例えば、世界でも類を見ないカタチで独自に進化してきた缶コーヒーの世界(特に缶のホットは世界的にもかなり珍しいと思う)とか、スターバックスとかタリーズに代表されるシアトル系=セカンド・ウェーヴ系の異常な受け入れられ方(個人的には、実際の数字は知らないけど「ほとんどの客がエスプレッソをベースにいろいろな要素を '盛った'、'ほぼスイーツ' と呼ぶべき商品を買ってる店」って認識してる。それはそれで嫌いじゃないし、一定の役割りは果たしてきたとも思うし、シアトル系の店には他にも重要なファンクションがあるから一概には比較できないけど)とか、本家・アメリカのサード・ウェーヴ系にも影響を与えたという独自のディープな喫茶店カルチャーとか、何とも言えない独特のバランスでイメージが形成されてきたカフェ文化とか、飲んでみると案外それほど不味くなかったりするインスタント・コーヒーとか、いい面も悪い面も含めて、かなり独特なコーヒー文化を育んできてるって言えるんじゃないかな。最近の缶コーヒーのケミカルでハイパーなイケイケ感とか、好き・嫌いはともかく、素直にスゲェなって思うし。

結論としては、長年に渡って育まれてきた日本の独特のコーヒー文化の流れ(特にドリップ・コーヒー / アイスコーヒーに関して)に大きな一石を投じて、もしかしたら後の流れを大きく変えるターニング・ポイントになったかもしれないのが去年の初頭のセブンカフェの登場(特に夏場のアイスコーヒーの大ヒット)で、そのポイントは「それまではなんとなく共有されてた普通のコーヒー観」の破壊(及びクオリティと価格のバランスの大幅な上方修正)だったんじゃないかってこと。もちろん、これは個人的にはすごく嬉しいポジティヴな変化だと思ってるし(まぁ、いろいろなところで話題になってるデザインとか英語の表記・用法とかの話も、それはそれでいろいろ考えさせられるけど)、ここ数年のサード・ウェーヴ的なハイエンド方面の動きとも相俟って、美味いコーヒーが飲みやすくなるなら大歓迎なんだけど、ただ、セブンカフェの成功に関してビジネス面ばかりにフォーカスして肝心のコーヒーそのものに関する部分をちょっと軽視してるような評価が多いような気がしたので、ちょっと改めて整理する意味も兼ねて考えてみたって感じかな。

そういえば、上のサーバーを教えてくれたロースターから聞いたんだけど、「水出しのアイスコーヒーはなぜかありがたがられる」って話がちょっと気になってる。一番楽な作り方なのに、なぜか喜ばれがちなんだとか。この件をツイートしたら、知り合いから「ダッチコーヒーの抽出用具があると美味しそうだし、大きなガラスの管(柱)が涼しげだし、長い時間かけて作った感もある」って言われて、「なるほどなぁ」なんて思ったんだけど、プレゼンテーションとかプロモーションの話としてもちょっと興味がある。あと、ホットコーヒーの場合でも、「ハンド・ドリップ / ポア・オーバーで1杯ずつ淹れるドリップ・コーヒーが一番時間と手間がかかるのに価格は一番安い」って話も、ちょっと似た感じで、いろんな意味で興味深い。まぁ、サード・ウェーヴ系の動きのおかげでハンド・ドリップ / ポア・オーバーの魅力と価値がちょっとずつでも見直されてきてるのはいい傾向だとは思うけど。

それから、最後に、コーヒーに関して素朴に「時代は変わったなぁ」と思ったエピソードを。正月に地元の親戚(70歳を超えた伯母さんとその妹の2人暮らし)の家に挨拶にいったときのこと。酒は飲まないのでお茶かコーヒーを出してくれるんだけど、そのコーヒーが普通にカルディのドリップ・パックだったのにちょっと驚いた。もちろん、上に書いてきたような基準に照らして言えばセブンカフェ以下になるんだけど、それでも、数年前まではインスタント・コーヒーだった(滅多にインスタントは飲まないから覚えてる)のが知らぬ間にドリップ・パックになってて、それはもちろんインスタントと比べれば遥かに「真っ当なコーヒー」に近づいてるってことなわけで。ちょっと嬉しい驚きだったのを覚えてる。

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