2008/03/22

On the road again.

『オン・ザ・ロード  
 ジャック・ケルアック 著 青山 南 訳 (河出書房新社
 Link(s): Amazon.co.jp / Rakuten Books

池沢夏樹=個人編集 世界文学全集(全 24 巻)の栄えある第 1 巻として発売されたジャック・ケルアックのクラシック、"On the Road" の新訳。タイトルも『路上』から『オン・ザ・ロード』に変更されている。

路上』はもちろん、言わずと知れたビートニクスの代表作なわけで、ご多分に漏れず 10 代の頃に読んでかなり影響を受けて、頑張って(かなりムリをして)原書、"On the Road" まで読んでみちゃったことがあるくらい好きな作品なんだけど、今回の青山南氏の訳は、適度に時代に合わせてアップデートされてて、個人的にはかなり好印象だった。

わりと見過ごされてると思うんだけど、そもそも '翻訳' なんてモノは、100% の精度でできるわけがないモノで、訳す人が違えば印象が微妙に違ってくるのは当たり前。世の中では、'翻訳' や '通訳' というモノはあたかも 100% 正確なモノであるかのように思われてるフシがあるような気がしてて、スゴク違和感を感じているんだけど、外国語が多少わかってくると気付くけど、そんなことできるわけがない。強いて言えば、バイリンガルの著者が書いたモノ(本人が語ったモノ)が(少なくとも本人の意思との整合性の面で)いちばん精度が高いわけで、世の中の訳書や通訳の多くはそうではない以上、多かれ少なかれ訳者のカラーが出て当然だろ、と。

特に、文学のような、より曖昧でニュアンスが大事なジャンルであればなおさらその傾向は高まるわけで、そういう意味で、翻訳書というのはそういうモノだと思って向き合うべきだし、同じ作品をいろんな人が訳したりすることでいろいろな面が見えたりもするので、個人的には大賛成だったりもする。

で、このオン・ザ・ロード』のこだわりというか、意図みたいなモノがいちばん現れているのが変更されたタイトル。'on the road' という言葉が持つ語感や意味合い、特に「移動し(続け)ている」状態のイメージと、旧訳(と便宜上呼びます)のタイトルの「路上」という言葉の持つ静的なイメージとの間に違和感を感じた(そう言えば、この感覚については前にレビューした『地球(ガイア)のささやき』にも似たようなことが書かれてた)ためにタイトルを変えたということに代表されるように、「ビート」であったり「ブロウ」であったり、当時の空気感を醸し出す、特徴的な言葉の意味を、原書の持つ語感やリズム感を大切にしながら訳されていてなかなか味わい深い。たぶん、全体的に路上』よりもわかりやすくもなってるんじゃないかな? 装丁デザインも路上』の文庫版とは比べ物にならないし。

内容的には、さすがに 10 代の感受性で膨大な言葉の勢いを真っ正面から受け止めた
路上』を読んだときに比べれば、翻訳が変わっただけじゃなくて読み手も変わってる(成長か退化かはナゾだけど…)わけで、単純に比較はできないけど、やっぱり衝撃的でパワフルな作品であることはあらためて再認識。特に語感。仕事として言葉を操る立場から見ても、このヴァイオレントなまでにパワフルで、即興性溢れる言葉遣いは、まさにジャズ。正直言うと、パンクのように「若い頃にはメチャメチャ影響を受けたけど、年をとってから読み直すと、ノスタルジー以外感じないのかも?」なんてありがちな不安もあったんだけど、完全に取り越し苦労で、やっぱり、メチャメチャフレッシュだった。

本には「旅先で(または移動中に)読むといい本」というジャンルがあると思うんだけど、これはまさにそれに相応しい 1 冊。出版された直後に買ったにもかかわらず、やっと読めたのもそういう理由だったりして。なんか、都内の電車の中とかじゃ読みたくなかったんで。結局、北海道に向かうサンフラワーの中を中心に、短期間で一気に読んだんだけど。

 

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