『ブラジル』
. :ジョン・アップダイク 著
. :寺門 泰彦 著 (新潮社) ★★★★☆
別に特別アップダイクが好きってわけではないし、彼の作品の中でこの作品がどういう位置付けなのか知らないけど、タイトルがタイトルなので、以前、一度読んだことがあったんだけど、あらためて読み直してみた。何故かというと、前に読んだ時はブラジルに行ったことがなかったから。行く前に、ブラジルについての勉強の一環として図書館で借りて読んだんだけど、ブラジルに行って帰ってきてから、もう一回読み直したいな、と思いつつ、なかなかタイミングがなくて読めなかったんだけど、今年の夏にあらためて読んでみた。
「トリスタンとイズー物語」って伝説をベースにしてるらしいんだけど、別にその伝説を知らなくても大丈夫(実際に知らないし)。物語は、味も素っ気もない、安っぽい書き方をしちゃうと、「ファヴェーラの黒人の男と金持ちの白人の女がコパカバーナのビーチで出会い、禁断の恋に落ちて繰り広げる逃避行…」。描写はなかなか刺激的で官能的で、ある意味リアルである意味幻想的で、じとっと肌にまとわりつく濃密な熱帯の愛の物語。また、クビチェック大統領時代と軍事政権下のブラジルの違いだったり、ブラジル人にとってブラジリアって街がどういう存在なのかってことだったり、そういうことも垣間見えてきたりもする。「黒は濃い褐色。よく見ると白は薄い褐色だ」という印象的な書き出しではじまる物語は、光がとにかく強烈で、何もかものコントラストが極端なブラジルの風景と空気を知った後に読むと、そのインパクトがより一層強烈だった。
日本で読むなら断然、夏。最近の日本の夏にピッタリ。もちろん、熱帯夜に、エアコンをかけずに。
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