『アップルとグーグル』
. :小川 浩・林 信行 著(インプレス R&D) ★★★☆☆
タイトルの通り、とてもキャッチーで、テクノロジー業界で光ってるふたつの企業の特徴を、共通点・類似点と相違点を挙げながらまとめた著作。結論を先に言っちゃうと、タイトルを見てちょっと興味を持った人なら読んでみてもいい内容だし、あまりグッと(ピンと)こない人は別に読まなくてもいい、そういう感じの一冊。ただ、文体自体は読みやすいし、難解な表現や過度に専門的な部分はほとんどないので、あまり詳しくなくても興味があれば苦労せずに読めちゃうと思うので、そういう意味ではよく考えられている気がする。
構想段階のアイデアのヒントのひとつとしてあったのが、EPIC 2014(及びその続編の EPIC 2005。その内容の詳細に関しては『INTERNET magazine』のこの記事が詳しい)に登場する 'Googlezon'(「グーグルとアマゾンが合併して、よりパーソナライズされたサービスを提供する」という近未来予測)だっということで、'Googlezon' ならぬ 'Googplepple' って感じのイメージらしい。このネーミング(というか造語)はどうなの? って気がするけど(個人的には、'Googlapple' のほうがいいな。グラップラーっぽくて。ホントはスペルは 'grapple' だけど、わざとちょっと間違えるんもまたアリかな、と)、まぁ、気持ちはとてもわかる。
わかるが故に考え方や捉え方的には相容れない部分も多いけど(つまり、個人的にもすごく気になってて、それなりにチェックしてたり調べたりしてるので、必ずしも同じような結論には至ってない、ということ)、それを差し引いても、個別の事例とか検証とかは勉強になるし、知らなかったり忘れてたネタは豊富。キレイに印刷するためにはコストがかかることを承知でスティーヴ・ジョブズが 6 色のロゴマークを採用したハナシとか、2007 年 2 月に発表した "Thoughts on Music" ってオープン・レターとか、「アップルの製品の裏面は、他社製品の正面より美しい」ってジョブズの言葉(いい言葉だ!)なんてその代表的なモノだし、2001 年にラリー・ペイジが日本で行ったプレゼンテーションで語られた「グーグルを成功に導いた 6 つの教訓」(1. 何よりも製品が大事 2. まずはポテンシャルを試せ 3. マーケティングは不要!? 4. 明快な目標と焦点の絞り込み 5. 人々の暮らしに影響を与えよ 6. 大きなマーケットに狙いを定める)なんて知らなかったし。小ネタとしては、アキバが好きなブリンとサーゲイに対して、骨董通りが好きで富山の窯元に通うジョブズなんてハナシもあったりして。
あと、なんとなくわかってた気になってたことを、キチンとわかりやすく整理してくれている。例えば、アップルはモノを売る会社だけど、グーグルはモノを売らない会社であることとか。つまり、ユーザーとの関係性の違い。例えば、設立時期の違い。インターネット以前に設立されたアップルと、インターネット以降に設立されたグーグル。まぁ、言われてみれば当たり前なんだけど、ついつい忘れちゃいがちで、でも、キチンと理解するためには、曖昧にしとくと論点がズレちゃう原因になりがちなところだったりするので。アップルと Mac と iPod の区別をキチンとしてる(言葉を使い分けられてる)人ってほとんどいないと思うけど、それと似てるかな。
この本自体は今年の 4 月発売(当然、執筆はそれより前)なので、iPhone 3G に関する事実は反映できてないんだけど、そのことを差し引いても、ケータイにまつわる部分は、これからを見ていく上で頭に入れといていいことかも。特に、Android も採用してる WebKit についてとか。iPhone と Android を対立するものではなく、 WebKit ベースのケータイ用ブラウザーを共に広めていくって視点で見てるところとか、ちょっと面白い(しかも、今では Chrome もあるし)。未だに iPhone の本当の意味や価値を理解できずにいる(メーカー的にもユーザー的にも)鎖国状態の孤島を尻目に、って感じだけど(個人的には、Android なんかより、グーグルには端末代金・通話料が完全無料で広告ありのグーグル・ケータイとか出して、日本のケータイ業界を完全に壊滅するくらいのことをして欲しいんだけど)。
個人的には、やっぱりアップルのほうが思い入れがあるし、どっちも決して安泰ではないと思ってるけど(アップルはやっぱりジョブズ以降が心配だし、グーグルは、まぁ、もともと諸手を挙げてって感じではないし、これからはけっこう難しい部分も出てきそう。ある意味、インフラと化してるから。マイクロソフトがそうであるように、単なる一私企業がインフラになっちゃうと、ディフェンスの部分が多くなると思うんで、ラディカルさが保ちにくくなる)、この本が出てから半年の間でも iPhone 3G だの Chrome だの、新しいモノを出してたりするし、やっぱりこの 2 社の動向から目は離せないのは間違いない。
ただ、本自体の結論として、ついつい「この 2 社から学び、日本の企業に活かすには」云々的なハナシになっちゃうところは、どうなんだろう? お約束のようにそういう方向にハナシをまとめた瞬間に、ウサン臭く感じちゃう(仕方ないのかもしれないかも)。
最後に、一番気に入ったエピソードを。iPhone に搭載されてる Google Maps のビューアー・ソフトはアップルのエンジニアが作ってて、その仕上がりの美しさにグーグルのエンジニアが感動してたとか。Google Maps なんてソフトを作っちゃうグーグルと、ついつい美しく仕上げちゃうアップル。とても象徴的で、いいハナシだな、と。
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