2008/07/17

Walk this way.

『遊歩大全コリン・フレッチャー 著. :芦沢 一洋 訳
森林書房 Link(s): Amazon.co.jp

原著 "The New Complete Walker" が刊行されたのは 1974 年(初版である "The Complete Walker" は 1968 年)で上下巻として日本語訳されたのが 1978 年。それを 700 ページを超えるカタチで 1 冊にまとめて 1987 年に刊行されたのが本書ということで、クラシック中のクラシックと呼べるバックパッカーのバイブル的な 1 冊です。当然、書店等でお目にかかることはなかなかなく、新宿区の図書館でかなり年季の入ったコンディションの 1 冊を借りることができました。翻訳を手掛けているのは『バックパッキング入門』の芦沢一洋氏。

内容としては、'complete walker' って言葉の通り、バックパッカー(本人は「バックパッキング」ではなく、タイトル通り「ウォーキング」って言葉を使ってるけど)に必要な知識やノウハウ、装備から心構えまで、必要なモノは商品名や値段、重さといった具体的な詳細情報まで網羅するカタチで触れられていて、インターネットのある現代ならともかく、情報に限りがあった当時なら相当重宝したであろうことは容易に想像ができる。

「身も心もひどく痛めつけられ、傷ついたときでも、薬の世話にならずに元気を回復できる唯一の妙薬」であり、ある種の「ひたすらのめりこみ、常習患者になりがちな狂気」とウォーキングを呼んで憚らない著者は、この狂気を広く推奨せんがために本書を著している。著者自身、ちょっと(相当?)偏屈なところも含めて真性のオタクって印象。もちろん、いい意味で。ウォーキング・スタッフ(ストック)に対する偏愛とか、もう、愛すべきオタク以外の何ものでもないし。

印象に残ってる、っていうか、レベルの差こそあれ、わりと実感に近いのがこの文章。

草の急斜面を登りきり、風に吹かれ、空を見上げると、いつしか自分の頭脳が明晰になっているのに気付くのだ。だが、'think' という言葉は、この際適切ではないかもしれない。無理な二者択一を自分自身に迫る硬直した「思考」という意味のそれではなく、心の奥に潜在しているに違いない答えをうまく引き出してみようとする柔軟な「解決法」というべきものだから…。

そう、わりと理屈じゃない、もっとプリミティヴでシンプルな感じ。そう考えると、何も変わってないってことなんだね。軽く 30 年以上昔の本なので、それこそ『バックパッキング入門』と同様、情報自体は古いんだけど、あらためてこういう古典を読み直してみると、本質は何も変わってないことがわかる。例えば、能率よく背負って歩ける荷物の重さはだいたい体重の 1/3 程度とか、実際に荷重をささえるのは尻・腰であることとか、ウォーキング・スピードは「ゆっくり(slow)」と「もっとゆっくり(slower)」だけだとか。変わるのはテクノロジーにまつわる部分だけで、本質的な部分はシンプルだし、変わってない。だからこそ、今読んでも楽しめるし、クラシックになるんだろうね。

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