2011/11/05

United we stand. Fight the power.

RAHEEM DEVAUGHN "Freedom Fighter" (368 Music Group) ★★★★☆ 
Link(s): Bandcamp

2008 年にグラミー賞の最優秀男性 R&B ヴォーカル・パフォーマンス部門でノミネートされたことでも知られるアメリカの実力派 R&B / ソウル・シンガー・ソングライター、ラヒーム・デヴォーン(RAHEEM DEVAUGHN)によるミックステープ。Bandcamp のページで公開されていて、無料でストリーミング / ダウンロードできる。

コンセプトとして 'Power to 99% of the people.' って言葉が掲げられてる通り、ウォール・ストリートで始まり、アメリカ国内だけでなく世界各地に広がっている 'Occupy' ムーヴメント(日本語だと「XXXXX を占拠せよ!」って表現されてるのかな?)に呼応し、その動きをサポートするサウンドトラック的な内容で、曲の合間にコーネル・ウェスト(CORNEL WEST)やルイス・ファラカーン(LOUIS FARRAKHAN)、マーティン・ルーサー・キング Jr.(MARTIN LUTHER KING JR.)のスピーチが挟まれているなど、政治的なメッセージ色が濃い。

具体的な構成としては、いわゆる 'ミックステープ' という体裁ではなく、無音状態なく曲をつなげている感じで、DJ マネー(DJ MONEY)がシークエンスを担当してる。収録曲は別に新曲ってわけではないんだけど、ジル・スコット(JILL SCOTT)やビラル(BILAL)、アンソニー・ハミルトン(ANTHONY HAMILTON)、ドウェレ(DWELE)、リュダクリス(LUDACRIS)、DJ ジャジー・ジェフ(DJ JAZZY JEFF)等、収録曲には豪華なゲストが参加してるし、ラヒーム・デヴォーンの音楽性と政治的なスタンスがよくわかる仕上がりで、なかなか聴き応えがある。

ラヒーム・デヴォーンというと、つい最近、ワシントン DC で行われた 'Occupy DC' に参加し、アメリカ連邦最高裁判所前でコーネル・ウェストら 19 人とともに逮捕されたこと(その時の動画はここで観れる。アートワークで薄ら使われている写真がまさにその時の模様。ちなみに、翌日には釈放された)が記憶に新しいけど、このミックステープはその後に制作されたらしい。

音は下のプレーヤーでストリーミング及び無料ダウンロードできる。

 
"The Love & War MasterPeace" (2010)
ラヒーム・デヴォーンとコーネル・ウェストっていえば、去年リリースされたサード・アルバム "The Love & War MasterPeace"(Links: Amzn)で既に共演済みなので、その関係性はそれなりに連想ができたけど、'Occupy DC' での逮捕のニュースを聞いたときにはちょっと驚いたかな。「おぉ、そんなにマジメにコミットしようとしてるんだ」って。ちょっと見直したっていうか。一連の 'Occupy' ムーヴメントとヒップ・ホップ / アフロ・アメリカン・カルチャーとの関わりについては、例えばジェイ・Z(JAY-Z)とかが 'Occupy Wall Street' に顔を出して激励してたりはしたけど、逮捕覚悟で参加してる辺り、なかなか気骨を感じさせるな、と。

ちなみに、コーネル・ウェストってのは、『人種の問題』と "Never Forget: A Journey of Revelations" のレヴューでも詳しく書いてるけど、プリンストン大学宗教学部教授で、現在のアフロ・アメリカン・カルチャーにおいて最も影響力が強い知識人 / 言論人の 1 人。個人的にも、その動向がメチャメチャ気になってる人物で、特に喋りが魅力的(例えば、こことかここで観ることができる)。'blues people' とか、独特の用語を使いながら、時にロジカルに、時にエモーショナルに訴えかける喋りはなかなか強烈で、ヘタな MC なんかよりよっぽどグッときちゃう。

'We are the 99%.' ってスローガンを掲げ、過去数十年に渡って世界的に進行してきた富の集中と格差の拡大(個人的には緩くて巧妙な新しいタイプの奴隷制度だと思ってるけど)に抗う意志のもとで始まった 'Occupy' ムーヴメントに関しても、コーネル・ウェストは一貫して支持を表明してて、実際にかなり早い時期にウォール・ストリートの現場でスピーチしたりしてた。その後のワシントン DC での確信犯的な行動も、もちろん、その一環だし。

実は、ラヒーム・デヴォーンに関しては個人的にはそれほど思い入れはなかった(一応、プロフィールとかディスコグラフィは最低限把握してるし、作品もチェックはしてきたけど)。印象としては、2000 年代に入ってからシーンに登場した R&B / ソウル・ミュージック系のシンガー・ソングライターなんだけど、ディアンジェロ(D'ANGELO)とかマックスウェル(MAXWELL)とかエリカ・バドゥ(ERYKAH BADU)といったアーティストたちの流れで出てきたアーティストって感じなんだけど、前にビラルのレヴューでも書いたけど、「クオリティ自体は決して低くないんだけど、イマイチ小粒というか、インパクトに欠ける男性 R&B / ソウル・ミュージック・シンガー・ソングライターの 1 人」ってイメージがあったかな、正直なところ。

でも、'Occupy' ムーヴメントに関わる今回の一連の動きと、その一環としての今回のこの "Freedom Fighter" はコンセプト的にも出来映えとしても素晴らしくて、かなり印象が変わったっていうか、上方修正した感じかな。個人的には、こういう脳ミソにもハートにも同時に訴えかけてくるタイプのモノにはめっぽう弱いんで。こういう作品はもっと評価されるべきだし、もっともっと増えてもいい気がする(もちろん、日本でも)。ただ、このくらいのクオリティじゃないと困るけど。


* Related Item(s):


コーネル・ウェスト 著『人種の問題』 Link(s): Previous review
LA 暴動が起こりスパイク・リーの『マルコム X』が公開された直後の 1993 年に出版され、50 万部を超えるベストセラーになったコーネル・ウェスト教授の代表作。


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