2009/01/09

On transition.

Macworld 2009 / Keynote Address (Apple Inc. / IDG World Expo)  

2009 年 1 月 6 日にサン・フランシスコで開催されたマックワールド & エクスポ 2009 で行われたアップルによるキーノート・アドレス。

今回もアメリカのアップルのサイトにストリーミング用の映像がアップされている(後にポッドキャスト配信もされるかも)。12 月にプレス・リリースで発表されていたように、今回のキーノート・アドレスを担当するのはスティーブ・ジョブズではなく、シニア・バイス・プレジデントのフィル・シラーで、今年が最後のマックワールド参加となる。

 マックワールドは、その名称から誤解をされやすいんだけど、アップル主催のイベントではなく、IDG ワールド・エクスポという会社が主催しているトレードショーで、もちろん主役はアップルなんだけど、アップル以外にもさまざまな企業が参加してて、アップルもその参加企業のひとつに過ぎないというのが基本的なスタンス。もともとは 1985 年から毎年 1 月にサン・フランシスコで開催されてて、その他にもニュー・ヨークやボストン、ワシントン DC、さらにはパリや東京で開催されたこともある(個人的にも、東京とニュー・ヨークでのマックワールドには行ったことがある)。

これまでは、マックワールド冒頭のアップルの基調講演で新製品が発表されることが多く、特にスティーブ・ジョブズが暫定 CEO としてアップルに復帰して以降は、iMac や Mac OS X、iPod Shuffle、iPhone など、数多くの衝撃的な製品が発表される場として注目を集め、アップルとしてもすごく重要な場として効果的に使ってたけど、最近はマックワールドではなくアップルが独自に主催するスペシャル・イベントで発表されることが多くなり、それに伴ってアップルにとってのマックワールドの重要性が低下してきた印象。今年が最後のマックワールド参加になること、そして最後のキーノート・アドレスを務めるのがスティーヴではなくフィルである(理由はスティーヴの健康ということになってるけど)ことをあえて事前に発表したのも、過度な期待を予め静めておきたい、言い換えれば、今のアップルはマックワールドをそれほど重要視してないってことの表明とも思える。ある時期にはとても大きな役割を担ってたけど、時代が変わるにつれてそういう役割に変化が生じたり、その役割が終わったりする。そんな時代の流れを感じさせる、ある意味で時代の分岐点というか、今回のキーノート・アドレスは転換期を象徴してるのかもしれない。そういう意味では、これまでに感謝して派手にやるか、素っ気ないくらいあっさりやるか、どっちかだと思ってたんだけど、結果としては後者だったのかな、と。

役割の変化の代表的な例を、キーノート・アドレスの冒頭でフィルが、ちょっと申し訳なさそうに挙げてた。曰く、「世界中のアップル・ストアには毎週 340 万人が訪れる。つまり、毎週マックワールドを 100 回開催してるようなものだ」と。つまり、3 万人規模のイベントを毎週 100 ヶ所で開催するのと同じ効果がアップル・ストアで生まれていて、しかも、そのイニシアチヴを 100% アップルが握れるってこと。以前は、アップルのメッセージをユーザーに伝えて、実際に製品に触れて、必要なら開発担当者のハナシなんかも聞けて、なんていうか、ヴァイブみたいなモノを感じられる数少ない(唯一の?)場として、アップルにとっても、メディアにとっても、ユーザーにとっても大切だった。ただ、アップル・ストアがそれに代わる役割を十分果たせるだけのクオリティと店舗数と規模を持ち、独自のイベントでも十分に動員とか注目を集められるようになると、開催時期が予め決められてる(自分たちの都合で決められない)マックワールドの価値が下がってくるのは、製品開発的にもプロモーション的にも当然のこと。こういう発言を基調講演の冒頭に持ってきたのは象徴的だし、スティーヴならこういうことでも何喰わぬ顔して言えちゃうんだろうけど、人の好さそうなフィルにこういうこと言わせるのは、ちょっとかわいそうな感じがしちゃったり。因みに、写真はその時に紹介されたシドニー店の写真(スゴイ人!)。

フィルはもともと、スティーヴのキーノート・アドレスのサブ・キャラとしてはお馴染みで、主にボケ担当というか、和ませ系・癒し系のお
トボケキャラなんだけど、実はスティーヴが体調を崩したときに、代役を務めたことがある。そういう意味では、今回担当したことは不思議じゃないし、ちょっとテンパってる感じは伝わってくるけど、まぁ、無難にこなしてるというか、他の企業とかのプレゼンテーションに比べるとよっぽどマシなんだけど、やっぱりスティーヴと比べると見劣りしちゃうのも事実。もちろん、その辺は本人も十分わかってて、まず最初に「こんなにたくさんの人たちが、ホントに来てくれて嬉しいよ」なんて言っちゃうところが憎めないんだけど。

そんなアップルのスタンスを反映してか、今回発表されたのも
iLife '09iWork '0917" MacBook Pro とわりと地味な内容(会場には取締役を勤めるアル・ゴア元副大統領の姿なんかもあったけど)。このレビューはあくまでもキーノート・アドレス自体のレビュー、キーノート・アドレスをある種のパフォーマンス、ある種のエンターテインメントとしてレビューしてるんで、それぞれの製品に細かく触れたりはしないけど、iPhoto の顔認識とスライドショーのトランジションとか、一から書き直したっていう iMovieビデオ・アプリケーションのチーフ・アーキテクトのランディ・ユビラスがデモを行ったGarageBand に加わったギターとベースのレッスン(しかも、有料でアーティスト自身が代表曲を教えてくれるレッスンもある!)、iPhone 用のアプリの Keynote RemoteKeynote をワイアレスにコントロールしたり、iWork.com なんてのを用意してたりする辺りはけっこう好み。やっぱり、アップルらしいっていうか、なかなかイヤらしい仕掛けが満載。17" MacBook Pro はバッテリー性能がメチャメチャ向上したらしいんだけど、17" にあまり興味がないので、個人的にはイマイチピンとこなかったりするんで。カッコイイけどね。あと、iTunes Store が全曲 DRM フリーになるらしい。これはシンプルに歓迎できる。

最後にトニー・ベネットっていう渋いゲストを迎えて締めくくられた約 1 時間半にも及ぶプレゼンテーション自体はつつがなく進行したけど、やっぱり印象は地味かなぁ。最近のモノをレビューしてる(2008 年 9 月のキーノート・アドレス2008 年 10 月のキーノート・アドレス)けど、やっぱスティーヴのプレゼンテーションは秀逸で、ちょっと器が違うっていうか、やっぱりスペシャルなんだなぁ、と再認識させられる。フィルも味があってキライじゃないけどね。

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