2009/05/04

Do the right sh*t.

『くう・ねる・のぐそ ― 自然に「愛」のお返しを』
 伊沢 正名 著(山と渓谷社) ★★★☆☆ Link(s): Amazon.co.jp / Rakuten Books 

去年の 12 月に発売されて、そのシンプル且つインパクト十分なタイトルのせいもあって、一部でわりと話題になってるっぽい一冊。要するに、排便行為、特にトイレを使わずに自然の中で排便する行為、つまり '野グソ' についての本ってこと。

個人的には、'野グソ' っていうと頭に浮かぶのは日本屈指のパンチ・ライン職人として知られる NIPPS のブッダ・ブランド(BUDDHA BRAND)の "病める無限のブッダの世界"(Links: iTS / Amzn) 収録の "Funky Methodist" のパンチ・ライン、"I drop da funk like a 冬場の野グソ" くらいなんだけど、もちろんそれは全然関係なくて、山の屎尿問題と絡んでちょっと気になってた問題で。富士山とか特にそうだけど、山のトイレの問題ってす ごく深刻で、でも、じゃあ、何ができるのか、どうすればいいのか、ってのはけっこうナゾだったんで。

アウトドアの本なんかだと「穴を掘って埋める」ってサラッと書いてあったりはするんだけど、 実際のところ、どうなのさ? ってのがイマイチわかってなかったんで、ヒントになるかな、と。まぁ、あまりにも直接的な言葉なのもアレなんで、ここでは 'ナチュラル・シット' と呼ぶことにするけど(もちろん、こんな言葉はないと思うんだけど)。

著者は自ら「糞土師(ふんどし)」と名乗る人物で、 1974 年からナチュラル・シットに取り組み始めて、21 世紀に入ってからは一度もトイレを使ってないっていう強者。もともとは自然保護活動をしてて、その頃にキノコに魅せられてキノコの写真を撮るカメラマンに なったって人なんだけど、たまたま屎尿処理場建設反対運動に接したことから屎尿処理について考えるようになったら、キノコとも密接な関係にあった、と。つ まり、林の中でのナチュラル・シットはキノコの強力な分解力によって自然に還り、優れた養分になるだとか。だったら積極的にナチュラル・シットに取り組も う、しかも自ら実践しながらあるべき姿を模索して、推進していこうっていう 35 年に渡る壮大な(?)取り組みの記録をまとめたのが本書で、場所は日本全国(しかも渋谷とか上野とかまで含まれてる)はもちろん、南米やニュー・ジーラン ドといった海外までに渡ってる。回数にして 10000 回以上。内容が内容なだけじゃなく、人間のナチュラル・シットの実物の写真が載ってたりする(袋とじになってるんだけど。絶対に載せたいってこだわった著 者と、懸念を示した出版社側が折り合ったのが「袋とじ」だったらしい)って意味でも、他に類を見ない本に仕上がってる。タイトルも装丁もわりといい感じだし。 

ヒトが生きていくために絶対に欠かせないのが、食べることと眠ること、そしてウンコ(排泄)をすることだ。食べものは、肉でも魚でも野菜でも、すべて命あ る生きものだ。他の多くの命をいただいている私たちが、自然に感謝して何かお返しをするのは当然のことだろう。しかし、ヒトが自然に返せるものといった ら、ウンコしかない。ウンコはトイレに流せば厄介なゴミに成り下がるが、じつはヒト以外の生きものにとっては、たいへんなご馳走なのだ。 

プロローグにはこんな風に書かれてる。これがそのままタイトルとサブ・タイトルになってるん だけど、まぁ、この主張自体は感覚的にはすごく合点がいくハナシだったりはする。実際に昔は肥料として使われてたってこともハナシとしては知ってるし、水 洗トイレの先がどうなってるかなんて全然知らないけど、まぁ、有効利用されてなさそうな感じはするし、水を大量に使ってることは間違いないし。ただ、問題 は感覚的にはわかってても、具体的には全然わかってないことなわけで。

この本がスゴイのは、 キチンと記録を取りながらその方法を試行錯誤してるだけじゃなくて、土の中で分解されていく過程とかまで調べてたりすること。そこからわかったのは「ナ チュラル・シットは、正しい方法でやれば問題ない」ってレベルじゃなくて、「人間が自然に還元できる(おそらくは唯一の)有益な行為」だ、ってこと。土の 中での分解過程がすさまじくて。キノコだけじゃなく、いろんな動植物・菌類がナチュラル・シットに群がって、大変な饗宴を繰り広げてる。そう言われると、 だいぶ考え方も変わってくる。

まぁ、実践するかって言われると、やっぱりなかなか難しいけど、でも、実際問題として、ト レッキング中とかなら自分にも十分ありえるハナシだし、どういう風にしたらいいか、しかもオッケーなだけじゃなくて、好ましいかがわかったのはなかなか面 白いな、と。例えば、分解能力を超える量のナチュラル・シットは逆に良くない、つまり、ただ埋めればいいってわけじゃない、と(一ヶ所にできるのは 1 年に 1 度ってのが「掟」なんだとか)。あと、場所も大事だったり。特に標高が高いところとか川の近くとか。山で問題になるのはこういうところかな。

ちなみに、「街路または公園その他公衆の集合する場所で、たんつばを吐き、又は大小便をし、若しくはこれをさせた者」は、軽犯罪法違反になるんだとか。まぁ、そこら中で無闇にするなってことだ。そりゃあそうだ。


 

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