2009/07/27

Banned on the run.

大麻ヒステリー

. :武田 邦彦 著(光文社)

前にレビューした
長吉秀夫氏の大麻入門』に続いて、大麻に関する新書が発売されたので早速読んでみた。

著者は資源材料工学の学者で、特に環境問題に関して、わりとビミョーな感じの書名の著書が多い(ように、少なくとも個人的には感じる)人物。本人が TV に出演してるのも観たことがあるけど、TV で観た印象も文章(文体)から受ける印象もやっぱりビミョーだったりする。別にキライではないけど、好きにはなれない感じと言うか。まぁ、何の疑問も抱かずに情報を鵜呑みにして、自らを顧みずにそれを正義であるかのように振りかざす偽善者よりは好感が持てるけど。

あと、
大麻ヒステリー』って、言い得て妙というか、まさに日本の現状を的確に言い表してると思ったんで、それも含めて、ちょっと興味はあるな、と。
大麻取締法は、もしこの法律がなければ犯罪者にならない善良な人を犯罪者にしている。つまり「法律が犯罪者を作っている」といってもいい状態なのである。
著者は
本書でこう述べてる(帯にも「大麻は痲薬ではない。法律が犯罪を生み出す」と書いてある)わけだけど、もちろんこれだけでは説明不足だし、同時に、いろんな含みがあったりもするように思えるんだけど、これを説明するのが本書の大きな目的のよう読める(だからこそ、あえて説明不足にし、含みも持たせてる)。そのためには世界的・歴史的な(特にアメリカでの)大麻取締の歴史と日本で大麻取締法が制定された経緯を知る必要があるし、さらに大麻という植物自体について、痲薬(あえて「麻薬」と書かないところがポイント)とは何かということについて、日本の歴史・文化の中で大麻(という植物)がどういうモノとして扱われてきたのか等も知る必要があるし、そういったことを知れば、なぜこのように言うのかがわかる、と。

著者はまず、大麻をあくまでも植物であり、世の中には向精神性の成分である THC(テトラヒドロカンナビノール)を含む大麻と含まない大麻があり、THC を含まない大麻(昔から日本に植生していたのはこのタイプなんだとか)はそもそも大麻取締法の対象であること自体がおかしいことを強調してる(大麻っていうのは医療用とか食用とかいろんな用途のある作物なんで、これはもちろん、至って真っ当なハナシ)。つまり、大麻っていうのはあくまでも植物でしかなくて、その中には THC を含む品種もあるってことは事実ではあるけど、「大麻=痲薬」ではない、と。

そして、それを踏まえた上の議論として、THC ってのがそれほど悪いモノなのか? 前途ある若者の未来や善良な社会人の社会生活を大ナシにしても仕方ないほど悪いことなのか? ってハナシになる。その比較対象として、ヘロインやアヘン、コカインといった向精神薬や覚醒剤、アルコール、タバコ、コーヒーなどがあるんだけど、(THC を含む)大麻はヘロイン、アヘン、コカイン、覚醒剤等と同じような扱いを受けてるんだけど、実際のところどうなのか? その根拠は? 実はアルコール、タバコ、コーヒー程度(もしくはそれより良質な)の嗜好品なんじゃね? みたいなハナシになる、と。まぁ、結論は言わずもがなだけど。

まぁ、著者のスタンスは、どっちかっていうと「よくわからん経緯で、自分たちでキチンと考えもせずに作った(できた)法律で善良な市民を犯罪者にしてる」のが今の日本人で、それはサブ・タイトルにもある通り、「思考停止になる日本人」に他ならないし、そういう状況は「科学者としては」(この表現を著者はよく用いる)疑問を提起せざるを得ない、と。他の著書も基本的には同じスタンスで書かれてるっぽくて(本人のサイトにもこんな随筆が載ってる)、必ずしも、いわゆるカンナビストとか大麻解放運動をしてる活動家ってことではないっぽいんで、まぁ、物足りない部分があったり(例えば、医療大麻への言及とか、最近の海外での動きとか、他の嗜好品、特にアルコールとの比較とか。タバコに関しては、それなり以上に規制されてきてると思うけど、アルコールに関しては、異常な状態だと思うので)、ちょっと違和感(というか、説明不足?)を感じるところがあったりする(例えば、痲薬と南北の社会の関係のハナシとか、面白いハナシなだけにもっと突っ込んで言及してくれればいいのに、とか)部分もなきにしもあらずだけど、逆に、そういう立場の人からもこういう意見が出ることはいいことだな、なんて思ったりもする。

これまでにも何度も書いてる通り、個人的には、安易でお手軽で打算的な印象を強く感じる昨今の新書の流行みたいなのはキライなんだけど、まぁ、それがそれなり以上に支持をされてるのも事実なわけで、新書で取り扱われるテーマってのは、今の日本の社会を如実に(赤裸々に? エゲツなく?)映し出してるとも言えると思うので、長吉秀夫氏の大麻入門』に続いて、今年に入って 2 冊、マス・メディアがあまり取り上げたがらない大麻についての新書が出版されたのは、やっぱり、今の流れに疑問を感じるマトモな人もいるってことの証なのかな、と思うとちょっとホッとしたりもするけど。あと、マトモと言えば、最近、『週刊朝日』がけっこう頑張ってたりする(例えば、これとか)。

まぁ、もちろん、まだまだ全然不十分だけど。特に地上波 TV での取扱とか、異常すぎるし(NHK も含めて。例えばこれとか。YouTube の映像は消されてるけど)。あと、前に植草一秀氏の知られざる真実』のレヴューの中でもチラッと書いたけど、元はっぴいえんど鈴木茂氏が大麻の所持で逮捕されたときに再発が予定されてたはっぴいえんどの CD販売中止になったこと(iTunes Store だけは何喰わぬ顔して売ってて、超好感持ったけど)とか、まさに「大麻ヒステリー」以外の何モノでもないし。

ドラッグって意味ではアルコールもタバコもそうだと思うけど、こういう問題への対応って、つまんねぇ正論を振りかざしても意味がなくて、その社会がいかにケツの穴が小ちゃくてみみっちいか、寛大でピースフルかを示す指標だと思うんで、そういう意味で、日本がどういう状態にあるのか、考える上でのテーマとして大麻ってもってこいのモノだと思うし(大麻は単にドラッグの問題ではなく、哲学の問題であり、ライフスタイルの問題であり、医療問題 であり、環境問題であり、経済問題でもあるんで)、その資料のひとつとしては全然アリかな、と。


D'ANGELO "Untitled (How Does It Feel?)" (From "Voodoo")







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