2009/07/15

American funky tradition.

QUANTIC AND HIS COMBO BÁRBARO "Tradition in Transition"
(Tru Thoughts)  Links: iTunes Store / Amazon.co.jp

ちょっと前からモチーラMochilla)の B+ 制作のショート・フィルム、"Tradition in Transition: A Postcard from Cali" のトレイラーを観てたんで、すごく楽しみにしてたクアンティック(QUANTIC)ことウィル・ホランド(WILL HOLLAND)のニュー・アルバムで、今作は新バンドのクアンティック・アンド・ヒズ・コンボ・バルバロ(QUANTIC AND HIS COMBO BÁRBARO)名義。すごく期待してたんだけど、その期待をまったく裏切らないどころか、その予想をいい意味で見事に裏切ってくれた好盤で、正直、かなりビックリな印象。これはヤバイ。

クアンティックはイギリスのトゥルー・ソーツ(Tru Thoughts)からいろんな名義で作品をリリースしてきた DJ / マルチ・インストゥルメンタリスト / プロデューサー、ウィル・ホランドのワン・マン・ユニット。デビューは 2000 年で、当初はわりと典型的な UK ヒップ・ホップなイメージが強くて、けっこうチェックはしてたんだけど、ちょっとイヤな言い方をするとちょっと頭デッカチな印象もあったりした。

でも、その後、ザ・クアンティック・ソウル・オーケストラ(THE QUANTIC SOUL ORCHESTRA)ってバンドを結成した辺りから、徐々にジャズやファンク、さらにはサルサとかボサ・ノヴァといったラテン・アメリカルーツ・ミュージック、さらにはそのルーツであるアフリカ音楽までも精力的に探求をするようになって俄然面白くなってきたというか、狭い意味でのヒップ・ホップ・シーンには収まり切らない感じになってきた。2007 年にはプエルト・リコのザ・カンデラ・オール・スターズをフィーチャーしたニコデマスとの共作曲、"Mi Swing Es Tropical" が iPod の TV CF に使用されて話題になったり。特に 2007 年には南米・コロムビアの音楽都市、カリに拠点を移してからはその傾向が一層顕著で、2007 年リリースのザ・クアンティック・ソウル・オーケストラ名義の "Tropidelico"(Links: iTS / Amzn)とか 2008 年にダブ・プロジェクトのクアンティック・プレゼンタ・フラワリング・インフェルノ名義でリリースした "Death Of The Revolution"(Links: iTS / Amzn)等、コンスタントになかなか面白いアルバムをリリースしてて、今回の "Tradition in Transition" も基本的にはその流れって言える。基本的にはユニット名になってる 'COMBO BÁRBARO' ってのは「異邦人の集団」とか「非ヨーロッパ人たち」みたいな意味らしく、メンバーは現地・コロムビアのミュージシャンやペルー人ミュージシャン、アフリカ系のシンガー等で、それだけでもなかなか期待させるんだけど、12 人編成のストリングスのアレンジを手掛けてるのはモチーラ主宰のタイムレスにも出演してたブラジル人アーティストのアルチュール・ヴェロカイ(ARTHUR VEROCAI)だったりするもんだから、期待が高まることこの上ない。

演ってる音楽は、一言で言っちゃえば「アメリカの音楽」「アメリカのルーツ・ミュージック」って感じなんだけど、まぁ、この表現だと多分に誤解を招きそう。っていうのは、ここで言う「アメリカ」ってのは、アメリカ合衆国だけを意味してるわけじゃなくて、南北アメリカ大陸及びカリブ海地区、さらにはその地域の音楽に多大な影響を及ぼしたアフリカ音楽まで含んでたりするんで。別にコロムビアのカリを拠点にしてるからって、ただコロムビア伝統の民俗音楽を演ってるわけじゃなくて、それこそニュー・オリンズのファンクやジャズから、サルサやブラジル音楽といったラテン・ミュージックといった各種のアフロ・アメリカンミュージック、さらには各地のフォーク(ロア)・ミュージックまで、アメリカ大陸の各地に豊かに花開いたさまざまな音楽の実りを、素晴らしいミュージシャンたちと楽しげに味わってるような、そんなサウンド。ただの懐古主義とか伝統主義、もの珍しさとかエキゾチシズムではないし、でも、小難しいことを頑張ってやってるような高尚な感じとかもなくて。懐かしさはあるけど、古くささはないというか。何とも言えない絶妙なサジ加減な存在感と仕上がりで。言ってみれば、素直に、ハイブリッドでありながらシンプルで、メチャメチャ豊潤なアメリカン・フォーク(ロア)・ソウル・ミュージックって感じ。まぁ、ピーター・バラカン氏がベタ褒めなのも納得な内容かな、と。

あと、すごく感覚的なハナシなんだけど、この感じ、このアルバムに漂うヴァイヴに、なんか、今の時代にすごく大切な何かが潜んでるような気がしてて。上手く言えないんだけど。国境を越える感じなのか、文化の繋がりみたいな感じなのか、伝統との上手いつきあい方とか古いモノと新しいモノの有機的な融合みたいなモノなのか、非欧米主義的な何かなのか、つまんない感じで画一化しがちな昨今へのアンチテーゼみたいなモノなのか、何だかわかんないんだけど。その全部かもしれないけど。なんか、アイデアというか、ヴィジョンというか、そういう意味でもすごくインスピレーションに富んでて面白いし、何かヒントがありそうな気がしてて。そう考えると、'Tradition in Transition' ってタイトルも、何か意味深だし。

ちなみに、"Tradition in Transition: A Postcard from Cali" のスクリーニングは今月始めに LA で行われたんだとか。スゲェ観たい。

"Tradition in Transition: A Postcard from Cali (Trailer)" by Mochilla on Vimeo.


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