2010/01/10

The long voyage.

『ジパング』かわぐち かいじ 著 (講談社)  
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連載開始はなんと 2000 年で、完結したのは去年の秋。実に 9 年の時間をかけて描かれてきたかわぐちかいじの長編コミック『ジパング』が遂に完結した。単行本が出たらすぐに読んでたわけじゃなく、何冊か未読巻が溜まったらまとめて読んでたんで、これまでに個別にレヴューしたことはなかったけど、年末に出た最終巻までやっと読んだんでまとめてレヴューを(写真は最終巻のモノ)。

この
『ジパング』は、海上自衛隊のイージス艦・みらいが太平洋上で航海中に嵐の中で落雷を受けて、太平洋戦争中のミッドウェー海戦直前の太平洋にタイムスリップし、洋上で負傷した日本海軍の少佐を救出したことから、いろいろなことに影響を及ぼしていくっていう架空戦記モノ。軍備や歴史のリアリティをしっかりと押さえつつも、ストーリー自体はけっこうダイナミックに展開してて、そんなストーリーの中で国家・戦争・軍・核・歴史等というテーマを描いていく、かわぐちかいじ作品らしい硬派で大人向けのエンターテイメント大作に仕上がってる。コミックではないけど、印象としては前にレヴューした福井晴敏の『終戦のローレライ』にちょっと似てるところがあるかな。

ストーリーはみらいの副長・角松洋介と、角松に救出された帝国海軍通信参謀・草加拓海少佐のふたりを中心に展開していくんだけど、正義感と責任感に溢れた熱血漢の角松とクールで頭脳明晰で超然とした態度の中に熱いモノを秘めた草加ってキャラクター設定は、同じかわぐちかいじ作品の『沈黙の艦隊』の海江田四郎と深町洋が逆になったような、まぁ、言ってみればわりとオーソドックスで王道なカタチって言えるのかな。このふたりを中心に、山本五十六や石原莞爾、米内光政といった歴史上の人物も交えながら、太平洋各地だけじゃなく、日本国内はもちろん、南方や満州、さらにはヨーロッパやインド、ワシントンまで世界中を舞台に展開していくストーリーは読み応え十分。まぁ、ストーリーの詳細に触れるとネタバレになるんでやめるけど、正直、一時期はホントに完結させられるのか? ってちょっと不安になったりもした。でも、結論としては、想像してたイメージ以上の終わり方で、正直、期待以上に心地良い読後感だったかな。個人的には、ちょっとビックリな部分もあったりして。

あと、『終戦のローレライ』からも感じたことだけど、やっぱり、戦後生まれの日本人には近現代史の基礎知識がすごく不足してるなぁ、ってあらためて思ったりもするもちろん自分も含めてもちろん、作者側にはそういう部分を補いたいって意識もあるんだろうし、エンターテイメントととして成立させる以上、ある程度キチンと親切に描かれてるんで、別に特別な知識がなくても読めちゃうし、だからこそ 9 年以上連載が続いて全 43 巻なんて大作になった(つまり、それだけ人気があった。観てないけどアニメ化もされてるし、ゲームになってたりもするらしい)んだけど、これだけ読んで解った気になっちゃう危険性もあるなぁ、って(これまた、もちろん自分も含めて。ちょうど、最新号の『クーリエジャポン』も、日本の教育制度は '臭いモノに蓋' の姿勢で近現代史を避けてるって記事が載ってたけど(香港の記事だったかな?)、まぁ、自分自身の記憶を振り返っても、キチンと教育された記憶はないし。ビックリするくらい。やっぱり、読んでて自分の近現代史の基礎知識のなさを実感する。たぶん、知ってれば知ってるほど楽しめるんだろうし、これで解った気になっちゃマズイよなぁ、って。その辺は読み手のリテラシーっつうか、姿勢の問題になってきちゃうけど。奇しくも草加が生きているということは…、知ることなのだ…」って言ってたけど、まさにその通りだなぁ、って。まぁ、かわぐちかいじ作品に関しては好き・嫌いはあるだろうけど、なんだかんだ言って面白いし、沈黙の艦隊』と並ぶかわぐちかいじの代表作として、日本の漫画史の中でそれなり以上の存在感を放ちながら、長く読み継がれていくじゃないかな、と。
生きているということは…、知ることなのだ…」

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