2011/08/30

Bombing the bass.

THUNDERCAT "The Golden Age of Apocalypse" (Brainfeeder) ★★★★☆ 
Link(s): iTunes Store / Amazon.co.jp

フライング・ロータス(FLYING LOTUS)やエリカ・バドゥ(ERYKAH BADU)、エリック・ベネイ(ERIC BENET)等の作品に参加してることで知られるベーシスト、サンダーキャット(THUNDERCAT)のファースト・アルバム。今月末にフライング・ロータス率いるブレインフィーダー(Brainfeeder)からリリースされるってハナシだったんで楽しみにしてたんだけど、なんと日本では既に先行リリースされてたんで、早速チェックしてみた(まぁ、正直言うと、今時、日本先行リリースとかやめて欲しいんだけど。なんか、ナンセンスな感じしかしないんで)。

アルバム全体のプロデュースはフライング・ロータスが担当してるんだけど、これがなかなかの仕上がりで、期待をまるで裏切らない出来映えだったかな。

アルバムのトラックは以下のプレーヤーで全曲試聴できる。ちなみに、このネコちゃんアートワークのセンスはピンとこないけど、さすがに(ちなみに、上のモノは先行リリースされた日本盤で、オリジナルは下のサムネイルの通りゴールド。まぁ、ブッチャけ、どっちもビミョーなんだけど)。



サンダーキャットのこれまでの仕事(参加作品)に関しては、フライング・ロータスがアルバムのリリース前にブレインフィーダーのサイトで公開した関連曲のミックスTHUNDERCAT 'Shenanigans Pt.1')がすごく出来が良くて、無料ダウンロードできるんでオススメ。ただ、個人的にはそれほど意識的にチェックしてたわけじゃなくて、今回、ブレインフィーダーからソロ・アルバムが出るってニュースをちょっと前に知って初めてその存在を意識した感じだったかな(恥ずかしながら)。

しかも、そのニュースを聞いた時点でも、実は、個人的にはちょっと半信半疑だったりもしたし。その理由は、「(特にバカテク系の)ベーシストのソロ作品は要注意」って経験則みたいなモノが何となくあったから。特にジャズとかファンクとか、ブラック・ミュージック系に多いんだけど、ベーシストという '裏方' として名盤・名曲と呼ばれる作品やライヴで名演を披露してきたテクニシャン系のベーシストに限って、いざ自分のソロ作品になると思う存分、自分のバカテクをこれ見よがしに披露して、「上手いのはわかる(っつうか、わかってる)んだけど…、作品としては…」みたいになりがちだったりもするんで(もちろん、統計を取ったわけじゃないからデータが実証してるんじゃないけど。でも、確実に何度かガッカリした経験がある)。ロック・バンドとかならギタリストとかもそうなりがちだけど、ジャズとかファンクとかブラック・ミュージック系だとベーシストはけっこうその危険性が高い気がする。

ただ、このサンダーキャットのアルバムに関しては、取り越し苦労だったっていうか、まったくそんな心配する必要のない出来映えだった。本人の資質によるものなのか、それともプロデューサーとしてのフライング・ロータスの功績によるモノなのかはわからないけど、結果としては、普通にすごくバランスの取れたアルバムに仕上がってて。

サウンドとしては、エッジーでアブストラクトなエレクトロニック・サウンドが多いブレインフィーダー作品の中ではちょっと異色なくらい、ジャズ〜フュージョン色が濃いアルバムってことになるのかな。メロウでスペーシーなフュージョンではあるけど、一連のブレインフィーダー作品的なエレクトロニックな部分はかなり抑えめで、わりとスムースな印象って感じで。ベースの自己主張も適度に抑制されてるし。

個人的なハイライトは、ジョージ・デューク(George Duke)が MPS から 1975 年にリリースした名盤 "The Aura Will Prevail"(Links: iTS / Amzn)に収録されてる "For Love (I Come Your Friend)" のカヴァーかな、やっぱ。原曲も言わずと知れたクラシックなんだけど、メチャメチャメロウで気持ちいいカヴァーしてて。あと、蛇足だけど、ジョージ・デュークっていえば、同じくブレインフィーダーのサイトで公開されたモチーラ(Mochilla)の B+ によるミックス、"We Love GEORGE DUKE!" が素晴らしい。

他にも、メロウなグルーヴが心地いいフュージョンが何曲かありつつも、かなりタイトなビートで畳み掛けるトラックもあったりして、適度にメロウで、適度にファンキーで、同時にスペーシーで、全然やりすぎちゃってなくて(ここが大事)、なかなか充実した仕上がり。個人的には、気持ちいいグルーヴなら何分でも聴いていたいんで、短い曲が多くてすぐ聴き終わっちゃう点がちょっと不満な部分だったりもするけど、全体の出来映えとしてはかなりのレベル。気が付けば何度も繰り返し聴いちゃってる感じだったりする。

上で「個人的にはそれほど意識的にチェックしてたわけじゃなくて」って書いた通り、バイオグラフィ的な部分は基本的にはノー・チェックだったんだけど、右の写真の通り、見るからにファンキーそうな、なかなかインパクトのあるキャラクターらしい。

もともと音楽一家の出身で、父親はダイアナ・ロス(Diana Ross)やグラディス・ナイト(Gladys Knight)、ザ・テンプテーションズ(The Temptations)のドラマーとして活躍したロナルド・ブルーナー・シニア(Ronald Brunner, Sr.)、兄のロナルド・ブルーナー・ジュニア(Ronald Brunner, Jr.)もウェイン・ショーター(Wayne Shorter)やロン・カーター(Ron Carter)、パトリス・ラッシェン(Patrice Rushen)等との共演経験を持ち、グラミー賞を受賞してるドラマー。しかも、ロナルド・ブルーナー・ジュニアはアメリカ西海岸を代表するハードコア・パンク・バンドのスーサイダル・テンデンシーズ(Suicidal Tendencies)のメンバーでもあり、サンダーキャット自身も 2002 年からメンバーなんだとか。その傍ら、フライング・ロータス、エリカ・バドゥ、エリック・ベネイ、スタンリー・クラーク(Stanley Clarke)、スヌープ・ドッグ(Snoop Dogg)等と共演を重ねてきた、と。やっぱり、なかなか、掴みどころがない感じだ。

*   *   *

あと、関係ないけど、最近のブレインフィーダーのリリースの充実ぶりがハンパじゃない。あらためてチェックしてみたら、このブログでは全然レヴューしてなかった(ことに我ながら驚いた)んだけど、ここ数年のリリースの個人的な打率は相当高い。フライング・ロータス自身の作品はかなりアブストラクトでエクスペリメンタルだったりもして、個人的にはビミョーなヤツもあったりもするんだけど、求心力の源というか、A&R としてのフライング・ロータスの優秀さにはちょっと脱帽してる。これからリリース予定のテイラー・マクフェリン(TAYLOR McFERRIN)のアルバムもヤバイらしいし。テイラー・マクフェリンは、前にレヴューしたディーゴ(Dego)のアルバム "A Wha' Him Deh Pon?" に参加してるんだけど、そのディーゴに垂れ込みによると、テイラー・マクフェリンのアルバムはもう完成してて、かなりヤバイんだとか。コレも楽しみ。



THUNDERCAT "The Golden Age of Apocalypse" (Brainfeeder) ★★★★☆ 
Link(s): iTunes Store / Amazon.co.jp




* Related Item(s):

THUNDERCAT 'Shenanigans Pt.1' mixed by FLYING LOTUS
Link(s): Brainfeeder website
フライング・ロータスやエリカ・バドゥ等、サンダーキャット参加作品のフライング・ロータスによるミックス。

"We Love GEORGE DUKE!"  Link(s): Brainfeeder website
ブレインフィーダーのサイトに公開されたモチーラの B+ によるジョージ・デューク音源のミックス。

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