2011/05/05

A tribute to the break originator.

"We Love DJ Kool Herc" (saturnneversleeps.com)  
 Link(s): saturnneversleeps.com

タイトルを見ればわかる通り、ヒップ・ホップのオリジネーターの 1 人として知られるアーティスト、DJ クール・ハーク(DJ KOOL HERC)へのトリビュート・コンピレーションで、2 月にキング・ブリット(KING BRITT)とルシール(RUCYL)の 2 人組ユニット、サターン・ネヴァー・スリープス(SATURN NEVER SLEEPS)のサイトで発表されたモノ。コンピレーション自体はフリー・ダウンロードのカタチで公開されてて、同時に、病気で倒れたクール・ハークの入院・医療費の募金を呼びかけてる。

参加アーティストは、西海岸の 'ファンク番長' ことダム・ファンク(DAM FUNK)をはじめとして、近年のシーンで最も刺激的なビートを聴かせているプロデューサーの 1 人のラス・G(RAS G)、キング・ブリットとは旧知のソウルメイトである 4 ヒーロー(4HERO)のディーゴ(DEGO)、キング・ブリットと同郷の女流詩人のアースラ・ラッカー(URSULA RUCKER)等、国・都市やジャンルを超えた豪華なメンバーが集結してて、サウンド的にもヒップ・ホップに限定されてるわけじゃなく、さまざまな音楽性を網羅してる。既発曲がどのくらい含まれてるのかはわかんないけど、内容的には申し分ない、フリー・ダウンロードにするにはもったいないくらいのクオリティの全 18 曲のコンピレーションに仕上がってる。

リリース時にはレヴューし忘れてて、一応、当面必要な額の募金は集まったらしいんだけど、企画の意図ももちろんいいし、今後の継続的な支援が必要だと思うし、それに加えて、純粋にコンピレーションとしての出来映えも素晴らしくて、個人的にはメチャメチャ愛聴してたりもするんで、備忘も兼ねて。

DJ KOOL HERC
DJ クール・ハークは、既存のレコードのブレイクを 2 枚使いするという '発明' で、ヒップ・ホップというアート・フォームを生み出したオリジネーターの 1 人で、まぁ、言わずと知れたリヴィング・レジェンド。もともとはジャマイカ系移民で、持ち前のサウンドシステムを駆使してさまざまなジャンルのレコードのイントロやインストゥルメンタル・パート等を変幻自在にミックスして、それまでにはなかったグルーヴを生み出した DJ / アーティストで、1970 年代以降のダンス〜クラブ・ミュージックをちょっとでも真剣に聴いてたことがあれば、この '発明' がその後の音楽シーンの発展にどれだけ大きく寄与したかはわかるはず。まぁ、軽々しく使いたくはない言葉・表現だけど、まさに 'オリジネーター' だし、'ヒップ・ホップ / ブレイクビーツの父' と呼ぶにこれほど相応しいアーティストは他にいない(その辺のことは、この動画で触れられてる。車がカッコよすぎる!)。

そんなクール・ハークなので、入院・手術のための募金を数多くのアーティストがツイッターやブログ等で呼びかけてたんだけど、その 1 人がサターン・ネヴァー・スリープスだった、と。まぁ、日本はなんか横にも縦にもつながりが弱いっていうか、自分の好きなジャンルの、しかもその時代のモノしか聴かないような風潮が強い感じがする(特に、最近はその傾向を顕著に感じる)から、クール・ハークっていっても、今となっては、わりと古いヒップ・ホップ・ファンくらいにしか知られてない感じもしなくはないけど、このコンピレーションは音楽の縦と横のつながりを象徴してるようなメンツ・音楽性で、クール・ハークを軸に縦にも横にもつながってる音楽のショーケースとしても素晴らしい内容になってる。

具体的には、ダム・ファンクによるオールドスクールの大ネタ(であり、言わずと知れたディスコ・クラシック・ネタ)が微笑ましいフューチャー・ファンクで始まって、ディーゴは得意のブギーなインストゥルメンタル・ファンクを聴かせ、キング・ブリット自身はシルク 130(SYLK 130)名義でキャピタル・A(CAPITAL A)のオールドスクール・フレイヴァー漂うラップをフィーチャーしたトラックを披露してる。その他にも、一言でひとつのジャンルに収めにくいハイブリッドな佳曲が多くて、なかなか聴き応えがある。

個人的なハイライトは、サターン・ネヴァー・スリープスのキング・ブリットの相方である女性アーティスト、ルシールのソロ名義の "Let Me Love You" かな。サターン・ネヴァー・スリープスはウェブサイトに載ってるインタヴューでキング・ブリット自身が語ってる通り、もともと、サン・ラ(SUN RA)のトリビュート・イベントでのエレクトロニック・オーディオヴィジュアル・アートのパフォーマンスのために始まったモノで、ダンス・ミュージックっていうよりはよりアート的な意味合いが強いモノ。そこで、サウンドとヴィジュアルの両面でスパイスになってるのが、元ゴーツ(GOATS)のメンバーでもあり、グラフィックやウェブサイトのデザインなんかも手掛けるマルチメディア・アーティストのルシールで、けっこうエクスペリメンタルで尖った印象があったんだけど、ここに収録されてる "Let Me Love You" はメロウで美しいエレクトロニック・ヴォーカル・チューンで、彼女のちょっと違った一面を見せてくれた感じ。個人的には一番の収穫だったかも。

SATURN NEVER SLEEPS: RUCYL (left) and KING BRITT (right)

そもそも、この企画の言い出しっぺの 1 人であるキング・ブリット自身が、ハイブリッド且つエクレクティックな音楽性を体現してきたアーティストでもあるって言える。世界屈指のミュージック・シティである 'city of brotherly love' ことフィラデルフィアのシーンでも、オーセンティックな部分と先進的な部分を併せ持つキング・ブリットの多彩なサウンドは突出してるし。ジャズとヒップ・ホップをオーガニックに融合させたディガブル・プラネッツ(DIGABLE PLANETS)の DJ として 1990 年代中頃にシーンに登場し、ジョッシュ・ウィンク(JOSH WINK)とオーヴァム・レコーディングス(Ovum Recordings)を設立したことで、1990 年代後半のハウス・シーンで一躍、名を馳せることになったんだけど、音楽性やコンセプトに応じてさまざまな名義を変幻自在に使い分けながら、ハウス〜ヒップ・ホップ〜ジャズ〜テクノとジャンルの枠を超えて、素晴らしい作品をリリースしてきてる。

サターン・ネヴァー・スリープス自体のアルバムはまだリリースされてないんで、それもすごく楽しみなんだけど、このコンピレーションは、キング・ブリットの音楽的な幅の広さと奥の深さ、そしてのそのスペース内で各要素が有機的に結びついてる感じがよく伝わってくるナイス・プロジェクト。クール・ハークへの想いみたいなモノも含めて素晴らしい出来映えだと思うし、音楽の縦横のつながりを認識させる意味でもすごく有意義なコンピレーションだな、と。




* Related Item(s):

KING BRITT "Adventures in Lo-Fi" Link(s): Amazon.co.jp / iTunes Store
キング・ブリットが本人名義で BBE からリリースした、ありそうでなかったフル・ヒップ・ホップ・アルバム。バハマディア(BAHAMADIA)やカジモト(QUASIMOTO)などをフィーチャーした佳曲揃いの名盤。

"On the Seventh" Presented by KING BRITT  Link(s): Previous review
レヴュー済みのアイテムだけど、キング・ブリットがシカゴのパーク・ハイアット・ホテル用に選曲したコンピレーション。メチャメチャクールな仕上がりの好コンピレーション。

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