2012/08/16

A giant story. A giant vision.

『銀輪の巨人 ジャイアント』 野嶋 剛 著(東洋経済新報社) ★★★★☆ 
 Link(s): Amazon.co.jp / Rakuten Books

これまでありそうでなくて、でも、前から読みたいと思ってたテーマをドンピシャで扱ってくれた書籍で、今年の 6 月に発売された。

「前から読みたいと思ってたテーマ」ってのは、タイトルであり、表紙に写真も載ってる台湾の自転車メーカー、ジャイアント(Giant / Official Website)について。自転車メーカーとしても、純粋にひとつのアジアの企業としても、何かと興味があって、でも、あまり目にすることがないテーマだったんで。自転車雑誌とかを熱心に読んだり、自転車に関する書籍をたくさん読めば触れられてないことはないのかもしれないけど。でも、少なくともちょこちょこと自転車関連の書籍や雑誌、ウェブサイトなんかを見てる限りは見かけたことはなかった。ただ、自転車にまつわるモノはこれまでにもたびたびレヴューしてきた通り、自転車は常に気になってるジャンルのひとつだし、自転車について気にしてれば、当然、ジャイアントは目に入るんで。

最近は日本でもすっかりお馴染みになったジャイアントは、その名の通り、世界の自転車産業の中でも屈指の '巨人' で、台湾の小さな工場として起業し、数十年の間に世界最大の自転車メーカーになったんだけど、特筆すべきはその規模的な成功だけではなく、それ以外にもいろいろ興味深い特徴がある。例えば、台湾の自転車産業は直近の 10 年で、輸出台数がほぼ同じでありながら総輸出額は約 3 倍増させてるんだけど、それを牽引してるジャイアントの業績は、1999 年に 319 万台を売って 118 億台湾ドルを売り上げていたのが、2011 年には 577 万台を売って 474 億台湾ドルを売り上げてる。どちらの数字も販売台数の増加率よりも売り上げの増加率のほうが急激であり、1 台当たりの販売価格を上昇させてるわけで、つまり、より価格の高い自転車を売れるようになったことで成功したってこと。これはすごく重要なポイントで、実は個人的にもすごく実感があったりもする。

なんで「個人的に実感がある」かというと、実は、今、乗ってるスペシャライズド(Specialized)の自転車の前にジャイアントのマウンテン・バイクに乗ってたんだけど、ジャイアントを選んだ理由は「買いやすかったから」だった。ちょうど 10 年くらい前だったと思うんだけど、その当時、周りに「なんでジャイアントにしたの?」って訊かれたときに、「他社(の同等のスペックの製品)よりもちょい安い」し、「なんか盗まれにくそう」って答えてた。まぁ、ちょっと誤解されちゃいそうな部分もなくはないけど、でも、今、あらためて考えても、我ながらあながち間違ってなかったりもするし、ジャイアントの特徴を言い当ててもいる。

まず、先に誤解されちゃいそうな部分をエクスキューズしとくと、当然、「なんか盗まれにくそう」って部分。別に調査したわけでも盗むヤツに取材したわけでもないんで、あくまでも個人的な感覚だっただけど、でも、少なくとも当時は、なんとなくそういう印象があった。その背景にあるのは、「アメリカやヨーロッパのブランドの自転車と比べると、ややドンくさい印象があるんで、盗まれにくい(ような気がする)」みたいなイメージ。当時と比べるとそのイメージの差はかなり縮まってる気がするけど(実際、中国では、あまりに盗難率が高くて盗難保険が成り立たないんだとか)、でも、正直なところ、まだ、完全に並んでるわけではない気がするし。ただ、ここでいう 'ドンくさい印象' ってのはデザインやカラーリング、さらに言っちゃうと、ブランディングみたいな部分で、裏を返せば、「スペック的には全然見劣りしない」って意味でもある。

ここが「他社(の同等のスペックの製品)よりもちょい安い」って部分につながるんだけど、実際、アメリカやヨーロッパのブランドと比較すると、どんなスペックの製品でも 2 〜 3 万安いって印象だったかな、当時は。もちろん、ここで言う '自転車' ってのは、どんなに安くても価格帯的には 5 万円以上の、まともなスペックの自転車のこと(長くなるし、これまでにもたびたび触れてるんで、ここでは 'まともなスペックの自転車 / まともじゃないスペックの自転車' についての詳しい言及は省くけど)。

実はこの印象が大正解だったみたいで、ジャイアントをジャイアントたらしめたポイントのひとつだったってことが本書内でも触れられてる。1 台当たりの販売価格を上昇させたことは触れたけど、2000 年頃ににジャイアントがやったのは、当時、日本円で 10 万円以上してた '中価格帯の自転車' の価格をちょっと下げる努力をして、今、日本でもすごく売れてる(とは言っても、もちろん、台数的には 1 万円程度の 'まともじゃない自転車' = 低価格帯の自転車ばかりが売れてるんだろうけど)5 〜 10 万円くらいの価格帯の自転車ってマーケットを作り出したってことだったんだとか。実際、10 年くらい前に買ったジャイアントのマウンテン・バイクも 5 万円代だった記憶があるし、ジャイアントを選んだ理由も「他社なら 7 〜 8 万円するスペックのマウンテン・バイクが 5 万円代だった」からだし。ある意味、まんまと 'してやられた' んだけど、まぁ、別にユーザーとしては大歓迎だったんで。

この価格帯のマーケットを作り出したことが、大きなジャイアントの転機のひとつだったみたいなんだけど、本書は、ジャイアントの創設から現在に至るまでのタイムラインを一通り追いながら、要所要所で転機になったポイントに詳しく触れるカタチでまとめめられてる。まぁ、言ってみれば、典型的な '成功した企業に関する本' って感じ。もちろん、それが第一義的な目的だろうし、そういう意味では、そういう典型的なフォーマットはしっかりと踏まえて書かれてる。

ただ、同時に、日本の自転車産業の没落についても平行して述べられてて、そこも大きな読みどころだったりする。実際、著者も、序章ならぬ '序走' で以下のように述べている。
 
一連の取材の中で、私は常にひとつのクエスチョンを頭のなかで繰り返していた。
なぜ、ジャイアントは台湾ではなく、日本に生まれなかったのか、ジャイアントの何が、日本のメーカーとの違いを生み出したのか、と。
日本はかつて世界一の自転車生産国であり、輸出国だった。
日本には世界一の自転車製造技術もあった。優れた技術者もたくさんいた。
ところが、1990 年代後半、世界の自転車作業において日本勢とジャイアントをはじめとする台湾勢の主役交代が起きた。
そのまま日本勢は台湾勢にぶっちぎられ、日本の自転車産業はブランド力、販売力などあらゆる面で昔日の栄光をまったくとどめていない。
(中略)
そして、これまでほとんど指摘されてこなかったポイントであるが、グローバルマーケットにおける日本の製造業の「失敗」が、最も早い段階で、しかも劇的に進行したのが自転車産業だったのだ。

まぁ、「最も早い段階で」起こったのかどうかはわからないけど、そういう産業のひとつだったことは間違いなさそうだし、実際、読んでて「どっかで聞いたことのあるようなハナシ」が多い。もちろん、「自転車産業やジャイアントについてもう聞いた / 読んだことがある」って意味じゃなくて、他の業界で似たようなハナシを何度も聞いたことがあるって意味で。既視感ならぬ '既読感 / 既聞感' との言うべきデジャ・ヴのような感覚っていうか。家電産業然り、テクノロジー / IT 産業(特にパーソナル・コンピュータとか、ケータイ / スマートフォンとか)然り。自転車もまた、高度なハイ・テクノロジー産業だし(実際、最先端テクノロジーの進化と、それに伴って高スペックな製品の価格が少しずつ下がる感覚がコンピュータにすごく似てる)。そういう意味でも面白いし、単に自転車好きとか自転車産業に興味を持ってる人だけじゃなく、純粋にビジネスのハナシとしても十分読み応えがある。著者は当然そこを狙って書いてるんだろうけど、十分にそういう受け入れられ方はしそう。

「自転車にはそれほど縁のない人生を送ってきた」という著者は、2007 年までジャイアントの存在自体を知らなかったんだとか。新聞社の特派員として台湾に赴任していて、そこでジャイアントと台湾の自転車産業・自転車カルチャーについて知り、その 5 年後にジャイアントについての本を書いたという。つまり、既に自転車業界の中にいたわけではなかったのはもちろん、個人としても自転車乗りですらないわけで、自転車業界を外からの視線で冷静に見ることができる立場であり、それでいて新聞記者としての取材力は持ち合わせていたってこと。この手の本を書くに当たって、そういう立場が功を奏す場合もあるし、つまらなくなる要因にもなりえるけど、本書に関しては前者の印象かな。すごくフラットな目線で自転車(産業・カルチャー)を見てるし、それほど自転車について詳しくなくてもわかるようにまとめられてる印象なので。通常のハードカヴァー的な装丁で出てることを考えると(実際には 'ハード' なカヴァーではないんだけど)、もうちょっと情報量的なヴォリュームがあってもよかったかな? とは思うけど、内容的には期待通りだった感じ。あと、読後に知ったんだけど、WIRED に著者のわりと長いインタヴュー記事が載ってて、コレもなかなか読み応えがあるんで、先にコレを読んどいてもいいかも。

内容としては、上記の通り、ジャイアントの歴史と変遷を中心に、日本の自転車産業の没落にも触れつつまとめられてるんだけど、著者はもうひとつ、以下のように目的を記している。

人類にとって、現代社会にとって、自転車とはどのような存在なのかを説き明かしつつ、自転車が我々の社会と経済に対してどのような意味と重要性を持っているのかを問いたいと思っている。

具体的には、創業者で現会長の劉金標(1934 年生まれで 11 歳まで日本語教育を受けていて、その後もビジネス等で使っていたために今でも日本語は堪能なんだとか)氏のインタヴューを中心に、劉金標氏の右腕として会社を支えてきた現 CEO の羅祥安氏のインタヴューやその他の外部取材を交えながら、1972 年の創業時からの流れを、世界と日本の自転車産業の流れにも平行して触れつつまとめられてる。章と章の間にはカラー写真も使われてて、自転車にまつわるコラムも挟み込まれてたりと、なかなか気が利いた作りになってるし。

もともとは、別に「自転車好きが高じて」的な始まりではなく、他の事業でのトラブルの後に起死回生の策として「事業としての将来性を見込んで」自転車産業に参入し、貿易会社で働いていた当時に「台湾の自転車メーカーに将来性は期待できない」というレポートをまとめていた劉金標を、「将来性を期待できない」という結論を導いた理由を逆手に取っることでヘッド・ハンティングし、その理由となった要因を取り除くことで事業を本格化させた初期のエピソードから、OEM 期・ブランド確立・他社に先駆けたカーボン・ファイバーの導入・中国進出等、現在に至る歴史の中で大きな転機になったポイントに触れながら、その背景にあるポリシーや哲学にまで言及されてる。

例えば、根本的なポリシーのひとつに「技術と品質を重視し、一度決めたらコストを惜しまず、とことんやり抜く」ことだったり、試作車は必ず劉金標氏が試乗することだったりするんだけど、個人的に知らなかった点は「他社を買収しない / 自社株を他社に売却しない」ってポリシー。海外法人もすべて 100% 自己資本なんだとか。実は、ジャイアントに乗ってた当時、ちょっと 'ドンくさい' イメージがあったせいもあって、「ナイキ(Nike)が買収して ACG ブランドの自転車とか作ってくれればいいのに」とか勝手に考えてたんだけど、そんなことは実現するはずもなかった、と。まぁ、OEM なら可能だったはずだけど。実際、台湾の成功してる企業には、一般的に知名度は高くないけど実はメチャメチャ成功してるタイプも多いし(例えば、iPhone や iPad を製造してるフォックスコンこと鴻海精密工業の企業規模は日産より大きく、パナソニックと同じくらいなんだとか)、ジャイアント自体も創業当初は OEM が中心だったし。実は、今でも OEM を止めてないんだとか(マーケットの動向を探るアンテナとしても役立つんだとのこと)。まぁ、自己資本だからこそ軸がブレないんだろうし、そういう点は「やりたいことができなくなるから株式上場(による資金調達)はしない」というパタゴニアにちょっと似てるのかも? もちろん、「技術と品質を重視し、一度決めたらコストを惜しまず、とことんやり抜く」とか、「失敗を恐れずにチャレンジする」みたいなポリシーもオーナー企業だからこそできるんだろうし。あと、OEM を止めないことは、リスク・マネージメントとマーケティングを兼ね備えた、ある種の強かさの証なんだろうし。

実は、読んでて一番強く感じたのは、一方に '品質には妥協しない職人気質' みたいな部分がありつつも、もう一方には、'強かな商人気質' みたいなモノも感じられて、それがキチンと共存してるなって点だった。あまり詳しく知ってるわけじゃないから、あくまでもイメージで言ってるけど、それこそ、大阪商人的な強かさっていうか。

もちろん、単に自社の利潤を追求する商売人では全然なくて、台湾の自転車産業全体であったり自転車産業 / カルチャー全体にも責任とヴィジョンを持ってたりもするんだけど。台湾の自転車産業が空洞化する危機には自社の利益をある程度犠牲にしてでも台湾の自転車産業を守り、強化しようと動いたり、世界の自転車産業のリーディング・カンパニーのひとつとして、広く自転車文化の向上・発展にも積極的にコミットしてたり。こういう部分は、ちょっとアップル(Apple)とかナイキとかに通じる感じもあったりする。

当然、本書は、ある種、'ジャイアントの成功物語' なので(一時は困難に陥っても結果的には)上手くいったことばかりが書いてあるんだけど、その 'ジャイアントがやったこと' が、そのままイコール(先行していたはずの)'日本のメーカーがやらなかったこと' だったりもして、なかなか辛辣だったりする。まぁ、個人的には、実はそれほど「日本の」みたいなこだわりはないんだけど(まぁ、マイノリティな意見だとは思うけど。一応、そのロジックは自分なりにはあるつもりだけど、その理由は述べだすとメチャメチャ長くなるんでここでは触れない)、でも、本書を読むまで気付いてなくて、気付いてなかった自分にビックリした点があった。それは、「今、'まともなスペックの自転車' のマーケットに日本のメーカーの製品は(ほとんど)なく、その事実に気付かないくらい、違和感なくその事実を受け入れてた」ってこと。一応、人並み以上には自転車について気を付けてきたつもりだけど、実際、今、仮に新しい自転車を買おうと思ったら普通に海外のメーカーの自転車をイメージするし、そのことに違和感すら感じてないし。

それこそ、日本人はすごく自転車に '馴染んでる' はずなのに、自転車文化自体はかなり後進国で、そこには悪名高き(そして、今や解決困難な)いわゆる 'ママチャリ問題' があったりする。ただ、ここ数年は、やっとその状況がちょっとずつだけど変わり始めてて、産業としても比較的好況なイメージすらあったんだけど、そこには、すっぽり '製造' の部分が欠けてて、そのことに気付かないくらいそれが自然なことになってるってこと(「小規模なインディ的なメーカーはともかく、大規模なメーカーのレベルでは」ってことだけど)。まぁ、iPhone とか Mac にしてもそうだし、ナイキのスニーカーを履いてパタゴニア(Patagonia)のアウトドア・ウェアを着てたりするし、聴いてる音楽のほとんどは海外のアーティストのモノだったりもするんで、殊更「日本の産業が…」みたいに嘆いたりこだわったりするつもりはないんだけど、普通に事実として気付かないくらいに自然になってることには、我ながらちょっとビックリしたってだけで。一応、日本の自転車メーカーの全盛期も(当時はその認識はなかったけど)記憶にはある世代だったりはするんで。

まぁ、日本の自転車産業・文化の没落とか後進性に関しては、日頃からいろいろ考えちゃうテーマだったりするんだけど、日本のメーカーっていう業界 = '民' の問題でもあると思うし、ただ、民間だけじゃなく、自動車産業を依怙贔屓してきた(ように思える)政治・行政 = '政' と '官' の問題でもあると思うし、悪者を一言で指摘できるような単純なハナシではないと思うけど、まぁ、結果として見る影もないのは事実。その結果として、プリミティヴでありながら、実は現代的な交通・移動手段であり、同時にライフスタイルとしても現代的な自転車の魅力がやっと見直されてきて、それなりにマーケットができつつあるのに、常に技術革新を続けるハイ・テクノロジー産業である自転車産業に急に復活できるわけもなく、(一部のインディ的なメーカーを除いて)輸入車以外に選択肢がないって状況になってる、と。

'民' の部分で突出してるのもジャイアントの特徴で、劉金標氏は「台湾を自転車アイランドに」って提唱して、ツーリズムにまで進出してるんだとか。台湾には、外周約 1000km の島を一周する '環島(ホワン・ダオ)' って習慣があるらしく、手段は自転車に限らないんだけど、「台湾人なら死ぬまでに一度はやってみたい」的なことなんだとか(どっちが難易度が高いかわかんないけど、日本人にとっての富士登山みたいなものなのかな? 一部の人しかできないほど難易度が高いわけじゃないけど、いざ、やろうと思うと、体力・時間等の制約はそれなりにあって、なかなか実践できない感じが)。劉金標氏も自ら自転車での環島を達成してて、それをサポートするようなツーリング旅行のサービスをジャイアントでやってるんだとか。

実は、(それこそジャイアントの自転車に乗ってた)2004 年に開催された FIFA フットサル・ワールドカップを観るために台北には行ったことがあるんだけど、現地では自分が乗ってる自転車の生産国だってイメージには全然結びつかなかった。わりと有名だけど、台北の都市部は完全にスクーター文化で、そこら中、スクーターだらけ。自転車を見た記憶はほとんどない。その印象は間違ってなかったらしく、都市部の便利な移動手段としては、やっぱりまだまだスクーターなんだとか。そして、だからこそ、 「台湾を自転車アイランドに」って施策は、都市部での日常生活・通勤・通学に使うスクーターや自動車、公共交通機関の代替案としてではなく、余暇のヘルシーなレジャーとしての提案なんだとか。当然、海岸線とか内陸の自然の中で乗るならそれなりの距離をそれなりのスピードで走るわけで、それなり以上のスペックが必要になるし、当然、中価格帯以上の 'まともなスペックの自転車' が相応しい。もちろん、本当は都市部でもスクーター・自動車の代替交通手段になるのが理想だけど、とりあえず、できることから動いてみてる感じが、目の付けどころも含めて '民' として正しいと思うし。

実は、台湾だけじゃなく、日本でも積極的に動いてて、四国の第 1 店舗として愛媛県今治市に直営店をオープンさせてるんだけど、その理由は都市の規模ではなく、自転車に乗るのに適したしまなみ海道が近いからだったりして。この感じも、海に近い(= サーフィンができる)ことを理由に日本の支社を鎌倉に開設したパタゴニアにちょっと似てるかも。

台湾のハナシではないけど、'政' と '官' の例としては韓国の李明博大統領の '自転車乗用の生活化' 政策がある。まぁ、李明博大統領っていうと、制度として再選が認められていない韓国の大統領はたいがいそうなんだけど、任期の残り数ヶ月というレイムダック状態で支持率回復を狙ったのか、竹島(韓国では独島)に突然上陸したり(韓国の大統領としては初めてだったとか)いろいろとニュースになってたりするんだけど、本人は自転車愛好家でもあるらしく、都市部での自転車利用の促進のための政策を積極的に推し進めてるんだとか(たまにニュースも目にする)。当然、健康とか環境とかってお題目もあるんだけど、その背景には、韓国の自転車産業の育成もあるとのことで、自動車や家電でもやってきたとおり、政・官・民が一丸となって最初から国際市場で勝負するのは韓国の得意技でもあるんで、次の政権でも継続されれば、ソフト / ハードの両面で躍進してくる可能性はありそう。

じゃあ、日本はっていうと...、やっぱり期待はできないかな。行政もバラバラにトンチンカンなことをやってるし、メーカーも全然ダメな感じだし、政治についても、自転車活用推進議員連盟日本サイクリング協会の会長を務めてる某最大野党の総裁は永田町での政局に大忙しで何かをやれるとは思えないし(資質的にも能力的にも)。まぁ、まるで期待できないって言わざるを得ない感じ。残念ながら。「何かやってくれ」って期待するより、むしろ「変なことをしないでくれ」って感じで。

まぁ、そんな日本にあって、実はジャイアント並みに世界の自転車産業の中で '巨人' として君臨し続けてきてる企業があるんだけど。それが、自転車好きにはお馴染みのパーツ・メーカーのシマノ(Shimano / Link: Official Website)。ユーザーが直接買う製品としては釣り具なんかのほうが知られてるかもしれないけど(自作するケースを除いてユーザーがシマノのパーツを買うことはほとんどないんで)、日本が世界に誇るべき最先端テクノロジー企業だったりする。

本書のもうひとつの読みどころは、シマノへの取材にも成功してること。自分たちはあくまでも裏方という認識で、あまりメディアの取材は受けないらしいんだけど、「(親密な関係にある)ジャイアントの本なら」ってことで受けてくれたらしい。シマノについても、それこそ、日本の自転車産業を考える上では外せない存在だし、詳しく知りたいとは思ってたんで、それほどページを割いてるわけではないけど、なかなか貴重かな、と。著者が述べてる通り、ジャイアントとシマノは、ある種、同志であり、似ている点も多いし。シマノもまさに '品質には妥協しない職人気質' と '強かな商人気質' の両方を感じるんで。

劉金標氏は、「ナンバー 1 ではなく、製造管理でも技術でもビジネスモデルでもユニークな、オンリー・ワンに」って言ってて、もちろん、言わんとすることはわかるけど、これは「なんか」どっかで聞いたことのあるポップ・ソングの歌詞みたいでちょっとアレだな...」なんて思ったりもしちゃうけど、もうひとつ、本書の中で出てきた「自転車には誰もが思い出がある」ってフレーズが素晴らしいなぁ、なんて思った。コレはかなり言い得て妙で秀逸だな、と。思わず「確かに!」って思っちゃったんで。

まぁ、ジャイアント自体のことや日本・台湾・アジア・世界の自転車産業やカルチャー、さらに日本で(ほとんど)唯一成功している自転車関連企業のシマノ、そして、もっと広い意味でビジネスのハナシ等、いろいろ勉強になったんだけど、それだけじゃなく、「次に買うならやっぱりジャイアントにしようかな」なんて思ったり。あと、それ以上に、一番強く思ったことは「台湾に自転車乗りに行きたいな」ってことだったんだけど。現地でレンタルして '環島' ってのも悪くないな、と。超楽しそう。


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