2008/11/07

The speech.

President-Elect Barack Obama: Speech in Chicago on November 4th, 2008 
(US Presidential Election 2008)  

第 44 代アメリカ大統領を決める大統領選挙で勝利したバラク・オバマが 2008 年 11 月 4 日にシカゴで行った約 17 分の感動的な演説。オフィシャル・サイトに動画とテキストが公開されている(ポッドキャストもあり)。

予想を上回る圧勝を収めた直後の「勝利演説」でありながら、必要以上に興奮した様子もなく、いつものように落ちついたトーンで、ジックリと、そして熱く語りかける。106 歳の黒人女性を例に挙げつつ、その時代を思い起こさせる言葉を交えながら振り返り、アメリカの建国以来の歴史を「点」ではなく「線」としてイメージさせ、その 1 本の線の中の一番近い位置にある現在、そしてその先に続く未来へのヴィジョンを描いて聞かせる。青臭いとか実行可能性がないとか味気ないことをいうヤツがいるのは想像できるけど、そういう細かい(つまんない)理屈抜きで聞く者の心にストレートに、ダイレクトに訴えかけてきて、つい感動しちゃう。"Yes We Can" のベースになったニュー・ハンプシャーでの演説もクラシックだと思うけど、今回の演説は 21 世紀を代表する歴史的な演説になる予感すらする。

ただのパフォーマンスだって揶揄するヤツもいる。ある意味正しいかもしれない。だって、まさにパフォーマンスだから。しかも、とてもクオリティの高いパフォーマンス。スティーヴ・ジョブスのプレゼンテーションがそうであるように、抜群のパフォーマンスだし、最上級のエンターテインメント。そして、それが目的からズレているわけではなく、むしろ、逆に目的実現のために大きな力になってる。

そもそも演説というのは政治家の職業の一部というか、政治家なら誰もが行うものだけど、そうであるが故に、また、細かい演出を使えない小細工抜きの「喋り」のみのパフォーマンスであることから、クオリティの違いが如実に表れる。アメリカの政治史には、JFK の大統領就任演説(前半後半)や マーティン・ルーザー・キング Jr. の "I have a dream." やラスト・スピーチ(別名「マウンテン・トップ」または「プロミスト・ランド」。個人的には、珍しく怒り露にし、悲壮感すら漂わせつつもやはりポジティヴで、しかも死すら辞さないような
強い覚悟と決意を感じさせるこのスピーチは何度聞いてもグッときちゃう)、もっと古くはリンカーンのゲティスバーグ演説やルーズベルトの演説等、数多くの歴史的な演説があるけど、「歴史」の一部としてではなく、リアルタイムで、リアリティを持って観た(聞いた)「歴史的な演説」は今回のオバマの演説が初めてだと思うので、そういう意味でもとても感慨深い。

ニュースや新聞等、いろいろなところで断片的に紹介されてることが多いけど、やはりこの演説の
魅力やパワーは全編を映像で観てこそ、最大限に伝わる(現場にいられたらもちろん最高だけど)。全体の構成や声のトーン(それにしてもこの人、いい声をしてる。シンガーなんかと同様に、いくら頑張ってもどうしようもない、でも不可欠な要素で、これはもう、立派な才能)、話のリズムと間、聴衆の雰囲気や反応等、そういうものを全部ひっくるめてこそ本当の価値が伝わるわけで、もちろん、断片的に観たり(聞いたり)することでこの演説のことを知ったり、意味を知るためにテキストとして読むことも大事だけど、そうした方法で補いつつも、やっぱりキチンと全編を観て(聞いて)みるべきだと思う。2008 年のマスター・ピース。

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