2009 年 9 月 9 日（日本時間 10 日未明）に行われたアップルのスペシャル・イベントでのキーノート・アドレス。今回のイベントは事前に告知されてたコンセプトが 'It's only rock and roll, but we like it' ってことで、iTunes と iPod を中心にした音楽メインのイベントで、最近、毎年この時期にこの手のイベントをやることになってるらしい（日本人にはイマイチピンと来ない「ホリディ・シーズン」向けの新製品を発表するのはこのタイミングだってことなんだろうけど）。今回も、オフィシャル・サイトからの QuickTime を使ったストリーミングと、iTunes 経由のポッドキャストとして配信されてる。
今回の目玉は何と言っても病気の療養のために休んでたスティーヴ・ジョブズが復帰したこと。 BGM として会場にかかってたストーンズの "It's Only Rock And Roll (But I Like It)" が鳴り止んだ後にステージに登場すると、会場は温かいスタンディング・オヴェーションで迎かえられてて、ちょっと心温まるシーンで幕を開けた。こういうことが自然にできるって、やっぱり、すごくいいことだなぁ、なんて思ったりもしちゃった。まぁ、全体としてはフィル・シラー等に任せる部分が多かったし、痩せたせいかちょっと老け込んだというか、なんか禅僧みたいな佇まいになってて、それはそれで本人はキライじゃなさそうだけど、まぁ、まだ全快じゃないのかな、って感じもしないでもない。
内容的をザックリ整理しちゃうと、iPhone の現状アップデートと OS 3.1 の発表、iTunes 9、iPod touch とその他の iPod（Classic・Shuffle）のマイナー・アップデート、そして iPod nano にビデオ・カメラ搭載って感じ。個人的には、最近のキーノート・アドレスで一番地味っていうか、あまりグッとくるところがない内容だったかなぁ、ってのが正直な印象だったりするかな。すくなくとも、ウォォ! って感じのモノはないな、と。まぁ、それでも個別にちょこちょことはあるんだけど。
まず、iPhone OS 3.1 に関しては、Genius が App Store にも搭載されたのが目玉かな。まぁ、App Store に関しては、もはや探すことが不可能な感じになってるんで、何らかの措置を講じる必要があるのは感じてたんで、まぁ、予想できた範疇ではあるし、すごく適切ではあるな、と思う（十分ではないと思うけど）。他の機能は、まだ詳しくは見てないけど、わりと iTunes 9 絡みのモノが多いんで。
iTunes 9 はわりと大幅なアップデートで、iTunes Store がレイアウトから大きくリニューアルされてる。iPhone との絡みの部分でいうと、アプリケーションの並び順の管理が iTunes 上でできるようになったのが、個人的には一番嬉しいかな。iPhone 上でやるのはなかなか煩わしいので。特にスクリーンを 8 面も使ってると。まぁ、これはアップル内部でもみんな感じてたであろうことは容易に想像できるけど。あとは、音楽の同期の設定が細かくできるようになったこと。例えば「ボブ・ディラン全部」とか「ロックってジャンル全部」とか。個人的にはあまり使わなそうだけど、喜ぶ人は喜びそう。特に、特定のアーティスト全部とか。
iPhone 絡みじゃない部分だと、やっぱり iTunes LP かな、オールド・ファンとしては。まぁ、アートワークやブックレットがないことを補う部分なんだけど、ただ、ブックレットを PDF 化するとかじゃなくて、それこそ、一昔前のエンハンスト CD のマルチメディア・コンテンツ（なんか、懐かしい響き!）が iTunes 内で開かれてる感じ。アートワークとか歌詞だけじゃなくて、ビデオとかまであったりして。こういうのを見てると、ただ単にオールド・ファンとしては嬉しいってだけじゃなくて、ポスト CD 時代のアートワーク・デザインのサンプルにも見えてきちゃう。これって Flash でできてるの? とか、そういうこともちょっと気になってきたりして。
ちょうど、iTunes Store は世界一の音楽販売店（オンラインに限らず、ってこと。ちなみに、クレジット・カードが登録されてるアカウント数は 1 億で、これは、音楽に限らず、すべてのジャンルの中でも世界でもトップクラスのオンライン・ストアだって証になる数字なんだとか）だってことも発表されてたけど、まぁ、それ自体は納得できるっていうか、当然の流れかな、って感じてたりはするんだけど、かと言って、今の iTunes Store がパーフェクトかっていうと、全然そんなことはないと個人的には思ってたりするけど（これに関しては、書き出すと長くなるんで、またの機会に）。まぁ、アップルもそれを感じてて、いろいろと機能を追加・改善してるんだろうけど。
iPod に関しては、正直、あんまりピンと来てないというか、魅かれてはないかな。キーノート・アドレスの中で力が入ってたのは iPod touch で、特にゲーム用デヴァイスとして押したいみたい（キャッチ・コピーは 'The funnest iPod ever.' だからね）で、サード・パーティの開発者のデモも含めて、力を入れてたんだけど、まぁ、個人的に、もうほとんどゲームをやらないんで、全然ピンとこない、と。まぁ、64GB とか、iPhone ユーザーとしてはちょっと羨ましいけど。
ビデオ・カメラが付いた iPod nano が 'One more thing ...' として最後に紹介されたんだけど、まぁ、これ自体も個人的にはあまり魅かれなてないかな。ただ、プレゼンテーションはちょっと面白かった。「最近、ビデオは欠かせないモノになってるよね。YouTube とか。そのビデオの多くは、普通の人が、ポータブルな SSD のビデオで撮ってる。例えば、4GB のモデルで US$149.00 とか、そういうヤツが主流だ。マーケットも拡大してる。ここにアップルも参入するんだ。我々の製品は 8GB の容量で価格は…、無料だ。どうやるかっていうと…、新しい iPod nano に搭載しちゃったんだ」って流れの導入で。まぁ、何てことないっていえば何てことないんだけど、ただ「新しい iPod nano にはビデオ撮影機能が追加された」って言うよりは面白いし、ジョブズっぽいな、と。まぁ、iPod touch もそうだけど、こうなってくると、もはやこれが音楽プレーヤーなのかってのもアヤシイ感じになってくるけど。いい意味で。奇しくも最近、こんなトンチンカンなニュース（iPhone は数字に入ってないらしいのに、何を大騒ぎしてるんだろ?）を見たところだったりしただけに、なんか、なおさらそう思えてくる。
イベント自体は 1 時間ちょいで、最後に恒例のライヴで終了。今回はノラ・ジョーンズが 2 曲、シンプルなバンドでパフォーマンス。ゲストのセレクトも含めてなかなかいい感じ。ジョブズもプレゼンテーションの最後で強調してたけど、やっぱり、音楽がすごく好きで、だからこんなに力を入れてやってるんだってことはすごくよく伝わってくる。よく、iPod と iTunes Store の成功の理由をビジネス的にトンチンカンな分析をしてるのを見かけるけど、一番見落とされがちで、でも一番大事な部分は、ジョブズがホントに音楽が好きで、アーティストをリスペクトしてて、それを真剣に、キチンと製品やサービスに反映させてるからなんだってことが再確認できる。音楽（特にディランとかドアーズとか）のハナシをしてるときのジョブズって、ホントに楽しそうだから。今回のイベントはコンセプトの 'It's only rock and roll, but we like it' ってのは、もちろんストーンズの曲名の借用なんだけど、この曲自体、ストーンズ以外には歌えないっていうか、ストーンズだから言えたタイトルと歌詞なわけで（わけのわかんないバンドが歌ってたら「何言ってんだ、ボケ!!」ってハナシだから）、それをあえて借用したってことは、自分たちの音楽（≒ロック）への愛情によっぽど自信を持ってるってことの証だと思うし。
まぁ、今回のプレゼンテーション自体を「エンターテインメント」ととして見ると、今回は地味というか、イマイチな感は否めないし、開催日が開催日なだけに（わりと世の中では騒ぎになってたみたい。個人的にはけっこうどうでもいいんだけど）一部で噂されてた「ビートルズの音源が遂に iTunes に…?!」ってのはなかったけど、とりあえず、ジョブズの元気な姿は見られたからいいかな、個人的には。っつうか、ビートルズだったら 'It's only rock and roll' じゃないはずだし。明らかに。
THE ROLLING STONES "It's Only Rock 'N Roll (But I Like It)" (From "It's Only Rock 'N Roll")
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