. :福岡 正信・金光 寿郎 著(春秋社) ★★★★☆
前にレビューした『Spectator』の「Whole Pacific Northwest Life Catalog vol. 1」号でも紹介されてた『自然農法 わら一本の革命』(英訳 "The One Straw Revolution: An Introduction to Natural Farming" も海外で大人気)で知られる福岡正信氏に、NHK で番組制作を手掛けてきた金光寿郎氏がハナシを聞いたものをまとめた書籍(厳密には、番組で使ったのものをテキスト化したもの)。『自然農法 わら一本の革命』から読もうと思ったんだけど、図書館で先に借りられたのがこれだったので、とりあえず、この『<自然>を生きる』から読んでみた(現在は表紙のデザインが違う新装版が出版されてるらしく、新装版のほうが手に入れやすいみたい)。
福岡氏は不耕起・無肥・無農薬の自然農法と、粘土に 100 種類以上の種を混ぜた粘度団子を蒔くことで緑と色のパラダイスを実現することを唱えて自らの農園を営み、2008 年 8 月 16 日に 95 歳で亡くなった人物で、表紙の写真にもある通り、仙人のような雰囲気のキャラクターと、科学や進化論を真っ正面から否定しちゃうような、ある意味ラディカルとも言える独特でユーモラスな自然観・哲学の持ち主。その独特の理論をいろいろと批判する人もいるみたいだけど、いくら一生懸命批判しても、どこかチャーミングな福岡氏の魅力を否定できるほど強力(というか、魅力的)じゃなかったりして、やっぱり、なんか魅かれちゃう不思議な存在だ。この版の帯には宮崎駿監督のコメントが掲載されてて、同じことを感じてるっぽいんだけど、たぶんこの人の魅力はロジックにあるんじゃなくて、そういうのとは別の次元にあって、言ってることもやってることも、その存在感自体、ついつい魅かれずにはいられないツボをついてるだと思う。理屈じゃなく。それを、目くじら立ててつまらない正論を振りかざして批判する(というか、重箱の隅を突いて揚げ足を取る)なんて、無粋というか、心にゆとりがないというか、なんかツマンネェヤツらだなぁ、って感じる。最近、やたらと多いけど。数字を振りかざしてつまんない正論をしたり顔で力説するオトナ。ツマンネェヤツらだ。ブラジルに行った時とかに感じたこととも近いけど、福岡氏が日本より海外で評価されてる理由のひとつがそういう部分なのかも? なんて思ったりもする(それすら批判するんだけどね、ツマンネェヤツらは)。
「何もしないこと」の大切さや悦びだったり、「働く」ことよりも「仕事」(「事」に「仕える」こと)って考えだったり、さらには自然観や神についての考え方だったり、いろいろと示唆に富んだ指摘は多く、けっこうハッとさせられる。個人的に好きだったのは、フィリピンの民話に出てくる怠け者、「ホアンタマ」のハナシ。ホアンタマは毎日寝転がって天を向いて口を開けていると、上からパパイヤやマンゴーが落ちてきて楽園のような暮らしをしてる怠け者のことで、フィリピンではネガティヴなモノらしいんだけど、福岡氏はそれこそ素晴らしいライフスタイルだし、そういう民話があるフィリピンはもともとパラダイスのような土地だったんだ、と。すごくいいハナシだなぁ、と。
人間なんかは最後の、地球に緑がなくなって自然が滅びたときに人間も滅びる、その最後の幕引き役として生まれてきた動物ではないか。福岡氏のこの言葉は、巷で安易に使われてる「地球にやさしく」的なキャッチ・フレーズではまるで言い表してない、「環境問題」の本質をついてる気がする。
なんか、この人、アレステッド・デヴェロップメントのババ・オジェイとイメージがダブる。いるだけでいいっていうか、いるだけでありがたいっていうか。
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