2009/01/12

Fly over the horizon.

サッカー移民』 加部 究 著 双葉社)
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サッカー・ライターの加部究氏が、南米から日本へサッカーを伝えた人たちについてまとめた、ありそうであまりなかった興味深い書籍。

サブ・タイトルは「王国から来た伝道師たち」で、ベースになったのは『サッカー批評』誌での連載。2003 年の発売で、発売当時に読んだんだけど、最近読み直したらやっぱり面白かったし、単にサッカーの本としてだけでなく、文化論とか社会論としても面白くて、もっと読まれたほうがいいと思ったので、あらためてレビューを。

内容は大きく 3 章に分かれてて、1 章では「助っ人」として祖先の母国の地を踏んだ、ネルソン吉村やセルジオ越後といった日系ブラジル人プレーヤーたちを、2 章では日本でプロ・サッカーが始まる時期に日本を訪れ、本物のプロ・サッカーを伝えたオスカーやジーニョ、サンパイオといったプロフェッショナルたち、3 章ではサッカーのためにやってきて、日本に永住することを決めたジョージ与那城や石川康(ブラジルじゃなくてボリビア出身)、トゥーリオといったプレーヤーを紹介している。

リアルタイムで知ってる人が多いから、わかりやすいのは 2・3 章なんだけど(特にオスカーとかマリーニョさんサンパイオとか)、個人的にすごく興味深かったのは 1 章。もちろん、世代的に名前と顔は知ってるけど現役時代のプレーは知らない人たちなんだけど、当時の日系ブラジル人コミュニティ(例えば、親の世代にはサッカーは認められてなくて、隠れてプレーしてたらしい)とか、ブラジル社会の中での日系ブラジル人の様子が伺い知れるし、当時の日本サッカー界の実情もなかなか興味深い。

もちろん、ここで紹介されてるプレーヤーたちが日本サッカーの礎を築いた功労者なのは間違いないんだけど、(なんか当たり前みたいに受け入れてるけど)ちょっと冷静に考えてみると、他の多くの国とはもっとも違う、日本サッカー独特の特徴っていうのは、もしかしたら南米(特にブラジル)との特別な関係に起因する部分がすごく大きいのかも、とも思ったりする。ブラジル最大の輸出産業はサッカー選手だ、ってよく言われるけど、日本サッカーにおけるブラジル人の役割の大きさと関わりの深さは他の国と比べて突出してるし、その基盤には、やっぱりこういう関係性があったからなんだろうな、と(あと、この本とは関係ないけど、トヨタカップの功績も大きい。毎年、必ず「いい思い出の地」として日本を記憶していく選手を生み出したんだから。そういう印象って、時間が経っても変わることはない)。

「サッカー移民」って言われると、「サッカーをしに海外に行った日本人」ことかな? なんて思っちゃいがちな感じもしなくもないけど、日本にやってきた人たちももちろん「移民」なわけで、日本に縁があった人もいれば、なかった人もいるし、その後、日本を去った人もいれば、日本に残ってる人もいる。そんな中で全員に共通して言えるのは、大切なモノを日本にもたらしてくれて、同時にそれぞれがいろいろなモノを得ていて、今も決して切れずに関係が保たれ、新たなモノが生み出されてるってこと。それはすごく大事なことだな、って思う。

去年がブラジル移民 100 周年だったこともあって、日本とブラジルの関係についてはいろいろと知る機会や考えさせられることが多かったけど、それを知った上であらためて読んでみる と、見えてくるものが違ってくるし。単にサッカーの本ってだけじゃなく、日本とブラジルという、一番遠くて一番近い、そして学ぶべきモノが多くてとても大 切な国との関係を考えるための資料としても楽しめる。

前にレビューしたグレイシー柔術のハナシにもちょっと似てるけど、単にサッカーのハナシじゃないし、歴史とか文化とか社会とか、そういうレベルですごく興味深いし、サッカー・ファンだけに独占させとくのはもったいない。

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