2009/02/09

Business as unusual.

ジョブズはなぜ天才集団を作れたか
 ジェフリー・L・クルークシャンク 著 徳川 家広 訳 
(講談社) 

著者も訳者もよく知らなかったけど、とりあえずジョブズ本だし、装丁デザインもこの手のモノにしては悪くないんで、どんなもんだろ? と思って読んでみた一冊。結論としては、ちょっとナゾな部分が多いというか、いろんな意味でビミョーだった。

原著は 2006 年に出版された "The Apple Way: 12 Management Lessons from the World's Most Innovative Company" で、この訳書は 2008 年の出版なんだけど、それはどういうことかっていうと、原著が発行されたのは 2007 年 1 月の iPhone 発表前で、訳書の発行は iPhone 後だってこと。やっぱり、iPhone ってのはコンピュータの世界に限らず、もっと一般的な意味で大きなトピックだったわけで、そう考えると、原著と訳書の発売のタイミングとしては最悪と言っていい。だって、アップルやジョブズについての本を読む人には当然、iPhone の印象が強いわけで、でも、この本には iPhone については触れられてないわけで。せめて訳書は iPhone 3G の日本発売前には出しておかないと。そういう意味で、すごくビミョーな印象は否めない。

あと、この原著のタイトルとサブ・タイトルが「ジョブズはなぜ天才集団を作れたか」になっちゃうのもすごくナゾ。訳書のタイトルが直訳じゃないことは多いけど、もはや意訳ですらないし、誤解を生みこそしても、成功してるとも思えない。「天才」なんて単語を安易に使える神経にも違和感を感じるし、客観的に見ても、タイトルに「アップル」とか「iPod」って言葉もないし、フル・ネームじゃない「ジョブズ」だけで、最低限の情報を伝えるって意味で成り立ってるのかもすごくナゾ。アップル・マニアならともかく、一般的に「ジョブズ」って言葉と表紙の写真だけで「アップルの CEO のスティーヴ・ジョブズ」「iMac や iPod や iPhone を世に送り出したスティーヴ・ジョブズ」のことってわかるもんなのか? もっと言うと、本文の翻訳でもちょこちょことビミョーなところがあったりもして、全体的にちょっとピントがズレてる感じがする。

ここまで挙げた部分は主に訳書に関して気になった部分なんだけど、本書自体は、原書のサブ・タイトル通り、基本的には「世界でもっとイノヴェーティヴな企業から学ぶ 12 のマネージメントの教訓」的な視点で書かれてて、一般的に応用できそうな「教訓」的なモノをビジネス書的な感じでなんとかして抽出しようとしてるんだけど、イマイチビミョーな感じというか、イマイチ成功してないような気がしちゃう。まぁ、そういうモノとして読めば成り立たなくはないんだけど、せっかく面白いハナシのタネなのに、わざわざつまんないハナシにしちゃってるような、そういう感じ。こういうのをみんな、面白いって感じるのか? 個人的には、あまりシックリこない。

そうは言いつつも、「マック信者じゃないマック・ユーザー」である著者のわりとフラットな視点とか、取り上げるエピソードとか、ちょっとユーモラスな言い回しとか、いろいろな人の細かい証言を広く引用してるところとか、要所要所はけっこう面白かったりもするんで、別に読んでてそれほど違和感はないっつうか、フツーに読めちゃうんだけど。例えば、ヴィジカルクを買い損ねたハナシとか、ガイ・カワサキの発言とか、ジョブズの「徘徊による経営」とか、とかく過小評価されがちなギル・アメリオの評価とか。まぁ、そういう意味では、この手の本をよく読む人は読んでおいてもいいかもしれないけど。

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