2009/02/25

Tropical 60s. Tropical 70s.

"Soul Jazz Records Presents Tropicália: A Brazilian Revolution in Sound" (Soul Jazz Records)  / "Soul Jazz Records Presents Brazil 70: After Tropicália: New Directions in Brazilian Music in the 1970s" (Soul Jazz Records) 


前々回のエントリーでレビューした "Black Rio"前回のエントリーでレビューした "Gilles Peterson In Brazil / Back In Brazil" と同様に、ブラジル音楽を掘る上でいいガイドになるコンピレーションで、これはロンドンのソウル・ジャズ・レコーズのコンパイルによるモノ。ソウル・ジャズ・レコーズは、"Soul Jazz Loves Strata East" や "Message from the Tribe: An Anthology of Tribe Records, 1972-1977" といったスピリチュアル・ジャズを筆頭に、ソウル、ファンク、レゲエ、スカ、アフロ、キューバ音楽といったルーツ・ミュージックからヒップ・ホップやジャングルまで、発掘・選曲・コンセプトのどこをとっても素晴らしい、それぞれキチンと紹介したいようなコンピレーションを数多くリリースしてる。

ソウル・ジャズ・レコーズはもともとはレコード店で、ピカデリー・サーカスに程近いソーホーの店には、もう 15 年以上前、初めてロンドンに行ったときにメチャメチャドキドキしながら行って、文字通り隅から隅まで棚をチェックした思い出がある。当時はアシッド・ジャズ全盛の時代で、ジャズ〜ソウル〜ブラジル音楽等の素晴らしい品揃えでシーンを支えてた代表的なショップ。その後もロンドンに行くたびに足を運んできたけど、ここ 6 〜 7 年はロンドン自体に行ってないんでその後、店の様子がどうなってるんだろうと思って(中古レコード店を巡る環境は激変してるはずなので)サイトを見てみたら、どうもソウル・ジャズ・レコーズってのはレーベル名で、レコード店はサウンド・オブ・ユニヴァースって名前になってるっぽい。

そんなソウル・ジャズ・レコーズが手掛けたこの 2 作はともに、ブラジルのトロピカリアをテーマにしたモノ。2006 年リリースの "Soul Jazz Records Presents Tropicália: A Brazilian Revolution in Sound" はタイトル通り、60 年代のブラジルで勃興したムーヴメント、トロピカリアの代表曲をまとめた 1 枚(その背景やエピソードはカルロス・カラード著の『トロピカリア』とクリストファー・ダン著のトロピカーリア ー ブラジル音楽を変革した文化ムーヴメント』が詳しい。そういえば、ベックの "Mutations" の中にも同名の曲が収録されてる)で、カエターノ・ヴェローゾ、ジルベルト・ジル、オス・ムタンテス、トン・ゼー、ガル・コスタ、ジョルジ・ベンといったトロピカリアを代表するアーティストの楽曲を集めた全 20 曲。トロピカリアというと、最初にチェックすべきなのはオフィシャル・サウンドトラックとも呼ぶべき 1968 年リリースのコラボレーション・アルバム "Tropicália: Ou Panis et Circenses" なんだけど、"Tropicália: Ou Panis et Circenses" がまさにシーンをリアルタイムで「実録」した、シーンの渦中から見た光景だとすれば、この "Soul Jazz Records Presents Tropicália: A Brazilian Revolution in Sound" から見えるのは同じ景色をもうちょっと引いて見た光景。臨場感はもちろん "Tropicália: Ou Panis et Circenses" だけど、より広く見渡せるような内容になってる。

続編とも呼ぶべき 2007 年リリースの "Soul Jazz Records Presents Brazil 70: After Tropicália: New Directions in Brazilian Music in the 1970s" もタイトル通り、トロピカリア・ムーヴメントの「夢のような狂乱の日々」が沈静化した後の、70 年代のシーンの風景を切り取ったモノで、カエターノ・ヴェローゾやジルベルト・ジル、ガル・コスタ、トン・ゼー等、その後も精力的に活動し、シーンの中心で活躍し続けたアーティストに加えて、ジョイスやリタ・リーなど、新しいアーティストたちの楽曲も加えた全 19 曲。トロピカリア・ムーヴメントは中心人物だったカエターノ・ヴェローゾとジルベルト・ジルが軍事政権に危険視されて逮捕・国外追放されて事実上、消滅することになるんだけど、そういう暗黒の時代にアーティストたちがどういうことを感じ、音楽を通じてどんなことを表現しようとしてたのかが感じられる 1 枚になってる。

トロピカリア自体が 60 年代のポップ〜ロック、特にザ・ビートルズの "Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band" 的な実験的なロックやサイケデリアみたいなモノの影響を色濃く受けたムーヴメントなので、"Soul Jazz Records Presents Tropicália: A Brazilian Revolution in Sound" はよりポップ〜ロック的なサウンド、一方の "Soul Jazz Records Presents Brazil 70: After Tropicália: New Directions in Brazilian Music in the 1970s" は 70 年代という時代背景もあって、トロピカリア的なモノにフォーク〜シンガー・ソングライターやソウル〜ファンク的な影響が混ざったような印象。トロピカリアを挟んだ時期のブラジルの熱い動き(多分に、若き試行錯誤というか、ワイルドなまでの自由な発想みたいなモノ)を一望できる。どちらも、どちらかというと「白い」というか、アフロ・アメリカン・ミュージック的な流れというよりもポップ〜ロック的な流れにあるモノで、個人的にはアフロ・アメリカン・ミュージック的な流れにあるブラジル音楽のほうが好みだったりするけど、だからこそ個々の作品を熱心にチェックしたりするわけじゃなかったりするんで、こういうカタチでまとめてもらえると便利だったりもする。コンピレーションの役割は「さらに深く掘っていくための入り口」ってのがあるけど、もうひとつ、こういう役割も確かにあるし、そういう意味でもすごく重宝してる。

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