2009/04/27

A change is gonna come.

ディス・デイ「希望の一日」クーリエ・ジャポン編集部 編 
(講談社) 

COURRiER Japon 2009 年 3 月号』のレビューでも触れた、この号の特集 'THIS DAY OF CHANGE' の写真集。雑誌の発売と同時に特設サイトが開設されて、そこに随時写真が追加されてたんだけど、ついにそれをまとめた写真集が発売された。

この 'THIS DAY OF CHANGE' は、2009 年 1 月 20日、つまり、バラク・オバマの大統領就任という「希望の日」の世界の様子を、世界中の 100 名を超えるフォトグラファーが 'HOPE' をテーマに撮影するという企画で、最終的に 1000 枚を超える写真が集まったという(テキストも寄せられている)。'CHANGE' の舞台となったワシントン DC やアメリカ国内各都市はもちろん、中東、アフリカ、アジア、南米、ヨーロッパまで、世代も性別も社会背景も思想も異なるフォトグラファーたちが、ある特別な 1 日の象徴的なシーンを写真に収め、それをまとめることでいろいろなことを示唆する極上のコンテンツに仕上がってる。あえて写真っていうシンプルなフォーマットなところも潔いし。あらためて写真の持つパワーをすごく感じさせてくれるし、見応え(読み応え)十分で、装丁デザインもすごくクール。

写真もテキストも、どれもすごくクオリティが高くて、素晴らしい出来映えなんだけど、単に出来がいいってだけじゃなく、この企画は他にもいろんな意味で面白い。まず、個人的にすごく気に入ったポイントは写真・テキストのクオリティが抜群に高いこと。これはひとえにフォトグラファーたちの能力が高いってことで、つまり、プロに依頼したってこと。今の時代は多くの人がカメラ(機能の付いたデヴァイス)を日常的に携帯してる「誰もがみんなフォトグラファー」な時代なわけで、それこそ flickr とか使ったりして世界中の人たち(プロも素人も含む)に依頼しても企画自体は十分成立したと思う。ただ数を集めるならそのほうが楽だったと思うし、コストの面でも安上がりだったろうし、今っぽかったりもするから、それはそれでキャッチーな売りになったと思うし。でも、クオリティとかコンセプトとかメッセージ性みたいなモノが高い水準で保てるかっていうと、全然別のハナシだったりする(クオリティを保つのは不可能ではないだろうけど、打率が著しく下がることは容易に想像できる)。インターネットに代表される「匿名の大多数が生み出す力」みたいなモノはもちろん否定はしないし、すごく面白いモノを生み出すことはあると思うけど、でも、決してそれが万能ではないと思うし、その力を盲信しちゃうのはけっこう危険なことだとも思ってるんで(とにかく数の多さで勝負するならアリだったかもしれないけど)。主に機材の面のハナシなんだろうけど、安価で便利で高性能なモノが増えたことで、今まではなかなかできなかったことができるようになった、「みんなが何でもできる時代」になってきてるって傾向自体は紛れもない事実だし、自分自身、その恩恵をかなり享受してはいる自覚はあるんだけど、だからこそ、安価で便利で高性能なだけじゃ越えられない一線があるってことを認識することはすごく大事な気がするんで。それこそが「プロの仕事」だと思うし。この 'THIS DAY OF CHANGE' の場合は、必ずしも「誰もがみんなフォトグラファー」って状況じゃないと思われる地域も含まれてるんで、実務的な理由もあったのかもしれないけど、それ以前に、ここに掲載されてる写真とテキストからは、それだけじゃない、もっと大事なモノも感じられる。

あと、コンテンツの在り方としても面白い。だって、特設サイトで全部見れるのに、わざわざ写真集を買っちゃうんだから。つまり、サイトで見るのとは違う魅力や付加価値が写真集ってフォーマットにはあって、この本にはアナログ・実物のコンテンツであるべき価値がある、ってこと。まぁ、ブッチャけたハナシ、写真集で見たほうが楽しめるし、いい感じってことなんだけど。少なくともこの本に関しては。でも、この「楽しめるし、いい感じ」って部分がすごく大事。これって、これからのコンテンツの在り方を考える上でもちょっと気にしとかなきゃいけない大事なことだな、と。基本的には、一般的な意味でのデジタル化の方向性には賛成だけど、やっぱり適してるモノと適さないモノがあるし、その判断はキチンとしないと本末転倒なことになったりする(っていうか、けっこうしがちだ)し。

この本を見て(読んで)て頭の中で鳴ってるのはやっぱり "A Change Is Gonna Come"。言わずと知れたサム・クックのクラシックだけど、個人的には、あえてローリン・ヒルかな。アコースティックでソウルフルなナイス・カヴァー・ヴァージョン。

ちなみに、4 月 29 日から 5 月 31 日まで新宿高島屋 2F の JR 連絡口、ペデストリアン・デッキで写真展も開催される。オープン・スペースだけあって入場無料。ゴールデン・ウィークの新宿なんか行きたくもないけど、ゴールデン・ウィーク後にでも行ってみる予定。写真って、写真集で見るのもいいけど、大きなサイズのモノと向かい合うのもまた、とても味わい深いので。

そういえば、『COURRiER Japon』って、iPhone 用のアプリ(有料版 2009 年 5 月号 / 無料版)を作ってたりもするし、雑誌自体も何かと気になることが多くて、実は最近の愛読誌のひとつと言えるのかも。


* LAURYN HILL "A Change Is Gonna Come [Acoustic Version]"








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