2009/05/12

Universal century studies.

『ジオン軍の失敗』 岡嶋 裕史 著 講談社 アフタヌーン新書)
 Link(s): Amazon.co.jp / Rakuten Books

連続でガンダムネタのレビューってのもどうかと思うし、新書ってあまり安易に買わないようにしてるんで、いつもだったらもうちょっと警戒する類いの本なんだけど、わがジオン軍の失敗の原因についてなんて言われたら、ついつい手に取っちゃった。

この
『ジオン軍の失敗』は、ジオン軍のモビルスーツ開発の失敗に、製品開発に共通する課題や、そこに潜む落とし穴を見出し、考察することで教訓にしようって本で、著者は 1972 年生まれで、電子政府やウェブ・サービス、分散ネットワーク等を専門とする関東学院大学経済学部准教授。まぁ、同世代のインテリなら十分考えそうなことだし、同世代として親近感も持てる。それなり(もしくはそれ以上)の内容になる(できる)こともイメージできるし。現在、「機動戦士ガンダム UC」連載中の福井晴敏も「こどもの頃に本当の戦争についてキチンと学ぶ機会がない中で、それを補うような機能をガンダムが果たしてた」みたいなことを言ってた(例えば、戦争はどういう状況になったときに勃発するのか、とか)けど、確かにそういう側面もある。なかなか具体的にイメージできないモチーフで説明されるより、ガンダムのほうがよっぽど理解しやすかったりするから。

ガンダムをネタにすればいろんな面から語れるけど、ここでのテーマは政治やイデオロギーではなく、あくまでもモビルスーツ(とモビルアーマー)という「製品開発」(歴史や思想についても最低限、説明はされてるけど)で、具体的に取り上げられてるのは、ザク II、高機動型ザク、グフ、リック・ドム、ゲルググ、ゴッグ、アッガイ、ズゴック、グラブロ、ビグ・ザム、そしてジオング。本編の映像内には出てこない高機動型ザクまで触れられてるところがなかなかマニアックだったりする。単にスペックだけではなく、それぞれのモビルスーツの開発の基となった発想から生産プロセスやタイミング、コスト、さらにはそこに絡んでくる政治的な意図や思惑等まで、さまざまな面からその特徴を考察しつつ、そこから教訓的なモノを導き出すというカタチでまとめられてる。例えば、アッガイを「使う人がいない製品」と呼び、そんな製品が何故できちゃうのか、とか。

読んでて頭に浮かんだのは、例えばアップルの製品開発、特に iPod mini とか G4 Cube みたいに、「すっかりなかったことにされてる」ような製品についてだったりするんだけど、他にもウォークマンの迷走ぶりとか、ウィンドウズ・マシンとか日本車のナゾだらけな製品ラインアップだったりとか、けっこういろんなモノに当てはまったりするから、あながちバカにできない感じもある。もっと言うと、「製品」(=プロダクト)に限らず、もっと広義での「モノづくり」について、例えばソフトウェア的なモノ、コンピュータのアプリケーションって意味(だけ)じゃなく、サービスとかコンセプトとかまで含めた広い意味での「モノづくり」にも当てはまるハナシだったりするし。「モノづくり」って、できたモノをアレコレ言うのとはまったく次元が違う難しさがある、特殊な作業だと思うので。それがクリエイティヴってことなんだと思うけど。やっぱり、そこには無限の試行錯誤があるし、単純な正解なんてないんだろうし。だからこそ、いろんなモノを見て、研究して、咀嚼して、自分のモノにしないとな、と。

まぁ、ガンダムモノに限らず、もともとこの手のモノ、例えば『スラムダンク 勝利学』(Links: Amzn / Rktn)とか『キャプテン翼 勝利学』(Links: Amzn / Rktn)なんかも好きだったりするし、「たとえ警視」好きなもんで、上手い比喩や例え話には目がないんで、個人的にはけっこう楽しめた。まぁ、ガンダム好きであることがデフォルトな本なんで、決して万人向けではないんだろうけど。でも、福井晴敏曰く「ガンダムは義務教育だった」んで、そういう意味では、オトナの嗜みとしてアリなのかな、と。それに、こういうカタチで、わりと馴染みやすいモノをモチーフにしていろんなことを、例えば近現代史とか思想とかを教えてくれると、もっと学びやすいと思うし。そういう意味では、ガンダムってすごくいいマニュアルだし、いっそのこと、ガンダム学ってのがあればいいってことなんだけど。そんなハナシもあった気がするし。

ちなみに、アフタヌーン新書ってのは「漫画雑誌から生まれた日本一カンタンな新書!」なんだとか。なんか、個人的には解せない感じ。新書って、それこそ昔は岩波新書とか中公新書とかに代表されるような感じだったのに、なんか知らぬ間に全然違うモノになってて、その傾向がどんどん増長されてて、新書売り場とか見てるとすごく気持ち悪い。テーマも内容も、どんどん軽くなってるし。悪い意味で。この『ジオン軍の失敗』も数時間で読めちゃったけど、早く読める内容であることを、なんで世の中、こんなにありがたがってるんだろう? コスト・パフォーマンスが悪くて、(出版社にとって)利益率が高いだけなのに。なんか騙されてる気がするんだけど。

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