2009/07/31

Supporters' delight.

世界のサッカー応援スタイル

『サッカー批評』編集部 編著(カンゼン)

内容としては、まさにタイトル+帯の「月曜日、ミランのマフラーでケツを拭くのが最高の喜びだぜ!」っていうローマ・サポーターの言葉に象徴されてる通り。まぁ、「サッカーのサポーター」という世界中の愛すべきアホどものエピソードが、ヨーロッパを中心に、中南米、アジア・アフリカ…に渡って紹介されてる、と。

編集は『サッカー批評』の編集部で、原稿はそれぞれ、その国のサッカー事情に通じてるライターが担当してるんだけど、
サッカー批評』っていえば、個人的にはわりとちゃんと読んでる数少ない日本のサッカー雑誌なんで、内容的には、まぁ、心配してないっつうか、ヒドイことにはなってないだろうっていう安心感は持ってたんだけど、その期待は裏切らない内容になってるかな。多少、気になる点はなきにしもあらずではあるけど。

内容的には、イングランドやイタリア、スペインといったヨーロッパ各国をメインにしつつ、中南米はブラジルとアルゼンチンを中心に、メキシコや韓国、さらに中東辺りまでカヴァーするって感じなんだけど、まぁ、全体として言えるのは、「どいつもこいつもアホだなぁ、ホントに」ってこと。もちろん、これは褒め言葉。まぁ、言っちまえば、「お前の母ちゃん、デベソ!」レベルの低俗さ(まぁ、もっともっと言葉遣いは下品だけど)の連発なんだけど、だからこそのリアリティというか、生活感というか、生々しさみたいなモノが感じられて。こういうのはどうも、アホであればアホであるほど愛らしく感じるらしい。まぁ、もちろん、節度とかスタイルの好みの問題はあるけど。アホさと、真直ぐな気持ちと、行動力と、ユーモアとウィットと。そういうモノに満ち溢れた、すごく人間臭い世界だなぁ、と。

そもそも「サポーター」って存在自体がかなり謎っていうか、ある種、意味不明なことだったりするから、まぁ、理屈でどうこう言っても無意味だったりする。自分自身、マリノス・サポーターの中に数年間、身を置いてるけど、周りを見渡せば、
まぁ、どいつもこいつも、揃いも揃ってアホばっかだし(そこに自分も含まれてることは言うまでもない)。

まぁ、サポーターって、よく「なんで、あんなに必死に、時間とか金とかエネルギーを使って人の応援してるの?」みたいなことを言われがちで、それはそれで一見、正論のように思われるんだけど、もうこの時点でちょっとズレてるっていうか、当事者の感覚としてはちょっと違ってて。具体的には「人の」って部分が。奇しくも我らがマリノスの監督時代に岡田武史氏が「
ファンはお金を払って感動を買う。サポーターはチームとともに闘う中で感動を得る。」って名言を残してるけど、この言葉以上にサポーターについて見事に表現してる言葉は知らない。

まぁ、個人的にはペットとか子供とかみたいなもんな気がしてるんだけど。ペットも飼ってない(っていうか、ペット自体、ちょっとどうかと思うところもある)し、子供もいないんでイマイチ説得力に欠けるけど。ポイントは、思いっ切り当事者で、なおかつ、理屈じゃない、ってこと。正論とかロジックとかとは最もかけ離れたところにある感覚っていうか。でも、なかなか思い通りにはいかないところも似てるかな。しかも、イベントではなく、日常である、と。これもスゲェ大事なポイント。

この『世界のサッカー応援スタイル』の内容にハナシを戻すと、まぁ、サポーターって一般的にはイングランドとかイタリアとかのイメージが強いけど、個人的に興味があったのはトルコとかメキシコとかだったりして。どっちも世界のサッカーの勢力図の中では、決してトップ・クラスにランクされるわけじゃないけど、でも、メチャメチャ独自のスタイルで、メチャメチャ熱いところがスゲェいいな、と。もちろん、アルゼンチンとかスペインとかブラジルとかも興味あったんだけど。こういう本を読んでると、サッカーってやっぱ文化なんだなぁ、ってあらためて思うし、もっと文化とか歴史とか言語とかのことを知りたくなってくる。

ただ、内容的に、チャントが重要な意味を持ってるんで、歌詞がキチンと紹介されてるのはありがたいんだけど、やっぱりサウンドとして聴きたいな、って気になっちゃう。まぁ、録音してってなると難しいとは思うけど。例えば、サイトと連動して YouTube で動画で観れる(聴ける)とか。それから、歌詞がたくさん載ってるから縦書きだと読みにくいとか、デザイン的にもうちょっと読みやすくできたんじゃね? とか、細かいところで気になるところはあるけど。

あと、タイトルもちょっと気になるかな。「世界の…」っていうなら日本にも触れたほうがいいんじゃね? って普通に思うけど。キング・カズこと三浦知良も言ってたからね。「日本は世界で闘えますか?」ってバカな質問(日本では、この手のハナシ、よく聞くけど)をした記者に対して、「日本も世界なんですよ」って。「海外の…」っていうなら別に気にならないけど。日本のサポーターのことも、あえて同じ感覚で記事にしてもいいし、逆に外人に書かせても面白いと思うし。

まぁ、そうは言っても、海外のサポーターに関する情報って、雑誌の記事とかでバラバラにいろんなところで触れられることはあっても、こういうカタチでまとめて、比較しながら見られる(読める)って意味ではすごく面白いし、そういう意味では貴重な一冊なのかな。マイナーな国とかクラブにも言及してるところも好感が持てるし。やっぱり、メインストリームな「大国」だけじゃなく、いろんな国にそれぞれの、いろんなスタイルのサッカーがあって、それがそれぞれの国の人にとって日常になって、文化になってるのがサッカーの素晴らしさだと思うし。もちろん、サッカーのレベルとかも大事なことではあるけど、必ずしも最重要じゃなかったりもして、それもまたサッカーのいいところだな、と。

日本では、試合中、歌い続けてる日本のサポーターのスタイルはおかしいみたいなことをしきりに主張するサッカー・ライターとかブロガーとかもけっこういたりして(その人たちが好きな「本場」と比較して)、そういう意見に影響されちゃってるサッカー・ファンもけっこう多かったりするんだけど、まぁ、好みは好みとして認めつつも、これを読むと、そういう人が比較対象として挙げてる「本場」だってスタイルはいろいろだってわかるし、そのくらいでいいんじゃね? って思ったりもする。まぁ、こういう議論って、あらゆる文化には付きものだけど。例えば、ヒップ・ホップとか。

日本はまだ、いろんな国のいろんなクラブのスタイルを見たり、聞いたり、マネしたりしながら採り入れて、独自のスタイルってのをそれぞれのクラブのサポーターが試行錯誤しながら作ってる真っ最中だと思うし、そう簡単には世界のサッカーの地図の中でメインストリームな存在にはならないとは思うけど、別にそれが絶対不可欠なことじゃないし。レベルが高くなることとかメインストリームになることも大事だけど、独自のカルチャーに、面白いカルチャーになることがもっと大事だと思うし、そのほうが面白いと思うし。

最後に、個人的に一番気に入ったトルコの
ベシクタシュのサポーターの発言を。「あなたにとって、ベシクタシュとは?」って質問への答え。なかなか意味深で、味わい深い。
俺にとってベシクタシュは数学のようなものさ。
Supoort

2 comment(s)::

natural-h1 said...

僕にとって柏レイソルとは?
僕の故郷をフランチャイズに持つサッカーチーム以外正直答えるのが難しい質問だが今解りかけているのは
『どんな状況でもサポートし続ければきっとポジティブな何かを得るに違いない!』

2HGさんにとってマリノスとは?

TR2HG: FCRS: v(^_-) said...

もちろん「数学のようなもの」だよ、なんてね。

でも、まぁ、言えるのは、「目先の勝ち負けを超えた何か」があること、あと「苦しいときにこそ、真価を問われる」ってことだね。打算じゃない感じっていうか。