2009/10/04

Sounds of blackness.

『ピーター・バラカン選 ブラック・ミュージック 200CD+2』 
 ピーター・バラカン 著学研☆ Link(s): Amazon.co.jp / Rakuten Books

いわゆる「ディスク・ガイド」的な本なんて読まなくなって超久しい(たぶん 15 年ぶりくらいなんじゃないかな?)んだけど、他ならぬピーター・バラカン著で、テーマ他ならぬブラック・ミュージックってことなんで、思わず手に取っちゃった。小西康陽さんの『マーシャル・マクルーハン広告代理店。ディスクガイド 200 枚。小西康陽。』にはそれほど魅かれなかったけど(ちょっと興味はあるけど)、これは要チェックだな、と。 

表紙本人の写真を使うのはちょっとどうなんだって思わなくはないけど、表紙も中ページ装丁のデザインは悪くないし。タワー・レコードの新宿店ではサイン会まであるらしくて、まぁ、さすがにサインが欲しいほどファンではないけど、でも昔からとても信頼してる音楽評論家(なんて呼ばれるのは本意じゃないのかもしれないけど)のひとりなんで。

音楽評論家(なんて呼ばれるのは本意じゃないのかもしれないけど)」って書いたのは、本人は「評論」してる意識じゃないっぽい感じがするから。あくまでも「紹介」してるって感じというか。本人は自分の肩書きを「ブロードキャスター」って言葉で表現してて(適切な言葉がないからなんだろうけど)、これは、キャスターとかコメンテーターとかジャーナリストととかって感じではなく、あくまでも、単に「放送(ブロードキャスト)に携わる人」ってことを意味してるっぽくて。ラジオでもテレビでも、音楽についてでも『CBS ドキュメント』のような内容でも。だとすると、文章を書く仕事はあくまでも、「ブロードキャスター」じゃない部分の、サブ的な仕事って感じなんだと思うし。

書いてることも、いわゆる音楽評論家」「音楽ライター」「音楽ジャーナリスト」みたいなスタンスの人たちとは違ってるし。まぁ、CBS ドキュメント』のイメージしかない人には、ピーター・バラカン音楽の仕事のために来日してて、すごく熱心に音楽の仕事ををしてきた(YMO の制作にも関わってたりして)ことすら知らなかったりすることも多かったりするけど。

も、個人的にはピーター・バラカンの書いた本ってけっこう読んでて、『魂(ソウル)のゆくえ』なんてクラシックだと思ってて(そういえば、ニーナ・シモンのレヴューでも触れてた)。だいたい、ロック系のモノとソウル〜ブラック・ミュージック系のモノのどっちかなんだけど、個人的な好みは当然、後者で、いわゆる「日本のブラック・ミュージック好き」の人たちのティピカルな(ステロタイプな)視点とはちょっと違う、60 年代のロンドンで青春時代を過ごした(非黒人の)イギリス人ならではの視点がすごく新鮮だったし、何だか妙にシックリきて。

知らなかったんだけど、この『ピーター・バラカン選 ブラック・ミュージック 200CD+2』は、学研の「200CD」ってシリーズのひとつらしく、小西さんの『マーシャル・マクルーハン広告代理店。も同じシリーズで、他に菊地成孔の『200CD 菊地成孔セレクション ー ロックとフォークのない 20 世紀』なんても出てるらしい(どっちも未読だけどちょっと興味あり)。で、内容的には、ザックリと言うと、1/3 がアフリカ、1/3 がラテン・アメリカ〜カリブ海、1/3 がアメリカ。なかなか渋いというか、濃厚な内容で、知らないディスクもかなり多かったりするんだけど(特にアフリカとラテン・アメリカ〜カリブ海モノは)、本としては全然小難かしい感じじゃないし、要所にインタヴューが挟まってて、概要的な説明はキチンとされてるから、知らないディスクが多くてもわりとわかりやすいし、適度に知ってるディスクとかアーティストが入ってるから、どんな感じなのか、サジ加減も掴みやすくて、一気に読めちゃった。あと、アメリカ(北米)だけではなくラテン・アメリカも含めて紹介されてるし、そのルーツであるアフリカ音楽に関しても、単にルーツだけじゃなく、アメリカ大陸からの影響がフィード・バックされた現在のアフリカ音楽までカバーされてて、タイトル通り、「ブラック・ミュージック」を俯瞰できる内容になっててなかなかの読み応え。こういう視点で見る(捉える)ことって大事だと思うし。「今が旬とかからはかけ離れてるけど、逆にタイムレスって言える気もする。まぁ、「ドープな一冊」ってのが相応しい表現かな。いろんな意味で。

あと、言われてみればって感じであらためて気が付いたんだけど、ブラジル音楽がほとんど紹介されてないのがちょっと意外(1 枚だけだったかな?)。本人は「
ロックやブルースのような、ラフな感触の音楽で育ったから、ブラジル音楽の洗練された感じがイマイチ馴染めない」みたいなことを言ってるんだけど、言われてみれば、ブラジル音楽を取り上げてた記憶って、確かにない。まぁ、キッカケがなかっただけなのかもしれないけど、個人的にはちょっと残念かな。「ピーター・バラカンの薦めるブラジル音楽」ってすごく興味があるし、スゲェ良さそうなんだけど。これからでも、どこかで幸せな出会いをしてくれればいいな、と。

うひとつ、面白いのは、アーティストのカタカナ表記を、より英語の発音に近い表記をしてること。ジョニ・ミッチェルは 'ジョウニ・ミチェル' だし、セロニアス・モンクは 'セロウニアス・マンク' だし。最初はちょっと戸惑うけど、でも、同時に、思った以上に文字、特にカタカナの固有名詞って '字' ではなくて '形' で認識してるんだな、って感じたりもして。'ジョウニ・ミチェル' が頭の中ですぐに 'ジョニ・ミッチェル' と結びつかないのって、思ってる以上に字を「読んでる」んじゃなくて「形として認識してる」んだなぁ、って。まぁ、内容とは直接関係ないけど。

本書では紹介されてないけど(黒人ではないし)、個人的にはピーター・バラカンって言えば日本でも屈指のヴァン・モリソン好きなわけで、BGM は本書でも取り上げられてるカサンドラ・ウィルソン"Blue Light 'Til Dawn" に収録されてるヴァン・モリソンの名曲のカヴァー Tupelo Honey" が相応しいかなって思ったけど、前に貼ってたんで、ここは同じアルバムに入ってる 'ジョウニ・ミチェル' の "Black Crow" のカヴァーを。


CASANDRA WILSON "Black Crow" (From "Blue Light 'Til Dawn")



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