2010/05/01

Diaspora & hatikvah.

『イスラエル全史(上・下)』
 マーティン・ギルバート 著 千本 健一郎 訳(朝日新聞出版)
 Links: Amazon.co.jp(上巻下巻


このブログの方針として「印象が薄れないうちに、チャチャっと書き留めておこう」と書いてある通り、このブログは印象がフレッシュなうちに書き留めとくことが目的なんで、遅くとも、数日くらいの間にアップすることを基本にしてるんだけど、最近、すっかりエントリーが滞ってて、ネタが溜まっちゃいがちなんだけど、その代表格とも言えるのがこの『イスラエル全史』。読むの自体にもけっこう時間がかかったけど、読後に自分なりの感想みたいなモノをまとめるのにも、相当時間がかかった感じ(っていうか、まだ全然まとまってないんだけど)。

この『イスラエル全史』は上下巻それぞれ 500 ページ超えっていう大著で(2 段組みじゃない分、前にレヴューした『ヨーロッパの 100 年』ほどではないけど)、なかなかヘヴィー・デューティな作品(「ヘヴィー・デューティ」って、こういう使い方をする言葉じゃないけど、なんかシックリくる)。ヘヴィー・デューティだった理由はヴォリュームだけじゃないんだけど。ちなみに、価格もかなりヘヴィー。まぁ、情報量に対するコスト・パフォーマンスを考えると決して高価じゃないけど、単価として見ると、やっぱなかなかヘヴィーではある。感覚的に。

「ヘヴィー・デューティだった理由はヴォリュームだけじゃない」っていう一番の理由は、ズバリ、内容。「あまりにも知らなすぎる(わかってなさすぎる)」ってことに尽きる。内容的には、タイトル通り、イスラエルっていう国家の成立を中心に、まぁ、主にイスラエルの 20 世紀の歴史についてまとめられてるんだけど、読んでてこれだけ頭に入ってこない本ってのも久しぶりだなって思うくらい、わからないことだらけで。

そもそも、なんで読もうと思ったかっていうと、いろんな問題やトピックに、かなりの頻度でイスラエル(人)とかユダヤ(人・教)ってのが絡んでくるわりに、あまりにイスラエル(人)とかユダヤ(人・教)について知らないなって思ったから。まぁ、別にいわゆる陰謀説的なことを言うつもりはない(それはそれで別に嫌いじゃないけど。リチャード・コシミズとかベンジャミン・フルフォードとか、嫌いじゃないし。リチャード・コシミズの動画ベンジャミン・フルフォードの動画も観るとけっこう面白いし、一理あるとは思うんで)し、いいとか悪いとか言うつもりはない。っていうか、いいとか悪いとか言えるほどの判断材料すらないって感じなのが正直なところで。

でも、それこそパレスチナ問題はもちろん、テロリズムとか核の問題なんかでもイスラエルって必ず出てくるし、あと、個人的にちょっと気になってる話題としては、グーグルの創設者の 2 人、ラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンを筆頭に(こんなハナシもあるし)シリコン・ヴァレーを中心とした IT 業界のキー・パーソンにも圧倒的にユダヤ系が多かったりすることもあったりして。やっぱ、いろんな意味でスゲェ気にはなるな、と。

そうは言っても、そもそも、ユダヤ人ってなんだ? ユダヤ系って? ユダヤ(人・系・教)とイスラエルの関係って? って考えると、基本的にな条項というか、定義すらキチンと理解できてなかったりするくらいで。個人的には、手塚治虫先生の『アドルフに告ぐ』と、ちょっと前にあった村上春樹のスピーチとかの印象が強いくらいで、あとは陰謀説はいろんなところで目にするけど、やっぱりイマイチイメージが掴みにくかったりする。
ポーランド人とは何か。フランス人とは何か。スイス人とは何か。そう聞かれたら誰しも国を指さします。ある制度を、議会が定めた諸制度を指さします。その場合、世間一般の人はそれがどういうことか、キチンとわかってる。みんなパスポートを持っています。

さて、そこでユダヤ人とは何かと聞かれたら ー 聞かれた人間は自分のありようについて延々と説明しなければなりません。自分が何者かを
説明しなければならない人間は、常にいかがわしい存在です ー そしていかがわしさから憎しみから軽蔑までは、ほんのひとまたぎに過ぎません。
これは、本書で引用されてた 1947 年の国連の特別委員会でのハイム・ワイツマン博士の発言。ハイム・ワイツマンってのは、シオニズム運動の指導者で、初代イスラエル大統領なんだけど、イスラエルの建国が 1948 年なんで、その前年の発言ってことになる。国連っていうメチャメチャパブリックな場での発言なんで、それなりにコンセンサスが得られてるというか、一般的な認識だったってことなんだろうけど、だとすると、一般的にも、やっぱり、イマイチイメージが掴みにくい、でも、明らかに存在する、何とも言えないモノってことなのかな、と思ったりする。

まぁ、イスラエルってのはシオニズム運動の結果、特に第二次世界大戦でのホロコーストの反動が大きなキッカケになってできた国なんだけど、決して「第二次世界大戦でのホロコーストの反動でできた」なんて単純な話ではなくて、もう、それこそ複雑怪奇で多面的な要素が絡み合ってる話で、やっぱりなかなか実感できない感じは否めない。面積は北海道の 1/4 よりやや大きい程度で人口は埼玉県程度の国なのに、20 世紀以降の世界情勢の中で、なんか、何とも言えない存在感を放ってて、同時にいろんな大きな問題の要因のひとつでもあったりして、やっぱり全然掴みどころがない感じ。ヨーロッパ諸国との絡みとかロシアとの絡みとかアメリカとの絡みとか中東との絡みとか、いろんな要素が複雑に絡み合い過ぎで。

ただ、よくよく考えてみれば、イスラエルは特に強烈ではあるけど、国と国との関係とか、歴史なんてそう簡単に単純化できるものでもないし、多面的に見ないと解らないものだってことなのかもって思ったり。日本にしても、アジアにしてもそうだし、国内だってそうだし。それにしても解らないことだらけで、我ながらビックリなんだけど。

まぁ、相当難しい問題ではあるけど、やっぱりいろんなところで避けては通れない部分ではあるんで、そういう意味では、知識や感覚の不足を補う意味ではいい教科書というか、読んでおいていい一冊ではあるかな。読み物としては決してメチャメチャ難解なわけじゃないし。著者はウィンストン・チャーチルの公式伝記を執筆者っていうだけあって、読み物として全然読みにくいわけじゃないし、読み応えも十分。あと、いわゆる「普通の人」にフォーカスを当ててる点も面白くて、教科書的なモノとか、大局的な動きだけを追うようなドキュメンタリーとかとは一線を画している印象。チャーチル曰く、「20 世紀は普通の人間が最も苦しんだ時代」らしいけど、そういう意味では、イスラエルってのは 20 世紀のある面を象徴する国なのかも、なんて思ったり。
diaspora and hatikvah.

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