2010/08/26

Los gigantes.

絆と権力 ― ガルシア・マルケスとカストロ
 
アンヘル・エステバン / ステファニー・パニチェリ 著
 
野谷文昭 訳新潮社
 Link(s): Amazon.co.jp

タイトルの通り、20 世紀のラテン・アメリカを代表する 2 人の巨人の、決して単純ではない関係について記した著作。原著は 2004 年に出版された "Gabo y Fidel: El Paisaje De Una Amistad"(リンク先は英語版)で、副題は「ある友情の風景」みたいな意味なんだとか。

まぁ、著者はスペイン人とベルギー人の研究者で、しかも訳書なんで決して読みやすい感じではない、いわゆる「ちょっと小難しい感じの訳書」って印象。ただ、片やラテン・アメリカ文学を代表する巨人。片や世界でも希有な政治体制を文字通り体現してきた革命家。書かれてる対象自体がメチャメチャ興味深い 2 人なんで、まぁ、それほど読みにくい感じではなかったかな。


私たちはよき友人同士であり、2 人の間にあるのは知的な友情なんだ。フィデルが大いなる教養の持ち主であることはあまり知られていない。たとえば、2 人が一緒のときは、文学の話をする。フィデルは本の虫なんだ。実際、我々の友情は、彼が『百年の孤独』、彼がとても気に入ったというその小説を読んだ後で 始まった。(中略)実のところ、私たちはそれほど政治の話はしない。多くの人にとって、私とフィデルの友情が、ほとんど完全に文学に対する共通の興味に基づいているということを信じるのは難しい。我々の会話が世界の運命に触れるのはほんのわずかだ。大抵は 2 人のどちらもが読んだ面白い本のことを話すんだ。キューバに出かけるたびに、私はフィデルに本を大量に持っていってやる。着くやいなや、彼の助手のひとりにそれを託し、その後は他のことに没頭する。2、3 週間して、ようやくフィデルに会って話せるときになると、彼はもう全部読み終えていて、2 人はそれぞれ話の種が山ほどあるというわけだ。

これは、1983 年の『プレイボーイ』誌でのガルシア・マルケスのインタヴュー
での発言。まぁ、実際にはそんな単純な関係じゃないと思うけど。それぞれのパーソナリティ自体がメチャメチャ強烈だし、それなり以上の影響力もあるから、発言に慎重にならざるを得ないのは容易に想像はつくかな。1983 年って時期も微妙だし。

まぁ、実際には、ガルシア・マルケスは何の政治的な肩書きも持たない他国人であるにも関わらず、わりと政治的な問題にコミットしてて、それをカストロも許してて、すごく掴みどころのない 2 人の関係が、やっぱりすごく興味深かったりする。本文中にエンリケ・サントス・カルデロンの「ガボ(ガルシア・マルケスの愛称)はキューバ政府がいかなるものかを知り抜いていて、政府に幻想を抱いていないが、フィデルが友人なので、矛盾とともに生きることを選んだんだ」なんて発言が紹介されてるんだけど、まさに言い得て妙で。合理的でもなんでもない、でも、だからこそ、すごく人間臭い関係なんだろうなぁ、って。人々を魅きつけてるのもそういう点なんだと思うし。

内容的には、2 人の研究者が事実関係を淡々と書き連ねてて、過剰にドラマティックに演出するようなことはしてないんだけど、だからこそジワジワと伝わってくる部分があって、やっぱり細切れの情報からは得られないような、大きな流れとか相互の関連性みたいなモノが持つ重要性も感じられるかな。

最後にひとつ、前書きに書いてあった文章の引用を。ちょっと気に入ったんで。
暇はビジネスの対極にある。働いている者は蠅を捕まえたりしない。芸術にとって物思いに耽ることは必要であり、芸術は暇と感嘆とともに発展する。同じことが科学についても当てはまる。多くの時間を失う用意ができている者だけが、芸術作品を評価したり作り出したりすることができる。

FIEL

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