2011/04/12

Electronic polyrhythm.

"liminal" 砂原 良徳 (Ki/oon) ★☆ Link(s): Amazon.co.jp (初回限定盤 / 通常盤)

2001 年リリースのクラシック、"Lovebeat" 以来となる砂原良徳の待望のニュー・アルバムで、先行 EP の "Subliminal" が去年 10 月リリースだったから、約半年って期間を挟んでのリリースってことになる。先行シングル / EP からの時期としては長すぎだろって思いつつも、まぁ、砂原良徳らしいとも思える。

ディスコグラフィ的には、"Lovebeat" のリリース以降、2009年に映画『ノー・ボーイズ・ノー・クライ』のサウンドトラックの手掛けてて、"Subliminal" リリース後には、マスタリング・エンジニアでもないのにコーネリアスの "Fantasma" のリマスタリングを手掛けてたりして、相変わらず、掴みどころがない感じだったりする。

レヴューし忘れてたんで『ノー・ボーイズ・ノー・クライ』のサウンドトラックについてちょっとだけ触れとくと、サウンドトラックっていうよりもオリジナル・スコアに近い作品って言えるかな? 全 18 曲だけど、ほとんどが 3 分以内のインストゥルメンタルで、お得意のエレクトロニックな音色だけじゃなく、アコースティックなサウンドもわりと使ってるのが特徴。いつもよりも、ちょっとだけオーガニックな面も見せつつ、でも、全体としてはあくまでもクールで叙情的な印象で、持ち前の音楽性からして、映画音楽との相性がいいことは十分予想できたけど、予想通りのいい仕上がり。映画は観てないけど。

で、"liminal" のハナシになるんだけど、コレがなかなかの曲者で。"Subliminal" のレヴューで「サウンド的には "Lovebeat" で披露したミニマル・ファット路線っていうか、音数こそ少ないものの、ひとつひとつの音が研ぎ澄まされててパワフルな印象」って書いてて、"Subliminal" に関しては基本的にはその印象は変わってない。では、「それはつまり、イコール、"Lovebeat"と "liminal" も似た印象なのか?」っていうと、結構違ってて。不思議なもんで。しかも、もう一度、"Subliminal" を聴き直してみると「やっぱり "Lovebeat" の流れだな」って感じる部分もありつつも、"liminal" の前哨戦にしか聴こえない部分もあったりして。これもある種の音楽のマジックなのか、時間のシークエンスが起こす現象なのかわかんないけど。

まぁ、つまり "Lovebeat"と "liminal" はけっこう印象が違うってこと。一番の違いはグルーヴ感なのかな? 'ひとつひとつの音が研ぎ澄まされてて' って部分は変わってないけど、"Lovebeat" はダンス・ミュージック的なフォーマット、つまり、4 小節の倍数をベースに構成されてて、その反復とメリハリがグルーヴ感とか高揚感を生み出すっていう基本的なフォーマットに沿った上で、必要最低限の音に極限まで絞り込むことでミニマルで筋肉質な印象を与えてたけど、"liminal" はそこにあまりこだわってないっていうか。'基本的なフォーマット' ってのはセオリーでもあるけど、考え方を変えると、同時に制約とか足枷にも成り得るものなので。

そんなわけで、"liminal" の印象は一言でいうと 'トリッキー' かな。しかも、全体的に音色も耳障りがいいものよりもわりとノイジーなモノが多くて、音数自体も "Lovebeat" より多い感じだし。まぁ、その辺りが "Lovebeat" とはちょっとちょっと違った印象を生み出してて、"Lovebeat" のようなミニマルで筋肉質な感じはちょっと減退してる感じだけど、ひとつひとつの音が研ぎ澄まされてるような繊細な音職人的なスキルは健在だし、ある意味、予定調和的なフォーマットに囚われてない分、展開が予想不能で、逆に耳を離せないっていうか、集中力を途切れさせられない緊張感みたいなモノがあるし、攻撃的でポリリズミックなグルーヴ感や高揚感は "Lovebeat" で感じられたモノとは異質。テンポも速めなんで、むしるダンサブルって感じる人もいそうだし。世の中には似たようなカテゴリーに分類されがちな作品は多いけど(それこそ、アマゾンの「この商品を買った人はこんな商品も買っています」的な意味で)、そこに表示されてる作品の多くとは似て非なるディープさを持ってる印象。決してポップでもキャッチーでもないし、これが果たして '最先端' なのかっつうとよくわからん(っつうか、あまり興味もない。新しいことを過剰にありがたがるのはもうやめたほうがいいと思う)けど、すごく刺激的で、中毒性が高くて、質の高いアートであることは間違いない。個人的な好みだけで言えば、どっちかと言えば "Lovebeat" なんだけど、でも、気が付けば何度も何度も聴いてたりするんで、何だかんだ言って全然ツボらしい。

* 砂原 良徳 "Physical Music" (From "liminal")
 








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