2011/12/08

Sweet melancholies.

TOKiMONSTA "Creature Dreams" (Brainfeeder) ★★★★☆
Link(s): iTunes Store / Amazon.co.jp


前にティーブス(TEEBS)の "Ardour"サンダーキャット(THUNDERCAT)の "The Golden Age of Apocalypse" をレヴューしたけど、このトキモンスタ(TOKiMONSTA)の "Creature Dreams" もその 2 枚と同様、フライング・ロータス(FLYING LOTUS)率いるブレインフィーダー(Brainfeeder)からのリリースで、個人的には、メチャメチャ愛聴してる 1 枚。まぁ、別に新しいわけじゃないんだけど。

リリースは今年の春で、収録曲は全 7 曲。本人曰く、アルバムではなく 'EP' って認識らしい。

サンダーキャットの "The Golden Age of Apocalypse" のレヴューで「最近のブレインフィーダーのリリースの充実ぶりがハンパじゃない。あらためてチェックしてみたら、このブログでは全然レヴューしてなかった(ことに我ながら驚いた)んだけど、ここ数年のリリースの個人的な打率は相当高い」って書いけど、まさにブレインフィーダーの充実ぶりを象徴してる作品って言えるんじゃないかな。

下のプレーヤーで収録曲の "Bright Shadows" を試聴できるんだけど、基本的にはこの曲がトキモンスタのサウンドの特徴をわりと端的に表現してるって言えるんじゃないかな。

Bright Shadows by TOKiMONSTA

基本的には、ヒップ・ホップをベースにしつつも、いわゆるメインストリームのヒップ・ホップとは一線を画してて、エレクトロニック / エレクトロニカ的な要素の濃いエクスペリメンタルなサウンドのインストゥルメンタル・トラック。適度にドープで、適度にファットで、適度にアブストラクトで、適度にエレクトロニックで、適度にディープで、でも、ちょっとノイジーだったりもしつつ、同時に、メロディアスなフレーズを活かしてちょっとメロウでメランコリックでドリーミーなムードも漂わせてて、そのバランスが絶妙にツボな感じで。

もうちょっと詳しく言うと、ブレインフィーダー界隈とかのシーン(個人的には、どうも 'ビート・ミュージック / シーン' 的な呼び方はシックリこない。同じように、最近の 'ベース・ミュージック' って単語の使われ方もピンとこないけど)のアーティストのサウンドはみんな、基本的には「ヒップ・ホップをベースにしつつも、いわゆるメインストリームのヒップ・ホップとは一線を画した、エレクトロニック / エレクトロニカ的な要素の濃いエクスペリメンタルなサウンドのインストゥルメンタル・トラック」って言えると思うんだけど、その中で、よりヒップ・ホップ寄りなアーティスト、よりファンク寄りなアーティスト、よりテクノ / エレクトロニカ寄りなアーティスト、よりダブ寄りなアーティスト、よりアヴァンギャルドで実験的なアーティスト…みたいな感じで個性が表れてて(当然、その傾向に応じて音色とか BPM に違いが出る)、そのバランスのサジ加減で好きなアーティスト / トラックとそうでもないアーティスト / トラックが分かれるんだけど、トキモンスタはそのバランスがすごくいい(っていうか、個人的に好み)だなってことなんだけど。

特に、ファットでドープな部分とメランコリックなサウンドスケープが上手く溶け合ってるところが好きなのかな。メロウだけどただ耳障りがいいだけのヌルいサウンドではなくて、アブストラクトだけどブッ壊れてなくて。無機質な音色なのにオーガニックな温かみも感じさせるし、BPM は遅いのにファットなグルーヴ感を感じさせるし、ヴォーカルの使い方も絶妙だし。個人的には、脳ミソと腰を同時に揺さぶるような音楽が好みなんだけど、そういう部分がしっかり感じられる。

まぁ、世の中にはある方向に極端に偏ってるモノ(例えば、激しい感じとか無機質な感じとかメロウな感じとかアップリフティングな感じとか)がけっこう多くて、実はそういうモノのほうがインスタントなキャッチーさは持ってたりするんだけど、そういうキャッチーさって、あくまでもインスタントであって、実はけっこう飽きやすかったりするし。まぁ、ダンス・ミュージックには 'どんどん消費されていくインスタントなキャッチーさ' みたいなファンクションもあって(っつうか、そういうモノを求められてる)、そういうモノと比較するとどうしても地味でわかりにくい印象を持たれちゃいがちだけど。でも、個人的にはそういうインスタントなキャッチーさには全然興味がないし、こういう、聴けば聴くほどジワジワくる感じの中毒性の高いサウンドのほうが好みなんで、そういう意味でも好みにバッチリハマったって感じなのかな。iPhone に常に入ってるし、気が付くと何度も聴いてる感じだし。

*    *    *    *    * 

Photo: Theo Jemison / Taken from her Facebook page
トキモンスタことジェニファー・リー(JENNIFER LEE)は韓国系アメリカ人女性プロデューサーで、強面揃い(っぽいイメージがある?)ブレインフィーダー一派の中で紅一点とも言えるような独特の存在感で異彩を放ってるアーティスト。

右のように、うさぎのお面を着けたアーティスト写真で知られてて('トキ' は韓国語でうさぎの意味)、見た目的にはソウルとか東京とか東アジアの街でよく見かけそうな、わりとオーソドックスな東アジアの女の子って印象。こういう言い方をすると失礼かもしれないけど、まぁ、こんなに尖ってて刺激的な音を作るとは思えないかな、やっぱり。そのギャップもまた魅力になってると思うんだけど。すごく現代的だとも思うし。

ディスコグラフィ的には、 2008 年にリリースした "Bedtime Lullabies" って EP がデヴュー作らしくて、これはブレインフィーダーからのリリースではないんだけど、この中に収録されてる "Start Again" って曲ではシンゴ 2(SHING02)をフィーチャーしてたりもする。

そういえば、シンゴ 2 の "400"(Link: Amzn)のリミックス盤で 2010 年リリースの "400(甦)"(Links: iTS / Amzn)収録の "夢幻殿 Mugenden [TOKiMONSTA Remix]" でリミキサーを務めてて、トキモンスタって名前を最初に知ったのもこの頃だったかな? 何がキッカケだったかは覚えてないけど。というのも、2010 年頃からにわかに動きが活発になったっぽくて、リリースを含めていろんなところでやたらと名前を目にするようになった印象だったんで。

Shing02 - 夢幻殿 Mugenden [TOKiMONSTA remix] by TOKiMONSTA

"Midnight Menu" (2010)
そんな中で、個人的に引っかかったのはアルバムの "Midnight Menu" と、オール・シティ(All City)の 'LA シリーズ' の第 8 弾としてリリースされたマイク・ガオ(MIKE GAO)とのスプリット EP、"LA Series 8" っていう 2010 年リリースの 2 枚かな。

"Midnight Menu"(Links: iTS / Amzn)は 11 曲入りのファースト・フル・アルバムなんだけど、この時点で彼女の音の世界は既にバッチリ確立されてたって印象だった。

アブストラクトで、でもメランコリックでメロディアスで、どこかオーガニックでもあって、何とも言えない質感が絶妙に心地いい感じで、ちょっとエキゾチックでメランコリックなサウンドはかなりディープ。"Creature Dreams" と比べると、やや生っぽい音色が多用されてる感じかな? まぁ、コレはコレでなかなかいい感じで、どっちにしても、かなり完成度が高い。

下のプレーヤーで "Midnight Menu" の収録曲 4 曲が試聴できる。

Sa Mo Jung 思母亭 by TOKiMONSTA

Sweet Day by TOKiMONSTA

Cheese Smoothie by TOKiMONSTA

Lucid Waking by TOKiMONSTA

マイク・ガオとのスプリット EP としてリリースされた "LA Series 8"(Links: iTS)は、オール・シティが 2010 年に 10" アナログ x 10 枚のシリーズ企画の第 8 弾としてリリースされた EP なんだけど、この 'LA シリーズ' ってのはなかなか秀逸な企画。参加メンバーは以下の通りなんだけど、見ての通り、なかなかドープなメンツ。

  • "LA Series 8" (2010)
    "LA Series 1"(Links: iTS)- DIBIASE / P.U.D.G.E.
  • "LA Series 2"(Links: iTS)- TAKE / MATTHEWDAVID
  • "LA Series 3"(Links: iTS)- RAS G & THE AFRIKAN SPACE PROGRAM / SAMIYAM
  • "LA Series 4"(Links: iTS)- HOUSESHOES / JORDAN ROCKSWELL
  • "LA Series 5"(Links: iTS)- CARLOS Y GABY (= CARLOS NINO + GABY HERNANDEZ)/ GB (GIFTED & BLESSED)
  • "LA Series 6"(Links: iTS)- DAEDELUS / TEEBS 
  • "LA Series 7"(Links: iTS)- DAM-FUNK / COMPUTER JAY
  • "LA Series 8"(Links: iTS)- MIKE GAO / TOKiMONSTA
  • "LA Series 9"(Links: iTS)- COLEMAN / TA'RAACH
  • "LA Series 10"(Links: iTS)- EXILE / FREE THE ROBOTS

アートワークも統一感があるクールなデザインだし、企画としてメチャメチャいい。もちろん、音もドープで聴き応え十分だし。

"LA Series 8" はその栄えある(?)8 作目としてリリースされて、自作曲 3 曲(下のプレーヤーで収録曲の "Park Walks" が試聴可能)とマイク・ガオとの共作 1 曲が収録されてるんだけど、これもなかなかクールな仕上がり。ここに入ってること自体も、彼女のシーンでの存在感みたいなモノを表してるような気もするし。

Park Walks by TOKiMONSTA


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ブレインフィーダー・クルーに加わったのは 2010 年頃からっぽいんで、この頃からまさにシーンの第一線に登場した感じだった印象だったんだけど、今後、ブレインフィーダーからのアルバムもあるっぽいし、いろんなところでコラボレーションやらミックスやらもわりと頻繁に発表してたりするし、今後の動きもすごく楽しみなアーティストであることは間違いない感じかな。


* Related Item(s):

TEEBS "Ardour" Link(s): Previous review
ブレインフィーダーのニュー・カマー、ティーブスの 2010 年 10 月リリースのデビュー・アルバム。メロウで幻想的な心地良さがオシャレな仕上がり。
THUNDERCAT "The Golden Age of Apocalypse" Link(s): Previous review
フライング・ロータスやエリカ・バドゥ等の作品に参加してることで知られる敏腕のベーシストのドープなファースト・アルバム。

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