2011/12/07

Good jobs.

『ジョブズ・ウェイ』
 ジェイ・エリオット / ウィリアム・L・サイモン 著 中山 宥 訳
(ソフトバンククリエイティブ) ★★★  Link(s): Amazon.co.jp / Rakuten Books

今年の 8 月に訳書が発売されたジョブズ本のひとつで、原著は 3 月に発売された "The Steve Jobs Way: iLeadership for a New Generation"(Link: Amzn)。タイミング的にはジョブズの体調が悪くなった後ではあるけど、亡くなる前に執筆・出版されたってことになる。

サブ・タイトルは「世界を変えるリーダーシップ」で、紹介文には「ジョブズはいかにしてアップルを No. 1 企業へ導いたのか? 彼の仕事ぶりを間近でつぶさに見てきた著者が、その秘密を初めて明かします。ヴィジョンの共有、モチヴェーションの高め方など、あらゆるビジネスマンが参考にできるリーダーシップの極意が学べます」なんて書いてあって、しかも原著のタイトルも 'iLeadership' なんてビミョーなワードが使われてるんで、どうしてもちょっと警戒心を抱いちゃうっていうか、巷に溢れてる 'いわゆるジョブズ本' のひとつかなってどうしても思っちゃいがちなんだけど、著者がジェイ・エリオット(JAY ELLIOT)だったんで、あまり先入観を持たずに読んでみたんだけど、結果としては、いわゆる 'この手のビジネス本としてのジョブズ本' にしてはわりと読み応えがあったかな。

なんで「著者がジェイ・エリオットだったんで」かというと、ジェイ・エリオットはスティーヴ・ジョブズ(STEVE JOBS)の側近のひとりとしてアップル(Apple)でヴァイス・プレジデント(上級副社長)として働いてた人物だから。当然、そこらの胡散臭い 'いわゆるジョブズ本' とは全然違う内容が期待できるだろ、と。

オフィシャルのプロフィールにも本書の中にも、何年から何年までアップルで働いていたのか正確には書かれてないんだけど、本書内の記述によると、ジェイ・エリオットは Mac 発売前の時期にはアップルに入社していて(ジョブズがアップルを去った前後で辞めてるっぽい)、その前には IBM とインテルで働いてた経験を持つ人物。IBM では航空会社の予約システムの開発に携わった後、ハード・ディスク・ドライブ事業部で主要なプロジェクトを監督、インテルではカリフォルニアの業務運営責任者をまかされ、アンディ・グローブ CEO 及びゴードン・ムーア会長の直属だったんだとか。スティーヴ・ジョブズに偶然出会い、アップルに入社したウソみたいなエピソードも本書の序章で触れられてるけど、その時、ジョブズがまだ 20 代だったのに対して、ジェイ・エリオットは既に 40 代。アップルでは、上級副社長として人事・施設・教育等を担当しつつ、ジョブズ直属の部下として経営計画に参与したとのこと。

以下は著者が自身のアップルでの役割について触れた部分の引用。

スティーヴはわたしをどう見ていたのだろうか? おそらく、わたしと出会って、長いあいだ欲しかったものをやっと手に入れたような気分だったと思う。企業社会にしっかりと根を下ろした年上の人間が、ようやく身辺を固めたのだから。わたしの新しい肩書きは「アップル・コンピュータ上級副社長」だったが、じつをいえば、スティーヴの相棒、よき助言者、補佐役という立場での非公式な仕事がおもだった(わたしは 44 歳だった)。やがてスティーヴは、周囲に向かってこう言うようになる。「40 歳を超えた人間を信用するな。ただし、ジェイは例外だ」。

実際のニュアンスとかはイマイチ掴みずらいけど(ネガティヴにもポジティヴにも取れるっていうか、ちょっと振れ幅があるくらいな感じで捉えておいた方が良さそうな気がするんで)、たぶん、「企業社会にしっかりと根を下ろした年上の人間が、ようやく身辺を固めた」って部分は間違いなさそう。

まぁ、一応、体裁としては 'いわゆるジョブズ本' 的なビジネス書みたいな感じで書かれてて、特に、ジョブズのリーダーシップにフォーカスを当てて、それを 'iLeadership' って言葉で表現されてる。個人的には、その部分にはあまり興味がないんだけど、著者が著者なんで、単純に 'アップル / スティーヴ・ジョブズの知られざる逸話集' 的に、わりと面白く読める(右の写真のポストイットの数からもわかるように)。

例えば、故ジェフ・ラスキン(JEF RASKIN)とかアンディ・ハーツフェルド(ANDY HERTZFELD)といった古株からジョナサン・アイヴ(JONATHAN IVE)まで、スティーヴ・ジョブズの近くで重要な仕事をした人物のエピソードもたくさん紹介されてて、そこには、ネクスト(NeXT)時代やピクサー(Pixar)のハナシなんかも含まれててなかなか面白い。

もちろん、ウォズことスティーヴ・ウォズニアック(STEVE 'WOZ' WOZNIAK)もちょこちょこ登場してて、特に、後に '歴史的' と評されることになるジョージ・オーウェルの『1984 年』(Links: Amzn / Rktn版)をモチーフにした TV CM、いわゆる "1984"(Link: YouTube)に関するエピソードはなかなか面白い。何でも、当初は取締役会に大反対され、ジョブズがウォズに相談したら、ウォズは 2 人でポケット・マネーで 40 万ドルずつ出して、放映料の 80 万ドルを負担しようって言い出して、本気でやろうとしてたらしい。結果的には、ゴリ押しで取締役会を説得して普通に OA したんだけど、この 2 人のやりとりはなかなかいいエピソードだな、と。

あと、1996 年 12 月 10 日にアビ・テバニアン(AVIE TEVANIANA)とともにアップルにネクストを売り込むときやジェフ・ロビン(JEFF ROBBIN)が作ったサウンドジャム(SoundJam)の買収と iTunes の開発の逸話とか、iTunes Store オープンのときの音楽業界(=各レーベル)との交渉のハナシとか、ジョブズだけでなく周りのスタッフの働きもキチンと紹介されてる点が読みどころかな。

まぁ、もちろん、ジョブズ自身の資質や特徴にも言及してて、例えば、ひとつ、衣装的なエピソードとして、ジョブズの手へのこだわりのハナシが面白かったかな。

PARC を見学した経験から、手は素晴らしい装置だと、スティーヴはたびたび言った。「からだの各部のなかで、脳が求めることをいちばん頻繁に実行しているのは手だ」「手の機能を再現できさえすれば、強力な製品になるだろう」。

iPhone や iPad なんかが一世を風靡してる今ならすごく納得がいくハナシなんだけど、上に引用した部分は Mac 開発以前の時期のハナシだったりするんで、どれだけ一貫してそう思ってたかよくわかる。

他にも、ジョブズがヨハネス・グーテンベルグ(JOHANNES GUTENBERG)とヘンリー・フォード(HENRY FORD)と並んで尊敬してた人物に、ポラロイド・カメラの発明者のエドウィン・ランド(EDWIN LAND)がいて、助言を求めに行ってたってエピソードとか、アップル・ストアの内装(床に使う材料)までチェックしてり、「旧製品の在庫は決して安売りしない」って明言してたりとか、なかなか興味深かった。

あと、ちょっと面白い(でも、多くの人にとって笑えない)エピソードとして、実はジョブズの名声を高めた製品のほとんどは、実は発売予定を大きく延ばして発表されてたこととか、実はすごく大事なハナシだなぁ、って思ったり。同時に、ジョブズに近いある人物の発言(誰だかは触れられてないけど)として、「アップルやスティーヴのすばらしいところは、技術が整うまで、製品を出そうとしないことです。その点には敬意を払うべきだと思います」なんてコメントも紹介されてたりして。

つまり、技術的な状況が現実的なレベルまで待ちつつも、必要な時間や手間は惜しまずに徹底的に理想に近づけて、今までになかったカタチで他の誰よりも早く世に出すっていう離れ業をやってきたってこと。「アップル / ジョブズは既存の技術を組み合わせてるだけで新しい発明はしてない」的なことを得意げに話したがるヤツってけっこういて、それはそれでもちろん間違いではないけど、でも、そんなことを言ってる限り、ジョブズの成し遂げてきたことの本質には辿り着けないんで。

本書内に、ジョブズがアップル追放劇のキーマンとなったことで知られる(もっというと、ジョブズ復帰時にも Be OS でジョブズの NEXTSTEP と競って敗れた)ジャン・ルイ・ガセー(JEAN-LOUIS GASSEE)の「民主主義は偉大な製品をつくり出さない。リーダーは有能な暴君であるべきだ」ってコメントが奇しくも引用されてるけど、もちろん、ジョブズのそういう部分も随所に紹介されてる。例えば、ジョブズがジョナサン・アイヴとともに iMac のモックアップを技術者に見せたときに、「こんなのはできるはずがない」って主張した技術者たちに対して「CEO である私ができると考えているんだから、できるんだ」って言った(そして、実現させた)ハナシとか、すごくジョブズらしいし。

他にも、初期のジョブズのエピソードとしてこんなハナシも紹介されてる。

スティーヴはよく、 開発チームに向かってこんな言い方をした。「じゃあ、僕が製品だとしよう。購入した人が僕を箱から出して起動するまで、僕にはどんなことが起こる?」。スティーヴはいつも不完全なところを見つけ出す。デザインから、使い勝手やユーザー・インターフェース、マーケティング、さらに梱包、売り込み方法や販売方法にいたるまで、あらゆる部分に目を光らせる。

ただ、一方で、著者はジョブズの特質として、リクルーティングとかそれぞれの役割の重要性をメンバーに自覚させることの上手さも挙げてて、外から人材を引っ張ってくるだけでなく、ジョナサン・アイヴのように社内で資質が活かし切れてなかった人材の登用も含めて、チーム作りや運営の上手さも際立ってたんだとか。まぁ、もともと、ウォズを口説いたりした頃から、突出してた部分だとも言えるんだけど。

あと、ネクストとピクサーが実は似た運命を辿ってるってハナシも面白かったかな。どちらも、ソフトウェアとハードウェアを売る会社にしようとしたんだけど上手くいかず、その期間をジョブズが資材で支え、結果的に上手く方向転換をして大成功した感じがそっくりだ、と。結果的に、アップルとディズニー(Disney)に買収されたんだけど、実はどちらも吸収されたっていうよりも、アップルとディズニーを救い、新たな方向性を示すような役割を果たしてて。ある意味では、「技術が整うまで、製品を出そうとしない」に反するような、ギリギリの判断だったんだけど、でも、そこにある実現可能性とか実現した際のポテンシャルには揺るぎない自信を持ってて、ギリギリまで粘り強く取り組んだ感じ、「これ!」とおもったらしつこくこだわる感じはすごくジョブズらしくて。

ネクストに関しては、当時は成功しなかったけど、後に NeXT OS が Mac OS X になったってことで結果オーライ的に語られがちな感もあるけど、一方では、ティム・バーナーズ・リー(TIM BERNERS-LEE)が 1991 年に世界初のウェブ・ブラウザとウェブ・サーヴァーを完成したのは NeXTcube 上だったことで後の世に大きな功績を残しつつ、同時に、実は NeXT OS は Mac OS X になっただけじゃなく、同時に、iPhone や iPad で使われてる iOS にもつながってる点も見逃せない。

あと、個人的に面白いと思ったものに、著者がアップル在籍時にジョブズとともに作った 'アップル・ヴァリュー' って企業理念もあるかな。正確な文言は載ってないんだけど、検索してみたらそれらしい文書は発見できて(ただし、コレが本物なのか、確証はない)、読んでみる限り、なかなか興味深い。

本書執筆時点で既にジョブズは体調不良だったこともあって、当然、'ジョブズ後' のアップルについての著者の考えも述べられてる。

スティーヴ・ジョブズの跡を継げるような、「一般消費者向け製品を軸にした企業経営ができる、カリスマ性と将来構想にあふれたリーダー 1 名」はこの世に存在しない。けれども、「スティーヴ・ジョブズの遺産を引き継いでいける 3 人組」なら可能だろう。

もちろん、この時点では、まさかジョブズがこんなに早く亡くなるとは思ってなかったことが想定されるんで、あくまでも「近い将来を見据えての」考えだったんだろうけど。ちなみに、ここで触れられてる 3 人組ってのは、ジョナサン・アイヴとフィル・シラー(PHIL SCHILLER)とティム・クック(TIM COOK)。ジョブズが病気療養のために一線から退いた時期から実質的に中心的な役割を果たしてたはずの 3 人なんで、まぁ、予想通りっていえば予想通りなんだけど、まぁ、やっぱりそうなるよな、って感はあるかな、やっぱり。

まぁ、時系列的にジョブズのキャリアを総括するような内容でもないし、マメにジョブズ / アップル関連の情報をフォローしてると、それほどビックリするような内容ってわけではないけど、でも、要所でキチンとジョブズの特徴が解りやすい例ととも触れられてるし、ちょこちょこと面白いエピソードもあったりするんで、いわゆる 'ジョブズ本' とは、いい意味で一線を画す一冊ってことは言えるかな。


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スティーヴ・ジョブズとともにアップルを設立した 'もう 1 人のスティーヴ' として知られ、今もなお、世界中から愛される 'ウォズ' ことスティーヴ・ウォズニアックの自伝。

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